投稿日:2025年6月12日

板鍛造工法の開発とCAEの活用法・事例

はじめに:板鍛造工法の発展と現場への広がり

板鍛造は、薄い金属板に対してさまざまな力を加えて意図した形状や機能を持つ部品を作り出す製造技術です。
近年、自動車や家電、電子部品の小型化・軽量化が進む中で、板鍛造工法が持つ「精密化」「コストダウン」「多品種少量生産対応力」などのメリットが再評価されています。

かつて板鍛造は高度な職人技術に頼る部分が多く、「昭和の匂い」が色濃く残る分野でした。
しかし、生産管理の高度化や、設計現場でのCAE(Computer Aided Engineering)活用が進んだ今、新しい地平線が開かれています。
本記事では、板鍛造工法開発の現状、CAEの活用メリット・実践例、さらに現場目線での課題や展望について詳しく解説します。

板鍛造工法の基礎知識とその強み

板鍛造工法の種類と工程

板鍛造には、主に以下の工法が用いられます。

  • 深絞り加工
  • 押出し加工
  • 曲げ加工
  • せん断加工(ブランキング)
  • 絞り・張出し加工複合

これらの工程を単独、あるいは複数組み合わせて、複雑な形状や高精度品を再現します。
特に最近では、パンチやダイスの形状設計が高度化し、難形状や高強度材の成形にもチャレンジしやすくなっています。

板鍛造の優位性

板鍛造の主なメリットには以下が挙げられます。

  • 材料歩留まりが高く省資源・低コスト
  • 部品強度が高くなり、溶接・接合レスで信頼性アップ
  • 部品一体化で組立工数の削減
  • 金型での量産性に優れ、多品種少量生産にも対応可能

こうした利点により、自動車の車体部品・電機部品・医療機器・精密機器など、多様な分野に応用されています。

板鍛造工法開発の最前線:現場ニーズと業界動向

昭和型の職人技術からデジタル主導へ

従来の板鍛造現場では、職人の経験則や勘に頼る場面が多く、ノウハウの属人化が課題でした。
図面と直感、手作業のトライ&エラーで金型修正を繰り返し、最適形状を模索していました。

しかし、グローバル競争が進展し、多品種かつ短納期、そして高精度な品質要求が極めて高くなりました。
その結果、スピーディーな試作と、精度ある加工条件の決定が必須となり、従来型の「型を作っては壊す」やり方では立ち遅れてしまいます。
この流れを受け、板鍛造でもCAE活用が急速に進んできました。

持続的競争力獲得に向けたデジタル化の流れ

板鍛造の現場にも、下記のようなデジタル技術が導入されています。

  • 3D CADによる金型・工程設計
  • シミュレーション(CAE)による成形性・ひずみ分布予測
  • ドローイングデータと連動した自動金型加工
  • IoT化により生産状況や工程リスクのリアルタイム監視

これにより、設計から生産、品質保証までがひとつながりでデータ管理でき、属人的なノウハウ依存から脱却しつつあります。

CAEとは何か?板鍛造での活用ポイント

CAE(コンピュータ支援工学)の基礎

CAEは、設計段階で力や温度、流動などの物理現象をコンピューター上で解析し、製品や工程の問題点を事前につかむ技術です。
板鍛造の分野では、FEM(有限要素法)を中心とした塑性加工シミュレーションが活用され、複雑な力の伝わり方や、ひずみ、変形、板割れ、しわ、スプリングバックなどを予測できます。

板鍛造分野でのCAE活用のメリット

板鍛造にCAEを活用することで、下記のような具体的効果が得られます。

  • 金型設計の最適化による試作回数・修正コスト削減
  • 部品精度や品質の安定化(歩留まり向上)
  • 不具合リスク(割れ・しわ・ひずみ集中部)の事前発見
  • 工程条件(潤滑、圧力、スピード等)の妥当性評価
  • 最終製品のパフォーマンスや寿命予測

実際のトラブルが生産現場で発生した場合、CAEデータを使って原因解析や再発防止にもつなげられます。

CAE活用の実践事例:現場の“気づき”と変化

事例1:自動車用高張力鋼板部品の開発

ある自動車メーカーでは、車体軽量化の要請から、高張力鋼板を使ったドア部品の板鍛造プロジェクトが進行しました。
従来は割れやしわ、寸法バラツキの発生が懸念されていましたが、CAEシミュレーションを活用したところ以下の成果が得られました。

・プレス荷重の分布や成形部位ごとのひずみマップを可視化。
・割れやすい箇所を事前に特定し、ピンポイントで金型設計・潤滑条件を最適化。
・トライ&エラー工程が4回から1回に短縮、試作コストも大幅低減。

最も重要だったのは、現場技術者が「なぜ割れが起きるのか」「どこが最も弱いポイントか」についてCAEデータの因果関係から学べたことです。
これにより、単なる作業者から“考える現場力”への進化が生まれました。

事例2:電子機器の精密ハウジング量産と品質安定

精密成形が要請される電子部品の分野では、微細な板鍛造品の加工時に、しわや反り、不均一な板厚分布が長年課題でした。
CAEを利用することで、加工条件ごとのひずみ増大箇所や、スプリングバックの発生要因を定量的に解析。

量産前に最適条件を導き出し、現場での微調整作業がほぼ不要となり、全体の生産リードタイムと品質ばらつきが約30%カットできたという実績があります。

ポイントは単にCAEを“設計時だけ使う”のではなく、現場で生じた異常品情報をフィードバックし、シミュレーション条件を常にアップデートしたことにあります。
このような“デジタルとリアルの往復”が現場力を底上げします。

板鍛造×CAEの活用で現場とバイヤーの意識改革を

現場技術者が意識すべき新たな視点

板鍛造現場でCAEを活用すると、単なる「設計→製造」の一方通行ではなく、次のような新しい価値観や工夫が芽生えます。

  • “なぜ”という本質的な原因追究力の向上
  • 各種データを多角的に比較・検証する思考習慣
  • 設計、製造、品質、調達部門の垣根を超えた連携意識

バイヤーやサプライヤーも、CAE活用により客観的なデータをもとに品質・コスト・納期など交渉でき、お互いの立場への理解が深まります。

サプライヤーの立場から、バイヤーニーズを読むポイント

板鍛造品のサプライヤーとして、バイヤーの思考やニーズを理解するには、“見えないリスクを開示・説明できる力”が重要です。
たとえば、CAEデータで「この工程仕様だと歩留まりは80%見込み」「コスト低減にはこの材料変更が必須」と定量的に提示できれば、信頼性と説得力が圧倒的に高まります。

逆に、「昔からこのやり方でやってきました」や「一回金型作ってみないと分かりません」では、デジタル主導の現代バイヤーから敬遠されてしまうでしょう。
昭和から続いている“職人芸”の価値は大切にしつつも、データ主体の新しい現場力との両輪が、サプライヤーにも求められているのです。

まとめ:板鍛造工法の未来は現場×デジタルで拓ける

板鍛造工法は、昭和時代の職人芸術から、デジタルとリアルの「協業」の時代へと大きく進化しています。
CAEを根幹に据えることで、設計・生産現場・調達・品質管理が一体となったものづくりが可能になります。
これは単なる“効率化”以上に、現場目線の気付き・改善・創造性を生む土壌です。

今後も材料技術や設備、AI活用が進むことで、さらなる難形状や省エネ生産・カーボンニュートラル実現が見込まれます。
製造業の発展と、そこで働くすべての人が価値を実感できるものづくりの現場を、デジタルと現場力でともに切り拓きましょう。

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