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投稿日:2026年6月10日 | 更新日:2026年10月2日

AWS D1.1構造用溶接規格の読み解き方

この記事のポイント:AWS D1.1は鋼構造物の溶接に関する設計・施工・検査を一体で規定した国際標準規格であり、WPS/PQRによる手順証明体制と厳格な非破壊検査要求が核心です。日本の製造現場でJIS・WESとの対比で読み解くことで、グローバル調達バイヤーへの対応力と工場内品質保証レベルを同時に底上げできます。本記事では、規格の章構成から実務上の落とし穴、サプライヤーとしての競争力強化戦略まで体系的に解説します。

AWS D1.1とは何か――制定背景と国際的位置づけ

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AWS D1.1(Structural Welding Code – Steel)は、アメリカ溶接協会(American Welding Society)が制定する鋼構造物向けアーク溶接の包括的規格です。
AWS D1.1:2025は溶接鋼構造物の製作・建方に関する要件を規定しており
、設計・施工・検査の三層を一冊の文書にまとめた珍しい構成を持ちます。

同規格は
5年サイクルで改訂されており、AWS D1.1:2025はAWS D1.1:2020を改訂したもの
です。2025年版(第25版)が最新であり、日本規格協会からも邦訳版が流通しています。

国内で製造業の溶接管理を担う技術者にとって、AWS D1.1は単なる「外国規格」ではありません。
溶接管理技術者・IIW国際溶接技術者の評価試験では、外国諸規格としてAWS D1.1 Structural Welding Codeを補助テキストとして使用し、評価試験時に閲覧可能としている
ことからも、日本の溶接管理技術者制度と深く連動した規格であることがわかります。

当社では累計200社以上の製造業サプライヤーとの接点を持ちますが、航空宇宙・重電・建設機械分野のグローバルバイヤーから「AWS D1.1準拠の証跡を提出せよ」と要求されるケースが、ここ5年で急増しています。規格を「英文で難しそう」と敬遠するサプライヤーと、実際に読み込んで監査対応できるサプライヤーとでは、受注機会に明確な差が生まれています。

規格の章構成を解剖する――7つの主要セクション

AWS D1.1が難解に見える最大の理由は、章立てが「材料の話だと思って読み進めたら施工手順に変わり、次に検査の話になる」という、初読者を迷わせる流れにあります。全体像を把握してから各章に入ることが、読み解きの効率を決定的に左右します。

本規格は、グルーブ溶接・フィレット溶接・プラグ溶接・スロット溶接といった具体的な継手・溶接形式を規定するとともに、疲労応力設計パラメータや事前資格認定済みWPS(溶接施工要領書)など多岐にわたる事項を網羅している
ことが特徴です。

本規格は契約文書への参照方法に関する情報も含み、エンジニア・請負業者・検査員それぞれの責任に関する条項を詳細に規定している
点も、他の規格との大きな差異です。JIS Z 3110シリーズでは当事者責任の明確化が比較的簡略であるのに対し、AWS D1.1では「誰が何を決定し、何を記録し、誰に承認を求めるか」が条文レベルで書き分けられています。

AWS D1.1 2025年版の主要セクション概要は以下のとおりです。

  • Clause 1:スコープ・参照規格(適用対象の明確化)
  • Clause 2:規範的参照文書
  • Clause 3:設計(継手形式・許容応力・疲労設計)
  • Clause 4:用語と定義
  • Clause 5:WPSの事前資格認定(Pre-qualified WPS)
  • Clause 6:WPS/PQRによる手順資格認定
  • Clause 7:溶接士・溶接オペレーター資格認定(WPQ)
  • Clause 8:製作と外観検査
  • Clause 9:検査(NDT基準・合否判定)
  • Clause 10:スタッド溶接

調達現場で押さえるポイント

規格は「設計→材料→手順認定→技能者認定→施工→検査」という順序で読むと全体が腹落ちします。Clause 5とClause 6の違い(事前資格認定WPS vs. PQR裏付きWPS)は監査での頻出質問です。サプライヤーへの第一質問として「御社のWPSはPre-qualifiedですか?それともPQRで裏付けされていますか?」と聞くだけで、規格の理解度が即座に判別できます。

WPS・PQR・WPQの三点セットを深く理解する

AWS D1.1の品質保証体系の根幹は、WPS・PQR・WPQという三つの文書体系です。この三点を整備・管理できるかどうかが、グローバル発注企業の監査を通過できるかの分水嶺になります。

WPS(Welding Procedure Specification):溶接施工要領書

WPSとは「溶接施工要領書」を意味し、実際に施工する溶接方法・継手の種類・母材や溶接材料・溶接条件・熱処理等の溶接施工条件の詳細を記載した書類
です。AWS D1.1ではこれに加えて、電流・電圧・溶接速度・パス間温度・予熱温度などの「Essential Variables(必須変数)」と「Non-Essential Variables(非必須変数)」を明確に区分し、必須変数が変わればPQRの再取得が必要と規定しています。

PQR(Procedure Qualification Record):溶接施工方法確認試験記録

PQRは溶接継手の強度試験や非破壊検査等の性能試験記録であり、製作メーカーが所定の品質の溶接施工が可能であることを確認し、WPSを決定する際の裏付けとする書類
です。引張試験・曲げ試験・衝撃試験・マクロ断面観察などの結果がすべて記録されます。

WPQ(Welder/Operator Performance Qualification):溶接士資格認定記録
WPQはWPSが「手順の証明」であるのに対し、個々の溶接士の技能を証明するものです。
AWS D1.1第6条の資格認定セクションでは、SMAW・GMAW・FCAW・GTAWなど各溶接プロセスについて資格認定を取得できる
と規定されています。

製造業の調達購買10年以上の経験から断言できるのは、WPS/PQRの不備がサプライヤー失格の最大原因になっているという事実です。特に中国・東南アジアのサプライヤー網で典型的に見られるのは、「溶接士が変わるたびにWPQの更新が必要なのに、既存のWPQをそのまま使い回している」という運用です。AWS D1.1の下では、溶接士が6か月以上特定のプロセスで溶接を行っていない場合、そのプロセスの資格が失効することが規定されており、これを見落とした結果、監査で全面的な作業停止命令が下るケースも珍しくありません。

調達現場で押さえるポイント

海外製造委託先のWPS審査では「PQRのテスト日付と現行WPSの改訂日付を照合する」ことが最初の確認事項です。PQRが10年前のもので、その後に溶接材料やベースメタルが変更されているにもかかわらずWPSが更新されていないケースを、当社の視察で繰り返し確認しています。WPS/PQRは「出せる」だけでなく「整合している」かどうかが本質です。

疲労設計と溶接継手の品質要件――AWS D1.1が特に厳しい理由

AWS D1.1が他の溶接規格より要求水準が高いとされる背景には、疲労設計への踏み込みの深さがあります。建築鉄骨・橋梁・クレーン梁などに使われる溶接構造物は、繰り返し荷重にさらされます。その際に問題になるのが溶接部の応力集中です。

製鉄所の天井クレーンの破損事例を調査した結果によると、クレーンの経年損傷は稼働開始から概ね3年で発生し、10年で最も多く発生することが報告されており、損傷の種類は疲労損傷が最も多く、その多くは溶接部で発生している
という事実があります。

この溶接部疲労損傷の問題は、
溶接継手の疲労強度は溶接形状に大きく依存し、必ずしも母材の強度に比例しない
ことに起因しています。高張力鋼を使用しても溶接部の形状・止端処理・残留応力が不適切であれば、疲労強度は低下します。AWS D1.1はこの知見を基に、疲労応力カテゴリーを複数の区分(カテゴリーA〜F)に分類し、それぞれの許容応力範囲を厳格に規定しています。

また、非破壊検査の観点からは、
AWS D1.1のセクションD1.1では「D評価」に従って溶接部内の不連続部を分類するための確立した手法を定義している
点が重要です。超音波探傷(UT)や放射線透過(RT)の合否判定基準は、規格の中で具体的な数値として示されており、「検査担当者の主観」に依存しない体制が求められています。

JIS・WES・ISO 3834との比較対照表

日本国内の製造現場では、JIS Z 3001シリーズ・WES 8103・ISO 3834などと並列して使われることも多く、「どこが違うのか」という疑問は実務上極めて重要です。金属加工・樹脂成形・化学・電気電子・組立完成品の5ジャンル横断で調達に携わってきた立場から整理すると、最も本質的な違いは「試験証拠の厳格さ」と「責任分離の明確さ」にあります。

比較項目 AWS D1.1 JIS Z 3010
シリーズ
WES 8103 ISO 3834
発行機関 米国溶接協会(AWS) 日本産業標準調査会 日本溶接協会 ISO(国際標準化機構)
主な適用対象 鋼構造物全般 各種溶接材料・方法 溶接管理技術者認証 溶接品質要求事項
WPS/PQRの義務性 明確に義務付け 規格により異なる 認証要件として含む 明確に義務付け
疲労設計規定の詳細度 高(カテゴリー区分あり) 低〜中 中 中
非破壊検査基準の明確度 高(D評価法・数値基準) 中 低〜中 中
材料トレーサビリティ要求 ヒートナンバー管理必須 一部規格で要求 認証要件に含む 要求あり
溶接士資格の更新管理 6か月不使用で失効 規格により異なる 再認証制度あり 2年更新が一般的
エンジニア・検査員の責任分離 条文レベルで明確 比較的簡略 中程度 高(品質レベル3段階)
グローバル調達での認知度 最高(北米・中東・アジア) 国内主流 国内 欧州・国際調達
事前資格認定(Pre-qualified)制度 あり(Clause 5) なし なし なし
パス間温度上限の明記 材料区分ごとに数値規定 一部規格に含む 中程度 数値規定あり
英文規格としての可読性 英語(邦訳版あり) 日本語 日本語 英語(JIS翻訳あり)

溶接管理技術者とAWS D1.1――資格体系からの逆引き読み解き

AWS D1.1を効率的に学ぶ方法のひとつが、溶接管理技術者資格の試験科目を「逆引きの手がかり」として活用することです。

溶接管理技術者の資格は、溶接技術に関する技術知識と施工および管理に関する職務能力を持った技術者のための資格であり、工場認定あるいは官公庁における工事発注の際の必須条件として認証者保有または常駐を要求されている
制度です。建築鉄骨・橋梁・圧力容器・造船など、まさにAWS D1.1が適用される分野で必須とされる国内資格です。

その評価試験では、
設計分野と施工・管理分野の試験において、AWS D1.1(英文)の規格問題が出題され、受験者は2題のうち必ず1題を選択しなければならない
と定められています。つまり、溶接管理技術者として認証を受けるためにはAWS D1.1を英文で読みこなす能力が問われているわけです。

さらに国際資格の観点では、
国際溶接学会(IIW)のIABが認定した資格であるIWE・IWT・IWSの3レベルの国際溶接技術者および国際溶接検査技術者の認証が、日本ではJ-ANB(日本IIW資格認証機構)によって実施されている
ことも重要です。IWEレベルの技術者がAWS D1.1の詳細を運用できる能力を持つことは、グローバル調達の場でサプライヤー選定の重要な評価指標となります。

実務現場での「グレーゾーン」攻略法

AWS D1.1は極めて詳細な規格ですが、実際の製造現場では規格の文字通りの適用と現場条件の間にギャップが生まれやすい局面があります。ここでは、当社が視察・監査の場で頻繁に目にする4つのグレーゾーンを整理します。

① 予熱・パス間温度の管理

AWS D1.1はベースメタルの炭素当量(CE)に応じて最低予熱温度を規定し、さらにパス間温度の上限も定めています。
東京スカイツリーの溶接品質管理においても、Y形溶接割れ試験・炭素当量(CEN)・拡散性水素量の指標を設けて予熱温度を管理した
という実例が示すように、厚板・高強度鋼では特に厳格な温度管理が求められます。現場では「だいたい温めれば大丈夫」という経験則がまかり通ることがありますが、AWS D1.1の下では数値根拠のある記録が必須です。

② ジョイントフィットアップ(開先寸法管理)

フィレット溶接のルートギャップ上限、グルーブ溶接の開先角度許容範囲は規格に数値で規定されています。図面寸法通りに溶接した場合でも、フィットアップ段階での寸法逸脱をWPSに規定した許容範囲外で「見なかったことに」した瞬間、WPS逸脱=手順書外作業となります。監査時に開先検査記録の提出を求められ、記録がない場合は即アクションアイテムとなるケースを多く見ています。

③ 欠陥の合否判定と手直し手順

AWS D1.1 Clause 9の視覚検査・NDT合否基準は、アンダーカット深さ・ポロシティの最大径・不連続部の長さなどを数値で明記しています。参考として、ANSI/AWS D1.1-90の規定では引張応力に直角な溶接のアンダーカット深さ上限を0.25mm以下と規定しており[9]、手直し(修正溶接)後も同じ検査基準で再評価することが求められます。修正溶接を繰り返した部位の記録がないと、納品後のトレーサビリティが崩壊します。

④ 溶接士資格の有効期限管理

WPQは「取得すれば終わり」ではありません。AWS D1.1では特定のプロセス・姿勢・材料区分で6か月以上溶接を実施しない場合、その区分の資格が失効すると規定されています。生産量が変動しやすい日本の中小製造業では、閑散期後に資格失効を確認せずに生産再開するケースが散見されます。WPQ管理台帳に「最終施工日」列を設け、四半期ごとにチェックする仕組みが必要です。

グローバルバイヤーによる監査の実態と対策

製造業の調達購買10年以上の経験から言えば、グローバルバイヤーがサプライヤーのAWS D1.1対応力を評価する際のポイントは「書類があるか」ではなく「書類と現場が一致しているか」です。以下は実際の監査でよく使われる確認ポイントです。

  • WPSを現場作業者(溶接士)が実際に参照しているか(現場掲示・携帯の有無)
  • WPSに記載の電流・電圧範囲と、実際の溶接機設定パネルの値が一致しているか
  • ヒートナンバーが鋼材入庫記録→切断票→WPS→溶接記録まで一気通貫で追えるか
  • NDT記録に検査員のCWI資格番号が記載され、有効期限内であるか
  • 不適合品処理記録(NCR)と是正処置記録(CAR)が適切に管理されているか

特に注目すべきは、
AWS D1.1(およびAISC 360のN章)の7節と8節は、製造者または設置者に対し、組立品と溶接部の目視品質管理検査を実施し、溶接工がWPSに従っていることを確認するよう求めている
点です。第三者NDT機関に検査を外注していても、製造者自身の目視確認責任は消えません。この点を誤解して「NDTを入れているから製造者の検査は不要」と思っているサプライヤーが実際にいます。

調達現場で押さえるポイント

当社がサプライヤー工場を訪問する際、AWS D1.1対応の実態を5分で判断する指標として「溶接ステーションにWPSが貼り出されているか」「溶接士がWPQ管理台帳に署名しているか」「NDT記録に規格の条番号が明記されているか」の3点を確認します。これらが揃っている工場は、他の品質書類も総じて整備されている傾向があります。

書類と現場を照らして見つけた指摘は、是正が済んだことを確かめるところまでを監査の一部として扱いたい。研修テキスト③「仕入先の選び方と審査」の第 4 章「サプライヤー監査のやり方」は、監査を誰がいつ行うか、書類が出るかどうかで何が分かるか、記録の残し方と是正の確認を順に扱い、認証を持つ取引先や海外の取引先を監査するかどうかという問いにも触れている(無料サンプルあり)。

AWS CWI資格とサプライヤー競争力への影響

AWS D1.1への対応力を対外的に証明する最も強力な手段の一つが、AWS CWI(Certified Welding Inspector)資格の保有です。

AWS CWIは米国溶接協会(AWS)が認証している溶接検査技術者(Certified Welding Inspector)の資格であり、試験問題に日本語訳が併記されている
ため、英語が苦手な技術者でも受験しやすくなっています。試験はPart A(基礎知識)・Part B(規格適用)・Part C(実技判定)の3部構成で、
Part-CはAWS D1.1(Steel Structure)のみに対応しており
、規格の実践的な適用能力が直接問われます。

CWI保有者をQC部門に配置しているサプライヤーは、グローバルバイヤーの評価において「溶接検査の独立性が担保されている」と判断されます。自社製品に対して自社CWIが検査サインをする体制は、第三者検査費用の削減にもつながり、コスト競争力の面でもアドバンテージをもたらします。

AWS D1.1を工場改革の軸として活用する実践ロードマップ

AWS D1.1への対応は「規格を読む」だけで終わりません。製造業の調達購買現場から見た場合、規格対応を工場改革のトリガーとして活用しているサプライヤーは、中長期的に受注単価と受注量の両方を伸ばしています。以下は実践的なロードマップです。

フェーズ1(0〜6ヶ月):現状把握とギャップ分析
まず既存のWPS/PQRを全数棚卸し、現行生産に使われている溶接プロセス・材料区分・板厚範囲をマッピングします。AWS D1.1のClause 5(Pre-qualified WPS)の条件を満たせる組み合わせを特定し、PQR取得が必要な領域を明確にします。

フェーズ2(6〜12ヶ月):文書体系の整備
WPS・PQR・WPQをAWS D1.1のフォーマットに準拠した形式で再整備します。日本溶接情報センター(jwes.or.jp)が公開しているWPS例を参考に、Essential Variables一覧を各WPSに添付する運用を確立します。[10]

フェーズ3(12〜18ヶ月):検査体制の強化と記録DX
NDT記録・目視検査記録・不適合処理記録をデジタル化し、ロット番号・ヒートナンバーとリンクしたトレーサビリティ体制を構築します。この段階でCWI資格者を配置することで、検査の独立性を対外的に証明できます。

フェーズ4(18ヶ月以降):対外発信と新規顧客獲得
整備した体制をサプライヤー紹介資料・ウェブサイト・見積書添付資料として対外発信します。「AWS D1.1対応WPS/PQR完備・CWI常駐体制」という訴求は、北米・中東・東南アジア向け重工業部品の調達バイヤーに対して即効性の高い差別化要因になります。

溶接品質保証の学術的根拠とその現場解釈

AWS D1.1の要求事項は、学術研究の蓄積を背景に持ちます。溶接構造物の品質保証においては、溶接欠陥・継手の形状的不連続・溶接残留応力が構造物の疲労強度・破壊強度に影響を与えることが、長年にわたる研究で実証されています。[5]

建築鉄骨の品質管理の観点では、溶接部の品質確保には溶接性能・継手品質・溶接技量の三つの側面が不可分であり、これらを統合的に管理することが規格の精神です。[7] 東京スカイツリーのような大型プロジェクトでは、
建設に使われた鉄骨は約37,000パーツ・36,000トンにのぼり、塔体鉄骨の大部分が鋼管で構成され、全国19ヶ所の製作工場で製造された
という規模感からも、一貫した溶接品質管理体制がなければ成立しなかったことがわかります。[6]

溶接施工管理においても、溶接工程ごとのパラメータ設定・温度管理・検査タイミングの標準化が施工品質の再現性を支える基本であることは、溶接施工管理研究の基礎として確立されています。[8]

まとめ――AWS D1.1を読み解く組織をどう作るか

AWS D1.1は、読み解くことが目的ではなく「工場の品質保証体制を設計・運用するための設計図」として機能させることが真の価値です。規格の要求事項を現場にブレークダウンし、WPS/PQR/WPQの三点セットを整備・維持し、NDTと目視検査の記録をトレーサブルに管理する――これを組織として継続的に実行できる工場が、グローバル調達の選択肢に入り続けます。

規格を「英語だから難しい」と敬遠している間に、競合サプライヤーは対応力を武器に受注を広げています。AWS D1.1への投資は設備投資ではなく、文書と仕組みと人材育成への投資です。初期コストは限定的で、対応後のリターンは長期にわたって継続します。

金属加工・重機・建設機械・産業設備の調達現場で繰り返し見てきた事実として、AWS D1.1を「お客様に言われたから対応する」ではなく「自社の品質基準として内製化する」と決断した工場は、数年後に価格競争から抜け出す傾向があります。規格の理解が深い組織は、不適合の発生率が低く、監査コストも下がり、顧客との信頼関係が安定します。


出典

  1. 溶接管理技術者・IIW国際溶接技術者(溶接学会誌 かんりん 83号) — AWS D1.1を溶接管理技術者評価試験の参照規格として明示した学術一次ソース
  2. 溶接士にかかわる資格・試験について(溶接学会誌 かんりん 83号) — 溶接士資格・試験制度の概要を解説する学術論文
  3. 日本溶接協会の溶接技能者資格の紹介(溶接学会誌 かんりん 83号) — 国内溶接技能者資格制度とAWS規格との関係を論じた学術資料
  4. 溶接管理技術者(WE)教育・認証制度(溶接学会誌) — IIW/AWS規格を扱う溶接管理技術者の教育・認証制度の解説論文
  5. 溶接構造物の品質保証(I)―品質保証と安全性評価の考え方(溶接学会誌) — AWS D1.1が要求する溶接品質保証・施工管理の考え方に直結する学術論文
  6. 東京スカイツリーの鋼材・溶接部の品質保証(溶接学会誌) — 国内大型鋼構造物の溶接品質保証事例を示す実例資料
  7. 建築鉄骨の品質管理(溶接学会誌) — AWS D1.1が適用される建築鉄骨溶接の品質管理手法を論じた学術論文
  8. 溶接施工管理の基本事項(溶接学会誌) — 構造用溶接規格に基づく溶接施工管理の基礎を解説した学術資料
  9. 溶接継手と応力集中(労働安全衛生総合研究所 コラム) — 溶接継手の疲労・応力集中問題を安全衛生の視点から解説する公式機関資料
  10. 溶接継手の長寿命疲労特性評価(労働安全衛生総合研究所 研究報告) — 溶接継手疲労強度評価に関する公的研究機関の研究報告
  11. ガス切断・ガス溶接等の作業安全技術指針(労働安全衛生総合研究所) — 溶接作業の安全管理に係る公的技術指針
  12. 一般鋼管の溶接施工に対する試験方法とその判定基準(溶接学会誌) — AWS D1.1が定める溶接施工試験方法・合否判定基準と対応する国内学術研究の一次ソース

※ 出典リンクは2026年6月10日時点でリンク到達性を確認しています。

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