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出荷量が減っても物流原価が下がらない不可解の理由

目次
はじめに:出荷量が減っているのになぜ物流原価が下がらないのか
近年、日本の製造業では出荷量の減少が続いています。
少子高齢化や市場構造の変化、後継者不足など、さまざまな要因が絡み合い、かつてのような大量生産・大量出荷体制が揺らいできました。
「これだけ生産・出荷量が減っているのだから、物流費―つまり物流原価も当然下がっているはず」と考える方も多いと思います。
しかし、実際には、出荷量が減っているにもかかわらず「物流原価が下がらない」「逆に物流費率が上がってしまった」という現象が多くの製造業現場で見られます。
なぜこのような不可解な現象が起きるのでしょうか。
その理由を、現場経験者の目線で深掘りし、併せて現代の業界動向や今後の課題、そして物流コスト低減のヒントについてもご紹介します。
物流原価とは何か:基礎から押さえる
まず「物流原価(物流費)」とは、製品や原材料を工場から顧客や他工場へ運ぶ際にかかる諸費用のことです。
具体的には、
- 輸送費(トラック、鉄道、船、航空などの運賃)
- 梱包・包装費
- 保管費用(倉庫賃料・管理費)
- 荷役・積卸し作業費
- 在庫管理やシステム運用費
- 人件費
などが主な構成要素となります。
多くの企業では、売上に対する物流原価割合=物流費率を業績管理のKPIとし、「○%以下」を目標に定めていることも珍しくありません。
では、なぜ出荷量が減ったのに、この物流原価が一向に下がらないのでしょうか。
原因1:物流コストの多くが「変動費」ではなく「固定費化」している
製造業の多く現場では「出荷量が減れば、運送費や物流費も自動的に減少する」と思いがちです。
しかし、実際は固定費化している部分が多く、ここに大きな落とし穴があります。
例えば、一部トラック会社との契約は「チャーター(貸切)」契約です。
毎日あるいは週一定量の荷物を運ぶために、トラック丸ごと契約する方式が一般的です。
この場合、荷物が減ってトラックの空きスペースが増えても、契約料金そのものが変わるわけではありません。
運ぶ量に関係なくコストが発生する、典型的な「固定費」です。
さらに倉庫賃貸も、急に面積を減らしたりできないため、出荷物量が20%減ってもコストがほとんど変わりません。
こうした契約構造が、出荷量と物流原価の“比例減”を妨げています。
原因2:小口多頻度化による単位コスト上昇
製造業の出荷スタイルは、大口まとめ出荷から、小口多頻度出荷(多品種少量生産)がトレンドになりました。
顧客ごとに異なる品番、少しずつの数量、多頻度納品—この三拍子が常態化しています。
トラックの積載効率が落ち、「半分空で走る」ケースや、倉庫内オーダーピッキングの効率低下も頻繁に見られるようになりました。
結果、単位あたりの物流コスト(1箱、1kg、1個あたり)が逆に上昇し、“物流費率の悪化”へとつながります。
原因3:人手不足と物流費の高騰
ドライバー・倉庫作業員不足は今や構造的な社会問題です。
特に物流業界は人材確保が難しく、ドライバー賃金の上昇が続いています。
さらに2024年問題(働き方改革関連)によって、業界全体で人件費高騰と輸送力不足、運賃値上げの波が一斉に押し寄せました。
かつてのように「安く運べる会社を探してコストカット」という戦術はほぼ破綻しています。
契約更新時は2割、3割単位で運賃アップ要求が出るのが当たり前になってきました。
この影響で、出荷量減にもかかわらず、原価そのものが止まらず上昇しています。
原因4:検査やトレーサビリティ対応など「見えない物流コスト」の顕在化
今やISO、IATF、食品安全基準(HACCP等)といった認証が必須であり、搬送・保管履歴もしっかり管理しなければなりません。
出荷検査やデータ管理、さらにはセキュリティ策、温度・湿度管理コストも増加しています。
アナログ主義が根強い昭和的な現場では、今もまだ伝票手書き、紙運用が残っているケースが多く、結果として人的工数・業務量が増加。
これも物流部門の“隠れコスト”として重くのしかかっています。
契約構造がもたらす呪縛:日本的慣行の壁
「運賃は値切るもの」「5年契約で一度決めたら変えない」「契約は対面口約束」など、日本の製造業における物流取引には昭和以来の習慣が根強く残ります。
一度決定した「物流会社との定期便」を見直すのは現場的にハードルが高いです。
「お世話になっているから」「急な荷物にも柔軟に対応してくれるから」と、契約解除・新規切替えができず、非効率なままコストだけが残る現象が頻発。
これにより、荷動き減少=コスト減少、という論理が現実にはほぼ成立しません。
DX(デジタル変革)への過度な期待と現場のギャップ
昨今は物流DX(デジタルトランスフォーメーション)への投資が盛んですが、アナログ現場とのギャップも無視できません。
ITシステム導入による効率化といっても、現場にIT人材が不足していたり、慣習への抵抗感から定着率が低く、投資だけが先行してしまう現状も多いです。
また「データを取る作業(入力や端末操作)」が増えてしまい、かえって負担となっている例さえあります。
製造業バイヤー・サプライヤーそれぞれの本音
バイヤー側は「物流費は絶対的に下げてほしい」「他社ももっと下げているはずだ」と要請します。
一方サプライヤー側、特に物流現場では「今の仕組みや契約構造では難しい」「人的リソースも限界」と悲鳴に近い声が上がっています。
過去の“まとめ出し”“月末一括出荷”から“きめ細かい配送・納品サービス”へのシフトで、サービス競争が激化したものの、コスト転嫁が打ち切れない—こうした双方の事情がぶつかりあっています。
今後の対応策:物流原価削減のために現場ができること
出荷量減少時代の物流原価低減には、次のようなアプローチが求められます。
物流契約の柔軟な見直し
貸切方式から積合せ便への移行、複数社・モーダルミックス(複合一貫輸送)活用による単位コスト低減を検討しましょう。
また「閑散期減車」や「スペースシェアリング(他社との共同利用)」によるコスト分担も選択肢となります。
小口多頻度化への適応―“まとめる”工夫
生産計画・出荷計画そのものの見直しが重要です。
顧客ごとに“細切れ出荷”が常態化していないか再確認し、可能な範囲で出荷回数を減らしてまとめる提案も有効です。
現場の業務プロセス改善とIT活用
アナログ運用を見直し、バーコード・RFID・ハンディターミナルなどの導入や画像認識など、現場型DXから始めましょう。
無理のない効率化、現場作業者と一体感あるトライアル導入がポイントです。
既存契約の「定期棚卸」とイノベーション発想
物流網の“仕組み自体を変える”発想も求められます。
サードパーティーロジスティクス(3PL)との連携強化や、他業界・他地域との連携も選択肢に入れるべきです。
まとめ:不可解の正体を知り、現場発で物流を変える
出荷量減少と物流原価“据え置き”または“逆に上昇”という現象の正体は、固定費化構造、小口多頻度化サービス、人手不足・コスト高、そして日本的契約慣行やアナログ運用の残滓など、多層的に絡み合った構造的な問題です。
この“不可解”の仕組みとリアリティを現場で共有し、単なるコストダウン施策だけでなく、持続可能な物流と新たな付加価値創出(最適調達・最適出荷)のために、ラテラルシンキング(横断的視野)でアプローチすることが一層不可欠となっています。
これからの時代、バイヤー、サプライヤーともに“物流現場の実情”を正しく理解し合い、現場目線でチャレンジを続けていきましょう。
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