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医療機器開発者のためのレギュラトリーサイエンス基礎とリスクマネジメント実務

目次
はじめに:変革期を迎える医療機器開発現場とレギュラトリーサイエンス
医療機器開発の現場は、近年めざましい技術革新と規制環境の変化に直面しています。
さらに世界的な高齢化の進展、パンデミック対応、デジタルヘルス、AI・ロボティクスの活用など、医療機器に求められる役割と品質・安全性のハードルも日々高まっています。
かつて昭和の時代から続く“現場感覚重視”のアナログ体質を色濃く残してきた日本の製造業現場も、グローバルで厳格になる規制や規格への対応を怠れば、もはや生き残れない時代です。
この現状を突破するために、今、開発現場で必須とされるのが「レギュラトリーサイエンス」と「リスクマネジメント」の実務理解です。
この記事では、医療機器開発に携わる方・調達購買職を目指す方・サプライヤーとして顧客(バイヤー)の視点を知りたい方に向けて、
現場実務の観点からレギュラトリーサイエンスの基礎とリスクマネジメントの“本当の実務”を整理し、実践的な知見を共有します。
医療機器開発におけるレギュラトリーサイエンスとは何か
レギュラトリーサイエンスの目的と現場の役割
レギュラトリーサイエンスとは、医療機器開発や製造、流通、販売などの各工程で、人の命や健康に直結する製品の安全性と有効性を、科学的根拠と法規制の両面から証明し管理するための体系的な知識です。
現場の担当者が「この材料で問題ないだろう」「過去も大丈夫だったから」といった経験則だけで判断することは、規制当局や顧客からの信用失墜につながりかねません。
製品設計やバリデーションにおいても、“なぜその方法を選び、どう検証したか”を数値や資料で説明できることが強く求められます。
日本と海外の法規制トレンド:知っておきたいポイント
医療機器は日本では「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(いわゆる薬機法)、海外ではFDA(米国)、CEマーキング(EU)など、多種多様な規制への適合が必要です。
最近は、サイバーセキュリティやAI搭載医療機器など、新しいテクノロジーへのガイドラインが次々と追加されており、過去の知識だけでは対応しきれません。
また、製品のグローバル展開を目指す際には、ISO13485やMDSAPなど国際規格を満たすことが前提条件となりつつあります。
リスクマネジメントの基礎:なぜ今、現場で重要なのか
リスクマネジメントとは何か、なぜ求められているのか
リスクマネジメントは「発生し得るリスクを事前に分析・評価し、許容できるレベルまで組織的に管理・低減する」プロセスです。
特に医療機器業界では、人命に直結するため「逸脱(Deviation)」や「ヒューマンエラー」が大きな被害につながる可能性があります。
ISO14971(医療機器—リスクマネジメントの医用工学応用に関する要求事項)はグローバル標準となっており、現場のリスクアセスメント工程は製品化だけでなく、サプライヤー選定や工程変更、資材購買時の重要判断材料にもなっています。
現場で巻き起こる“思い込みリスク”をどう防ぐか
製造現場では経験豊富なベテランの意見が重視されがちです。
しかし「今まで問題なかった」という過信が最大のリスク要因になることは、過去の重大事故からも明らかです。
工場長や品質保証責任者として、
・現場ヒアリング
・過去トラブルの棚卸し
・外部有識者や規制当局との連携
など、日常から“違和感”を見逃さない構造をどう実装するかが、強い現場作りの鍵となります。
リスクアセスメントの実務とPDCAサイクルの定着
リスク評価のマニュアル化・文書化のポイント
リスクアセスメントのマニュアルやチェックリストは、汎用テンプレートを流用するだけでは意味がありません。
自社の固有工程や製造装置、サプライヤー特有のリードタイム、設備の老朽化状況、過去の不具合パターンなど「生きた現場知見」を組み込むことで、初めて実効性が生まれます。
特に、下請けやサプライヤーの協力を得る場合は「なぜこのルールが必要なのか」「要求内容の背景となる事故例」まで噛み砕いて説明し、全員が納得できる“自分ごと化”が成功のポイントです。
現場主導のリスク管理PDCA:最初は小さな改善で良い
リスクマネジメントは一度の評価で終わるものではありません。
実際の現場では
「新素材導入を検討する時」
「サプライヤーを変更する時」
「工程の自動化を導入する時」
など、さまざまな場面で都度PDCA(計画・実行・評価・改善)サイクルを地道に回すことが不可欠です。
現場の小さな気付きやアイディアを拾い上げ、修正点が見つかればすぐに手順書をアップデートする。
古いルールに漫然と従うのでなく、“地道な棚卸し”と“継続改善”の文化を定着させていくことが全社の品質と信頼につながります。
サプライヤーとバイヤーの信頼関係とリスク分散
購買担当視点から見たリスクマネジメントの要点
バイヤーとしては、サプライヤーを選定する時「品質」「信頼性」「納期遵守」「緊急時の対応力」など多くの観点でリスク評価を行います。
この時、ISO13485やISO9001の認証有無、監査体制、過去の実績だけではなく、
・どれだけ自社の要求事項を深く理解し行動できているか
・潜在リスク(例:部材の一極化・老朽設備)をどう管理しているか
など現場の“人”の実務能力が強く問われます。
購買・調達担当が「サプライヤーと共に育つ・守る」というパートナーシップを意識することは、
自社品質リスクの低減、万一のサプライチェーン断絶に対する回復力向上にも直結します。
サプライヤーから見たバイヤーニーズの理解
サプライヤーは、単なる「価格競争力」や「納期遵守」だけではなく、
・医療機器業界独特のリスク意識
・対応力(緊急時のバックアップ計画や臨時対応能力)
・トレーサビリティ確保、工程改善の提案力
などが強く評価される傾向にあります。
バイヤーが何に困っていて、どんなリスクを最小化しようとしているのか――。
この部分を理解し、先手で可視化・提案できるサプライヤーが、競合他社に比べて大きな信頼を得る時代です。
まとめ:これから求められる「現場主義+レギュラトリーサイエンス」
医療機器開発の世界では、単なる現場対応力だけでは勝ち残れません。
法規制順守とサイエンティフィックなリスクアセスメントを両立し、常にルールと現場をつなぐ実務家がますます求められています。
調達やサプライヤーといった川上・川下の立場を問わず、「知識」と「現場の生きた気付き」を結ぶ架け橋となれる人材こそが、これからの医療機器業界の主役です。
AIやIoTの導入が進み、DXが加速する中でも、昭和から積み重ねてきた現場主義に“レギュラトリーサイエンス”の視点を組み合わせる――。
新たなモノづくりの地平線を、現場の皆さんとともに開拓していきましょう。
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