投稿日:2025年12月15日

購買担当の属人化が退職と同時に崩壊を招く現象

はじめに-製造業の現場を支える調達購買の役割

製造業の現場では、高品質な製品を安定的に供給するために、部品や資材を安定して調達する購買担当者の存在は欠かせません。

購買担当は、社内外のさまざまな調整を行いながらコストと品質、納期を同時にバランスさせるプロフェッショナルです。

しかし、日本の多くの工場やメーカーでは、今なお昭和時代から続く「アナログ的な属人化」に根強く依存しがちです。

この属人化、すなわち特定の担当者の経験や知識、人脈に頼る状態は、いざ担当者が退職・異動すると大きな崩壊を招くことがあります。

本記事では、購買担当者の属人化がもたらすリスクと、現場目線による解決策、そして今後の購買業務の在り方について、20年以上の現場経験を踏まえて詳しく解説します。

属人化とは何か?購買担当にありがちな実態

個人任せの業務進行が当たり前になっていないか

属人化とは、ある業務や知識、意思決定が特定の個人のスキルや経験、暗黙知に強く依存した状態です。

製造業の購買担当では、以下のような状況が頻繁に見られます。

・取引先サプライヤーの選定理由や交渉履歴が担当者だけの頭の中にある
・仕様変更やイレギュラーの対応方法を担当者が自分だけのやり方で進めている
・見積もり依頼や価格交渉の進め方・情報共有が属人化し、他者が把握しづらい

つまり、業務プロセスが明文化・標準化されておらず、「○○さんしかわからない」「○○さんに聞かないと進まない」状態に陥っています。

特に長年同じポジションを務めたベテラン社員ほど、この傾向は強くなりがちです。

なぜ属人化が進むのか

属人化が進む背景には、製造業ならではの事情が色濃くあります。

・現場には独自の勘・経験則が重視されがち
・システム化やマニュアル整備よりも「現場最適」「目の前の対応」優先
・同じバイヤーが10年、20年と異動なしで従事する
・IT導入や業務改革が「コスト」「手間」と捉えられやすい
・引き継ぎ文化が弱く「見て覚えろ」的なOJTが続く

これらの要素が重なり、業界全体として質の高い標準業務プロセスの定着が遅れ、属人化から抜け出せなくなっている現状があります。

属人化が生む危険性と崩壊の実態

“あの人がいなければ業務停止”の現実

属人化した購買業務でよく見られる崩壊パターンは、担当者が突然退職・異動した場合の「業務のブラックボックス化」です。

・交渉中だった案件が宙に浮く
・サプライヤーとの“阿吽の呼吸”が途切れてトラブル多発
・内示や注文、納期管理の仕組み・スケジュールが分からない
・過去のトラブルや品質問題の経緯・妥協点が伝わらない
・新担当がゼロから関係作りをやり直し、生産ラインが止まる

現場では、想定外の納期遅れや品質不良、調達コストの高騰など、深刻な問題が生じるリスクが一気に高まります。

特に“都市伝説”のように語られるのは、「あの人が辞めてしまい、部品の手配方法が誰も知らず、十数年の取引先までも失った」など、業績や信頼失墜まで及ぶケースです。

サプライヤー視点:「パートナー」としての関係値も分断される

バイヤーの属人化の弊害は、サプライヤー側にも直撃します。

長年の担当者との積み重ねや意思疎通、暗黙の暗合が突然リセットされ、新参担当者が何もわからず“横柄”な交渉や手戻りを頻発する――このような取りこぼしは、サプライヤーからの信頼喪失や優先順位低下につながります。

場合によっては、価格優遇・納期短縮などの「過去の恩恵」すら失われかねません。

このようなサプライネットワークの連鎖的断絶が、工場運営にとって深刻な痛手となります。

昭和的アナログ体質とその弊害—“変わらぬ日常”の落とし穴

変化する市場と取り残される現場

AI・RPA・デジタルシフトが進む昨今、グローバルなサプライチェーン競争では「データドリブン」「業務の見える化」「BCP(事業継続計画)」の体制強化が叫ばれています。

しかし、いまだ多くの現場では、
・紙の伝票、手書きの依頼書
・ホワイトボード管理、個人PCのローカル保存データ
・電話・FAX中心の情報共有
といった「昭和的アナログ手法」に頼り続けています。

安定稼働を重視する“現状維持バイアス”が、属人化の温床となります。

“現場の職人技”という幻想

確かに、百戦錬磨の人脈・勘によって救われたことも多いでしょう。

しかし、そのノウハウを活かすには属人化ではなく、デジタルツールやチームでの知識共有が必要です。

また、外的変化(コロナ禍、災害、突然のサプライチェーン断絶)のリスクは、属人化を容赦なく破綻させます。

いつまでも「なんとかなる」と慢心していては、ビジネスの存続すら危うくなります。

属人化を打破し、強い購買組織を築くポイント

1.業務の可視化とマニュアル化

まず、調達購買の工程ごとに担当者のノウハウ・要点・過去経緯を“棚卸し”して可視化することを徹底します。

・日々のオペレーション(見積もり、発注、納期管理)のフロー図やチェックリスト化
・異常事態(クレーム、納入遅延)の対応パターンを事例で残す
・交渉や仕様変更などの背景や判断理由もなるべく文章化

これらをマニュアルとしてまとめ、チーム全体で更新・共有する仕組みが必要です。

2.データベースとナレッジ共有、DX推進

Excelファイルや紙から脱却し、クラウド型のサプライヤー管理システムや調達支援ツールを積極活用しましょう。

・見積書や交渉履歴の一元データベース化
・「誰でも検索」「誰でも参照」できる環境づくり
・TeamsやSlackなどチーム型コミュニケーションツールで情報集約

これにより、個人の頭の中に埋もれていた現場知が「組織知」に転化されます。

3.定期的な引き継ぎ・ジョブローテーション

一人の担当に任せ切りではなく、ペア制やジョブローテーションで業務を経験的に分散します。

また、半年・一年ごとに「もしも○○さんに何かあった場合」を想定した引き継ぎ訓練(業務棚卸し・抜き打ちシナリオ)を実施することが、現場体質改善につながります。

4.社内コミュニケーションの活性化

独りよがりな購買でなく、品質管理や生産管理といった関連部門との壁をなくし、定期的なミーティングや問題点の共有を行うことが重要です。

これによって関連リスクの早期発見や、現状の属人化箇所の見直しも進めやすくなります。

バイヤー志望者とサプライヤーへの示唆

バイヤーを目指す方へ

これから購買・調達のプロを志すなら、「個人技」だけでなく、いかに組織力・ナレッジの仕組み化で全体最適を図れるかが重要です。

「自分だけができる仕事」から「誰でも対応できる仕組みづくり」をめざすことで、長期的にキャリア価値も高まります。

サプライヤーの立場からバイヤーの内情を知る

サプライヤー側もバイヤーの属人化に依存せず、複数担当者との関係構築・情報共有、日々のやり取り履歴の整理・双方での可視化を推進しましょう。

バイヤー担当が変わっても継続性が保ちやすい、「会社対会社」としてのパートナーシップを意識することが差別化要因にもなります。

まとめ-属人化を超えて、強い製造業組織へ

購買担当の属人化は、現場の安定運用を支えてきた一方で、時代の変化とともに大きなリスク・業績崩壊を生み出す元凶にもなっています。

本質的な現場改革には、業務の見える化・デジタルシフト・知識共有化・チーム型運用が不可欠です。

昭和の成功体験に執着せず、「誰が担当でも強い調達購買」の実現をめざすことで、次の時代の製造業の発展につながります。

あなたが購買を担当されているなら、ぜひ日々の小さな棚卸しから「脱・属人化」への一歩を踏み出してみてください。

業界の未来を変えるのは、現場一人ひとりの変革意識です。

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