投稿日:2025年6月13日

フレッティング摩耗・疲労の基礎とトラブル対策

はじめに ~なぜいま「フレッティング摩耗・疲労」が重要か~

製造業の現場は、日進月歩で進化を続けている一方で、「昭和」的なアナログ文化や職人気質が根強く残っています。
なかでも生産設備や部品の長寿命化、省メンテナンス化は、調達・購買、生産管理、品質管理、そして工場マネジメントにとって、避けては通れない命題です。

その中で近年特に注目されているのが「フレッティング摩耗・疲労」によるトラブルです。
一見、地味に見えるこの現象は、実は製品歩留まり、生産ライン停止リスク、コストインパクトなど、業務の根幹部分に大きく関わります。

本記事は20年以上の現場経験をもとに、実践の視点から「フレッティング摩耗・疲労」の基礎と、具体的なトラブル対策を、業界内で実際に役立つ形で解説します。

フレッティング摩耗・疲労とは?

フレッティング摩耗の定義と発生メカニズム

フレッティング摩耗とは、互いに接触した部材が、比較的微小な振動や繰り返しの摺動によって、接触面が局所的に摩耗する現象をいいます。
この摩耗は、単なる摩擦や通常の「摩耗」とは異なり、ごく小さな振幅で起こること、そして摩耗粉(酸化鉄など)が再付着して悪影響を増幅する点が特徴です。

主要な発生場所としては、ベアリング部、軸とボスの圧入部、ボルトとフランジ間、スプライン接合部などがあります。
これらは、「本来動いてはいけないのに、ほんのわずかだけ動いてしまう」いわゆる「マイクロスリップ」状態が発生することで起きます。

フレッティング疲労とは何か

フレッティング疲労は、上記のような摩耗が繰り返されることで、母材自体に「き裂」が発生し、それが進展していく現象です。
つまり、「疲労破壊」と「摩耗」が同時進行で発生するイメージです。

とりわけ高応力が流れる部位や、繰り返し荷重がかかるボルト締結部などは、このフレッティング疲労による破損や脱落事故が、過去の産業事故でも多数報告されています。

フレッティング摩耗が製造現場へもたらすリスク

ライン停止・緊急修理につながる潜在リスク

現場で一番怖いのは「突発停止」や「予定外のメンテナンス発生」です。
フレッティング摩耗は、外見上なかなか発見しにくく、異常を検知した時にはすでに重大な損傷が生じているケースが少なくありません。
そのまま見過ごせば、最悪ライン全体の一時停止や部品そのものの焼き付き、設備破損、製品流出事故にもつながります。

コスト・品質面での地味だが大きな損失

部品交換だけでは済まず、分解・洗浄・再組立・調整といった隠れたコストが嵩みます。
また、摩耗粉が製品や工程内に混入した場合、品質事故や顧客クレームに発展することもあります。

サプライヤーにおいては、納品後の「保証修理」など隠れた損費(コスト・オブ・クオリティ)となって経営リスクを高める要因になっています。

昭和的現場に根付く「軽視」と、その罠

フレッティング摩耗のような微小現象は、現場で”見えない不具合”として軽視されがちです。
「昔からこのやり方だったから」「調子良く動いているうちは大丈夫だろう」といった意識がいまだに根深く残っています。

しかし、DXやIoT導入によるスマート工場化が進む今、データ蓄積による「微細な変化の見える化」が加速しており、これを見過ごすと「品質遅れ・QCD遅れ」につながるリスクがますます増しています。

フレッティング摩耗・疲労の「現場的な」原因究明

設計・組立段階での見逃しポイント

設計段階では、「静的強度」や「剛性確保」ばかりに目がいきがちですが、意外と「微小振動によるすべり」「緩み伝搬」「接触応力の集中」といった、フレッティング起因のリスクは見過ごされやすいです。

特に圧入・焼きばめ・位置決めピン・ボルト締結に関する設計は、組立現場での再現性、ばらつき、熱膨張の影響など、実際の組立・運転環境を十分に盛り込みましょう。

メンテナンス・現場運用での実態と「落とし穴」

現場では、定期メンテでの分解→再組立時に、「グリスの塗布忘れ」「組付けトルク管理不足」「表面の清浄度不足」などが原因となり、点検直後からフレッティング摩耗が進行することも多発しています。

また、実運転中の「現象の再現が難しい」という課題があり、異音・振動という現象として出てきた時にはすでに手遅れ…という状況も珍しくありません。

フレッティング摩耗・疲労の実践的トラブル対策

設計・材料選定段階でのポイント

1. 接触部の表面硬度アップ(浸炭・窒化・コーティングなど)
2. 表面粗さ管理(過度な粗さ、もしくは逆に鏡面すぎる→両方トラブル要因)
3. 接合方法そのものの最適化(圧入比率、クリアランス調整、焼きばめ温度の管理)

設計段階で「マイクロスリップ」自体を減らす設計思想が有効です。
ベアリング部なら、予圧管理や適切な潤滑設計も効果的です。

組立・メンテナンス現場での実効力ある対応

1. 組立時潤滑管理(選定・量・塗布方法など)
2. トルクレンチ使用の徹底(組立ばらつきの低減)
3. ボルト締結なら二重ナット、ワッシャー追加など「ゆるみ防止」工夫
4. メンテ時の「摩耗粉除去」・「表面検査」の実施(レプリカ法・繰返し検査など)

また、摩耗の予兆として「赤サビ」「黒色粉の堆積」など表面変化が見られた場合は早期交換検討を推奨します。

設備保全・IoT活用による未然予防

予知保全の観点から、振動センサや温度センサを接触部近傍に取り付けることで、突発的な異常兆候をデータとして見える化できるようになりました。
現場パトロールでは発見しづらい「微細な変化」を、定量的に捉えることが可能です。

加えて、データロガーやAIによる学習システムを導入すれば、経年変化のパターン解析やベンチマーク基準の自動アップデートも視野に入ります。

サプライヤー・バイヤー視点でのフレッティング対策

サプライヤー視点:リスク開示と設計提案力が差別化に

サプライヤーとしては、部位ごとの摩耗リスクの開示や、表面処理・材質提案・組付け冶具提案など、トータルソリューション型のアプローチが競争力につながります。

また、品質保証体制の徹底(摩耗トラブル原因調査、保証限度、履歴管理)も顧客信頼性を高める要素です。

バイヤー・調達サイドの留意点

コスト優先でサプライヤー選定を進めた結果、現場でのトラブルが発生して「結局高く付いた」という例も散見されます。
部品選定の際は、表面処理有無、材質グレード、潤滑剤仕様などカタログスペックだけでなく、現場ヒアリングと過去納入実績(トラブル事例含む)を必ず精査しましょう。

また、「現場での対応力」や「顧客技術サポート力」を評価軸に加えることも、実は重要です。
これは近年の調達部門ではQCD(Quality、Cost、Delivery)に「E(Engineering)」を加えた新指標「QCDE」評価が進んでいる動きとも一致します。

アナログ現場でも“明日から動ける”改善手法

以上の内容を踏まえて、昭和的な現場文化を持つ企業でもすぐに取り入れられる極めて実践的な一歩として、以下を推奨します。

・分解時の「赤サビ・摩耗粉」チェックを、全員参加の『見える化活動』として展開
・現場の「不具合カルテ」作成し、どの部位でフレッティング摩耗が頻発したか蓄積・共有
・サプライヤーと「摩耗対策勉強会」を開催して、最新事例・対策ノウハウを共有

たとえIoTや最新技術がまだ導入できなくても、「現場目線での気付き」を制度化することで、多くのトラブルの芽を事前に摘むことが可能になります。

まとめ ~「見えない」現象を「見える化」する発想を~

フレッティング摩耗・疲労は、現象自体が地味で目立たず、「見逃されてきた課題」ですが、現場トラブルを未然に防止し、全体QCDを高めるためには絶対に避けて通れません。

設計・材料選定・組立・保全の全工程で、「目に見えない微細なすべり」に関心を持ち、確実な対策と記録・共有を推進しましょう。
サプライヤーとバイヤー、現場と本部が一体となって「見えないリスクを見える化」することで、昭和の遺産に留まらない、生産性の次なるステージに進む大きな一歩になります。

製造業に携わる全ての方へ――フレッティング摩耗・疲労対策の実践を、ぜひ「明日からの現場力」として取り入れてください。

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