投稿日:2025年6月13日

ドライバー特性を考慮した運転支援システムと自動運転におけるHMI設計

はじめに:HMI設計の重要性と製造現場への影響

自動運転技術や運転支援システム(ADAS)は、近年の自動車業界における最大級のトレンドとなっています。
その中で極めて重要な要素として、「HMI(Human Machine Interface:ヒューマン・マシン・インターフェース)」の設計が注目されています。
なぜこれが重要かと言えば、単なる技術進化にとどまらず、“ヒトと機械”の関係性そのものを抜本から問い直すものだからです。

HMI設計は、製造業の本質、「人の安全性・作業性・効率性を最大化する」という課題とも直結するテーマです。
この記事では、ドライバー特性を深く考慮した自動運転・運転支援領域での実践的なHMI設計について、実体験や現場視点、昭和から続くアナログ的な業界課題も交え、ラテラルシンキングで深掘りします。

ドライバー特性とは何か

個性を可視化する時代へ

ドライバー特性とは、一人ひとりの運転技術や注意力、経験値、反応速度、ストレス耐性、リスク認知、好みやクセなど多様な「個性」のことです。
かつて日本の自動車メーカーでは“万人向け”という発想が幅を利かせていました。
マニュアル車が主流だった昭和の時代、クルマは「乗り手が合わせる」存在でした。
しかし現代は逆であり、「車がドライバーに寄り添う」ことが求められます。
各人の状況や特性を把握し、その人にとって最適な運転・情報支援を行うことが、HMIの重要なポイントといえるでしょう。

ドライバー特性を理解しないと事故が増える理由

運転支援システムや自動運転のHMI設計で最も怖いのは、「現状の把握にズレが生じること」です。
一律に設計したシステムでは、運転が苦手な人には複雑すぎたり、逆に運転スキルの高い人には説明が冗長で煩わしくなったりします。
こうした“ギャップ”が、ドライバーの誤操作や注意散漫、ひいては重大事故へとつながりかねません。
また、設計サイドとユーザーとの間の「肌感覚の違い」も障壁となり、現場では未だに“昭和的な自己責任論”が根強く残っています。
このギャップ解消こそ、今の製造業に求められているHMI設計の要諦です。

現場目線で考えるHMI設計の最前線

なぜ現場視点が大事なのか

私が工場長として生産ラインの自動化や品質向上を進める中で痛感したのは、「システム設計者とユーザー現場の意識ギャップ」です。
現場には、若手からベテラン、外国人や派遣社員まで幅広い“ヒューマンファクター”が存在します。
同じ表示や警報でも、人によって「見え方・感じ方・とらえ方」は大きく違います。
工場の自動化投資一つをとっても、現場への丁寧なヒアリングとフィードバックループこそが、実効性あるシステム導入のカギだったことは製造現場に携わる方なら誰しも痛感されているでしょう。

車載HMIも同じで、設計サイドが「これなら十分」と思っても、実際のドライバーが混乱したり、逆に使わなくなったりする例は後を絶ちません。
現場で生まれる“生々しいフィードバック”こそ、優れたHMIの源泉です。

具体的な現場対応の知恵

– **徹底的なユーザーテスト**
年齢・経験・性格・リテラシーが異なる複数のユーザー層でHMIを検証する。
タッチ操作とダイヤル、音声入力を各層で切り分けて比較し、どの層でどんな課題が生じるかを細かく分析します。
– **異常時こそ人間中心で**
通常運転時は自動運転に任せられても、システム異常やエマージェンシー時には「最後は人」が判断しなければならない場面が必ず訪れます。
アラートや警報表示の“緊急度の伝わり方”が直感的かどうか、ストレス下でも瞬時に認知・判断できるかを現場の実車試験で追い込みます。
– **アナログの知見を生かす**
デジタル化・自動化が進んでも、人は時に“アナログ的対応”しかできません。
「表示が見えにくい」「音が大きすぎてストレス」「説明が回りくどい」など、ベテランの肌感覚を取り入れ、いわゆる“昭和の職人芸”を現代HMIに融合させます。

ドライバー特性×HMIにおける先端技術トレンド

AI・センシングによるパーソナライズ化

ドライバーの目線・表情・脈拍・声のトーンなどを車内カメラやセンサーで常時取得し、AIがリアルタイムで「運転中のコンディション」を推定します。
例えば、異常な眠気や疲労、感情の高ぶり(怒りや焦り)などをAIが検知すると、自動で警告を与えたり、運転支援レベルを最適化したりできます。
熟練者には冗長なアドバイスは省略し、逆に初心者や高齢者にはより丁寧なサポートを自動でカスタム提示する、このような“パーソナライズ支援”が実現の段階に入ってきています。

最新HMIデバイスとUX/UIの潮流

– **大型コクピットディスプレイ**
必要な情報だけをタイムリーかつ直感的に整理して見せる、レイヤー構造のUI設計が主流です。
– **音声・触覚フィードバック**
視覚情報が飽和しがちな車内では、触覚(ハプティック)や音声ガイドのコンビネーションが有効です。
– **AR(拡張現実)HUD**
フロントガラスに走行ルートや危険箇所を重ねて表示。
「前を見るだけ」で情報が得られる新世代HMIは今後拡大必至です。

昭和の価値観と現代技術の“融合”がもたらすもの

ドライバーに合わせた多様なアプローチやパーソナライズ化が進む一方で、昭和から続く「現場の肌感」も軽視できません。
実際、高度な運転支援車を導入しても、年配の“アナログ派”ドライバーが「使い方が分からずオフにしてしまう」「警告が多すぎて運転に集中できない」といった事例が少なくありません。
特に製造業では、複雑すぎるシステム導入が現場力低下やトラブル多発の引き金となるケースを何度も目の当たりにしてきました。

このジレンマを超えていくには、「最新技術×現場の知見」の融合しかありません。
例えば、加工ラインでベテランの五感による異常感知に頼っていた品質管理を、IoTやセンサー、AI等で補完する一方、「最後は人間が五感で最終確認し、異常検知を正しく活用する」。
こうした“昭和的ヒューマンタッチ”と“デジタル自動化”のハイブリッドこそ、真に使われる運転支援・自動運転HMIの向かうべき姿です。

現場&バイヤー・サプライヤーの連携が成功のカギ

バイヤー視点:HMI設計に求めるべき基準

– カタログスペックだけでなく、現場の“使い勝手評価”を重要視する姿勢が重要です。
– サプライヤー提案には、“徹底したテストフィードバック”と共に、「現場の困りごとリスト」をしっかり伝達しましょう。
– コスト一辺倒ではなく、「安全や現場力に寄与する付加価値」を意識した意思決定が問われます。

サプライヤー視点:バイヤーの懸念と対話すべき要素

– 「なぜそのHMI設計が現場で評価されるのか」を、技術的な論理だけでなく、ユーザー体験・現場ハプニング事例とともに納得感ある説明を心がけましょう。
– 「現場側の“評判”」「アナログ派現場社員の声」など数字にならない情報も製品開発プロセスに組み込むことが差別化の決め手です。

まとめ:HMIの未来、製造業の未来

運転支援や自動運転は、単なるテクノロジーの進歩を超えて、“人らしさ”と“機械の賢さ”の協働を問う新たな地平線です。
HMI設計は、その要となります。
昭和から抜け出せないアナログ現場と、最先端のAI・IoT技術。
どちらも否定することなく「現場の知恵」「人間の肌感」を徹底的に活かしつつ、最新技術で補完・強化していく。
この両立こそが、日本の製造業・車載産業における最大の競争力となるでしょう。

バイヤー・サプライヤー・現場エンジニアすべての立場から、「人と機械の協働」という大テーマを前向きに捉え、現場と技術開発部門の“対話と共創”を深化させていくこと。
これが日本の製造業の現場から世界への発信力を高める、もっとも実践的な道筋だと確信しています。

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