投稿日:2025年6月13日

異種材複合化技術とゴム/樹脂/金属における接合の活用事例

はじめに―異種材複合化技術の重要性とは

製造業の現場は、日々進化を求められる過酷なフィールドです。

従来から、部品や製品の性能向上、小型軽量化、コスト削減へのニーズは高く、その解決策として注目されてきたのが「異種材複合化技術」です。

特に、ゴム、樹脂、金属といった異なる特性を持つ材料の接合・組み合わせは、昭和のアナログ体質が色濃く残る日本の製造業にも、確実に波紋を広げているイノベーションの一つといえます。

この記事では、現場目線で異種材複合化技術の基本から、実際の活用事例、調達購買や生産管理の視点から見たメリット・課題まで、最新の業界動向も交えて深く掘り下げていきます。

異種材複合化技術の基礎知識

なぜ異種材を複合化するのか―メリットと背景

異種材複合化とは、文字通り異なる素材―たとえばゴムと金属、樹脂と金属、ゴムと樹脂―を一体化させる技術です。

それぞれの素材は剛性、耐熱性、柔軟性、絶縁性など、得意とする性質が異なります。

複合化することで、単一素材では得られない新たな機能や高性能な製品を作れるのが最大のメリットです。

自動車や家電業界はもちろん、医療機器や物流、インフラ分野にも波及しています。

背景には、環境規制の強化、燃費向上などの社会的要請、小型・薄型化トレンド、材料価格高騰など、昭和の物量戦では乗り越えられない課題の山があります。

異種材接合の主な方法

1. 接着剤による接合
2. インサート成形(オーバーモールド)
3. 焼結、溶接による熱を利用した接合
4. メカニカルの締結(リベット、ねじ止めなど)
5. 表面処理やプライマーによる密着性向上

異種材の組み合わせでは、化学的に結合できる接着剤や、インサート成形による物理的な一体化がよく使われます。

樹脂成形工程で金属部品を同時に成形する、ゴムのバルカナイズ時に金属と一体化させる等、アイデア次第で大量生産にも少量多品種にも対応可能です。

ゴム/樹脂/金属の異種材複合化―特性と課題

ゴムと金属の複合化

工業製品で最も馴染み深い異種材複合化は「ゴム×金属」です。

自動車のエンジンマウントや防振ゴム、家電機器のダンパー部品など、金属の強度とゴムの弾性・吸振性を両立させています。

ただし、両者の膨張係数や表面エネルギーの違い、熱・油・水などの環境変化への対応が求められるため、最適な接着剤・接合方法、金属表面の前処理(ショットブラストやプライマー塗布など)が肝心です。

経年劣化、接着ムラによる剥がれ、製造バラツキ防止の品質管理ノウハウが勝負のポイントです。

樹脂と金属の複合化

樹脂と金属の複合化は、強度は欲しいが重量は減らしたい部品設計で多用されます。

自動車の軽量化や家電のデザイン性の向上、構造部材の一体化などで採用されています。

インサート成形技術を使えば、金属部品を樹脂で一体成形でき、コスト削減や組立て工数低減が可能です。

但し、接合時の温度差による熱応力、樹脂の収縮、剛性バランス、電食リスク(異種金属の場合)の管理が重要です。

また、リサイクル性や解体容易性といった、近年のサステナビリティニーズにも配慮しなくてはなりません。

ゴムと樹脂の複合化

ゴムと樹脂の複合化も重要な分野です。

医療用チューブ、パッキン付きキャップや蓋、車載用パッキン、電気機器の防水/防塵部品に必要不可欠です。

欧米ではTPV(熱可塑性エラストマー)による複合成形が進んでおり、日本でも徐々に普及しています。

ただし、樹脂とゴムの濡れ性や接着剤選定、製造時の成形収縮管理、異種材料の界面耐久性は現場での品質クレームリスクが高い領域であり、経験値が物を言います。

異種材複合化技術の最新業界動向

省人化・自動化・AI活用の流れ

日本の工場では、長年「人の手技」に頼って品質確保してきた歴史があります。

しかし人口減・賃金上昇・省人化要請により、昨今はAIやロボットによる自動接合ライン、画像処理による界面の自動検査、インラインでの接着状態リアルタイムモニタリングなど、工場の自動化が加速しています。

また、製造データを蓄積・分析し、品質トラブルの未然防止や熟練者ノウハウの「形式知化」が求められる時代です。

新素材・接合技術の台頭

軽量、高機能な高耐熱樹脂、カーボンファイバー複合材、接合用超高分子材料などの新素材も開発され、異種材同士の界面強度や耐久性が飛躍的に向上しています。

加えて、プラズマ処理やレーザーラミネーションといった最先端の表面改質技術、ロボットによるマイクロディスペンシング接着など、従来の“手作業からの脱却”が進行中です。

2020年代半ば以降、世界中の先進工場では「異種材接合=自動化・IOT化」の文脈で議論されています。

ハンドワークとデジタルの融合をどこまで進めるかが、今後の競争力の分かれ目です。

実際の活用事例―現場を支える異種材複合化

自動車部品での定番事例

自動車の足回り(エンジンマウント、サスペンションブッシュ等)には、ゴム×金属の複合化が不可欠です。

エンジンや車体からの振動・ノイズを和らげ、かつ高温高負荷の環境で耐久性を保つため、接合時の加硫条件、金属の表面処理、接着剤の塗布厚、量産時の再現性向上など、多くの現場ノウハウが詰まっています。

新型EVでは軽量化ニーズの高まりから、樹脂×アルミ複合部品や、ハイブリッド成形品の採用も増加。

外観部品、リチウムイオンバッテリーケースなど、異種材複合化のフィールドはますます拡大しています。

家電・電子機器の事例

冷蔵庫やエアコンのドアパッキン(樹脂フレーム×発泡ゴム)、掃除機のキャスター(樹脂×ゴムタイヤ)、コネクタ部品の絶縁性・強度両立など、家電分野にも異種材接合は欠かせません。

特に小型化が進む現代では、複雑形状を一体成形しつつ、柔軟性・耐衝撃性・電気絶縁性を確保するための材料選定・接着技術が現場力の源です。

リサイクルや分解のしやすさも考慮される時代、設計から接合方法まで再考する企業が増えています。

医療機器・インフラ分野にも波及

血液バッグのチューブ接続部、検査機器のカバー(ゴムシール×樹脂筐体)、橋梁の可動部(ゴム×金属可動ジョイント)など、精度と耐久性、メンテナンス性が求められる分野でも活用されています。

高度な生産管理とトレーサビリティ、クリーンな製造環境が必須なため、異種材接合の工程設計・品質管理能力が直接、医療・社会インフラの信頼性に直結します。

異種材複合化における調達購買/生産管理の視点

調達購買の戦略―サプライヤー連携で価値創造を

バイヤーの立場でまず着目すべきなのは、部材の仕様管理とサプライヤーとの技術協創です。

異種材接合部品は、単なる材料コストだけでなく、前処理や表面加工、接着工程、品質試験まで含め一気通貫で管理する必要があります。

サプライヤーの選定では、複合化技術の成熟度、量産実績、工程能力(PPM、CP値など)、現場のトラブル対応力、技術サポート体制を重視すべきです。

また近年、サステナブル調達の観点から、材料リサイクル対応、環境負荷低減、化学物質管理まで踏み込んだ評価・監査が当たり前となっています。

生産管理・品質管理のポイント

異種材接合工程では、材料ロットごとの物性変動、接着条件の微細な違いが、最終製品の品質に非常に大きく影響します。

実績ある製造現場ほど「先端工程×熟練の感覚値」の融合が求められます。

特にエビデンス重視の顧客向けでは、非破壊検査、引張り試験などの品質データ蓄積が必須です。

生産現場には工程設計・条件設定までは自動化しつつ、最終検査・フィードバックでは人の経験値を活かしたハイブリッド方式が現状の最適解でしょう。

まとめ―異種材複合化技術の未来展望

異種材複合化技術は、単なる“新しい技術”以上の価値を持っています。

現場に根ざした経験値とアイデア、新旧技術の融合、バイヤー・サプライヤーの信頼関係、工程・品質の現場力が一体となって初めて成果を生むフィールドです。

今後は、部材ごとに違う材料メーカー、成形メーカー、加工メーカーが緊密に連携し、「設計段階から複合化を前提としたモノづくり」が主流になるでしょう。

工場の自動化・デジタル化、DX推進と相まって、日本の製造業に新たな強みをもたらす可能性を秘めています。

日々の現場で起こっている小さな工夫や課題、その積み重ねがまさに、持続可能なものづくりや、グローバル競争力の源泉となります。

異種材複合化技術の進化と活用の最前線に、ぜひ多くの製造業関係者が関心を持ち、参画していただきたいと強く願っています。

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