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AWS D1.1構造用溶接規格の読み解き方

目次
AWS D1.1構造用溶接規格とは何か
現代の製造業において、溶接は製品の信頼性を左右する重要なプロセスです。
その中核に位置するのが、アメリカ溶接協会(American Welding Society、以下AWS)が制定するD1.1構造用溶接規格です。
この規格は、鉄骨構造物などに使用される鋼材の溶接に関する設計・施工・検査の統一基準として、世界的に高い評価を受けています。
特にグローバル展開する日本の製造業において、AWS D1.1を要求される場面は年々増加しています。
しかし、多くの工場現場では「英文だし難しそう」「JISやWESと何が違うのかよく分からない」といった声が根強く残っているのも事実です。
本記事では、AWS D1.1の基本構造、現実の製造現場での正しい読み解き方、そして業界動向までをプロの視点で解説します。
AWS D1.1の基本構成と特徴
規格の全体像
AWS D1.1は、主に鋼構造物におけるアーク溶接(被覆アーク溶接、半自動溶接、TIG溶接など)に適用される包括的な規格です。
大きく以下の章構成に分かれています。
– 範囲および用語定義
– 設計、構造、材料要件
– 溶接作業の手順(施工方法、溶接可否材、姿勢など)
– 溶接作業者の資格認証
– 溶接施工記録(WPS/PQR)の要件
– 非破壊検査・外観検査基準
– 製品の受け入れ判定、クオリティコントロール
世界標準の位置づけでありながら、JISやWESと比べても規定内容が詳細かつシビアであることが特徴です。
特に「材料追跡性」「溶接手順適合性」「検査手法の明確化」といった点で、現場に高いレベルのプロセス管理を要求します。
JISやWESとの比較
多くの日本国内工場では、JIS Z 3110シリーズやWES 8103などを標準規格としています。
AWS D1.1は米国由来のため、一見慣れない用語や論理構成に戸惑うことも少なくありません。
ですが、グローバル顧客がサプライヤーにAWS対応を求める背景には、「国際調達の共通ベースライン」としての信頼感があります。
JIS・WESでは解釈が工場ごとにブレやすい部分が、AWS D1.1ではエンジニアリング英語で明瞭に「なぜこの工程が必要か」が記載されています。
そのため、現場目線での不適合防止や品質トレーサビリティ強化には、D1.1を読み込む価値が高いのです。
現場目線で押さえておくべき読み解きポイント
1. 用語定義 – 「意味を把握」することから始める
特に初見で混乱しがちなのが用語です。
たとえば「フィラー金属」「ベースメタル」「ギャップ」「ジョイント」「ウェルドパス」など、日本語では曖昧でもAWSでは厳格に定義されています。
さらに「Shall(必ず…しなければならない)」「Should(推奨する)」など、法的拘束力の違いも読み飛ばしは厳禁です。
作業指導や現場指示に落とし込む際も、まず用語理解から着実に入ることが、余計な手戻り・ミス防止につながります。
2. 溶接施工記録WPS/PQRの本質を知る
「溶接施工記録(WPS:Welding Procedure Specification)」と「施工実証記録(PQR:Procedure Qualification Record)」は、AWS D1.1で極めて重視されます。
前者は「どんな条件・材料・要件で溶接すべきか」という施工仕様書、後者は「指定条件で実際に良好な溶接継手ができた証拠記録」です。
多くの工場では、WPS/PQRが単なる「お作法」書類になりがちですが、AWS D1.1では「この記録がない・整合していない=品質保証なし」とみなされるリスクがあります。
グローバルバイヤーや認証機関の監査時も、WPS/PQRの整備状況チェックは最重視されるため、「なぜ・どの程度の記載が求められるのか」を理解しましょう。
3. 実作業の”グレイゾーン“に要注意
AWS D1.1は非常に細かく手順が規定されていますが、実際の現場では作業性・設備老朽化・技能者の腕前など、規格適合と実務の間にギャップが生まれやすいです。
代表的な“グレイゾーン”は…
– 焼なまし条件やパス間温度の管理
– ジョイントフィットアップ(隙間や盛り量)
– 仮付け・本付けの境界
– 欠陥判定基準と手直し手順
こうした現場特有の事情を規格読みでどう解釈し、「実装に落とし込むか」は管理職・工程推進者の腕の見せ所です。
ベテラン作業員や協力企業との情報共有の場で、「AWS D1.1の該当チャプターではこう書かれている」と根拠を示せる習慣が、現場浸透を左右します。
現場マネジメントとサプライチェーンでの有効活用
グローバル調達バイヤー目線の着眼点
グローバル企業のバイヤーは、以下の観点でサプライヤー工場のAWS D1.1順守をチェックします。
– WPS/PQRの整備状況と実作業との一致度
– 作業員資格記録(Welder Qualification)の最新性
– 検査・記録類が英語で即時提出できるか
– トレースバックが明確な材料管理(ヒートナンバーなど)
– 外観検査・非破壊検査の再現性(同じ不具合抽出できるか)
国内の従来型工場で慣例的に処理していた「経験値に頼る溶接現場運用」では、グローバル要求には通用しなくなりつつあります。
いかに客観的・定量的な記録の整備文化を根付かせるかが、大きな調達加点となります。
サプライヤー側が取るべき対応アクション
サプライヤー工場の現場リーダーや管理職であれば、AWS D1.1対応力をアピールできるポイントは数多くあります。
– WPS/PQRのマスター化と、要変更時の手順樹立
– 現場への現物・記録ダブルチェック文化の導入
– 国家資格だけでなく、民間含めた溶接技術者育成
– 定期的な社内監査による規格理解度UP
– 英文記録(またはダイジェスト和英対訳)のストック
こうした取り組みを商品企画・営業の場でも明確に提示し、「AWS D1.1に対応しています」と自信を持って打ち出すことで、受注機会拡大へとつながります。
昭和のアナログから脱却するために
AWS D1.1は記録主義、科学的根拠主義の象徴とも言える規格です。
「この作業はこうやったほうが早くて安定する」「昔からウチはこのやり方で大丈夫だ」といった昭和流の“匠思考”にも、一度立ち止まる必要があります。
現代の調達購買現場は、属人的なノウハウではなく「誰でも同じ結果が出せる」再現性を重視します。
そのためには、工程ごとのパラメータ設定と管理、記録の見える化、技能者証明の標準化が不可欠です。
たとえば、手作業の温度管理からIoT温度センサーへの置き換え、不良分析の定期レポート作成、AIによる外観検査自動化なども、AWS D1.1の精神を推進する有効な策となります。
「時代遅れと思われない現場改革」が求められる今だからこそ、D1.1を単なる翻訳規格として捉えるのではなく、工場改革の軸として活用する視点が重要です。
まとめ:AWS D1.1を読み解ける現場リーダーが、次の工場価値を創る
AWS D1.1構造用溶接規格は、単なる「海外規格」ではありません。
グローバル時代の調達バイヤーから現場技能者まで、すべての関係者が「なぜこの要件があるのか」「どこまで守るべきなのか」を腹落ちさせ、実務レベルに落とし込むことが今後の競争力のカギとなります。
記録の見える化、現場教育、標準化運用――これを地道に積み上げることが、昭和のアナログ工場から一歩先の“選ばれる工場”へ進化する道です。
メーカーの工場長経験者として、ぜひ多くの方にD1.1の本質を現場で体得し、強い製造サプライチェーンを日本から世界へ発信していきましょう。
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