投稿日:2025年6月22日

分かりやすいシステム同定の基礎講座

分かりやすいシステム同定の基礎講座

システム同定――このキーワードは、製造業において近年ますます重要度を増しています。
IoTやAIが進化し、情報のデジタル化が進むなかで、昭和的な経験やカン頼みのアナログ管理から脱却する切り札としても注目されています。
それぞれの「現場」では、「なんとなくこうすれば上手くいく」という職人芸も確かに大事です。
ですが、これからの時代を生き抜くためには、再現性とデータに基づいた管理が欠かせません。
ここでは、「システム同定」について、現場感覚と理論のバランスを大事にしながら分かりやすく解説していきます。

システム同定とは何か?

システム同定とは、対象とする設備やプロセス(システム)が、どのような応答特性を持っているのかをデータから明らかにする技術です。
もう少し平たく言えば、「この装置にこういう指令を出したとき、一体どう動くのか?」という因果関係を“数式”や“モデル”として表現する作業です。

製造業の現場では、伝統的に経験知やライン長の勘に頼ることが多く、装置やプロセスが何となく動いている状況がほとんどです。
しかし、環境規制や納期、品質の要求が高まる中で「なぜそうなるのか」を説明できることが求められるようになっています。

なぜ今、システム同定なのか

現場が置かれている環境は、少子高齢化による人材不足、グローバル化、複雑化するサプライチェーンなど、昭和の発想では対応しきれない領域になりつつあります。
それに加え、トラブル発生時に「原因がよく分からない」まま場当たり的な対策に追われてはいませんか?
データに基づく仕組み(システム)を正確に認識し、効率的な運用やトラブル未然防止を図るために、システム同定は避けて通れない“成長痛”ともいえるでしょう。

システム同定の基本的な流れ

システム同定は一部の理系エンジニアだけのものではありません。
購買部門や生産管理部門、品質管理、サプライヤーにも関わる重要な考え方となっています。
まずは体系的なアプローチを解説します。

1. システムの定義と目標設定

システム同定の最初のステップは、「どのプロセスや装置を対象にするのか?」を明確にすることです。
たとえば、成形機の温度制御、ロボットアームの動作精度、生産ラインのタクトタイムの最適化など、対象を具体化します。
次に、何を明らかにしたいのか――制御特性を知りたいのか、将来の不良発生リスクを減らしたいのか、目的を設定します。

2. データ収集

適切なデータがなければ、どんなに高度なアルゴリズムを使っても正しいモデルは得られません。
頻繁なサンプリングやノイズ除去、センサーの校正など、地味な作業が必要ですが、ここを疎かにすると後の作業が全て無意味になります。
現場の“生きた情報”――手書き日報や異常記録もヒントになることがあるため、デジタル・アナログ双方をうまく活用しましょう。

3. モデルの選択(構造とパラメータ)

現象をどんな数学的枠組みで表すか、ここがラテラルシンキングの発揮どころです。
線形モデル(例:伝達関数、状態空間モデル)や、非線形モデル(例:ニューラルネットワーク、ファジィ推論)などがありますが、まずは簡単な一次遅れモデルなどから始めるのがおすすめです。
難解な理論よりも、「現象をどこまで許容できる精度で再現したいか」を切り口にしましょう。

4. モデルパラメータの同定

集めたデータをもとに、目標となるモデルのパラメータ(例えば、時間定数やゲインなど)を推定します。
これには最小二乗法や最尤推定法といった統計的手法がよく使われます。
最近ではExcelなどの表計算ソフトでも簡易的なフィッティングが可能なため、特別なプログラムをご用意いただかずとも応用できます。

5. モデルの検証と妥当性確認

現場で役立つモデルか、を確認するには実際の制御やシミュレーションに組み込み、予想される応答と実測データを比較してください。
ここで重要なのは「100%の再現」などを目指さないことです。
むしろ「現場で何が再現できていないか」を洞察し、運用にフィードバックすることが成長ポイントになります。

システム同定の現場導入で得られる3つのメリット

購買、品質、生産管理、サプライヤーの皆さんそれぞれに役立つ具体的なメリットを見てみましょう。

1. 問題解決力の飛躍的な向上

装置や工程が「何にどれくらい影響されているのか」を把握できれば、トラブル時の原因究明が格段に早くなります。
従来の場当たり的対応から脱却し、根本にアプローチできるようになります。

2. コスト削減と省人化

正確なモデルがあれば、設備の無駄な稼働や資材ロスを事前に回避できます。
また、経験者の勘に依存することなく“誰でも再現できる設定”が作れるため、省人化や技術継承に大きく貢献します。

3. サプライヤー評価や選定の合理化

サプライヤーからの納入品や素材が工程に与える影響を定量的に把握できるため、客観的かつ納得感のある評価・交渉が可能です。
また、仕入先のプロセスが何に弱いかを見抜けるようになれば、歩留まりや品質事故の未然防止にもつながります。

昭和的現場文化とのギャップと対処法

システム同定という考え方は、日本のアナログな現場と相性が良くない、と感じる人も多いでしょう。
「職人の勘」や「先輩の背中」を否定するものではなく、むしろ一人ひとりの知恵やノウハウを「再現可能な知」に昇華するものです。

現場で浸透させるコツとしては、まず“今のやり方”で困っている具体例(品質不良、納期遅れ、不良率高騰など)を洗い出し、そこに小さなモデル同定を導入して勘所を掴ませることが有効です。
一度「数値化による安心感」や「再現性の高さ」を体感すれば、意外と反発は小さくなります。

未来志向のシステム同定~AI・IoTとの融合

最新の製造業DXでは、現場データの自動収集やAIによる予知保全、リモート操作が進んでいます。
しかしAIもシステム同定の発想が分かっていなければ「ブラックボックス」になり、使いこなせずに終わってしまう場合がほとんどです。

人がモデルを理解し、データの意味を解釈する力と、AIの学習能力を組み合わせることで、はじめて“現場を止めない強い工場”が完成します。
つまり「システム同定の基礎」を知っていることが、AI時代のバイヤーや現場リーダーの必須素養となりつつあるのです。

まとめ:現場発・知的経営のスタートラインとして

システム同定は決して難解な理論だけの世界ではありません。
「今ある現場の困りごと」「仕入先との交渉」「品質クレームの削減」といった、現場で毎日直面している課題に、着実に応用できる道具です。

今日から使える“現場視点でのシステム同定”を実践することが、生産性向上・コスト削減・人へのやさしさに直結します。
バイヤーも、サプライヤーも、生産・品質の管理者も、「システム同定」の基礎をぜひ自分ごととして取り組んでください。

未来の工場は、勘と根性“だけではない”、確かな知恵とデータがものをいう時代です。
今この瞬間から、新しい視点を現場にインストールしてみませんか?

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