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投稿日:2025年4月23日

金属材料における溶接接合の基礎とその応用

はじめに

溶接接合は、金属材料を扱う製造業にとって極めて重要なプロセスです。
部材と部材を一体化し、強度・気密性・意匠性など多面的な要求を満たす手段として100年以上にわたり発展してきました。
一方で、熟練作業者の高齢化やグローバル調達の拡大、カーボンニュートラルへの対応といった新しい課題も押し寄せています。
本記事では、昭和から受け継がれた職人技と、最新のデジタル技術が共存する現場目線で、溶接接合の基礎と応用を約3,000文字で解説します。
購買担当者、サプライヤー、製造現場の皆様が明日から使える実践知をお届けします。

溶接がサプライチェーン全体に与えるインパクト

コストとリードタイムに直結するプロセス

溶接は製品原価の10〜30%を占めることが珍しくありません。
治具・ガス・ワイヤ・電力に加え、前後工程の仕掛在庫も膨らみやすく、購買・生産管理は常にコスト低減と納期短縮の両立を迫られます。
溶接方法を最適化するだけで、1台あたり数百円から数千円の削減が見込めるケースもあるため、バイヤーにとっては重要な交渉ポイントです。

品質保証のボトルネックになりやすい

溶接はヒューマンエラーが起きやすく、欠陥が外観に現れにくい場合も多いです。
品質管理部門にとっては、ライン停止やリコールのリスク源として警戒度が高い工程です。
そのため、工程能力指数(Cp、Cpk)だけでなく、溶接施工要領書(WPS)や資格保有率を指標化し、サプライヤー監査でチェックする企業が増えています。

溶接の基礎原理を押さえる

溶融と凝固のサイクル

もっとも一般的な融接では、母材と溶加材を同時に溶かし、凝固させて金属組織を一体化します。
融点以上の高温に瞬時にさらすため、熱影響部(HAZ)で金属組成が変化し、脆化や残留応力が発生します。
このメカニズムを理解すれば、適切な前処理や後熱処理の必要性が腑に落ちます。

熱影響部と金属組織の変態

炭素鋼ではオーステナイト化した組織が急冷するとマルテンサイトに変態し、硬化と同時に靭性が低下します。
ステンレスでは炭化物の析出により耐食性が落ちることがあります。
材質ごとの金属学的リスクを把握することで、事故を未然に防止できます。

主要溶接法と選定指針

アーク溶接(SMAW、GMAW、GTAW)

被覆アーク溶接(SMAW)は、少量生産や補修に強みがありますが、熟練度依存度が高いです。
半自動(GMAW)は量産車体や産業機械で標準化され、ロボット化もしやすい万能選手です。
TIG(GTAW)は薄板や非鉄金属で高品質を実現できますが、溶接速度が遅くコスト高です。

抵抗スポット溶接

自動車ボディの典型例で、電極間に流す電流で発熱させ点状に溶接します。
母材加熱範囲が狭く、サイクルタイムが短いため、大量生産で圧倒的な優位性があります。

レーザ溶接

集光性が高く、深溶け込みと低歪みを両立できます。
ただし装置投資が大きく、反射率の高い銅やアルミではビーム吸収率が課題です。
EVモーターのヘアピン接合などで採用が急増しています。

摩擦攪拌(FSW)など固相接合

材料を溶かさずに可塑化させて攪拌するため、ポロシティや焼けを抑制できます。
アルミ押出材やリチウムイオンバッテリーケースの接合で活躍しています。

選定時の比較ポイント

・材質、板厚、必要強度
・ロットサイズとタクトタイム
・設備投資とランニングコスト
・後工程(塗装・機械加工)への影響
これらを総合評価することで、最適な溶接法が見えてきます。

溶接品質管理と検査手法

代表的な欠陥と原因

ブローホール、割れ、スラグ巻き込み、オーバーラップ、アンダーカットなどが代表的です。
多くは入熱バランス不良、前処理不足、シールドガス流量不足で発生します。

非破壊検査(NDT)と破壊試験

外観検査(VT)は全数対応に向く最初のゲートです。
浸透探傷(PT)や磁粉探傷(MT)は表面欠陥に強く、超音波(UT)や放射線(RT)は内部欠陥を検出できます。
曲げ・引張・衝撃などの破壊試験は、材料開発段階や不具合再現時に有効です。

デジタルQMSとトレーサビリティ

溶接ロボットから電流・電圧波形をリアルタイム収集し、クラウドで管理する仕組みが普及しています。
シリアル番号と紐づけて保存すれば、万一のリコール範囲を迅速に特定できます。
アナログ管理からの脱却は、監査対応の時間短縮にもつながります。

自動化とIndustry 4.0の潮流

ロボット溶接セルの導入手順

①現行ラインの溶接負荷を棚卸しし、作業姿勢とタクトを分析
②ティーチング容易性と治具構想を検証
③安全柵・レーザスキャナでリスクアセスメント
④量産立上げ後の保全体制と予備部品品番まで標準化
この流れを踏むことで、設備稼働率80%超を狙えます。

IoTセンサと予兆保全

電流波形だけでなく、トーチ姿勢角やシールドガス圧を多点監視し、AIで異常傾向を学習させる事例が増えています。
消耗部品の交換タイミングを可視化し、段取り時間を15%削減した工場もあります。

購買目線で見る溶接サプライヤー評価

工程能力と資格保有の確認

JIS Z 3811やISO 9606-1などの溶接技能者資格、WPS/PQRの整合性を監査チェックリストに含めると、客観性が高まります。
工程能力指数は最低でも1.33を要求し、継続的改善計画を提出させることが望ましいです。

コストブレークダウンと交渉ポイント

電力・ガス・ワイヤ・消耗品、人件費、治具償却を分解し、歩留まりと再加工率まで把握します。
特にロボットセルでは稼働率75%と90%では原価が大きく変動します。
投資回収シミュレーションを共有することでWin-Winの価格設定が可能です。

リスク分散と複数ソース化

鉄とアルミの両方を扱えるサプライヤー、レーザとアーク両立セルを持つサプライヤーをバランス良くポートフォリオに入れます。
地政学リスクを考慮し、地域分散も重要です。

事例紹介:溶接法切替で実現したコスト30%低減

・製品:建設機械用ブーム(SS400、板厚6〜12mm)
・従来:半自動アーク溶接+手仕上げ
・改善:ロボットCMT溶接+自動開先加工
・効果:
 溶接スパッタ75%減で後処理工数を2,000h/年削減
 ワイヤ使用量6%減、ガス消費量12%減
 総コスト30%低減、良品率98.5%→99.6%に向上
購買はROI16か月の試算を提示し、経営会議を突破しました。

将来展望:ハイブリッド溶接と金属AM

レーザとアークを同時に用いるハイブリッド溶接は、深溶け込みとギャップ許容度の両立が可能です。
さらに、金属積層造形(WAAM、DED)は「溶接で作る鋳物」ともいえる技術で、試作リードタイムを1/5に短縮できます。
溶接は依然として製造業の基盤であり続ける一方、設計自由度を拡張する方向へ進化しています。

まとめ

溶接接合はコスト・品質・納期を左右する重要工程であり、基礎原理の理解と適切なプロセス選定が欠かせません。
昭和時代に培われた職人技をリスペクトしつつ、ロボット化とデジタルQMSで属人性を減らすことが競争力のカギです。
購買担当者はサプライヤーの工程能力と投資効率を見極め、長期的なパートナーシップを築くことが求められます。
溶接の最適化は現場・設計・品質・購買が一枚岩になることで実現します。
明日からの改善活動に、本記事のエッセンスを役立てていただければ幸いです。

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