投稿日:2025年10月16日

お菓子の袋がきれいに閉じるヒートシール温度とフィルム張力制御

はじめに:お菓子の袋の品質は誰が守るのか

お菓子の袋を手にしたとき、その封がきれいに閉じられているかどうかを気にしたことはありますか。
私たちがスーパーやコンビニで購入するお菓子の多くは、ぴったり密閉され、開封するまで内容物の鮮度や香りがしっかりと守られています。
その裏側には、工場の自動包装ラインで働く現場スタッフや、機械を操る技術者たちのこだわり、そして高度なヒートシール技術とフィルム制御のノウハウがあります。

本記事では、20年以上の現場経験をもとに、お菓子の袋がきれいに閉じるために不可欠な「ヒートシール温度」と「フィルム張力制御」の考え方を、わかりやすく解説します。
購買担当者や将来のバイヤーを目指す方、サプライヤーとして顧客(バイヤー)がどんな品質管理を求めているか知りたい方にも役立つ現場目線でまとめました。
製造現場での悩みどころや、昭和から続く伝統的な改善意識、“デジタル化だけでは解決できない現実”も織り交ぜています。

ヒートシール技術の本質:単なる温度管理ではない

現場のあるある:溶けすぎてもダメ、加熱不足でもダメ

お菓子の袋をヒートシールで閉じる工程は、見た目以上に繊細です。
シール部分を加熱することでフィルム材を部分的に溶着させますが、温度が高すぎれば袋が変形したり、内容物が加熱されて品質劣化につながります。
逆に温度が低すぎると、密封不良やピンホール(微小な穴)が発生し、結果として消費期限内に品質が保てなくなります。

現場では「ちょうどいい温度」を探す“調整地獄”に何度も直面します。
特に納入品のフィルムが変わるたびに条件出しが必要で、昔ながらの「経験と勘」がものをいう部分も残っています。

ヒートシール温度の最適化プロセス

では、どのように最適なヒートシール温度を決定しているのでしょうか。
基本はフィルムメーカーから提供されるデータシートに記載された溶着温度範囲を参考にスタートします。
しかし実際の生産ラインでは、以下の要素が複雑に絡み合います。

  • 袋のサイズや形状(熱容量、密度)
  • フィルムの構成や厚み(多層ラミネートか、単層か)
  • 充填内容物の温度や状態(水分、油分、粉体、チョコ掛けなど)
  • シール機の加熱方式(固定バー、回転ローラー、インパルスヒーター)
  • ライン速度(シール圧力とのバランス)

最適なヒートシール温度は、こうしたパラメータの“掛け算の落としどころ”を探ることで導き出されます。
現場ではテストパッキングを繰り返し、「シール強度」「外観」「内容物のダメージ」を慎重に評価します。
定性的な臭気・触感チェックも欠かせません。

失敗例:市場クレームにつながるヒートシール不良

温度設定が不適切だと、

  • 袋の口が隙間なく閉じていない→異物混入、鮮度劣化
  • 封が開きやすい→消費期限内に袋が開封される
  • 外装と一緒に内容物(お菓子本体)が溶けてくっつく

といった市場トラブルにつながります。
一見微妙な不良も、全国流通して初めて顕在化するのが食品包装ラインの難しさです。

フィルム張力制御がヒートシール品質を左右する理由

なぜ“張力”が大事なのか

ヒートシール温度と並ぶ要重要素が「フィルム張力(テンション)制御」です。
工場の自動包装機は、1分間に数十袋〜数百袋を高速生産します。
この時、ロール状に巻かれたフィルムを巻き出し、成形・充填・シールと連続工程を経ます。

このときフィルムの“たるみ”や“引っ張り過ぎ”があれば、ピンと張れずにシール部にシワが生じたり、フィルム自体が引き延ばされて薄くなりヒートシール不良の原因となります。

張力制御にまつわる現場の知恵

昭和の工場では「張力センサーなどハイテクはないから、人が手でフィルムのタッチ感を確かめて調整する」のが定番でした。
しかし現代は、自動張力制御装置や、エアシリンダー/サーボモーター駆動によるテンションコントロールが当たり前になりつつあります。

実際には

  • フィルムロールが残り少なくなる(径が小さくなる)と急激に張力が強くなる
  • 包装機の立ち上げ直後に伸びしろの差が出る
  • 湿度や温度でフィルム自体の特性が変わる

など、設備だけでは乗り切れない変動要因が多数存在します。

細やかな張力制御ができるかどうかは

  • フィルム供給元(サプライヤー)からの品質情報
  • 購買・現場間の情報共有
  • ちょっとしたトラブルへの現場対応力

が鍵を握ります。

サプライヤーが知っておきたいバイヤー視点の品質要求

ヒートシール品質はコスト最適化とトレードオフ

メーカーの購買担当者(バイヤー)がフィルムサプライヤーに求めるものは、単なる価格競争力ではありません。
「現場で求めるヒートシールの適正温度範囲が狭い」「少しの張力変動ですぐに不良が出る」といった問題は、材料の選定コストダウンと品質維持のジレンマそのものです。

したがって

  • 「シール適温の幅が広い(いろいろな生産ラインでも使える)」
  • 「多少ラフな張力管理でもシール強度や外観が安定する」
  • 「原材料ロット間のバラつきが極小」

という特性は非常に高く評価されます。

現場改善の“ちょっと先”を提案する意識

サプライヤーが「購買・現場が何を困っているか」を知ることが、選定される決定的要因となることも多いです。
「温度や張力の調整が微妙すぎて困る」「班ごとに不良率が違う」「設備投資を増やせない」という現場の声を吸い上げ、改良仕様や使い勝手情報まで提供できれば、数値的な性能以上に信頼されます。

また、最近はSDGsへの対応、環境配慮型フィルムや省エネ包装も重視されていますが、やみくもな新素材導入は、かえって現場負荷を増やすリスクもあります。
実践レベルで“今できる改善”から積み重ねることが肝要です。

ヒートシール・張力制御の最新動向とアナログ現場の共存

IoT、AI活用はどこまで進んでいるのか

包装機のシール品質管理は、徐々にIoT(遠隔監視)、AI(異常検知)、自動学習による条件最適化が進みつつあります。
しかし、多くの中小〜大手工場では、まだまだ「目視・手作業で現物検証」や、ベテランの職人技が品質を支えるケースが根強く残っています。

自動計測・フィードバックの精度が上がっても、「毎日違うパートスタッフが入る」「突然フィルムメーカーが変わる」といった突発的な変動要因は、人の判断力に頼らざるを得ないのです。

“ラテラルシンキング”で開く新たな地平線

多くの現場では「ヒートシール温度」や「張力設定」に正解を求めがちです。
しかし、本質は

  • 資材のサプライチェーン全体で“変動許容性”を高める
  • 人・設備・材料が相互コミュニケーションできる仕組みを作る
  • 現場改善の知恵を“暗黙知”のままにせず可視化する

ことにあります。

たとえば、AIで過去の不良傾向と可能性原因を点検する。
ライン停止時の現場スタッフのひと声や班ノート情報をデジタル化する。
フィルムメーカー・包装機メーカー・現場が目標値を共有し、定性的なラインコンディション評価まで取り込んだ改善プロジェクトを立ち上げる。

現場の声や経験、サプライヤーの材料展開、購買の経営視点——それぞれが「全体最適」「変化対応」を意識して結ぶことが、次世代の製造現場づくりを加速するのです。

まとめ:優れたヒートシール・張力制御は現場力の証

お菓子袋のヒートシール温度とフィルム張力制御は、単なる“数値の合わせこみ”や“設備の自動化”だけではありません。
購買・現場・サプライヤーが「品質はどこで作りこまれているのか」をよく理解し、現場目線の課題発見と改善を地道に積み重ねてこそ、高品質な製品供給が実現します。

昭和の現場力と令和のデジタル技術——両者の良いところをミックスし、今日もお菓子の美味しさと安心を、全国に届けていきましょう。

製造業に携わる皆さんが、日々の現場改善やバイヤー・サプライヤー間の良好なコミュニケーションのきっかけを得て、未来の新しい地平線を共に切り拓いていくことを願っています。

You cannot copy content of this page