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流体力学の基礎および流動抵抗の各種低減技術とその活かし方

目次
はじめに:流体力学の重要性と現場での体感
製造業、とりわけ流体制御や搬送工程が多い現場では、流体力学がしばしば主役に上がります。
「流体力学って研究者や開発部門だけの話では?」と考えている方もいるかもしれません。
しかし、現実の製造現場で流れる水、空気、油――これらを自在に、そして効率的にコントロールする技術は、コストダウン・品質維持・工程短縮など、あらゆる面で直結します。
昭和時代の設備には手書きの配管設計図があり、昔ながらの勘に頼る場面も多々存在しましたが、令和のいま、IoT化や自動化の流れで、流体力学は実践的な「現場の学問」へとアップデートされています。
この記事では、流体力学の基礎を現場目線でわかりやすく解説し、実際の製造業で直面しがちな「流動抵抗」の課題、そして最新の低減技術やノウハウ、現場でどう取り入れるべきかについて掘り下げます。
サプライヤーとしてバイヤーの期待を超えるためのヒントや、バイヤー自身が知っておきたい流体活用の勘所も盛り込んでいきます。
流体力学の基礎を現場目線で理解する
流体力学とは?現場にどう直結するか
流体力学は、液体や気体がどう動くか、何を妨げ、どうしたらスムーズに流れるかを理論的に説明する学問です。
代表的なものとして、水や空気、油などの配管やダクト内での流れ、あるいは冷却装置内の水流管理や洗浄プロセスなど、製造業のあらゆるシーンに登場します。
例えば、洗浄工程で高圧水を送り込むノズル選定、圧縮空気で搬送物を浮かすシステム、成形機油圧回路の流量設計、塗装ブースの排気効率最適化など、目に見えないけれどコストや品質を大きく左右します。
現場が直面する“流動抵抗”の正体
流体は、進む際にパイプの内壁やバルブ、曲がり角、経年劣化した配管や部品表面など、さまざまなものから“抵抗”を受けて摩擦・エネルギーロスが発生します。
この「流動抵抗」が大きいと、所望の流量確保のためポンプやブロワ、コンプレッサの能力過剰(そして無駄な消費電力・オーバースペックな設備投資)を引き起こしがちです。
また、うっかり流動抵抗が大きくなるレイアウトを組むと、現場で思った流量が出なかったり、急激な圧力低下で品質問題や事故につながることもあります。
流動抵抗低減の重要性と基本戦略
製造現場における流動抵抗低減の効果
流動抵抗を下げることは、以下のような多くのメリットをもたらします。
– エネルギーコストの削減(ポンプ/ファンの消費電力低減)
– 設備投資額の最適化(過剰な能力選定の回避)
– 製品品質の安定化(安定した流量・圧力の確保)
– 設備寿命向上(負荷の減少による摩耗抑制)
– 保全・メンテコストの削減(異常運転の予防)
特に、このエネルギー単価高騰やカーボンニュートラル意識が高まる昨今では、「流動抵抗をどれだけ下げられるか」が現場改善の大きなテーマになっています。
流動抵抗が発生しやすいポイント
実際の工場では、こんな場面で流動抵抗トラブルが生じやすいです。
– 経年劣化でサビ・スケールが溜まった配管
– 曲がり(エルボ)や分岐の多いレイアウト
– 配管径の急な変化(太い→細い)
– 配管内部に突出した溶接ビードやバリ
– 不適切なグランドパッキンやバルブ選択
– 長尺配管や高低差の大きいレイアウト
これらは「設計ミス」と「老朽化・現場改善の置き去り」双方で発生します。
流動抵抗の低減技術:定番から先端まで
太く、短く――配管選定の基礎
流体力学の基本式、ダルシー・ワイスバッハの式や、ハーゲン=ポアズイユの法則が示す通り「流路断面積を大きくすると圧倒的に抵抗が下がる」のは昔も今も鉄則です。
太い配管はコストアップに見えますが、小さくて細長い配管でポンプ容量や電力、運転音、温度上昇などのコストが膨れるよりも、トータルコスト最安になる場合が非常に多いです。
また、配管はできるだけ直線化して、「曲げるならできるだけゆるく」を心掛けることで、10%~20%の抵抗低減がすぐに実現できます。
表面処理・コーティング技術の活用
配管内部やバルブ部品表面に特殊コーティングや鏡面研磨仕上げを施すことで、流体と表面との摩擦を大幅に下げることが可能です。
特に、食品・医薬品のラインではステンレス鏡面やフッ素樹脂コートが採用されることが多く、最近では化学プラントでも導入が進んでいます。
“内面バフ研磨”や“ナノ粒子コート”など新しい技術も台頭しており、圧損管理・衛生向上・クリーニング工程短縮の三拍子を実現しています。
流線型部品・フローコントロールデバイス
欧米発祥の“流線型エルボ”や、抵抗が極限まで小さい“ベンチュリーチューブ”、“インジェクタージェット”など、流体の脱乱流設計を取り入れた部品の利用も効果的です。
比較的安価な変更で効果が大きいため、パイロットラインやリニューアル時の投資回収が早い点が採用理由です。
また、インバーター制御ポンプ・ファンの利用や、可変オリフィス、バルブ開度の適正化も流量制御と流動抵抗低減の両立に寄与します。
AI・シミュレーションの活用
近年は、設計段階でさまざまな通流シミュレーション(CFD:Computational Fluid Dynamics)が活用できるようになりました。
流速分布や圧損推定はもちろん、「現場で組んだルートがどこまで適正か」「バルブ追加でどんな圧力変化が生じるか」などを設計初期段階で見える化できます。
またAIによる故障予兆検知や、設備運転データのリアルタイム解析による圧損管理も進化しており、“昭和の勘頼み”から脱却しつつあります。
現場への落とし込み方とバイヤーの視点
現場改善活動での着眼点
現場の担当者や改善チームがすぐ始められるチェックリストをご紹介します。
– 配管の「詰まり・さび・スケール」有無
– 配管経とレイアウトの改善余地
– バルブや機器の適正選定、メンテ状況
– 設備導入時にCFDシミュレーション活用の有無
これらを日常点検や定期的な改善活動の中に落とし込むことで、大きなトラブルやコストロスの芽を先に摘めます。
サプライヤー視点:バイヤー目線で提案するには
バイヤー(調達担当)は、単なる安価な部材調達だけでなく、「ライフサイクルコスト」「将来的なエネルギー削減効果」「メンテ負担の軽減」といったトータルでの価値も重視しています。
サプライヤー側は「耐用年数中に節約できる電力量」「分解・洗浄の容易さ」「初期投資との回収期間」など、具体的な数字やシミュレーション結果をセットで提案すると評価されやすいです。
– 圧損低減型パーツの導入事例
– メンテ周期・故障統計データ
– 他社ベンチマークでのコスト改善レポート
この辺りまで情報提供、技術サポートができれば、バイヤーとの信頼性も飛躍的に向上します。
アナログ業界の“昭和的な壁”とその打開策
古い配管・設備をどう扱うか
現場には「図面も残っていない50年前の配管」が普通に稼働しています。
この場合、新規設備同様に圧損・劣化の調査測定を実施し、物理的な詰まり改善(ピグ走行や化学洗浄)を行ったり、「増設時に極端な曲げや変径を作らない」「新旧接合部を最短で済ませる」など、地道な改善が効果的です。
“現場の習慣”と“設計値”のすり合わせ
昭和の現場では「とりあえず太めで長め、エルボは現場で適当に」で十分に回っていたかもしれません。
しかし、令和時代の現場改善では、設計値・省エネ・カーボンニュートラルを明確にした“根拠”が求められる場面が増えています。
「なぜこの配管径なのか?」を設計者と現場が対話できる文化・仕組みを作りつつ、現場独自の“昔の知恵”も適度に取り込むバランス感覚が重要です。
まとめ:現場起点で進める流体力学の活かし方
製造業の現場では、「流体力学」を机上の空論で終わらせず、実際の生産ラインやサプライチェーン全体に適用していくことが競争力に直結します。
設備設計者、現場オペレーター、保全担当、バイヤー、サプライヤーが一体となり、「流動抵抗の可視化」「低減ノウハウの集約」「サスティナブルな価値創出」へと現場改善を進めていきましょう。
アナログとデジタルの融合、“昭和の工夫”と“先端技術”の組み合わせこそが、これからの製造業で新たな地平を開く原動力です。
流体力学の基礎を再確認しながら、自工場・自工程でどこにムダが潜んでいるか、そして一歩先の省エネ・品質向上のための実践に、ぜひ今日からトライしてみませんか。
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