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開発初期に上げたリスクが軽視され後半で爆発する典型的失敗例

目次
はじめに
製造業の現場では、「最初に指摘された問題が、なぜか途中で忘れ去られ、プロジェクトの後半で大問題に膨れ上がる」という光景が、何度も繰り返されています。
これは決してドラマや都市伝説ではありません。
筆者の20年以上にわたる製造現場での経験でも、「開発初期に上がったリスクが軽視され、最終的に全社的な損失や納期遅延、顧客からの信頼失墜につながった」例は枚挙に暇がありません。
この記事では、なぜ製造業でこのような失敗が起きるのか、典型事例、昭和から引き継がれる組織体質、そして現代の市場環境の中で、いかにしてリスクの芽を摘むべきかを、現場目線で解説します。
また、調達バイヤー・メーカー双方の立場からも解説することで、業界全体の底上げを目指していきます。
典型的な「リスク爆発」の失敗例
初期の違和感や指摘が埋もれる現場
例えば、開発プロジェクトの企画段階にて、調達担当が新素材のコスト高騰リスクを提示します。
「原材料Aは品薄で価格変動が大きい。サブサプライヤーからの供給にも不安があるので、初期設計段階でB材料の検討もお願いします。」
このような指摘は、往々にして議事録の片隅に残るだけとなり、結局当初案のまま開発が進みます。
なぜか。
理由はシンプルで「プロジェクトを早く進めたい」「設計思想を変えたくない」「新たな調整が面倒」という昭和的マインドがまだまだ根強く残っているためです。
試作段階での火消し優先、根本対策は後回し
担当者が材料価格の上昇や納期が遅れ始めた際、現場は「何とか指定納期に間に合わせる」「応急策でやり過ごす」ことに注力します。
シニア管理職へのエスカレーションも、「現時点ではまだ想定内」「全体スケジュールに大きな影響は出ていない」とまとめられ、中長期での根本解決策が放置されがちです。
この「目先の火消し」と「報告の体裁重視」こそが、後の大爆発へと繋がる序章です。
量産直前に現れる「予想外の爆弾」
やがて、試作評価をクリアし、量産立ち上げを目前に控えた段階で、調達先から突然の価格再交渉や納期追加遅延が発生します。
「こんなはずじゃなかった、なぜ今まで誰も止められなかったのか」
関係者が集まり緊急対策会議が開かれますが、多くの場合、
・納期の追加延長
・利益率の大幅低下
・ラインストップ
・顧客への迷惑
という最悪の結末が待ち受けています。
このような失敗を生む組織文化・構造的な問題点
「早く進めろ」「横並び主義」が招く歪み
現場では、「始めること」に極端にフォーカスがあたります。
「計画通り進行」「納期厳守」という目先のKPIばかりが目立ち、リスク情報を積極的に吸い上げて解決へ導くプロセスが軽視されがちです。
また、今も残る「横並び」「上意下達」「稟議優先」といった昭和型ヒエラルキーでは、若手や現場担当者からの生の問題提起や提案はなかなか上層部まで上がりません。
「想定外」=「現場の責任」とする風潮
リスクが顕在化した際にも、問題の本質ではなく「誰がミスをしたか」「なぜ想定できなかったのか」と“犯人捜し”に走ってしまう組織風土。
この結果、次回からはさらに問題の本音共有が抑制され、「臭いものには蓋」式の運営となる悪循環が生まれます。
アナログ主義がデータの可視化・共有を妨げる
リスク管理や進捗確認が、いまだに紙の書類・部門ごとのエクセル、メールだけで回っている会社が多く存在します。
組織全体でプロジェクトリスクを可視化し、リアルタイムに対策・情報共有する仕組みを持っていないため、異変発見が「現場感覚」や「担当者の勘」に頼るしかなくなってしまいます。
現場が知っている「リスク爆発」の防止策
1.設計・調達・生産管理・品質の四者連携を固定化する
開発初期から「設計・調達・生産・品質」それぞれの実務リーダーが、対等な立場でリスク洗い出しミーティングを実施しましょう。
たとえば
・調達「原材料Aのリスク、サブサプライヤーBの現状」
・生産「特定設備の遊休、スキルマップ」
・品質「初回ロットの特性バラつき」
など、それぞれの知見を具体的な数値や現場サンプルをもとに出し合います。
「全会議に全員出す」という意味ではなく、「各部門の仮説・数字・現象を開示し、異論や不安も遠慮なく話し合う」文化そのものを根付かせることが本質です。
2.初期リスクは「今のままで大丈夫?」を連呼する
リスク指摘をされた際、「想定内」「何とかなる」という軽視を許しません。
どんなに小さな問題提起も「いま放置するとどうなるか」をロジカルに議論し、ファクトベースで残しましょう。
リスク一覧表は「消したら終わり」ではなく、進行中に何度も振り返り、状況が少しでも変われば“即再点検”が不可欠です。
3.「一度立ち止まる勇気」に予算も正当につける
納期や進捗のプレッシャーから、失敗リスクへの追加予算や遅延への説明が難しい会議体も多いのが現実です。
しかし、敢えて止める・引き返すためのプロセス(たとえばリスク漂白日、緊急設計見直し会議)を織り込み、敢行した場合に評価を下げないルールを明文化しましょう。
トップが「プロジェクトストップは悪」ではなく、「失敗を未然に防げる判断力・提案力を重視する」ことを明確化するべきです。
4.デジタル活用でリスク管理の共有化・履歴化
最先端IT活用までは難しくても、リスク案件ごとにナレッジデータベースや社内SNSを作成し、「対応策・未対策・指摘履歴」を誰もがアクセスできる形で集約します。
また、進行中のプロジェクトに参加する新しいメンバーでも、過去の議論や経緯をすぐに把握できるため、“引き継ぎミス”による爆発も抑えることができます。
調達購買・バイヤーの視点で考える「リスク爆発」
バイヤーは「買う」だけが仕事ではない
バイヤー(調達担当者)は、単価交渉や納期管理だけが仕事ではありません。
実は設計段階から
・材料高騰リスク
・地政学的リスク(戦争、災害、サプライチェーン寸断)
・新素材の量産安定性
・長期継続供給可能性
などを事前に洗い出し、「この仕様なら本当に安全か?」をメーカー全体に提起する役割があります。
しっかりリスクを“前倒し”で可視化し、必要なら初期設計を抜本的に変える勇気を持つ--これこそ成熟したバイヤーの仕事です。
サプライヤーの視点「顧客の本音と立場を知る」
サプライヤーは、「取引先の希望通りに納める」だけでなく、「本当にこの設計のままで量産できるか」「原材料の市況が変われば、どこまで対応できそうか」を正直に伝え、時には取引先の設計自体に問題提起を行う必要があります。
メーカー側もまた、「無理な要求を押し付ける相手」ではなく、「共にリスクを減らし長期Win-Winを目指すパートナー」でなければなりません。
まとめ:リスク軽視の時代は終わった―現場主導の新たな地平線
昭和の高度成長期に通用した「走りながら考える」「問題は出てから考える」という方針は、グローバルで厳しい競争が続く現代の製造業には通用しません。
特に半導体不足、資源高騰、物流混乱、気候変動といった“予測不能”が次々と起こる時代だからこそ、初期からの一つひとつのリスク提起を「ただの杞憂」で片づけず、全社で粘り強く議論・可視化・履歴化・早期是正を徹底しましょう。
現場・バイヤー・サプライヤーが肩を並べ「全員でリスクを減らす」という共通言語を持つこと。
これさえ実現できれば、典型的な大失敗は確実に減り、進化し続ける製造現場を皆で支える原動力となります。
業界に関わる皆さまの現場実践に、少しでも役立つ記事となれば幸いです。