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医薬品医療機器等法に対応したソフトウェア開発とそのポイント

目次
はじめに:医薬品医療機器等法とデジタル化の波
製造業の世界では、近年デジタル化が急激に進んでいます。
その一方で、特に医薬品や医療機器の分野では、厳格な法令遵守が求められます。
2021年改正以降、医薬品医療機器等法(薬機法)はソフトウェア単体でも医療機器としての規制対象となりました。
この変化は、これまで昭和型のアナログ管理が根強く残っていた業界にも大きなインパクトを与えています。
本記事では、法令対応のポイントと、現場で真に役立つ実践的なソフトウェア開発・導入のノウハウについて解説します。
医薬品医療機器等法(薬機法)対応が求められる背景
なぜ今、薬機法対応ソフトウェアなのか
AI・IoT・SaaSなど情報技術の発展により、製造現場でもソフトウェア制御された装置やクラウド管理システムが当たり前になりました。
その中で、医療機器や医薬品の品質・安全確保という観点から、「ちょっとした不具合」が重大事故の原因となるリスクも高まってきました。
そのため、国もソフトウェアそのものを医療機器として認証・管理する仕組みを強化しています。
薬機法規制の及ぶ範囲
例えば以下のようなソフトウェアも薬機法の管理下となります。
・「診断」や「治療・予防」を目的とするアプリやクラウドシステム
・医療機器本体と独立して販売される診断アルゴリズム
・工場の製造記録や品質記録のクラウド管理サービス(GMP/EPR対応等)
一方で、単に業務効率化や情報提供を目的とするシステムは規制の範囲外となります。
この線引きが極めて重要です。
薬機法対応ソフトウェア開発の基本的な流れ
1. 要件定義とリスク分類
まず、「自社のソフトウェアやシステムが薬機法の管理対象かどうか」を明確に分類します。
医療用途か、一般業務用途か、それぞれの業務影響やリスク度合いで適用法令・基準が大きく変わります。
この段階で、現場の業務フローや機器構成と照らし合わせて抜け漏れなく要件を整理することが不可欠です。
バイヤー目線で言えば、「本当にこのソフトウェアで法的要件を満たせるのか」「必要な認証・審査コストはどれくらいなのか」など、現実的な観点で冷静なジャッジが求められます。
2. 設計~開発プロセス
GMP(Good Manufacturing Practice)やQMS(品質マネジメントシステム)の要所に沿った開発体制が必要です。
主なポイントは
・設計文書化(設計書、仕様書、FMEAなどリスク評価資料)
・ソフトウェアバリデーション(設計意図通りに動作する証明)
・トレーサビリティの確保(設計変更の履歴、試験の記録管理)
アジャイル開発が主流となる現代でも、医療業界では「なぜこうなったのか」すべての根拠を説明できる設計思想が重視されます。
3. 社内外コミュニケーション&サプライヤー対応
現場で多いのは、部品サプライヤーやソフトウェア開発会社とメーカーの間で認識のズレが生じるパターンです。
外部ベンダー任せにせず、「自社の法的な責任はどこまでなのか」を常に意識し、サプライヤーにも明確に要件を伝える姿勢が問われます。
バイヤーを目指す人は、単なる「発注・検収」だけではなく、ソフトウェアのリスク設計(セキュリティ/誤動作/トラブル時の責任分界点)にも積極的に関与する必要があります。
現場目線で見直すべき、昭和的アナログ管理からの脱却ポイント
紙運用からのデジタル化は「写し替え」ではない
多くの現場では、いまだに紙ベースの承認・記録とエクセル転記の二重管理が根強く残ります。
薬機法対応ソフトウェアの導入を単なる「紙→デジタル化」だと誤解すると、本質的なリスク低減や効率化は実現できません。
例えば「電子記録・電子署名(ERES)」基準への対応や、データ不正・改ざん・逸失リスクに対する設計思想が重要です。
PDCAサイクルは“記録”から“改善”へ
昭和的な現場では「記録を残すこと」が目的化しがちです。
しかし、薬機法対応のシステムでは、記録の真正性証明・改ざん防止・変更履歴管理が義務付けられています。
単なる記入・保管から、「記録データを基に業務改善を推進できる仕組み」への転換が真の意味でのデジタライゼーションとなります。
サプライヤー・バイヤーそれぞれの視点で押さえるべきポイント
サプライヤー:顧客のリスク・責任範囲を正しく把握
サプライヤーの立場で重要なのは、「自社製品のどこまでが顧客の法令対応に責任を持てるか」をクリアに説明できることです。
例えば、医療機器メーカー向けにクラウド型品質管理システムを提供する場合、自社が担保するバリデーション範囲、個人情報の取り扱い方針、障害発生時の対応基準など、契約書レベルで明文化しましょう。
バイヤー:外部委託の“丸投げ”は厳禁
現場で失敗しがちなのは、法令対応を全てシステムベンダーに任せてしまうことです。
最終的な法令遵守責任は「ユーザー企業側」にあります。
導入前には
・ソフトウェアの設計・改修履歴やバリデーション証明
・万一法令違反が発覚した場合の責任分担
・電子保存データの保全体制(バックアップ・災害対策・データ移行計画)
などを必ず事前確認し、運用開始後も自社内で継続的なレビュー体制を整えるべきです。
AI時代の薬機法対応と今後の展望
今後は、AIをはじめとした高度なソフトウェアが医療機器にも積極導入されていく流れが加速します。
AI診断支援システムやロボット制御などは、精度向上・効率化だけでなく、ブラックボックス化・説明責任が大きな壁となります。
薬機法や関連ガイドラインも急速にアップデートされていきますので、最新動向のウォッチだけでなく、社内に法令対応できるスキル・人材を持ち続けることが生き残りのカギとなるでしょう。
まとめ:地に足のついたデジタル化で現場を強くする
薬機法対応ソフトウェア開発・導入は、単なる「法令対応」や「IT化」と捉えるべきではありません。
現場の業務オペレーションの本質を理解し、リスクベースでPDCAサイクルを回せる強い現場こそ、デジタル化を成功に導きます。
サプライヤーは「顧客の責任範囲を明確に理解し、信頼を担保する」。
バイヤーは「購買・導入後も絶えず業務改善と法令ウォッチを続ける」。
そうした新しい価値観こそが、令和時代の製造業をアップグレードしていく原動力です。
昭和から令和への転換期。
現場で培った叡智とテクノロジーを最大限活用し、日本の製造業に新たな地平線を切り拓いていきましょう。
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