- お役立ち記事
- クラウド購買システムの出口対策——やめる前ではなく選ぶ前に確かめること
クラウド購買システムの出口対策——やめる前ではなく選ぶ前に確かめること

この記事のポイント(結論先出し)
クラウドの購買システムをやめるときに困るかどうかは、契約する前に何を確かめたかでほぼ決まる。やめると決めた後では、取り出せる形も期限も費用も、こちらからは変えられないからである。確かめるのは 3 つ。第一に、自社のデータのうち何を、どの形で、どこまで書き出せるか(マスタ、取引、履歴、添付、発行した帳票、記録、設定)。第二に、契約と開示資料に、解約の受付期限、契約終了時のデータの返却方法・形式・費用、削除の方法と証明、事業者の側がサービスを終える場合の告知の時期が書いてあるか。総務省の情報開示指針は、これらを事業者が開示すべき項目として挙げている[3]。第三に、解約した後も自社に保存義務が残る記録を、システムの外でどう読める状態に保つか。試行の期間中に一度書き出してみるのが、いちばん確かな確認になる。
目次
出口の条件は、入る前にしか交渉できない
購買システムを選ぶ場面で、やめるときの話を持ち出すのは気が引ける。だが解約を決めた後では、データをどの形で出してもらえるか、いつまで出してもらえるか、費用がかかるかは、すでに結んだ契約と事業者の作りで決まっている。こちらに残っている手段は、その範囲で急いで取り出すことだけになる。入る前なら、条件を比べて選ぶことができる。
デジタル庁が政府情報システム向けに定めた基本方針は、データの移行性が担保され、合理的な価格体系が公開され、導入の過程も含めて透明性が担保されているといった条件を満たすクラウドサービスを選ぶことで、事業者による囲い込み(ベンダーロックイン)を避けるよう求めている[1]。政府の調達に向けた方針だが、移行性を「選ぶ時点の条件」として置いている点は、民間の購買システムの選定にもそのまま使える。
この記事は、いま使っているクラウドの購買システムから出ていく側の準備を扱う。新しいシステムへ何を移し何を旧システムに残すかという入る側の判断は受発注システムへのデータ移行で、書き出したデータを会計や生産管理のシステムに入れるつなぎ方は他のシステムとのつなぎ方の記事で扱う。
📄 実務で使うなら — 発注の出し方と電子化(全 5 章・無料サンプルあり)
「自社のデータ」が何かを、先に数えておく
クラウドのサービスでは、データの責任の分かれ目を最初に確かめておく必要がある。総務省のガイドラインは、SaaS を利用する側は、アプリケーションを利用するためのデータやアプリケーション上で生成したデータの管理(編集・削除などの行為)をする権限と責任を持つと整理している[2]。購買システムに入れた品目や取引先、出した発注は、事業者ではなく自社が責任を持つデータである。
同じガイドラインは事業者に向けて、利用者がサービスの利用を終えて他のクラウドサービスへ乗り換えることを想定し、預かった情報を他のクラウドサービスに引き継ぐか否かについてあらかじめ利用者と合意して文書にするよう求めている[2]。そのうえで、返却・除去・引き継ぎの対象となる利用者の情報資産をあらかじめ特定して合意すること、引き継ぐ情報の真正性を確認する方法や引き継ぎの方法、そのときの事業者の責任を合意しておくことを、望ましい実施例として挙げている[2]。事業者向けの指針なので、すべての事業者がこの合意を用意しているとは限らない。用意がなければ、利用する側から聞いて確かめることになる。
聞くためには、何が自社のデータかを先に並べておく必要がある。購買システムに溜まるものは、取引の明細だけではない。次の表は、出ていくときに要るものを種類ごとに並べたものである。
| 種類 | 中身の例 | 欲しい形 | 契約前に確かめること |
|---|---|---|---|
| マスタ | 品目、取引先、取引先ごとの単価、単位 | 表形式(CSV など)。コードと名称の両方 | 取引先のマスタも書き出せるか。単価が品目単位か取引先単位か |
| 取引 | 見積依頼と回答、発注、納品、検収 | 見出しと明細の行。日付・状態・番号つき | 発注と検収、見積と発注をつなぐ番号が残るか |
| 履歴 | 数量・単価・納期の変更、承認の記録 | 誰が・いつ・何から何へ、の一覧 | 本体と別に履歴だけを出せるか。範囲は全期間か |
| 添付 | 図面、見積書の原本、仕様書 | 元のファイルのまま | 一括で取り出せるか。どの取引の添付か分かる名前で出るか |
| 発行した帳票 | 注文書、検収書、支払通知書 | 発行した時点の PDF | 作り直しではなく、発行した版そのものを出せるか |
| 記録 | ログイン、操作、メールの送信 | 期間を指定した一覧 | 事業者が何か月分を持っているか |
| 設定 | 承認ルール、権限、番号の付け方 | 文書か画面の写し | 書き出せない前提で、自社で文書にしておく |
7 つの種類のうち、どのシステムでも書き出しやすいのはマスタと取引である。落ちやすいのは、履歴と添付と発行した帳票の 3 つで、ここが出せないと過去の取引について「その時点で何を約束したか」を後から示せなくなる。設定はそもそも書き出す対象になっていないことが多い。承認ルールや権限の組み方は、使っているあいだに自社の文書として残しておくほうが確実である。
書き出せる「形」と「範囲」を、現物で確かめる
「CSV で出せます」という回答は、確認の入口にすぎない。同じ CSV でも、中身によって使い道がまったく違う。取引先の欄に名称しか入っていなければ、名前の表記が途中で変わった取引先を後から同じ相手として束ねられない。明細の行に発注番号がなければ、見出しと明細を組み直せない。状態が「完了」などの表示名で出るのか、内部の値で出るのかも、次の器に入れるときに効いてくる。
範囲も確かめる。画面の一覧からの書き出しは、画面に出ている条件の分しか出ないことがある。過去の全期間を一度に出せるのか、期間を区切って何度も出す必要があるのか。整理のために一覧から外した(アーカイブした)取引も含まれるのか。取引先が自社宛てに作ったデータ、たとえば取引先の側で起票した注文や回答が、自社の書き出しに含まれるのか。これらは説明を聞くより、実際に出してみたほうが早い。
形の確認には、税務の側からも理由がある。国税庁の電子帳簿保存法の一問一答は、取引のデータが XML 形式のような文字の羅列で保存されていても、日付・金額などの項目ごとに並べた一覧表の形で表示するなどにより視覚的に確認・出力できるものは要件を満たすとしている[5]。裏返せば、書き出したデータを自社で一覧として表示し出力できる状態にしておかなければならない。生のデータを受け取っただけで読む手段がなければ、保存したことにならないおそれがある。同じ一問一答は、クラウドサービスを使う場合や海外のサーバに置く場合でも、保存場所で速やかに画面と書面に出力できるときは保存場所に保存されているものとして扱うとしている[5]。解約した後は、その「速やかに出力できる」状態を自社の手元で作り直すことになる。システムを入れ替えるときの改ざん防止や検索機能の扱いは発注の記録を 2 年どう残すかで整理しているので、ここでは繰り返さない。
確かめる時期として最も確実なのは、試しに使う期間である。試行の期間中に、実際の取引を数件入れ、それを全部書き出し、別の表計算ソフトで開いて、見出しと明細と添付が元の取引に組み直せるかを見る。半日あれば足りる。試行の組み立て方は購買システムの試行の記事で扱う。
契約と開示資料で、6 つの項目を見る
クラウドの事業者がどこまで情報を出すべきかについては、総務省が情報開示の指針を示している。ASP・SaaS 編の第 3 版は、開示が必須の項目として、サービスの変更・終了時等の事前告知(利用者への告知時期と告知方法)、サービスの変更・終了後の対応・代替措置、契約の終了時等の情報の返却・削除・廃棄、料金体系(最低利用契約期間を含む)、解約時の違約金の有無、利用者からの解約の事前受付期限を挙げている[3]。出ていく側が確かめる順に並べ直すと次のようになる。4 番目だけは指針の項目ではなく、返却の方法とあわせて聞いておきたいものとして足した。変更・終了後の対応・代替措置は次の節で扱う。
1. 解約の受付期限。
何日前、何か月前までに申し出る必要があるか。期限を過ぎると次の契約期間に入り、取り出しの準備をしながら利用料を払い続けることになる。
2. 最低利用契約期間と違約金。
年単位の契約を途中でやめると違約金がかかるか、かかるならいくらか。乗り換えの時期をここで決めることになる。
3. 契約終了時のデータの返却。
指針は、契約終了時等の利用者データの返却責任の有無と、返還の方法・ファイル形式・費用等を開示項目に挙げている[3]。自分で書き出す方式なのか、事業者がまとめて渡す方式なのか。渡してもらう場合は有料か。
4. 解約した後、いつまで取り出せるか。
解約日に即時に閉じるのか、一定の猶予期間に読み出しだけできるのか。猶予がないなら、解約日の前に取り出しを終える段取りが要る。
5. 削除の方法と証明。
指針は、情報の削除又は廃棄の方法の開示の可否と、削除又は廃棄したことの証明書等の提供も開示項目に挙げている[3]。バックアップに残ったデータがいつ消えるかも聞いておく。総務省のガイドラインは、事業者が利用者に示すバックアップ機能の仕様にバックアップデータの保持期間を含めることを、望ましい実施例として挙げている[2]。
6. 事業者の側がサービスを終える場合の告知。
指針は、告知の時期を 1 か月前、3 か月前、6 か月前、12 か月前といった単位で開示するよう求めている[3]。購買システムの乗り換えには、選定から取引先への周知まで数か月かかる。告知が 1 か月前では間に合わない。
開示資料に書いていない項目は、契約書か利用規約で探し、それでも見つからなければ書面で質問して回答を残す。口頭の「大丈夫です」は、事業者の担当者が替われば残らない。事業者の安全対策や第三者認証の読み方はクラウドサービスの安全性を選ぶ前に確かめる記事で扱う。
事業者の側が先にやめることもある
出口は、自社がやめると決めたときだけの話ではない。事業者が事業を譲ったり、サービスを終えたりすれば、こちらの都合と関係なく出ていくことになる。上の 6 番目の項目と、変更・終了後の対応・代替措置の基本方針の有無[3]は、この場面のための確認である。
この場面に備えるいちばん確かな手段は、日頃から手元に控えを持っておくことである。IPA の中小企業向けのクラウドサービスの手引きは、サービスの停止やデータの消失・改ざんなどに備えて重要な情報を手元に確保しているかを確認ポイントに挙げ、社内のストレージへのバックアップや複数世代の取得を例に示している[4]。同じ手引きは、利用終了時のデータの取扱い条件を確かめることも別の確認ポイントにしている[4]。手引きの項目を使った確認の全体はクラウドか自社で持つかの記事でも紹介している。購買システムでは、月に一度、マスタと当月の取引と添付を書き出して社内に置く、といった決めごとにしておけば、事業者の側に何かあっても失うのは最大で 1 か月分になる。
解約しても、自社の保存義務は残る
システムをやめても、そこで作った記録を保存する義務は自社に残る。取適法の取引記録、税務の帳簿書類にはそれぞれ保存期間があり、システムの契約期間とは関係なく続く。期間と数え始めはデータ移行の記事に表でまとめているので、ここでは、出ていくときに起きる取り違えを 2 つだけ挙げる。
1 つ目は、「保存期間が過ぎたものは持ち出さなくてよい」と考えて範囲を狭めることである。保存期間の起算点は取引ごとに違い、最近まで追記していた取引は期間がまだ残っている。期間で切って持ち出すなら、取引ごとに最後に記録した日を見て判断する必要がある。迷うなら全期間を持ち出すほうが安い。
2 つ目は、取引先の担当者の個人情報の扱いである。購買システムには取引先の担当者の氏名や連絡先が入っている。個人情報保護委員会のガイドラインは、個人データを利用する必要がなくなったときは遅滞なく消去するよう努めなければならないとする一方で、法令の定めにより保存期間等が定められている場合はこの限りではないとしている[6]。持ち出した後、事業者の側に残ったデータの削除を求めるのは理にかなうが、持ち出したデータのうち取引の記録として保存しなければならないものまで消してはいけない。事業者に個人データを預けるときの委託や監督の考え方は取引先の情報をクラウドに預けるときの記事で扱う。
やめるときの手順を、契約の前に書いておく
ここまでの確認を、実際に解約するときの段取りに並べると次のようになる。契約の前にこの段取りを 1 枚に書き、各段で事業者の協力が要るところに印を付けておくと、選定の比較表にそのまま使える。
段取り 1:解約の受付期限から逆算して、乗り換えの開始日を決める。
次のシステムの選定と試行、取引先への周知の期間を見込む。
段取り 2:全種類のデータを書き出し、件数と合計で突き合わせる。
画面上の件数・金額の合計と、書き出したデータの件数・合計が一致するかを見る。
段取り 3:書き出したデータを、自社の手元で一覧として表示・出力できることを確かめる。
保存の義務を果たせる状態かどうかの確認である。
段取り 4:取引先に切り替えを知らせる。
取引先にアカウントを持たせていた場合は、いつから使えなくなるかと、取引先の側で控えを取り出しておく期限も伝える。取引先にも保存の手間がかかることはサプライヤーポータルは要るかで触れている。
段取り 5:社内の利用者のアカウントを止め、管理者のアカウントだけを最後まで残す。
取り出しの漏れに気づいたとき、管理者が入れないと手の打ちようがない。アカウントの止め方は購買システムのアカウント管理の記事で扱う。
段取り 6:解約し、事業者の側のデータとバックアップの削除を求め、削除の証明を受け取る。
証明が出ないなら、出ないという回答を書面で残す。
よくある質問
まだ導入もしていないのに、解約の条件を聞くと事業者に警戒されませんか
開示が必須とされている項目を確かめるだけなので、聞くこと自体はおかしくありません。むしろ答えに時間がかかる事業者や、書面で答えない事業者は、入った後の問い合わせにも同じ対応をする可能性があります。比較の材料として扱ってください。
書き出しは CSV で十分ですか
取引の明細やマスタは CSV で十分なことが多いです。足りないのは、添付ファイル、発行した帳票の PDF、変更の履歴です。この 3 つは CSV の書き出しとは別の手段が要ることが多いので、個別に確かめてください。
試行の期間中に、そこまで確かめる余裕がありません
数件入れる余裕が無ければ、実際の取引を 1 件だけでも入れて、添付と履歴まで含めて全部書き出してみてください。1 件で足りない形は、1 万件でも足りません。
事業者がまとめてデータを渡してくれるなら、自分で書き出す機能は要りませんか
渡してもらえるのが契約終了時だけなら、事業者の側に何かあったときに備えられません。普段から自分で書き出せる機能があるかどうかは、それとは別に確かめておくべきです。
解約した後も、旧システムを読み出し専用で残せますか
事業者によります。読み出しだけの安価な契約を用意している事業者もあれば、解約日で閉じる事業者もあります。契約前に聞いておき、用意がなければ、自社の手元で読める形に変えてから解約する段取りにします。
まとめ
クラウドの購買システムから困らずに出ていけるかどうかは、選ぶ前の確認で決まる。まず、自社のデータをマスタ、取引、履歴、添付、発行した帳票、記録、設定の 7 種類に並べ、それぞれをどの形でどこまで書き出せるかを現物で確かめる。次に、解約の受付期限、最低利用契約期間と違約金、契約終了時の返却の方法・形式・費用、解約後に取り出せる期間、削除の方法と証明、事業者の側が終える場合の告知の時期を、開示資料と契約書で確かめる。そして、解約しても自社の保存義務は残るので、書き出したデータを手元で一覧として表示・出力できる状態に整え、普段から定期的に控えを持っておく。試行の期間中に一度書き出してみることが、どの確認よりも確かである。
出典・参考資料
- デジタル社会推進標準ガイドライン DS-310 政府情報システムにおけるクラウドサービスの適切な利用に係る基本方針(デジタル社会推進会議幹事会決定/2025 年 5 月 27 日)
- クラウドサービス提供における情報セキュリティ対策ガイドライン(第3版)(総務省/2021 年 9 月)
- ASP・SaaSの安全・信頼性に係る情報開示指針(ASP・SaaS編)第3版(総務省/令和 4 年 10 月)
- 中小企業のためのクラウドサービス安全利用の手引き(独立行政法人情報処理推進機構 セキュリティセンター/2026 年 6 月)
- 電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】(国税庁/令和 7 年 6 月)
- 個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン(通則編)(個人情報保護委員会/平成 28 年 11 月・令和 8 年 6 月一部改正)
取引のデータを、いつでも CSV で手元に
Newji one は、製造業の見積依頼から発注までを扱う見積・発注クラウドです。この記事の項目のうち、マスタと取引の書き出しに対応しています。発注・受注の明細(番号・状態・相手先・日付・品目・数量・単価・金額など)、品目の一覧、在庫の一覧、見積の一覧、見積依頼ごとの回答の比較表、単価改定ごとの明細を、利用者が自分の画面から CSV で書き出せます。
この記事の理解を深める
無料ホワイトペーパーをプレゼント
製造業の現場で使える実務資料(PDF)を無料でお届けします。"こんな資料が届きます" ↓ 下のボタンからどうぞ。
FREE DOCUMENT — サービス資料(PDF・無料)
見積依頼から比較まで、
ひとつの画面にまとめる方法
Newji one は、製造業の調達・受発注に特化したクラウド/AIエージェント。見積依頼・発注書作成・進捗管理・承認をひとつの画面に集約し、AIが比較と異常検知を担当。最後の「GO」だけ人が押す仕組みです。
▶ 見積依頼から比較までをひとつの画面にまとめる方法を、資料で見る(PDF・無料)
- 見積〜発注〜納期を一元管理。催促・転記のムダをゼロに
- AIが相見積もり比較と異常検知。あなたは判断だけに集中
- 取引先は「招待」で完全無料。自社コストだけで取引先ごとデジタル化
※ 取引先から招待された企業様は完全無料でご利用いただけます
見積・発注クラウド Newji one
受発注が増えるほど、入力・確認・催促が重くなる。
受発注管理を“仕組み化“して、ミスと工数を削減しませんか。
見積・発注・納期まで一元管理できます。
