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モータ絶縁技術の高信頼性設計とサージ対策による故障防止ノウハウを習得する

目次
モータ絶縁技術の高信頼性設計とは何か
モータは産業を支える重要な機器であり、その耐久性や信頼性が生産現場の安定稼働に直結します。
特に絶縁技術は、モータの内部にかかる電気ストレスからコイルや絶縁物を守り、故障を未然に防ぐための根幹技術です。
最近のデジタル化や省エネ化の波は、インバータ制御モータの利用頻度を高めています。
これに伴い、絶縁にかかるリスクも増え、昭和時代のアナログ発想から抜け出した独自の対策が求められるようになっています。
モータ絶縁技術の設計は、材料の選定だけでなく、巻線構造や樹脂の注入プロセスなど多岐にわたります。
ひとたび絶縁不良が発生すると、短絡や地絡につながり、場合によっては火災の原因にもなりかねません。
モータの故障を未然に防ぎ、ライフサイクルコストを抑制するためには、各種のサージ(過電圧)への配慮も含めた絶縁構造の高信頼性設計が不可欠です。
現場でよく起きるモータ絶縁トラブルの実態
製造現場でモータの絶縁トラブルが発生する原因には、いくつかの代表的なケースがあります。
1. 経年劣化による絶縁破壊
長期稼働中のモータでは、熱や振動、湿気などの環境ストレスにさらされ続けることで、絶縁紙や樹脂の劣化が進みます。
これにより絶縁抵抗が低下し、特に湿度の高い夏場や冬場の結露した現場で地絡事故が多発します。
2. サージ電圧による部分放電・絶縁ダメージ
インバータ制御が浸透する現場では、高周波のサージ電圧が巻線の端部や絶縁層を直撃するケースが増えています。
この「部分放電」は、一見問題なく動作していても、絶縁層の内部にダメージを蓄積させ、突発的な絶縁破壊の主因となります。
3. 組立・補修工程でのヒューマンエラー
組立作業で絶縁スペーサの挿入ミス、端子部の樹脂覆い忘れなど、人為的なミスもよくあるトラブル要因です。
このような「昭和の現場の知恵」に頼った作業では、標準化と見える化への課題が残ります。
高信頼性設計のための絶縁材料と構造選定のポイント
モータの絶縁設計で重要になるのが、素材選びと、その組み合わせ・積層設計です。
モータ用絶縁材料の基礎知識
主な絶縁材料には、下記のようなものがあります。
- ポリエステルフィルム(耐熱性・柔軟性)
- ノーメックス紙(アラミド系繊維・高耐熱)
- エポキシ樹脂(注型・含浸用)
- シリコン樹脂(柔軟性・高温耐性)
- マイカ(耐アーク・高耐電圧)
これらの材料をモータ規格(IEC/UL/JISなど)の絶縁種(クラスA/E/B/F/H)に合わせて選定します。
巻線構造における絶縁強化の工夫
巻線コイルは端部やリード部分で曲げ応力や電圧集中のリスクが上がります。
端部では二重絶縁(2層ラッピング)や、スリーブ管の活用が効果的です。
また、エンドリング(コイル端部の絶縁リング)の素材強化や、樹脂含浸プロセスによる内部通気の抑制も重要です。
これらの積層工程こそが、高信頼性モータの成否を分ける工程になります。
インバータサージ対策の最前線
いま多くの現場で「インバータ駆動モータの絶縁破壊」が課題となっています。
インバータサージの脅威とは
インバータ制御は、パワー半導体が電源ON/OFFを高速で繰り返すことで動力効率を上げます。
しかしその副作用として、数百〜数千ボルトの「パルス状サージ電圧」がウエーブ状に伝わり、最初の巻線層に集中してしまいます。
この「サージ耐圧設計」をしなかった古い巻線・絶縁のモータでは、インバータ導入直後から急激な絶縁劣化が進行します。
サージ対策の具体策
- エンドターン部の絶縁厚みを強化する
- 部分放電が起きやすい巻線層(第一層・外周)に特別な絶縁材を使う
- インバータ側で出力フィルタ(dv/dtフィルタ)を挿入して電圧立ち上がりを制御する
- モータケーブルのシールドを強化し、サージの伝搬を抑える
実際には、設計現場と生産現場の連携も非常に大切です。
なぜなら「設計時の皮算用」と「現場の実装手法」にギャップがあり、最終的な性能を左右してしまうからです。
アナログ業界ならではの課題
中堅〜中小の工場では、いまだに「旧式設計のモータを現場の職人技で補修・巻替え」して実用しています。
現場では「これぐらいなら大丈夫だろう」という経験則が跋扈しますが、インバータサージの時代ではこの暗黙知では対応しきれない場面が増えています。
最新の絶縁材料やインバータ特性を理解し、現場の職人技能と組み合わせていく新たな「ラテラルシンキング」が求められます。
現場が実践できるモータ絶縁強化・サージ対策ノウハウ
では、現場の管理者や技術者が今すぐ実践できるノウハウにはどんなものがあるのでしょうか。
工場検査・保守点検における絶縁監視の継続
モータの絶縁状態は、デジタル絶縁計(メガー)で定期的に測定します。
特に「インバータ導入時」や「サージの多いライン変更後」「夏場・冬場の定期点検時」には、
・ 絶縁抵抗値の低下がないか
・ バラつきや部分的に低い箇所がないか
を重点的に確認します。
測定値が規定値を下回った場合は、早期にリワインド(巻き直し)を実施し、交換履歴や原因調査記録をきちんと残すことが重要です。
組立・巻替え時の現場標準化
職人作業に頼らず、標準作業手順書(SOP)と作業チェックリストを整備します。
特に「絶縁スペーサ・端子カバーの装着確認」「注型樹脂の含浸量・均一性」といった工程は、抜けやすいポイントなので要注意です。
必要であれば、樹脂のトレーサビリティや材料ロットの管理票も合わせて、書類だけでなく現場の見える化パネル等で管理すると安心です。
ICT・IoTを活用した予知保全の導入
最近では、絶縁抵抗の監視をIoT化した「オンライン絶縁モニター」なども普及しています。
これにより、故障の兆候をリアルタイムで察知し、PDCAサイクルで効率的な保守対応が行えます。
サプライヤー目線がサプライチェーン全体のバリューに
絶縁トラブルは現場だけでなく、部品サプライヤー選定やバイヤーの調達方針にも直結します。
高信頼性絶縁設計を行っているサプライヤーを選ぶ際、下記のようなチェックポイントが有効です。
- 第三者認証(UL/CE規格・絶縁階級の明記)の取得状況
- インバータ駆動時のサージ耐圧性能を検証した試験データの有無
- 品質管理体制(トレーサビリティ、安全カルテ)、組立現場の標準化レベル
バイヤーは「最安値」だけに注視せず、運用後のリスクコスト(突発故障や納入後補修コスト)も織り込んだサプライヤー選びが求められます。
サプライヤーの皆さんも、納品前の受入検査や現場コミュニケーションを強化し、現場起点での改善ノウハウをぜひバイヤー側と共有してください。
まとめ:モータ絶縁こそ高信頼ものづくりの原点
モータ絶縁技術は、単なる部品設計の問題を超え、現場の物理環境・工程・人材教育・ICT連携まで広がる、
これからの製造業にとって極めて本質的なテーマです。
昭和の経験則に頼るだけでなく、最新の材料や制御技術、サプライチェーン全体での協働ノウハウを取り入れ
業界全体の「絶縁技術と信頼性設計」のレベルアップを目指しましょう。
その積み重ねが、現場の安全・安心はもちろん、次世代のものづくりや製造業の国際競争力へと直結します。
日々の現場改善で得られる小さなヒントや工夫の蓄積が、モータ絶縁技術・サージ対策の知の財産となり、
サプライヤー・バイヤー双方の立場からも大きな価値を生みます。
製造業に携わるすべての方が、このテーマを自分ゴトとして捉え、より良い現場づくりを志していきましょう。
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