投稿日:2025年8月7日

部品標準化推進と発注ロジック統合で型番削減率20%を達成した設計購買連携

はじめに:製造業を取り巻く現状と課題

日本の製造業は、世界的に見ても高い品質と効率を誇ります。
しかし、多くの工場や現場では、いまだに昭和時代から引き継がれてきた非効率なアナログ運用や、部門間の壁による情報分断が根強く残っています。
特に、少量多品種・多様化の波にさらされる昨今、設計部門が独自に部品選定を進め、購買部門が個別対応で調達するという“縦割り体質”が問題となっています。

このため、部品点数は増加の一途をたどり、管理コストや在庫リスク、発注ミスや納期遅延といった問題も複雑化しています。
また、現場で働く設計者・バイヤー・サプライヤーなど、関与するすべての人材がこの状況を「仕方ないもの」として受け入れている空気さえ見受けられます。

本記事では、私が工場長・設計リーダー・調達バイヤーなど多彩な立場で現場の課題を見つめ続け、現実的改革を積み重ねてきた経験と、業界動向・トレンドを踏まえ、部品標準化と発注ロジックの統合による「型番削減」を実現する実践手法を解説します。

部品標準化とは何か?“理屈”と“現場感”のギャップを埋める

理論的な部品標準化のメリット

部品標準化とは、用途が重複した類似部品や、異なる用途でも流用可能な部品を統合・置き換え、調達・管理すべき部品型番を削減する取り組みです。

一般的に、次のような効果が生まれます。
– 調達量の集約によるコストダウン
– 在庫点数減・省スペース化
– 発注・管理工数の削減
– サプライチェーンリスク低減
– 製品設計の効率化・品質の安定化

これらは教科書的な標準化の目的ですが、現場では「簡単にいかない」と感じる方が少なくありません。

実際の現場で直面する“壁”

標準化を進めるにあたって、現場ならではの課題があります。

– 設計者の「自分の最適」を追求したい心理(新部品採用・多様なラインナップ志向)
– 過去の製品互換・修理・メンテナンス対応の縛り
– サプライヤー側の納入ロット制約や得意部品へのこだわり
– 管理部門の追随コストや仕組み変革への抵抗感

このような、組織と人間の持つ慣習や利害が、標準化推進の最大のボトルネックとなります。

型番削減率20%、その実現に必要な“設計購買連携”とは

設計—購買の分断が生む無駄

製造業現場では「部品採用は設計が主導」「調達は購買が担当」と分断されがちです。
設計が選定した部品を、購買は“言われた通り”発注するだけ、となると、部品の共通化もコスト最適化も進みません。

また、購買部門では取引実績・価格情報・サプライヤー状況など現場知見が蓄積されていますが、設計側に十分に共有されていないケースが多いのです。
このギャップが、在庫肥大化や型番乱立、発注ロジックの複雑化の原因となります。

設計購買連携の具体的実践法

私が現場で構築した“連携体制”の一例を紹介します。

1. 標準化コンセプトの合意形成
まず大事なのは、設計・購買・生産・品質・現物管理それぞれの部署が「標準化推進による全体最適」を経営者含め全社で意識共有することです。

2. 設計段階でのバイヤー早期参画
新製品や設計変更の際、初期段階から購買担当者(バイヤー)に同席してもらい、部品選定会議を開催します。
バイヤーは
– 代替候補部品の提案
– 既存汎用品への流用可否の検証
– 価格・納期・供給安定性のデータ提示
の役割を果たします。

3. 部品データベースの連携・活用
全生産品に使用される部品マスタを設計・購買・生産が共通で参照します。
類似用途の型番や共通部材を“見える化”することで、自然な標準化の土壌が育ちます。

4. 型番削減KPIとフィードバック機能
部品単位での型番数推移を四半期ごとに数値化し、設計・購買両方の評価指標に設定します。
現場の努力と成果が正当にフィードバックされることが、標準化活動の継続的推進力となります。

発注ロジック統合で“二重発注・在庫過多”を防ぐ仕組み

従来型発注ロジックの限界

従来の工場現場では、設計部門が部品表(BOM)を作成し、生産・購買部門がそれをもとに個別品目ごとに発注ロジックを組み立てていました。
しかし、型番が増えればそれだけ発注パターンも分散し、管理コストは指数関数的に膨らみます。
また、同様部品を違う名称・発注番号で二重に手配するミスもしばしば起こっていました。

統合発注ロジックの実際

「標準部品」は“ここの現場なら常に必要”と見なされるため、発注ロジックもシンプル化できます。

具体的には、
– 型番統合後の共通部品は“定量発注・定期納入”契約へ移行
– 非標準品については“都度発注”へ集約
– MRP(資材所要量計画)システムと現場手配Excelの二重チェックを自動連携する

こうして、現場の判断が不要なルーチン発注が増え、購買担当者も本来業務(価格交渉やサプライチェーン強化、新規サプライヤー開拓など)に集中できるようになります。

型番削減と全社効率化:実践事例から学ぶ

具体的取り組みの流れ

私が工場長を務めた保守部品の製造工場では、型番削減率20%を目標に以下の施策を短期間で推進しました。

– 全設計BOMを横断的に照合し、同一・類似型番を洗い出し
– 月次運用データから死蔵部品、過去活用頻度の低い型番を抽出
– サプライヤーと協議し、最小発注数量・納入単位の見直し
– “鉄板汎用部品リスト”の作成と現場強制流用ルールの制定
– 機種ごとの特殊設計に「標準品オプション選択シート」追加
– 全部門横断の標準化活動推進会議(例:現場改善小集団活動の一部として)

これにより、「誰もが使ってきたが本当は不要」という型番の整理と、標準部品への集約が加速。
結果、導入1年目で型番削減率21.6%を達成し、調達関連工数・在庫保管スペース・サプライヤー管理コストともに大幅圧縮につながりました。

昭和からの“脱アナログ”に不可欠なマインドセット改革

型番削減や標準化を阻む最大の敵は、「現状維持バイアス」です。
「昔からやっているから」「他所も同じ」といった惰性でアナログ運用を続けている限り、真の競争力強化にはつながりません。

デジタル化推進も、その本質は「現場情報のオープン化・リアルタイム化・部門横断共有化」にあり、標準化推進と極めて親和性が高いのです。

製造現場で働くバイヤー・設計者・そしてサプライヤーとして、「自社と顧客のために何を標準化できるのか?」という問いを、常に自らに投げかけていくマインドセットこそ求められています。

サプライヤー目線で読み解く“バイヤーの本音”

サプライヤー企業の立場からすれば、「標準化=取引品種削減=商売の縮小」と捉えがちです。

しかし、バイヤーが求めているのは「全体最適・安定供給・品質安定・価値向上」。
自分の得意分野の強化や、自社標準品の提案・共通化推進に積極的に協力するサプライヤーは、長期的なWin-Win関係を築く上で必ず評価されます。

バイヤーが本当に重視しているのは、「多くの型番を納品してくれるサプライヤー」ではなく、「標準化を理解し、現場流用や安定供給に貢献できるパートナーサプライヤー」なのです。

まとめ:製造業バリューチェーンを革新するために

部品標準化推進と発注ロジック統合は、単なる型番削減にとどまりません。
設計・購買・生産・品質・サプライヤーが部門横断で知見と役割を持ち寄り、組織全体の「ムダ」と「属人化」を排除し、真の競争優位を築く鍵となります。

まずは現場の多様な型番・BOMと向き合い、設計購買連携を強化することから始めてみてください。
そして、「昭和の常識から脱却する」という小さな一歩が、会社と日本のものづくり全体の未来を切り拓くのです。

製造業を支えるみなさまが、より働きやすく、価値あるものづくり現場を創造されることを、心から願っています。

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