投稿日:2025年9月9日

製造業における電動化技術とカーボンニュートラル推進の関係

はじめに ― 製造業が直面する電動化とカーボンニュートラルの波

今、製造業はかつてなく大きな変革期を迎えています。
昭和から続くアナログな現場力を武器にしてきた日本の製造現場も、グローバルな競争と地球環境意識の高まりに押され、電動化技術やカーボンニュートラルへの対応が急務となっています。
本記事では、製造業に携わる方やバイヤー志望の方、そしてサプライヤー側の視点から、電動化技術とカーボンニュートラル推進の関係について、現場目線で掘り下げていきます。

なぜ今、電動化とカーボンニュートラルが注目されているのか

グローバル競争と規制の強化

ヨーロッパをはじめとする各国で、2050年カーボンニュートラル実現に向けたロードマップが公表されています。
電気自動車(EV)や省エネ家電、さらには再生可能エネルギー活用の拡大により、既存のエネルギー体系や生産工程への見直しが急速に進行しています。
また、ESG投資の拡大により、環境配慮を企業経営の重要指標とする動きが加速しています。

顧客要求の高度化

BtoB取引においても「CO2排出量を明示してほしい」「グリーン調達ガイドラインを守ってほしい」といった環境対応への要求が激しくなる一方、官民連携の補助金や助成金制度も増加傾向です。
これは、サプライヤー/バイヤーの双方が今まで以上に環境指標を意識して調達・生産活動を行う時代に突入したことを意味します。

電動化技術がもたらす製造業へのインパクト

生産ラインの革新と自動化

従来の油圧・空圧中心だった生産設備は、近年ではモーター・サーボドライブを活用した電動化が進んでいます。
設備の可変速・高精度制御がしやすくなり、異なる製品への切り替えも容易になりました。
また、IoTセンシングとの組み合わせで、工場全体のエネルギー管理やライン効率の最適化も現実的となっています。

保全・メンテナンスの省力化

電動化に伴い、摩耗や消耗が激しい部品点数が減り、保守の手間や予兆保全の工数も削減されつつあります。
昭和流の「職人頼み」のやり方から、データドリブンで科学的に設備を稼働させる時代へとシフトしています。
この流れは若手の技能継承や人員削減にも寄与するため、現場管理者にとっては大きなメリットがあります。

CO2排出削減の現実解

電動化によって、油圧のロスや圧縮空気の圧損といった“見えないムダ”を排除することができます。
これにより、現場単位での直接的なCO2排出量を削減できるだけでなく、再エネ化された電力へのシフトとの相乗効果で、間接的なCO2削減も実現します。

カーボンニュートラル推進と調達・調整の最前線

調達方針の転換 ― グリーン調達の重要性

かつてはコスト・納期・品質が調達三原則とされてきました。
しかし昨今では「環境配慮」がこれに加わり、新たな判断基準となっています。
大手メーカーでは、サプライヤーの温室効果ガス(GHG)排出量の把握と報告義務化が進むとともに、取引条件にも「CO2データ提出」が求められるケースが急増しています。

サプライチェーン全体の再設計

Scope3(サプライチェーン全体でのCO2排出量)算定が必須となったことで、自社工場だけでなく、取引先・物流・部品メーカーに至るまで一気通貫の“カーボントレース”が求められています。
調達購買部門は、これまで以上に全体最適視点での原価企画や工程設計への関与が不可欠です。

バイヤーの仕事内容と求められる新しいスキル

従来の「価格交渉力」や「サプライヤー管理力」に加えて、LCA(ライフサイクルアセスメント)の知識や温室効果ガス算定ツールの運用経験が現場バイヤーにも期待されています。
サプライヤー側も、バイヤーが何を重視しているのかを深く理解し、環境対応データの迅速な提供や改善提案力の強化が差別化の鍵となります。

アナログ現場の“昭和的価値観”からの脱却

熟練者主導の属人化をどう乗り越えるか

「昔からこうしてきた」が通用しなくなる一方で、現場の知恵やノウハウの全否定は現実的ではありません。
デジタル化・電動化の推進を「現場主義」と両立させるには、現場の職人たちの経験価値を“データ化”し、新技術へ橋渡しする取り組みが必要です。
たとえば、ライン異常の傾向分析や工程ごとのエネルギー使用記録などを共同で積み重ねることが、現場の納得感を生む道となります。

現場改善活動とSDGsの接点

QC活動や5S・カイゼン活動など、日本の製造現場に根付く改善文化は、実はカーボンニュートラル推進にも極めて有効です。
設備の“止まる・漏れる・ムダな動き”に目を配り、小さな改善を積み重ねることで、省エネ・コスト削減・環境負荷低減に繋がります。
SDGsに掲げられる「つくる責任、つかう責任」を、日々の現場で体現していくことが、競争力維持にも直結します。

各業界の事例と今後の動向

自動車業界 ― EV化と重量削減の二重苦

自動車業界では、パワートレインの電動化に加え、急速な車体軽量化、アルミや樹脂部品へのシフトが進んでいます。
EV用部品は従来のエンジン部品と全く性質が異なるため、材料調達や品質管理のあり方も見直しが進行中です。
トヨタなど大手はTier1だけでなく、西の下請け町工場でもCO2算定の対応が必須となっています。

電機・家電業界 ― 省エネ技術とサーキュラーエコノミー

冷蔵庫やエアコンなど家庭電化製品でも、単なる消費電力低減から、部材のリサイクル適合性・廃棄時のCO2排出削減まで“製品全体での環境負荷低減”が求められます。
技術部・開発部・調達部が一体となってLCA設計を進めることが、競争力の源泉となっています。

中小企業・町工場のリアル

最先端自動化や環境対応コンサルへの投資が難しい中小企業でも、電動アクチュエータへの置換や老朽設備の更新、照明・空調の省エネなど、出来る部分から地道に取り組む事例が着実に増えています。
工場単位でPDCAサイクルを回し、省エネ診断・補助金活用も積極的に行われています。

今後に向けて―製造業とサプライチェーンの新しい競争力

現代のバイヤーやサプライヤーは、これまでの「安く・良く・早く」に加えて、いかにして持続可能な生産体制を築けるかが問われています。
調達・生産管理・品質管理の現場が、電動化とカーボンニュートラル推進を一体で捉え、全社・サプライチェーン全体での最適化に取り組む姿勢が、これからの競争力の本質です。

昭和流の経験主義も、新しいデータ技術も、どちらも現場の力です。
その掛け算で「現場が主役のグリーン変革」を進めていくことが、日本の製造業の再浮上のカギとなるでしょう。

まとめ

電動化技術とカーボンニュートラル推進は、単なる“現場の改善”にとどまりません。
調達判断の基準も、バイヤー・サプライヤー関係も大きく変わろうとしています。
今、自分の現場で何ができるかを考えることが、次の時代のリーダーシップに繋がります。

製造業に関わるすべての方が、今こそ“未来志向の現場力”を武器に、新しい挑戦を始めましょう。

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