投稿日:2025年6月14日

EtherCAT技術の基礎と制御システムへの応用・例

EtherCAT技術とは何か

EtherCAT(Ethernet for Control Automation Technology)は、2003年にドイツのBeckhoff Automation社が開発した産業用イーサネット技術です。

従来のフィールドバスシステムを大きく超える性能と拡張性を持ち、今や製造現場の制御システムの基盤として広く普及しています。

昭和時代には主流だったRS-232CやRS-485などのシリアル通信から、IT革命とともに様々な産業用ネットワークが生まれましたが、EtherCATはその中でもリアルタイム性と拡張性に優れ、現場設備のデジタル化・自動化推進のカギとなっています。

EtherCATが生まれた背景

製造業の現場では、PLC(プログラマブル・ロジック・コントローラ)を中心とした多様な制御機器が導入されています。

従来はリレーシーケンスや有線での個別配線が主流だったため、機器が増える=配線増加=複雑化=トラブル、となっていました。

そのためフィールドバスのようなネットワーク制御の登場は配線量削減やFA機器の柔軟な拡張に大きく貢献しました。

しかし、フィールドバスはリアルタイム性やデータ伝送速度、システム統一性に限界がありました。

EtherCATは、これら“フィールドバスの壁”を打破する革新的な高速イーサネット技術として誕生したのです。

EtherCATの基本原理

EtherCATは、イーサネットフレーム内のデータを各スレーブ(制御機器)が“通過しながら”必要な情報のみを読み取り、データを書き込みます。

従来のマスタ→スレーブ配信網では、階層ごとに応答待ち時間が発生していたのに対し、EtherCATは通信の“パイプライン化”により遅延を大幅に短縮します。

500台以上のスレーブでも通信周期が100µs(マイクロ秒)クラスを実現できるのが大きな強みです。

また、イーサネットケーブル(RJ45・ツイストペア)をそのまま使えるため、汎用性も非常に高いです。

EtherCATの通信構成

– マスター:制御命令を発信し、スレーブからのデータを取りまとめる。
– スレーブ:IOボードやサーボドライバー、センサーなど現場機器。
– トポロジー:ライン型・ツリー型・スター型・デイジーチェーンなど柔軟に構成可能。

この構成柔軟性が、現場既存設備へのレトロフィットを容易にし、IoT化への足掛かりとなっています。

EtherCATがもたらす現場変革

リアルタイム性向上による生産性UP

従来のフィールドバスでは、制御指令→応答まで数ミリ秒単位の遅延が発生していました。

例えば高速搬送装置やロボットでは、この遅延が機器間の競合やバラツキを生み、調整・同期が必要でした。

EtherCATでは、100µs周期で数百台のスレーブを一括制御できるため、搬送設備や自動組立ライン、射出成形機の多軸制御など、高速同期が求められる現場で一気に力を発揮します。

生産タクトの短縮や、不良混入リスクの低減に直結します。

シンプル配線でトラブル減・設備保全効率化

昭和型のアナログ配線は、盤内配線や現場のジョイント部が複雑になり、誤結線や断線トラブルの温床でした。

EtherCATなら一本のイーサネットケーブルで数百台の機器をシリアル接続でき、配線作業工数やトラブルシュート工数が劇的に削減できます。

保全担当者に大きなメリットとなり、ノウハウの属人化も抑制できます。

省コスト・省スペース化への寄与

複雑なリレー配線・端子台が不要になり、制御盤のコンパクト化、省コスト化、また工程変更時の現地改造負担も減少します。

工場立地事情が厳しい日本国内では、省スペース化と再利用性向上は大きな武器です。

昭和から抜け出せない現場でも進むEtherCAT化

実際、私が経験した大手製造業の現場でも、「いまだにリレーシーケンス盤が主流で、現場担当はパソコン嫌い」という現状は珍しくありません。

ですが、新設備導入やライン改造を機にEtherCATの採用検討が進んでいます。

理由は単純で「設備保全負担の軽減」「増設・工程変更の柔軟性」「自動化DX化への布石」として明らかにメリットが大きいからです。

現場からは
「配線図面の見直し工数が減った」
「機器増設がネットワーク配線で15分で終わった」
「トラブル対応も配線追跡がすぐできる」
など、従来との違いを体感できる声が多数上がります。

懸念点と導入障壁

一方で、導入初期には
「ネットワークトラブルの知見不足」
「既存アナログ設備とのインターフェース課題」
「初期コスト・設計教育コスト」
といった不安も残ります。

また、現場の“昭和型技能”との融合・置換に抵抗感が出るのも事実です。

レガシー設備と新テクノロジーの橋渡しが重要

EtherCATは「従来IO」や「リレー出力」などアナログ型I/Oとのブリッジモジュールも豊富で、レガシー設備資産を活かしながら段階的に移行可能です。

また、作業員教育には“実機ハンズオン研修”や“マニュアル映像化”をセットで進める企業も増えています。

技術本位ではなく、“現場技能の継承”と“ITの融合”を同時に進めることが長期運用のカギになります。

バイヤーが知っておくべきEtherCAT活用のポイント

製造業バイヤーやこれからバイヤーを目指す方、またサプライヤーの担当者が、EtherCAT化への提案・調達を行う場合、以下の観点が重要です。

スペックを見るだけでなく現場価値を評価

– 現場の配線工数削減
– トラブル対応力の強化(診断ソフト・自己診断機能)
– 旧設備からのスムーズな置き換え
– IoT化やDX推進の足がかり(将来性)

導入コストやカタログスペックのみで評価せず、現場作業・保全性・運用面のトータルでメリットを評価しましょう。

スケーラブルな設備提案

投資回収年数だけでなく、将来工程変更時の拡張性や台数増設の時短効果、予知保全対応など、中長期視点でサプライヤー各社の提案力・対応力を見極めましょう。

機器導入後も、「ファームウェアアップデート可否」「予備品体制」も必須チェック項目です。

EtherCAT応用事例

自動車部品の組立ライン

多点ロボット、画像検査装置、電子インデックス搬送などIoT化が進行。

EtherCATによる多軸ロボットの同期制御や、品質データの即時収集(トレーサビリティ)、自動検査装置の統合制御などで高度な自動化と省人化が実現しています。

故障解析時のデータ追跡も容易になり、チョコ停・不良混入率の大幅改善に寄与しています。

半導体製造装置

サブミクロン単位の制御精度が要求されるため、EtherCATの高速通信特性がフルに活かされています。

ウェーハ搬送ロボット、多点温度制御、クリーンルーム環境のモニタリングもEtherCAT一本でネットワーク化。

マルチベンダ対応性の高さも、複数製造装置のシームレス連携・ファブ全体のライン最適化に貢献しています。

射出成型ライン

成形機本体のサーボ制御、温調、金型管理、成形条件記録までEtherCATネットワーク上で一括管理。

金型交換時の成形パターン自動選択や、不良発生時のデータ解析がスムーズに進むため、成形品のバラツキや立ち上げロスの最小化が実現されています。

今後の製造業の競争力強化にEtherCATは不可欠

日本の製造現場ではいまだ「人・設備・現場が分断されがち」「技能継承が課題」といった根深い構造があります。

EtherCATをはじめとするネットワーク制御技術は、こうした分断を乗り越え、熟練工のノウハウや現場データをIT化して“見える化・活かす化”できる強力なツールです。

特に変種変量生産やスマートファクトリー化、またカーボンニュートラル対応といった、これからのものづくり現場を支える基盤となります。

まとめ

EtherCATは単なる通信規格ではありません。

現場経験に基づく本質的な価値は、「設備保全の負担軽減」「工程変更時の柔軟性」「熟練技能とITの融合」「IoT化・DX基盤の構築」という、昭和の現場にも通じる現場目線の進化そのものです。

新技術へのチャレンジをためらう現場でも、小さなステップからEtherCAT化することで、今ある人材・設備資産を最大限生かしながら未来につなげる第一歩となります。

バイヤー・サプライヤー・現場担当が一丸となり、EtherCATを活用した現場力・競争力強化を目指しましょう。

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