投稿日:2025年11月26日

OEMアウターで高い利益率を維持するための価格設定と販売戦略

はじめに

OEM(Original Equipment Manufacturer)アウターは、多くのアパレルブランドにとって効率的な商品展開の手段となっています。
しかし、OEM商品は“価格競争”の厳しさから利益率が下がりやすいというジレンマも抱えています。
本記事では、製造業現場での20年以上の知見を活かし、OEMアウターの高い利益率維持を実現する価格設定や販売戦略、そしてアナログ業界ならではの課題や突破口についても、現場目線で具体的に解説します。

OEMアウターが抱える典型的な課題

1. 価格競争の激化

アウターに限らずOEM製品は、商品自体に独自性が生まれにくく、完成品そのものの魅力だけで差別化を図るのが難しいという特徴があります。
その結果、取引は「価格」が最大の評価軸になりやすく、利益率は下降しがちです。

2. コスト増加と利益圧縮

近年は原材料の高騰、物流コストの増加、人件費の上昇など、外部環境の変化も激しく、想定よりもコストが膨らんでしまうケースも少なくありません。
価格転嫁がスムーズにできず利益率が圧迫される要因となります。

3. 安易な値下げ競争に陥るリスク

売上を確保するための安易な値下げ競争はブランド価値の毀損やバリューチェーン全体の弱体化につながります。
古くから続く昭和的な「値下げありき」の商習慣や、シーズン終了の一斉値引きなど、アナログ業界にも根強く残る課題です。

高い利益率を維持するための価格設定の基本方針

1. コスト積み上げ型の限界と「価値基準」への転換

これまでの多くのOEMアウター取引では、素材や縫製など総コストに一定の利益を上乗せする「積み上げ式」で価格を決める方式が主流でした。
しかし、これでは独自性や付加価値が価格に反映されません。

今後は、「このアウターが、どのような顧客価値や課題解決を提供できるか」という『価値基準』による価格設定が必須です。
自社が得意とする技術やこだわりのディテール、特殊素材による快適性やメンテナンス容易性といった差別化ポイントを価格体系に組み込むことが求められます。

2. 市場セグメントごとの価格戦略

すべてのOEMアウターを一律の価格政策で運用するのは非効率的です。
例えば、ファッション性を重視する若年層向けであればデザインにこだわり、「限定コラボ」や「アート性」など希少価値を付与することでプレミアム価格を実現できます。
一方、ワークユースやアウトドア用途向けでは機能性・防水性・耐久性などの技術的付加価値を打ち出し、価格競争から一線を画することも可能です。
市場ごとに適切な価格レンジと、そこに込める価値軸を事前に定義しましょう。

3. ロングテールとハイマス戦略のバランス

数量重視の商品は小さな利益でも大ロット受注で安定収益を確保できますが、競争が激しい分、利益率は低くなりがちです。
一方、特別仕様や小ロット対応の商品は手間はかかるものの高い利益率が見込めます。
この両軸をバランスさせることで、全体の利益構造が安定します。
自社の生産体制や顧客層に応じて、メインとすべき領域を的確に判断しましょう。

利益率を伸ばすための販売戦略

1. サプライチェーンの最適化と原価低減

調達購買の現場感覚を持つことは利益率向上の要です。
具体的には、サプライヤー選定の多元化、複数ルートの確保、サプライヤーとの長期的パートナーシップによるコスト協力などがあります。

また、製造原価低減には現場レベルでのムダ発見が欠かせません。
自動化、省人化の導入や、BOM(部品表)改善による余剰部材の削減、ダブルチェック体制の強化など、現代的な生産管理手法を柔軟に取り入れることが欠かせません。

2. D2Cを活用した粗利アップ施策

OEMアウターでも、近年では自社ECやSNSを介したダイレクト販売が増えています。
これにより中間マージンを削減でき、粗利を確保しやすくなります。
ただし、商品説明力や顧客対応が直接ブランド価値アップやクレーム低減に直結するため、商品企画とカスタマーサポート体制の両立が重要です。

3. 段階的値付け(プライシング)の導入

一律値下げではなく、先行受注や会員限定、シーズン初回~後半など、売れ行きや在庫状況をリアルタイムで分析しながら柔軟にプライシングすることが重要です。
ITツールや在庫連動システムの導入で、適正在庫の把握と機動的な値上げ・値下げが可能になります。

4. ブランディングとストーリー化

OEM製品は「顔が見えにくい」「思い入れが伝わりにくい」と言われがちですが、製造現場や職人のこだわり、現場で積み重ねた改善の歴史などをストーリーとして発信すれば、購入動機の差別化につながります。
顧客ロイヤルティの向上や、一般的なOEM品との差別化で価格上乗せも実現しやすくなります。

昭和的アナログ現場に残る課題へのアプローチ

1. 昔ながらの「勘・経験・度胸」からの脱却

日本の製造業には、ベテランの経験則に頼る「KKD(勘・経験・度胸)」文化が根強く残っています。
これは品質管理や生産効率アップには有効な面もありますが、価格戦略や市場動向の把握には大きなハンデになりがちです。

脱却のためには、データや可視化を軸に議論を進める「現場DX化」を積極推進する必要があります。
例えば、販売実績やコスト情報を工場と営業現場でリアルタイム共有し、原価割れや在庫過多・欠品などのリスクを事前予防する体制が欠かせません。

2. 商談のオンライン化・標準化による効率化

従来の対面主義やFAX・書類文化が根強いOEM製造業界ですが、コロナ禍を経てリモート打合せやオンライン受発注ツールの導入も進んできました。
商談の「見える化」と標準化による合理化、取引履歴のデータベース化で、勘や記憶頼みの属人経営から徐々に脱却することが利益率向上の近道です。

バイヤー・サプライヤー各立場で知っておくべき視点

バイヤー視点:価格要求だけでなく「価値」の議論を

バイヤーはコスト削減のみを目的化せず、「なぜその価格なのか」「どこに付加価値があるのか」をサプライヤーと率直に議論すべきです。
現場の生産負担や、部材調達のリスク、品質維持のためのコスト等を理解し、単なる値下げ要求に陥らないことが重要です。

サプライヤー視点:提案型営業力と現場力を磨く

一方、サプライヤー側は受け身の価格応諾から脱却し、自社の強みや付加価値の提案を積極的に行う必要があります。
そのためには「なぜ自社のOEMアウターが他社より高いのか」「どんな現場工夫で品質や納期を守っているのか」を明確に伝える営業資料や、生産現場からの情報シェアが強みとなります。

まとめ

OEMアウターで高利益率を維持するには、旧来の“積み上げ型価格設定”・大量生産大量値下げの発想から転換し、「付加価値」「差別化」「現場DX化」を柱とした新たな戦略づくりが不可欠です。
バイヤーもサプライヤーも“現場現実”に基づくコミュニケーションを重視し、本質的な価格交渉・提案型商談にシフトしましょう。

この記事が、OEMアウターの事業に関わるみなさんが利益率向上と持続的成長を実現するヒントとなれば幸いです。

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