投稿日:2025年10月27日

地域産品を全国百貨店・セレクトショップに展開するための営業術

はじめに

現在、日本各地で独自に生産される地域産品が注目を浴びています。
しかし、どれほど高品質でユニークな商材であっても、「売れる場」を確保しなければ市場拡大は困難です。
とりわけ、全国の百貨店やセレクトショップは流通の大きなハブとして有望ですが、そこで採用されるための営業は簡単ではありません。
本記事では、実際の現場目線で、地域産品を全国百貨店・セレクトショップへ展開するための実践的営業術について、業界の長年の慣習や最新動向も交えながら解説します。

地域産品が直面する「販路拡大」の壁

1. 商品力だけでは売れない現実

多くの地域産品メーカーは、自社の商品力に自信を持っています。
しかし販路拡大を目指す際、商品そのものの力だけでは限界があります。
そもそも百貨店・セレクトショップのバイヤーは、年間何百件と提案を受けます。
どれほど良い品でも「埋もれる」「差別化できない」「流通リスクを懸念される」といった理由で、採用を見送られる事例も少なくありません。

2. アナログから抜け出せない業界慣習

今もなお、地域産品の営業現場ではFAXや電話を主な連絡手段とし、対面重視の文化が根強く残っています。
また「顔が見える関係」や「既存取引の優先」といった昭和的な慣習も続いており、新規参入者やITを活用した提案は敬遠されがちです。
逆に言えば、その“人と人の信頼関係”をどう築くかが鍵となります。

3. 選ばれる基準は「物語」と「売り方」

バイヤーは単なる商品力だけでなく、その背景にある「物語性」や「他にはない提案力」に心を動かされます。
地域資源、職人技の継承、地域の課題解決といった「売る理由」が明確だと、バイヤーも消費者への提案力を持ちやすくなります。

百貨店・セレクトショップのバイヤーが求めるもの

1. 売場で映える「差別化されたストーリー」

百貨店・セレクトショップは「体験」や「発見」「出会い」を重視します。
商品の生産過程、歴史、作り手の情熱など、消費者が手に取った際の“ストーリー性”が購入動機に直結します。

2. 継続供給できる生産体制

一過性の話題商品ではなく、安定して供給できる体制を持つかどうかも重要視されます。
発注ロットへの柔軟対応、小ロットからのスケールアップ体制、納期厳守など、供給力への信頼も大きな判断材料です。

3. 店頭プロモーション提案力

売り場展開方法(ディスプレイ提案)、POPやスタッフ教育など、バイヤーと店頭担当者の負担を減らす支援策があると評価されます。
SNSへの発信やインフルエンサー活用、地域イベント連携など、多面的な販促提案も好まれます。

営業現場で成果を出すための実践的ポイント

1. 「知られる前」が8割~徹底した情報提供~

バイヤーは初見のブランドには慎重です。
まずはカタログ、試供品、実績事例、メディア掲載など“第三者の評価”を十分に用意し、商品に対する「信頼」を構築します。
どのような顧客が、どのように使っているのか明示すると、イメージを具体化できます。

2. 事前リサーチと売場への深い理解

各店舗の売り場構成、ターゲット客層、力を入れているカテゴリー、市場トレンドを丹念に調査しましょう。
そのうえで「この売場のこの棚なら、こう並べたら売れる」といった具体案を持参する姿勢が、好印象と信頼につながります。

3. 「とっておきのサンプル」で体験させる

サンプルを単に渡すだけではなく、バイヤーや売場スタッフに実際に体験してもらう工夫が重要です。
試食、試用の際のプレゼンやストーリーの語り方を準備し、特別感・希少性を演出します。

4. 価格・条件交渉では「現場目線」を

価格や取引条件の交渉時は、「双方が納得できる・継続できる」点を大切にします。
特に、物流コストや欠品リスクなど、現場でありがちなトラブル回避策や対応体制も説明することで、担当者の安心感を引き出します。

5. 導入後のアフターフォローを徹底する

一度採用が決まっても、それで終わりではありません。
売上の進捗の共有や売場の状況確認、必要に応じた販促やリニューアル提案を定期的に行い、信頼関係を深めましょう。
百貨店・セレクトショップは「長期的な取引」を重視する傾向が強いため、アフターケアも重要な営業力の一部です。

「買い手」と「売り手」の発想転換が未来を拓く

1. バイヤーを「選別者」から「共創者」へ

これまでの調達現場は、バイヤーが一方的に「選ぶ」立場でした。
しかし現在は、売場企画や新商品開発を共に担う「共創型」の関係が求められています。
たとえば、地域産品のパッケージデザインを売場担当者と共同でリデザインする、地域限定商品を企画するなど、ノウハウの相互補完が成果を生みます。

2. サプライヤーも「受注待ち」から「提案型」へ

従来の営業姿勢は、どうしても「買ってくれるのを待つ」受身体質に陥りがちでした。
これからは、市場の課題やニーズを自ら発掘し、「こうしたら売れる」「こう変えれば広まる」といった提案型営業が欠かせません。
また、売場での接点拡大や新たな売り方(サブスクリプション、体験型販売など)も積極的に提示できると、売場担当者の信頼を集めやすくなります。

デジタル時代に求められる営業ツールの活用

1. オンライン商談・デジタルカタログの力

コロナ禍以降、オンラインでの商談や展示会、デジタルカタログの活用が急速に普及しました。
これにより遠隔地への提案や取引先担当者の多忙対応など、効率的な営業活動が可能となっています。
ただし現場との信頼構築はオンラインだけでは不十分な場合も多いので、デジタルとアナログの「ハイブリッド型営業」を意識することが重要です。

2. SNS・メディア露出によるブランド価値向上

バイヤーや最終消費者への“浸透力”を高めるため、公的メディアやSNSを活用した話題化も有効です。
Instagram、Twitter、YouTubeによる商品・生産地の紹介は、現場からの新鮮な空気感や信頼感を伝えることが可能です。

まとめ

地域産品を全国の百貨店・セレクトショップに展開し、継続的に売上を伸ばすためには、商品自体の良さだけでなく、「売り方」「伝え方」「信頼の作り方」を深く追求することが不可欠です。
現場とバイヤーの相互理解、ストーリーの強化、デジタルツールの戦略的活用、そして昭和的な“人のつながり”も忘れず取り入れることで、新たな販路開拓の扉が開かれます。

これまでの慣習を尊重しつつも、一歩踏み込んだ提案型営業を実践することで、地域産品は全国区のブランドに成長できるでしょう。
製造業やサプライヤーとしての現場目線を持ち、つねに「次の一手」を模索し続けてください。

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