投稿日:2025年12月4日

構造解析では問題ないのに衝撃試験で破損する予測外の展開

構造解析では問題ないのに衝撃試験で破損する予測外の展開

はじめに:構造解析と実際のギャップ

長年製造業の現場で働いてきた私たちは、CADやCAE(コンピュータ支援工学)による構造解析の進化に驚く一方で、その“万能感”に警鐘を鳴らしたくなる場面も決して少なくありません。

「構造解析上では問題なしと判断した部品や製品が、実際の衝撃試験では破損してしまう……」
こんな経験をしたことがあるエンジニア、バイヤー、またはサプライヤー担当者は多いのではないでしょうか。

ものづくりの現場に立つ者として、なぜこんな現象が起きるのか、本質的な原因と現実の業界動向について、現場の目線から掘り下げます。

構造解析の落とし穴:理想と現実のズレ

そもそも構造解析での「問題なし」とは、シミュレーション上の入力条件の範囲内、かつ仮定したモデルの前提がすべて守られている場合に限った“理想の世界”での結論です。

しかし、現実の工場や現場は決して理論通りには動きません。
例えば、次のような要素が破損の原因となることがよくあります。

・材料ロットごとのばらつき
・組立や溶接時の微細なズレや加工ひずみ
・表面処理やメッキ部のムラ
・マイクロクラックや微小欠陥
・試験装置自体の個体差やセッティング誤差

これらは構造解析の“計算”というルールの外に存在する、予測外の現象です。

昭和アナログ業界の事例:数値化しきれない「職人の感覚」

意外かもしれませんが、構造解析が普及して久しい現在でも、昭和時代からの“勘と経験”が頼りとされる現場が多数存在します。
特に、衝撃や疲労が関与する部品では、老練な作業者の「あの成形ラインだと割れやすい」「熱処理条件が1℃ずれると硬くなりすぎる」といった、“数値化しきれない知恵”が現場で重宝されます。

これは逆に言えば、“構造解析では拾い上げられないトラブル要因”が今も現場に潜んでいるという証左です。

現場で起こる「予測外」の具体例

現場が直面しがちな“解析上は問題なし”だが“衝撃試験はNG”となる代表的なケースを紹介します。

1. 部品の応力集中部に生じた微小クラック
応力解析では見つからないレベルの疵(きず)が実試験で割れの起点となる。

2. 溶接部や接着部のわずかな気泡・未加熱部
非破壊検査では発見できないが、衝撃荷重で急激に進展して破断。

3. 材料特性のばらつき・劣化
材料証明書通りの性能が常に得られているとは限らず、長期在庫品やロット外れが劣化の原因。

4. 組付け時の不均等荷重
構造解析では理想的に分散荷重を仮定しているが、実際には組付け方や現場の工夫で局所的な荷重集中が発生する。

なぜ解析と現実の結果が異なるのか

根本的な要因は、下記のポイントに集約されます。

・構造解析のモデル化限界
形状、材質、境界条件などすべての要素を理想的にしか表現できていない

・材料データの“理論最大値”依存
カタログスペックや試験片のデータを前提としているため、実物とは必ずしも一致しない

・現場の複雑な「ゆらぎ」と「変動」に非対応
湿度温度、加工時の外乱、時にはヒューマンエラーまで多様な外的要因あり

この「現実の複雑さ」を、如何にして設計や調達、品質管理の視点に組み込むかが、昭和時代からの永遠の課題なのです。

バイヤーが見るべき観点:サプライヤー選定や評価軸の変化

バイヤーの中には、構造解析によるシミュレーションデータを重視する一方、現場検証や実物試験の重み付けを低く見積もる傾向がありました。

しかし、近年の品質トラブルの多発や多様化したサプライチェーンの複雑化を受けて、各調達担当者の評価軸にも変化が見られています。

・「現物適合性」評価の強化
単なる理論値やカタログ値での合否だけでなく、実物での試験=「現物確証」の重要性が増大。

・「現場力」サプライヤーの育成
傾向分析やプロセス管理能力、作業者教育に力を入れている現場を高評価。

・「標準化」vs「現場合わせ」のバランス
標準化・自動化が推進される中でも、ベテランの“勘”や“微調整”を許容する柔軟性が選ばれつつある。

サプライヤーが知るべきバイヤーの「本音」

サプライヤーの立場としては「図面通りに作り、規格通りの材料を使い、構造解析通りの設計であれば問題ないはず」と思いがちです。

ですが実際のバイヤーは、特に下記のような点に関心を持っています。

・「再現性」と「追試」の重要性
同じ仕様・条件で100回、1000回作っても常に合格するのか。

・「現場の声」のフィードバック具合
異常やヒヤリハット情報をどれだけ具体的に集約し、工程改善に活かしているか。

・「トレーサビリティ」と「不具合時の対応力」
不良発生時、迅速に原因究明し、的確な対策と報告ができるか。

このため、「構造解析だけでOK」が通らない理由をサプライヤーも深く理解し、現場の暗黙知やノウハウを積極的に伝える姿勢が必要です。

最新動向:現場データ×解析技術の融合

近年、解析と現場をつなぐ新しい動きが加速しています。

・IoTによる現場データのリアルタイム取得
センサー技術の進化で、衝撃試験時の加速度・ひずみ・温度などを数秒ごとに自動記録できるように。

・AIによる異常検知・要因分析
大量の試験・生産データをAIで分析し、ベテランの勘に頼らない“予知技術”の開発が進展。

・バーチャルツイン(デジタルツイン)の活用
実試験の現象をデジタル上で再現し、構造解析の精度向上と現場プロセスの最適化を図る。

今こそ「現場」と「解析」のハイブリッド思考を

これからの製造業に求められるのは、“理論と現場(現象)のギャップ”を正しく認識したうえで、双方の知識を「つなげる」力です。

昭和時代の“アナログ現場力”、平成元年の“標準化”、令和の“解析・自動化”。
すべての良いところを並列的・横断的に融合させ、巻き込むマネジメント力が製造業バイヤー・サプライヤーの生き残りの鍵となるでしょう。

まとめ:現場の「予測外」にどう立ち向かうか

構造解析で「大丈夫」と判定されても、実際の衝撃試験で破損する事例は、今後もゼロにはなりません。

だからこそ、構造解析結果≠“絶対正義”と心得て、
・現場での実物検証・分析を怠らない
・現場要素(環境、人、材料ばらつき等)を解析モデルに組み込む工夫をする
・サプライヤーはバイヤーの「現物確認」の重要性を理解する
こうした地道な積み重ねが、想定外の破損・事故を防ぎ、現場力を高める唯一の方法なのです。

今後も現場目線を大切に、現象を深く掘り下げ、時代の変化に対応していきましょう。

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