投稿日:2025年6月21日

信頼性設計の基礎と信頼性解析FMEA FTA VTAの実務への応用

はじめに:いま製造業に求められる「信頼性」へのアプローチ

製造業の現場では機械や製品の故障、不良による損失への対応が日常業務の一部となっています。
しかし、昭和の時代から続く「突発トラブルへの現場力頼み」「点検と経験に依存した品質保証」では、グローバル競争の中で顧客からの要求に応えることが難しくなっています。

今、なぜ「信頼性設計」が重視されているのか。
その答えは、「起きてから対処する」ではなく、「未然に不具合を防ぐ」ことがコスト削減や品質向上、納期厳守といった製造業の命題に直結するからです。

本記事では、現場経験に基づく実践的な視点で信頼性設計の基礎を解説しつつ、FMEA、FTA、VTAという信頼性解析の代表的三手法を具体例とともに紹介します。
また、バイヤー・サプライヤー間の関係、部品調達・設計における信頼性手法の活用実態、そして昭和のアナログ思考から抜け出せない現場が実際にぶつかる壁と打開策まで掘り下げていきます。

信頼性設計とは何か? - 昭和のアナログ現場からの脱却

製造業界で長年使われてきた「設計図通りにつくる」「使ってみて壊れた部分を直す」というやり方。
このアプローチは現場の柔軟な対応力によって支えられてきました。

しかし、今の時代、品質事故は国内のみならず、グローバルサプライチェーンを瞬時に停止させ、多額の損失や信頼失墜をもたらします。
「壊れてから直す」のでは遅すぎる時代になったのです。

信頼性設計とは、初期段階から製品が本来果たすべき機能を、必要な期間・環境下で安定して提供できるよう設計に落とし込む思想とプロセスです。つまり、「何が危ないか」を予測し、「どうやってそのリスクを低減するか」「それでもどうしても残るリスクをどう管理するか」を、定量的・系統的に考えることです。

この発想の転換が、熟練作業者による現場力頼みから、「学びと再発防止を積み重ねて、不良や事故自体を減らす」新しい地平を現場にもたらします。

信頼性設計の三本柱

1. 事前予測とリスク評価(壊れる前にリスクを洗い出す)
2. リスク低減策の実装(設計・工程・部品選定のどこで対処するか決める)
3. フィードバックループ(実績から設計・工程へ学びを還元する)

この三本柱を、ただのお題目にしないために「信頼性解析手法」の活用が不可欠となるのです。

FMEAとは何か? ― 現場の“見えない不具合”をあぶり出す武器

FMEA(故障モード影響解析)は、製造業で信頼性設計を行う際に最も広く用いられる手法です。

FMEAの基本理解

FMEAは、悩みの種となる「もし〇〇が壊れたらどうなる?」を徹底的に洗い出してリスク評価する方法です。
たとえば自動車のブレーキ装置であれば、ボルトの緩みや油圧系の漏れ、電子回路の断線など、あらゆる“潜在的不具合”について、

– それが起こる原因は何か
– 起こる頻度はどの程度か
– 不具合が発現した場合の影響度は
– 製造後、検査や現場ではその不具合を簡単に発見できるか

これらをシートに書き出し、「重要度(RPN:Risk Priority Number)」を数値化していきます。
そして優先度が高い不具合については、設計段階で対策を義務付けます。

現場でのFMEA実装のポイント

FMEAを本当に現場の価値に変えるには、単なる書類作業ではいけません。
「実際に過去どのくらい不良が発生していたか」「想定だけでなく実際の現場ヒヤリ・ハット事例も洗い出す」「サプライヤーを巻き込み、部品レベルのFMEAまで展開する」が重要です。

昭和から続く“後追い対処”から脱却し、現場スタッフも自分ごととして取り組むFMEAが、製品クレームや大事故の抑止力になります。

FTAとは何か? ー 論理的な“なぜなぜ”で根本原因に迫る

FTA(故障の木解析)は、「ある重大事故・不良が発生したとき、どのような要因の組み合わせでそれが起きるのか」を、ツリー状に分解して分析する手法です。

FTAの活用場面

たとえば、工場の生産ラインが停止した場合、その原因が
– モーター故障
– センサのエラー
– 電源系のトラブル
など、複数のパスが考えられます。

FTAでは「停止」というトップイベントを設定し、それを引き起こす直接原因、さらにその原因となる要素(人的ミス、設計上の弱点、サプライヤー部品不良…)を分岐させてツリーを作ります。
このツリーは“見落としがちな隠れたリスク”を可視化し、重点的に対策すべきポイントを明らかにしてくれます。

FTAの価値:バイヤー・サプライヤー関係でも力を発揮

「この部品がなぜ必要条件なのか?」「どこを“ボトルネック”と見なすべきか?」
こう説明できるFTAがあることで、バイヤーはサプライヤーへの要求根拠をきちんと提示でき、サプライヤーも自分たちの部品が最終製品のどこにどう影響を及ぼすかを理解できます。

根拠ある議論が、責任の曖昧化や「丸投げ発注」文化からの脱却に繋がります。

VTAとは何か? - コストと価値を両立させる視点

VTA(Value Tree Analysis)は、日本ではあまり知られていませんが、価値(Value)を「コスト/機能」と定義し、部品や工程を機能単位で分解することで「余計なコスト負担なく、必要十分な機能を満たす」を実現する手法です。

VTAの実践:バイヤーの腕の見せ所

VTAを活用すると「なぜこの部品が高コストでなければいけないのか」「どこまで機能を削っても安全性・信頼性に影響しないか」検証できます。

たとえば金属加工品の精度“過剰スペック”問題。
現場では「なんとなく従来通り」の寸法公差が指定され続け、コスト上昇に無自覚な設計担当者が少なくありません。
VTAの導入により、要素ごとの“価値とコスト”を明確化して、本当の意味で合理的な設計・調達が可能となるのです。

この視点を持つことは、予算重視のバイヤーにも信頼性第一の設計担当にもともにメリットとなります。

バイヤー・サプライヤーが知っておくべき「現場の現実」 ~昭和からのギャップとそれを乗り越えるために~

製造業の現場では、信頼性手法の導入が“形骸化”してしまうケースが少なくありません。
– 実務担当者が「FMEAは単なる形式作業」「結論ありき」の“お作法”になっている
– サプライヤーは「客先の言いなり。自分たちで真剣に考える文化が根付かない」
– 中堅・ベテラン層が「昔からこうやってきた」「不良ゼロはありえない」と増やす“現場のあきらめ”

このギャップを乗り越えるためには、
– プロセスのなぜを深堀りし、現場スタッフの気づきをFMEA・FTAに反映させる仕組み
– サプライヤー自体が“自分の頭で考えてリスク対策を提案”できる体制
– 上層部が現場不良・トラブル事例の「見える化」とフィードバックを徹底、守りの品質文化を根付かせる
こうした文化変革が求められています。

信頼性設計・解析を「実務力」に変えるために-私の現場経験から

私自身、工場長・品質管理責任者・調達担当として現場でFMEA/FTA/VTAを現場展開してきました。
その中で実感した「地に足の着いた成功要因」を紹介します。

1. 過去トラブルの徹底洗い出しと、現場ワーカーの声の吸い上げ

困りごとは現場に必ずヒントがあります。
「なぜ、どうして(なぜなぜ分析)」を繰り返し、“予想外”だった不具合も積極的にリストアップ。
FMEA・FTAには、机上だけの議論でなく、実際の現場ヒアリングを盛り込むことを強く推奨します。

2. サプライヤーを巻き込んだ共創的FMEA/FTA

「お客様(バイヤー)から言われたからやる」ではなく、「自分たちが責任を持って納入品質を担保したい」というサプライヤーマインドの育成。
協力会社メンバーとのワークショップや、共同レビュー、共通FMEAシート作成で“壁”を溶かすことがクレーム未然防止に直結します。

3. “完成度8割”でもまず回す。小さく始めて改善・拡張

初めから完璧なFMEA/FTAを目指すと、形骸化・属人化の罠にはまります。
まずは簡易版でも動かして成果が出るところまで運用。
そこから現場フィードバックで精度を高める「改善型運用」が、最終的な定着・レベルアップにつながります。

まとめ:信頼性設計—現場力と論理思考の融合こそが日本の製造業を強くする

信頼性設計の基礎となるFMEA/FTA/VTAの各手法は、単なるお作法やお守りではありません。
“起きてから対処”のアナログ文化を進化させ、“起きる前にルールで縛る”のでもなく、
「現場の弱点を見える化」し、「設計・調達・現場が共にリスクを減らしていく」ために不可欠な道具です。

バイヤー、サプライヤー、現場担当者、それぞれが自分ごととして信頼性設計に携わることで、“起きてしまった品質事故”の再発防止を超え、“未然に事故をなくす”ことができるのです。

今こそ、昭和から受け継いだ“職人芸の現場力”と、データや論理的手法を本気で融合させましょう。
その文化こそが、他国の模倣ではたどり着けない“日本の強さ”の源泉となるはずです。

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