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組込みソフトウェア開発における開発プロセスと信頼性向上のための留意点

目次
はじめに ― なぜ組込みソフトウェアの開発は難しいのか
組込みソフトウェアの開発現場では、日々さまざまな課題と向き合うことになります。
自動車や産業機械、家電製品など、現代社会の多くの“モノ”が何らかの組込みソフトウェアで制御されているため、不具合や信頼性の低下は事故や大きな損害につながりかねません。
特に製造業の現場では、ハードウェアとの密接な連携やマイコンのリソース制約、長年引き継がれてきたアナログ的な管理手法から抜け出せないという、昭和から続く独特の開発文化が根強く残っています。
今回は、私の現場経験をふまえながら、組込みソフトウェア開発におけるプロセスのポイントと、信頼性向上のために押さえておきたい実践的な留意点を解説します。
組込みソフトウェア開発プロセスの全体像
要件定義 ― 使用者・現場との徹底したすり合わせ
組込み開発の第一歩は「何を作るか」を明確にする要件定義です。
一般的なITソフトウェアと大きく異なるのは、組込みソフトウェアの場合、製品ごとに“最適解”が異なる点です。
操作者(たとえば工場のオペレーターや最終顧客)がどんな動作を求めているのか、現場の管理職として自分で直接ヒアリングし、時に紙図面や手書きの指示書にすら目を通すことが不可欠です。
また、「○○秒で起動して欲しい」「この操作は絶対に誤動作してはいけない」といった現場目線の“暗黙の要求”が多く、単なる仕様書だけでは信頼性の高い開発が難しいのが現実です。
設計 ― ハードウェアとの親和性を最優先に
設計フェーズでは、狭いメモリやCPUパワーの制約、センサー・アクチュエータとのインターフェース、“昔ながらの”多世代混在プラットフォームなど、独特の事情に目を配ることが重要です。
工場現場では、古いライン制御搭載装置との互換性、現場作業員が使いこなせるユーザーIF設計、現行の生産システムへの影響…課題は山積みです。
レガシーなRTOSや、場合によってはアセンブラを駆使した設計に即した柔軟性が必要です。
実装・単体テスト ― 素早くミスを発見・修正できる体制
実装段階で陥りがちな“昭和式手戻り地獄”を防ぐには、継続的インテグレーションと自動単体テストの習慣づけが不可欠です。
現場では「動けばいい」と流されがちですが、バグ修正コストやクレーム対応の大半は初期の“見逃し”の積み重ねです。
組込みでもGitやCIツールを導入し、レビューやテストタイミングを前倒しするのがトレンドです。
統合テスト・システムテスト ― 製品全体の品質を担保
“出荷直前のドタバタ”に泣かされないためには、早期からハード・ソフト統合試験を進めるべきです。
現場独自のツールや治具を用い、実際の生産ライン・現場モックで不具合が露呈しやすいタイミングを計画に組み込むことが信頼性向上の近道です。
組込みソフトウェアにおける信頼性向上の実践的な取り組み
1. バグは現場で“見える化”する
古い体質の現場では「失敗は隠すもの」という空気がありますが、それではミスの再発は防げません。
私は管理職の立場で、“バグボード”“失敗タスク共有会議”を導入していました。
ミスやバグを匿名で書き出し、「なぜ起きた?」「次はどう防ぐ?」を必ず現場メンバーと議論する“オープンな場”を設けることで、同じ失敗の再発が目に見えて減りました。
2. 教科書どおりじゃないテスト手法も大切
たしかに教科書的なテスト(ブラックボックス、ホワイトボックス)は大切です。
ですが、現実の現場では“裏技的”な現場テストも重要です。
具体的には、工場のノイズ環境を模した“ダーティなラインテスト”、現場オペレーターによるランダム操作テスト、真夏・真冬の厳しい温湿度環境下での長期テストなどの「製品の使われ方」を徹底的にシミュレーションします。
トラブルの8割は、“想定外”の現場条件が原因です。
3. ソフトとハードの“壁”を超える文化をつくる
組込み現場の典型的な分断として、ソフトとハードが別々のサイロで動いている点が挙げられます。
昔ながらの組織だと「お互い干渉しない」が美徳とされがちですが、実際の不具合は“両者の隙間”に潜んでいます。
私は、自部署のソフトウェアエンジニアを現場ハード部門の定例会議に参加させ、逆にハード技術者にもソフトレビュー参加を義務付けました。
一人ひとりが“相手領域”に少しだけでも関心を持つことで、大事故を回避できることが多々あります。
4. 過去のトラブル情報を“財産”にする
実は、現場のトラブル記録には“金鉱”のような価値があります。
部品の選定ミス、微妙なバージョン不整合、製造現場からしか見えない“クセ”…
私は自社の過去トラブル事例をデータベース化し、新プロジェクト開始時に必ずレビューする運用を作りました。
また、サプライヤーにも過去トラブル例を共有し、“他山の石”にしてもらうことで現場トラブルの全体最適化を目指しています。
5. サプライヤーとの“本当の協業”がカギ
多くのサプライヤーは「図面どおり」「仕様通り」だけを責任範疇と考えがちですが、これからの時代は違います。
部品・基板・OSもバラエティに富み、現場レベルの最適化や柔軟対応が求められる時代です。
組込みソフトウェアのバイヤーを目指す方には、単なる“コスト交渉屋”から一歩踏み出し、技術課題や現場事情を理解した上で「パートナー」として提案・改善できる力が武器になると断言できます。
アナログ的な現場文化 vs. 最新の業界動向
組込みソフトウェア開発の現場では、昭和的な管理手法が色濃く残る一方で、IoTやAI、クラウドコンピューティングなど新たな潮流が押し寄せています。
最前線の現場感覚としては、すぐに“全部デジタル化”ではなく、現場で効くアナログ的な地道さ(五感による現場チェックや職人ノウハウの共有)と、新しいデジタル技術のバランスが極めて重要です。
たとえばIoTセンサーで現場データを自動収集しつつ、最後はベテランスタッフが「この数値はオカシイ!」と直感的に気づく“ダブルチェック力”。
これが現場主導でのソフトウェア信頼性向上につながります。
まとめ ― 現場目線の開発プロセスを最強の武器に
組込みソフトウェア開発は、単なる技術スキルだけでは“不十分”です。
現場の業務フローや工場ライン、生産管理体制、調達購買のサイクル…あらゆる側面を多面的に理解し、ラテラルシンキングで課題を解決する意識が極めて大切です。
これからバイヤーや現場技術者を目指す方、サプライヤーの立場からバイヤーの意図を読み取りたい方は、ぜひ“現場の温度感”を知り、自主的に課題解決へ踏み込む姿勢を大切にしてください。
信頼性の高い組込みソフトウェア開発は、昭和のアナログ知と令和のデジタル技術、その両方のバランスに根ざした“現場主義”こそが最強の武器となります。
今後も“現場目線”を忘れず、日本の製造業を進化させていきましょう。
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