投稿日:2025年6月19日

樹脂流動解析による成形不良対策とその事例

はじめに:樹脂流動解析がもたらす成形不良対策の新潮流

製造業において、樹脂成形品はその軽量性・耐久性・コストパフォーマンスから、現代社会の多様な製品に広く利用されています。
一方で、成形工程における不良発生率の高さは古くからの課題であり、多くの現場担当者、バイヤー、サプライヤーの悩みの種でもあります。

近年、昭和から受け継がれた「経験と勘」頼みの現場力に、デジタル解析技術が融合しつつあります。
特に「樹脂流動解析」の活用は、成形不良の未然防止・高歩留まり生産実現に大きく寄与しています。
この記事では、実践的な現場目線で樹脂流動解析による成形不良対策のポイントと、実際の活用事例、さらに今後の樹脂成形の新たな地平を深掘りしていきます。

なぜ成形不良は起こるのか?現場目線の課題整理

現場でよく見られる主な成形不良

射出成形などの樹脂加工現場では、以下のような成形不良が頻発します。

・ウェルドライン(樹脂の合流線によるスジ)
・ショートショット(樹脂充填不足)
・ヒケ(収縮による凹み)
・バリ(型の隙間からの流出)
・気泡やボイド(ガス混入)

これらの不良は、見た目や寸法精度の問題だけでなく、機能不良やクレーム、歩留まり低下に直結します。

不良発生のメカニズム

成形不良の大半は、樹脂が金型へどのように流れるか“見えない現象”に起因します。

・設計段階の壁厚分布と金型形状の最適化不足
・樹脂流動時の圧力や温度の偏在
・ゲート位置、ランナー設計の不十分さ
・異なる材料特性やグレードでの流動性差

これらが複雑に絡み合い、現場で最終的に「不良」という形で現れます。
従来はベテラン職人の経験や試行錯誤による“勘どころ”が頼りでしたが、これだけでは現代の多様な製品・短納期ニーズに対応しきれません。

樹脂流動解析とは何か?仕組みとできること

樹脂流動解析の基本

樹脂流動解析とは、CAE(Computer Aided Engineering)によって樹脂の「金型内流動挙動」を仮想シミュレーションする技術です。

設計した3Dデータと材料データ、成形条件をもとに、樹脂がどこを・どのようなタイミングで・どんな速度・圧力で流れるのかを事前に仮想空間で予測します。
主な解析項目には以下があります。

・金型充填解析(樹脂充填の進行状況や充填完了時間)
・ウェルドライン発生予測
・気泡、ボイド発生予測
・ヒケの発生領域予測
・冷却解析や収縮ひずみの事前評価

この「見えない金型の中」を“見える化”する技術こそが、成形不良対策のゲームチェンジャーとなっています。

現場への持ち込みと意思決定の変化

従来の“試作→修正→再試作”というサイクルでは、時間とコストが大きく膨らんでいました。
樹脂流動解析を導入することで、設計段階で問題予測・設計改善が可能になり、以下のような効果が期待できます。

・量産前に最適なゲート位置やランナー設計を決定
・不良発生リスクを数値根拠付きで解消
・検討回数・試作コストの大幅削減
・歩留まりの大幅な向上
・納期短縮と安定量産の実現

まさに「勘と経験の時代」から、「データと解析の時代」へのパラダイムシフトです。

実践事例:現場で活きる樹脂流動解析の活用法

事例1:ウェルドライン改善による強度アップ

ある精密機器メーカーでは、成形品の一部に目立つウェルドライン(樹脂合流部のスジ)が発生し、外観不良および強度不足が問題となっていました。

樹脂流動解析で充填挙動を可視化したところ、ゲートから複数方向に樹脂が合流する部位での温度差・圧力差が原因と判明。
これを受けてゲート位置を変更、さらに金型温度を細かく再設定することでウェルドライン領域を外観厳密部から外すことに成功しました。
結果として、成形品クレームが90%減少し、歩留まりが大幅に向上したのです。

事例2:ヒケ・変形対策による品質安定

自動車部品工場では、大型カバー品のヒケ・変形が収束せず、納入先バイヤーからの要求品質が満たせない状態が続いていました。
従来の「追加充填」や「冷却時間延長」といった対症療法では根本解決に至らず、樹脂流動解析を活用しました。

解析により、製品中央部への樹脂到達が遅れるクラスタリング現象と、冷却不均一が明確化されました。
設計段階へフィードバックし、内部リブ形状・肉厚分布を調整。
さらにランナー設計と冷却ライン配置を見直すことで、ヒケ・変形をほぼゼロ化でき、サプライヤーとバイヤー双方に「再現性ある安定品質」という信頼を築くことができました。

事例3:量産移行時のトラブル防止

新製品立ち上げにおいては、金型設計段階から樹脂流動解析を取り入れることで、量産時のトラブルリスクを事前に回避する動きが広がっています。

電子機器のコネクタ部品では、初回試作時にショートショット・バリが頻発。
流動解析結果をもとに、最適な充填速度プロファイルと保圧条件を設定し直したことで、初回トライ2回目で量産レベルの品質基準をクリア。
従来は数週間かかっていた量産移行が、わずか数日に短縮できた実例もあります。

現場目線の課題と導入のポイント

昭和的“現場力”と樹脂流動解析の融合

アナログ中心の現場文化では、「解析ツール=難しい」「とりあえずやってみる方が早い」という意識が根強く存在します。
しかし、部分最適化された“職人技”には限界があり、多品種・短納期・高品質が必須の現代では、解析ツールとの融合が不可避となっています。

大切なのは、解析結果が現場オペレーターや金型設計者の日常業務とシームレスに結びつくことです。
解析が“指示書”ではなく“改善ディスカッションの材料”となれば、現場力にデータドリブンの新たな武器が加わります。

中小・現場主導での導入のコツ

大企業だけでなく、中小規模の現場でも樹脂流動解析の導入事例が増えています。
導入のポイントは、社内に高度なCAEエンジニアを必ずしも配置せずとも、外部の解析サービスを活用することでスタートしやすい点です。
また、現場リーダーや製造課長が「失敗事例」をフィードバックし、PDCAサイクルに「解析」という科学的視点を加えることで、持続的な品質改善につながります。

バイヤー・サプライヤー必見:戦略的優位性を生む“流動解析”

バイヤーの目線から:解析導入工場との付き合い方

バイヤー(調達担当者)にとって、サプライヤーが樹脂流動解析を実施しているかどうかは、品質・納期・価格交渉のカードとなります。

・設計変更提案時の“根拠あるリスク説明”
・歩留まり向上によるコスト低減
・不良発生時の科学的な原因特定と早期再発防止
こうした姿勢を持つ工場・サプライヤーは、信頼性向上とともに競合優位を築くことができます。

サプライヤーの目線から:バイヤーの真の意図を読む

バイヤーは「価格」だけでなく、「安定品質」と「短納期」、「改善に対する実証姿勢」を重視する傾向があります。
樹脂流動解析による“事実に基づく現場改善”を整えることで、価格以外の価値提案(付加価値)をアピールできます。
また、解析報告書や改善事例を積極的に提出することで、「提案型サプライヤー」として評価されやすくなります。

今後の新たな地平:AI・IoT連携と流動解析の発展

樹脂流動解析は今後さらに、AIやIoTとの連携により自動化・最適化が加速していきます。

・過去の解析ビッグデータをAIが学習し、最適条件を自動サジェスト
・IoTセンサーによる実際の成形データがクラウドに蓄積され、次回設計にリアルフィードバック
・設計から量産まで一連の解析フローが自動化された“スマートファクトリー”実現

こうした未来を見据え、今から現場目線で樹脂流動解析を“道具”として使いこなせる人材が、製造業の競争力に直結していきます。

まとめ:現場力×データで拓く製造業の未来

現場の“勘と経験”をベースにしつつ、「樹脂流動解析」という科学的アプローチを武器にすることで、成形不良という長年の聖域に新たな地平を切り拓くことができます。

バイヤーもサプライヤーも、これまでの「付き合い方」や「商談のあり方」を見直し、解析の力を最大限に活かしたパートナーシップを組むことが重要です。
アナログから抜け出せない業界の一員だからこそ、まずは一歩踏み出し、「現場力×データ」の融合を進めていきましょう。
これが、製造業発展の新たなグローバル競争力となるはずです。

You cannot copy content of this page