投稿日:2025年12月4日

疲労寿命の想定が甘く長期保証が困難になる設計上の盲点

はじめに:疲労寿命の軽視が招く長期保証の落とし穴

製造業において、製品の長期保証は顧客満足度を高め、信頼につながる重要な施策です。

しかし、実際の現場では「疲労寿命(Fatigue Life)」の想定が甘く、その後のトラブルや高額な保証費用の発生、ブランドイメージの損失につながるケースが少なくありません。

本記事では、現場で培った知見をもとに、設計段階の盲点や実際にあった失敗例、さらに根本的な解決策について深く掘り下げていきます。

今後、設計や購買、品質保証に関わる方、バイヤーやサプライヤーの皆様にも役立つ内容となっていますので、ぜひ最後までご覧ください。

疲労寿命とは何か?基本の再確認

「疲労」とは反復的な負荷による劣化現象

疲労寿命とは、部品や材料が繰り返し力を受け続けた結果、初期の設計強度よりも早く破損や亀裂が生じるまでの「耐用期間(または回数)」を指します。

自動車、電気製品、産業用機械など、多くの工業製品は、日々負荷を繰り返し受けながら長期間使われるものです。

したがって、繰り返し応力による「疲労破壊」は、設計上で最も注意すべきリスクの一つとなります。

静的強度だけでは不十分

設計時に誤りがちな点は、「最大荷重」や一時的な衝撃にだけ注目し、長期にわたり繰り返される小さな力の蓄積=疲労劣化を軽視してしまうことです。

静的強度が十分であっても、想定外の振動や微細なストレスが蓄積されることで予期せぬ早期破断を起こします。

これは、現場での多くの品質トラブル事例からも明らかです。

長期保証が困難になる理由と現場のジレンマ

保証期間と設計寿命のズレ

製品保証の期間は年々長くなっています。

家電、自動車、インフラ設備など幅広い製品で、「10年保証」「15年保証」という表現も珍しくありません。

しかし、こうした長期保証を実現するためには、本来設計段階でその数倍もの信頼性余裕を持たせた疲労寿命評価が欠かせません。

実際には、コストや納期、設計リソースの都合で疲労試験やシミュレーションが不十分な場合が多いのが現実です。

アナログな“経験値頼み”が生み出す誤差

昭和から続く多くの製造現場では、「これまで大丈夫だったから」「過去の図面を流用すれば問題ないだろう」といった経験値や勘、暗黙知に頼りがちです。

その結果、設計上は「理論上問題ない」強度でも、実際の使用環境や頻度、想定外の運用によるストレスに対して耐え切れず、保証期間中の想定外故障が頻発する原因になるのです。

調達・購買現場の見積もりと認識のギャップ

現場のバイヤーは、多くの場合コスト低減や納期短縮を第一に求められます。

そのため部品サプライヤーに「図面通りでOK」「素材グレードもコストダウン優先で」と要望することが増えています。

しかし、現場実態を知らないまま原価低減を追求すると、知らぬ間に疲労寿命の信頼性が落ち、長期保証に耐えきれない部品が組み込まれてしまうのです。

なぜ設計で疲労寿命評価を軽視しやすいのか

工数とコストへの過度なプレッシャー

設計・開発のスケジュールはますます厳しくなり、「設計に時間をかけるより、早く量産につなげよ」という圧力が強まっています。

シミュレーションや実機疲労試験は、本来入念な工程が必要ですが、それが端折られてしまう。

特にアナログ的な現場ほど「目検」や「微妙な補強追加」で済ませてしまいがちです。

知見・ツールの更新が追いつかない現状

デジタルCAE(シミュレーション)やIoTセンサー情報の活用も、導入が進んでいる企業は未だ一部です。

かたや紙図面、口伝え、ベテラン一任、属人化の世界も依然根強く残っています。

これが結果的に「昔ながらのやり方で大丈夫」という油断につながりやすいのです。

ユーザー使用環境との乖離

設計側は「想定使用回数」「荷重範囲」をカタログスペックで規定しますが、実際のユーザー現場は多様です。

「振動が思った以上に強い」「温度変化が激しい」「想定しない方向に力がかかる」といったケースが山のようにあります。

現場ヒアリングやフィードバックを抜きに杓子定規で設計すると、保証基準との差異が生じてしまいます。

実際にあった疲労寿命が甘かった“設計トラブル”の事例

事例1:自動車部品 – 溶接部品の早期破壊

ある自動車部品メーカーでは、搬送用フックの疲労強度が甘く、保証期間前の破断が多発。

設計段階では計算上十分な強度を確保したつもりでしたが、「溶接部の応力集中」「実際の使用頻度が想定の3倍以上」などの背景を考慮できていませんでした。

対策として、現場の溶接条件フィードバック、新たな素材グレードの選定、厳密な試作検証を重ね、大幅な設計見直しが必要となりました。

事例2:OA機器のトルク伝達部 – 樹脂ギヤの摩耗と破損

コピー機の内部ギヤで、設計上十分な摩耗寿命を想定しましたが、ユーザー現場では「連続大量コピー」「異物混入による付加応力」が頻発。

樹脂部品の材質劣化や摩耗進行、想定外トルクが重なり、保証期間中の交換対応が急増しました。

サプライヤーとも連携し、耐久試験条件の厳格化と現場データのIoT収集により、根本的な設計強化へと繋げました。

事例3:産業機械のシャフトねじり疲労 – 勘頼みの落とし穴

産業機械メーカーで、長年使われた設計図面を流用したシャフト部品が、7年保証期間の5年目に集中的に折損。

「長年同じ材質・同じ寸法で問題なかったはず」と油断していたが、実は新工程の微妙な加工応力残留やロットブレが起因。

旧態依然の経験値頼みの設計が、実際の現場ストレスを反映できていなかった典型例です。

疲労寿命を正確に評価し、長期保証に耐える設計を実現するためには

1. 現場データを徹底的にフィードバック

設計・品質部門は定期的なユーザーヒアリングおよび、使われ方の実態観測データ(センサーログ含む)をもとに、疲労寿命評価条件を厳しくアップデートするべきです。

これこそが座学や理論値だけでは回避できない“潜在的間違い”の防波堤です。

2. デジタルCAE・IoT/実機試験の融合

最新のCAE(数値解析)や加速度試験、IoTセンサーによる長期耐久実データの併用が、疲労寿命予測の精度を飛躍的に高めます。

コスト・納期上の課題はありますが、信頼性向上は“攻め”の投資です。

特に複数サプライヤーの部品比較や試作段階での徹底検証が重要です。

3. サプライヤーとの連携強化・情報開示

バイヤーや設計担当者は、部品サプライヤーに対して「図面どおり」で済ませず、設計意図や使われ方・試験条件・課題事例をしっかり説明することで、サプライヤーから逆提案や自発的な改善案を引き出しやすくなります。

持たざるバイヤーほど“知ったかぶり”をせず、現場と同じ問題意識を共有しましょう。

4. 経験値に頼りすぎない“設計基準”の刷新

時代や技術が変われば、設計基準もアップデートされるべきです。

「これまで大丈夫」ではなく、「今の技術・実態では何が違うのか」を問い直しましょう。

特にQCサークルやDR(設計レビュー)でのアンチパターン潰しが効果的です。

5. 品質管理部門の積極参画

設計だけでなく品質管理部門が早期からプロジェクトに参画することで、リスクアセスメントと保証に耐える基準設定が可能になります。

現場から得られるクレーム・不良品解析から“疲労寿命起因のトラブル兆候”を早期につかみ、設計改善に即反映させるPDCAが求められます。

アナログ現場が歓迎する“ひと工夫”の設計視点

“デジタルツールなんて使えない”“昔ながらの現場設備しかない”という職場でも、疲労寿命想定力は向上できます。

たとえば、
・「実際に現場で触ってみる」「使われ方を現場で観察する」地道な現場主義
・「ヒヤリハット報告」「ちょっとした不具合記録」のデータベース化
・「なぜこの寸法?」の根拠を徹底して文書化し、引き継ぎチェックリスト化
こうした工夫で設計の「勘と経験の根拠」が明確になり、属人化のリスクが減らせます。

調達・購買、バイヤーにも必要な視点の転換

バイヤーや購買は「安ければ良い」「図面を守ればOK」だけでは通用しません。

自社製品の長期信頼性やブランド価値=自分の交渉力・評価につながるのです。

設計部門と密接に連携し、「疲労寿命リスクの低減」が自社ブランドや顧客満足、将来の取引安定に直結することを認識することが重要です。

サプライヤーへの改善要請や逆提案を歓迎する姿勢も欠かせません。

まとめ:疲労寿命の盲点を突破し、長期保証を競争力に変えよう

製造業の競争力は「長く、安心して使える」製品あってこそです。

疲労寿命の見極めを設計・調達・品質管理・現場一丸で徹底すれば、長期保証の困難は必ず乗り越えられます。

“設計段階の盲点”を抜け出し、現場・顧客・経営の全視点で未来志向のものづくりに踏み出しましょう。

この新しい視点と仕組みこそが、アナログ現場から抜け出して製造業の明日を切り拓く力になるのです。

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