投稿日:2025年6月17日

海外向け取扱説明書作成のポイント実践講座

はじめに:海外向け取扱説明書の重要性が増す今

グローバル化が進展する現代製造業において、海外市場への進出は避けて通れない課題です。

製品の品質や性能で勝負をするのはもちろんですが、製品を安全に、正しく使ってもらうための「取扱説明書(マニュアル)」がますます重要な存在となっています。

特に海外市場では、現地の言語や文化、法規制に即した取扱説明書の作成が求められます。

おろそかにすると、製品トラブルによるクレームや事故、さらには法的リスクに発展しかねません。

昭和時代の製造現場では「読めば分かるだろう」と説明書作成を軽視する風潮も根強く残っていましたが、今はその常識が完全に通用しない時代です。

本記事では、海外向け取扱説明書を作成する際の実践的なポイントを、現場の目線と最新事情を交えて掘り下げていきます。

バイヤーとサプライヤーが直面する現場のリアル

バイヤー目線:説明書の不備が生むビジネスロス

海外のバイヤー(調達担当)は、製品本体と同じくらい取扱説明書の質を重視しています。

なぜなら、現地ユーザーからのクレームや事故トラブルが多発すると、バイヤー自身の評価が下がり、再発注や長期取引に大きな障害となるからです。

例えば、ヨーロッパでは製品安全指令(CEマーク)に沿ったユーザーマニュアルがない場合、流通そのものが禁止されることもあります。

品質管理や法規審査で引っ掛かり、「せっかく作ったのに売れない」という“無駄なコスト”が発生する危険性が現場では常に付きまとっています。

サプライヤー目線:説明書作りの負担を軽んじるリスク

一方、サプライヤー(メーカー)の現場では、「製品を作ることこそが本業」という意識が根強いままです。

取扱説明書は「ついで仕事」「面倒なコスト」とみなされがちです。

しかし説明書の不備によるリコールや損害賠償事案は、昨今ではサプライヤーの責任追及が厳しくなっています。

バイヤーからの細かな修正指示、現地語翻訳トラブル、各種法令対応など、“一度で済まない”“何度もやり直し”のコストが積み重なりがちで、結果として業務効率を大きく圧迫しています。

取扱説明書作成の7つの実践ポイント

1. 対象市場の法規制・規格を最初に調査する

国によって安全基準や必要な記載事項、表記の仕方は大きく異なります。

例えば、EUではRAMS指令に沿って安全情報や構成品目、廃棄方法まで明示しなければなりません。

米国ではユーザー責任を重視しつつも、説明書に欠落があると製造者責任が問われやすくなります。

取扱説明書作成のプロジェクト開始時には、必ずターゲット国ごとの該当法令や規格(UL、CE、RoHSなど)をリストアップし、要件を明確化しましょう。

2. ユーザー識別と用途限定を明記する

説明書内で「本製品は『誰が』『どのような前提条件で』『何の用途に』使用するべきか」を冒頭に明示することが重要です。

現場では“意外な使い方”や“不適切なメンテナンス”で事故を誘発する事例が多発しています。

「当社指定の技術員のみ作業可能」「家庭用としてのみご利用ください」といった限定事項をしっかりと記載しましょう。

これにより、バイヤー・ユーザー双方のリスクを軽減し、将来的な事故時のリスク回避にもつながります。

3. ピクトグラムやイラストを効果的に活用する

言語だけの説明は国際市場では限界があります。

日本語の“ニュアンス”が通じない、あるいは翻訳ミスが起きやすいなど、アナログ体質だった製造現場あるあるの問題も、今は通じません。

事故や安全情報の箇所は、国際標準のピクトグラム(ISO7000等)や分かりやすいイラストを多用しましょう。

イラストがあることで読み飛ばしリスクが減り、現地語への翻訳コストそのものも減らせます。

4. 用語の標準化と分かりやすい表現

機械や部品の名称が社内独自用語のまま使われているケースは非常に多いです。

翻訳工程で誤解が生じる最大の原因でもあります。

現場で使う専門用語のリスト化(用語集)を作り、汎用的な言葉に置き換えたり、専門用語には必ず補足説明を入れることで、ユーザー目線のマニュアルへと進化させましょう。

5. 構成要素の標準化とテンプレート利用

取扱説明書は、「安全に関する警告」「導入・設置方法」「操作方法」「点検・メンテナンス」「廃棄・リサイクル情報」など、決まった構成を持つのが理想です。

組織としてテンプレートやスタイルガイドを整備しておき、各プロジェクトで一から作り直す無駄を削減しましょう。

また、将来の製品アップデートや法改正にも柔軟に対応できるよう、共通化されたフレームワークを意識した設計が効果的です。

6. 機械翻訳+ネイティブチェック体制の導入

コスト削減のため、近年はAI翻訳や機械翻訳を活用する事例も増えています。

ただし、自動翻訳は誤った意訳や業界特有の用語に対応できないという課題があります。

現地ネイティブの専門家によるレビューや、現地販売代理店との連携を必ず組み合わせ、最終版を仕上げていくことが不可欠です。

「翻訳は専門会社へ丸投げ」はもはやNG。品質管理と現地対応力が問われる時代になっています。

7. 実機テストとフィードバックの組み合わせ

机上で作成したマニュアルが、現場で本当に役に立つかは使ってみないと分かりません。

製品出荷前に、実際に現地のユーザー(販売代理店や技術者)に説明書を使って操作してもらい、「分かりにくい」「操作を間違えた」部分は徹底的に聞き取ります。

PDCA(Plan-Do-Check-Act)サイクルを説明書作りにも取り入れ、繰り返し改良していくことが現場レベルでは重要です。

デジタル化&アナログ現場の“合わせ技”がカギ

デジタル化:動画・AR活用の最前線

近年では、QRコード読み取りによる動画マニュアル、AR(拡張現実)を使った分解・組立手順など、取扱説明そのものがデジタル化・ビジュアル化しています。

これにより、現場作業者やエンドユーザーへの負担を軽減し、誤操作のリスクを大幅に削減できます。

日本本社で動画を作って簡単な言語切り換えを行い、現地工場や代理店が好きな時に参照できる仕組みは財産となります。

アナログ現場:紙ベースの重要性も根強く

しかし現実には、電気を使わない現場やネット接続が不安定な新興国市場も依然多く存在しています。

トラブル時や修理対応は紙のマニュアルが命綱になるシーンも多く、アナログマニュアルの質も求められます。

大切なのはデジタルだけ・アナログだけと考えず、現地状況やユーザー特性に最適化した“合わせ技”の発想です。

特に海外工場のオペレーターや現地代理店の視点も活かし、「現実に役立つ説明書とは何か」を常に考えていく必要があります。

まとめ:現場知のイノベーションがグローバル競争力を生み出す

海外向け取扱説明書の作成は、決して“おまけ”や“義務対応”ではありません。

現場で正しく使われ、安全で効率的な運用を実現するための“攻めの品質管理ツール”です。

法規制の理解、ユーザー視点、ピクトグラムの活用、構成標準化、翻訳品質の徹底、現場フィードバックの活用、そしてデジタル・アナログ合わせ技による最適化。

これらを“自社の現場オリジナルの知恵”として積み上げることで、「製品そのもの」の競争力にプラスして、「現場知の価値」を世界に届けることができます。

昭和のやり方に縛られず、ラテラルシンキング(横断的思考)で新しい説明書作りの地平を開拓し、世界のバイヤー・サプライヤー・現場作業者から「あなたの会社のマニュアルは分かりやすい!」と評価される日を目指しましょう。

グローバル時代の製造業にとって、「現場目線の説明書作成力」は最大の差別化武器です。

ぜひ一歩踏み出して、実践的な改善を続けていきましょう。

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