投稿日:2025年6月21日

ゴムローラ搬送における摩擦機構とトラブル対策および事例

はじめに:ゴムローラ搬送の重要性と課題

ゴムローラ搬送は、製造業の現場で多くの工程に組み込まれている基本技術のひとつです。

食品、化学、電子部品、印刷、鉄鋼、自動車部品など、ありとあらゆる分野で、原材料や部品、製品を工程間で円滑に移動させるために“ゴムローラ”が大活躍しています。

一方で、ローラと被搬送物との間に生じる摩擦が、品質不良やライン停止、設備トラブルの原因となることも少なくありません。

とくに、保守・管理が属人的になりがちなアナログな業界では、「なぜトラブルが生じるのか」「どう再発防止すべきか」といった本質的な検討が置き去りにされがちです。

今回は、製造現場で20年以上の経験を持つ筆者が、ゴムローラ搬送における摩擦機構の基礎から現場でのトラブル事例、そして具体的な対策に至るまで、実践的な内容をわかりやすく整理してお届けします。

ゴムローラ搬送の基本構造と摩擦のメカニズム

ゴムローラの役割と種類の基礎知識

ゴムローラの搬送は、その名の通り軸に装着したゴム製ローラが回転し、被搬送物を動かすというシンプルな仕組みです。

ゴムの材質や硬度、表面粗さ、形状(ストレート、クラウン、ディスクなど)は、搬送物の種類・サイズ・重量や、搬送速度、設置環境などによって最適なものが使い分けられています。

ゴムローラの「グリップ力」(摩擦力)が強ければ、搬送物をしっかりと確実に運べますが、過度な摩擦は品物の表面に傷を付けたり、ローラの摩耗や発熱の原因にもなります。

逆に摩擦が足りなければ、スリップやジャムといったトラブルを引き起こすリスクが高まります。

この「最適な摩擦係数」をどうやって実現するかが、実は製造業の現場担当者の腕の見せ所とも言えるでしょう。

摩擦のメカニズムと影響要因

ゴムローラ搬送の摩擦は主に静摩擦と動摩擦に分かれます。

静止している時(押し始め)は静摩擦、動き始めたあとは動摩擦が作用します。

一般的に静摩擦係数の方が大きく、動き出しの際に“ガクッ”と立ち上がるような挙動を示すことがあります。

また、摩擦の大小は以下の因子によって左右されます。

  • ゴム材質(天然/合成樹脂、硬度、配合成分)
  • 表面状態(粗さ、加工状態、汚れ、油分などの付着)
  • 荷重(被搬送物の重さ、接触面積)
  • 速度(スリップ速度が速いほど発熱=摩耗が進む場合も)
  • 温度や湿度(季節・環境による影響も大きい)

このように、ローラと搬送物・環境が複雑に絡み合い摩擦が生まれ、さまざまな課題と日々向き合う必要があるのです。

現場で頻発するゴムローラ搬送トラブルの実態

代表的なトラブル事例

ここでは、実際の現場で多発する主なトラブルの実態を紹介します。

1. スリップ(滑り)
ローラと被搬送物の間で適切な摩擦が得られないと、品物が空回りして送られません。
要因はゴムの摩耗、油・ホコリ等の付着、湿度変化など多岐にわたります。

2. ジャム(詰まり)や位置ズレ
搬送物がローラ上で引っかかったり、真正面を保てずに斜めに動く場合です。
主にローラ表面の摩擦バランス不良や、ローラ送り速度の不安定さ、異物混入などが関係します。

3. 摩耗・ひび割れ・発熱
ローラ自身の早期劣化は、頻繁なメンテナンス・交換コスト増の要因です。
過度な荷重や速度、ローラ材質のミスマッチが原因の場合がほとんどです。

4. 品物の汚染や傷
品質不良の最大リスクです。
摩擦が強すぎる場合に品面に筋や傷を残すほか、逆に材料が剥がれて搬送物に付着することもあります。

5. 一次的なライン停止
些細なローラ不具合が全工程の停止・生産遅延を招くケースは稀ではありません。
このとき“なぜ止まったのか”を徹底的に掘り下げる現場体質が問われます。

トラブルが昭和から抜け出せない理由

製造現場の多くは未だに「経験と勘」に頼る傾向が強く、定性的な感覚だけで運用されています。

特に小規模工場や下請けサプライヤーでは「異常が出たらその都度対処」「完全な予防より応急処置」という昭和的体質が根強いのです。

属人的なメンテナンス・知見のブラックボックス化が、デジタル活用やAI化の足かせとなっています。

こうした現状から抜け出すために、今後ますます現場と技術の融合が求められる時代となるでしょう。

摩擦トラブルの根本原因分析と対策

摩擦トラブルの根本分析のポイント

では、実際にトラブルが発生した際、現場で何を調べ、どう判断すればよいでしょうか?

現場のベテランでも見落としがちな“大前提”は以下の通りです。

  • 摩擦係数は常に一定ではなく、経時・環境で大きく変動する
  • ゴム自体の経年劣化(加硫ゴムの硬化/柔化、加水分解など)
  • 品物側(素材や表面コーティング、静電気の有無 etc.)の変動
  • メンテナンス頻度や清掃の質(誰が・いつ・どの水準でやっているか)

徹底的に“現認”し、「何が、いつから、どう変化したのか」「疎かになっている基本動作は何か」を定量的に“見える化”することで、原因特定のスピードと精度が格段に上がります。

摩擦コントロール技術の最新動向

昭和式の感覚値から脱却するために、製造現場では以下のような先端的な対策が進み始めています。

1. 摩擦係数の測定・記録・傾向管理
専用アタッチメントで定期的にローラ表面の摩擦を測り「可視化」することで、設計値からのズレを早期検知します。

2. ゴム材質・配合の最適化
品物特性や搬送速度ごとに摩擦特性の良い配合(シリコーン、NBR、EPDM等)を選び分けます。
表面改質・コーティング処理も有効です。

3. モジュール型のメンテナンス性向上
ローラを分割構造にして、不具合部だけ対処できる設計も増えています。
これによりダウンタイムの大幅短縮が期待されます。

4. 環境センサー、IoTとの連携
温度・湿度やライン速度、加速度センサーの設置で異常値をリアルタイム検知し、AIで予防保全する仕組みも増えています。

5. ローラクリーニング機の導入
従来の手作業・溶剤清掃だけでなく、定時自動クリーニング機を設けることで、表面状態を常に一定に保てます。

現場目線で考える“失敗と学び”の事例共有

失敗事例:摩擦力不足によるライン停止

ある家電部品メーカーでは、ゴムローラ搬送中の供給部でスリップが頻発し、ラインが1日に10回以上停止する事態となりました。

調査すると、ローラ表面に微細な金属粉が付着しており、これが摩擦低下を招いていたことが判明。

従来は簡単なエアブロー清掃だけでしたが、自動クリーニングユニットと摩擦係数モニタリングを導入したことで、不良及び停止件数を95%低減させることができました。

挑戦事例:摩擦力の“過度”による品物傷つき

電子デバイス部品の搬送工程で、表面に微細な傷や筋がつきやすいというクレームが顕在化。

ゴムローラの“グリップ力”を最優先していたのが仇となり、品物表面を巻き込むような擦れ傷が発生していたのです。

ローラの材質・硬度を変更し、さらに表面を超薄膜コーティング(特殊シリコン)で滑らかにして摩擦力を抑制した結果、傷の発生が9割減少し、顧客クレームゼロを実現しました。

これからの現場・バイヤー・サプライヤーの視点とは

バイヤーが知っておくべき調達の“目利き”ポイント

バイヤーに求められるのは、ローラ仕様書の数値にとどまらず、「現場でどんな摩擦トラブルが起きやすいか」「納入後もしっかり技術サポートできるか」を見極める力です。

ゴムメーカー・加工業者の“対応力”(試作への柔軟性、トラブル情報提供、納期短縮対応、品質保証体制など)は最重要の選定材料です。

サプライヤー目線で知っておきたい現場事情

サプライヤーにとっては、「コスト競争力」「素材物性」「納期遵守」だけでなく、現場の困りごとに即したきめ細かい対応力が求められます。

例えば“定期的な摩擦値のサンプル測定サービスの提供”や“摩耗・摩擦異常アラートを与えるIoTサービスの導入支援”など、それぞれの現場課題に寄り添ったサポートが顧客との信頼構築につながります。

まとめ:ゴムローラ搬送の摩擦管理から製造業の未来へ

ゴムローラ搬送の摩擦管理のノウハウは、目立たないようでいて、製造ラインの安定稼働と品質保証の大黒柱です。

トラブルを未然に防ぐ「見える化」の徹底、サプライヤーと現場の密な連携、摩擦コントロールの技術革新が、今後さらに重要になるでしょう。

“昭和の勘”から“データと科学に裏打ちされた現場力”へ転換することこそ、日本の製造業がグローバルで勝ち続けるために必要不可欠です。

バイヤー、サプライヤー、現場のすべてが共通言語でつながり、よりよいものづくりに挑戦し続けましょう。

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