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伝熱と熱回路網の基礎を活かした放熱設計とシミュレーション実習

目次
はじめに:製造業の現場で求められる放熱設計の重要性
製造業の現場では、電子機器や高性能装置の高集積化が進み、放熱設計の質が問われる場面が増加しています。
昭和時代のアナログ製造業は「ものづくり」の一辺倒で進みましたが、今や“熱設計”は性能と信頼性の根幹を支える重要テーマと言えます。
特に、品質不良によるリコールや納期遅延は事業に甚大なダメージをもたらします。
現場で生きる知恵として、伝熱の基礎理論を押さえ、熱回路網を活用することで現実的で高効率な放熱設計が行えます。
今回は、放熱設計を現場に即して実践するための「伝熱基礎」「熱回路網法」「シミュレーション活用術」について解説します。
伝熱現象の基礎理解:三つの主要プロセス
伝導熱とは
伝導は、物体内部や接触面を通じて熱が高温側から低温側へ流れる現象です。
たとえば、ヒートシンクや基板、機器筐体を介して生じる温度差が伝導熱のメカニズムです。
伝導率(熱伝導率)は材料ごとに大きく異なり、アルミや銅は高く、樹脂やガスは低い値となります。
現場では部品選定や組付けで伝導経路を制御することが品質の鍵となります。
対流熱の基礎
対流は、流体(空気や水など)の動きによって熱が移動する現象です。
自然対流と強制対流があり、ヒートシンクに送風ファンを当てるなどの工夫が強制対流となります。
現場では筐体の配置や換気設計、ファン選定の方針決定に不可欠な知識です。
放射熱の基礎
放射は温度の高い物体が赤外線などの電磁波として直接、他の物体に熱を伝える現象です。
高温機器や野外設置製品では無視できない要素となります。
表面処理や遮熱パネルの導入は放射特性をうまく利用した放熱手法です。
熱回路網法を活かした放熱設計の勘どころ
なぜ熱回路網法が現場で役立つのか
熱回路網法とは、複雑な伝熱現象を“電気回路”と同じように整理し、各経路の伝熱抵抗や熱流束を計算する方法です。
現場で多用される理由は、見積もりが早く、複数候補案の比較検討が容易という利点があるためです。
設計初期の概算やサプライヤー提案の妥当性評価に適しています。
実践例:ヒートシンク+サーマルグリス+筐体の事例で考える
たとえば、パワーデバイスの放熱経路を考えます。
デバイス~サーマルグリス~ヒートシンク~筐体~外気、という複数の経路で構成されます。
それぞれ材料特性や面積から伝熱抵抗を算出し、全熱抵抗の合算(直列回路)として全体の温度上昇量を見積もります。
弱点となる箇所(例:グリスの塗布ムラ)が顕在化しやすく、現場改善に直結する情報が入手できます。
現場目線のコツ
・必ず「熱源-外部への終点まで」全ての経路を細かく書き出し、漏れが無いか確認する
・材料毎のデータは最新カタログ値を参照し、複数サプライヤーの違いにも気配りする
・図面上の熱経路と、実装後の実態(取り付け精度や接触不良)とのズレを意識しておく
熱回路網法は、現場の仮説検証サイクルを素早く回すための必須スキルです。
最新動向:シミュレーション技術とアナログ現場の融合
シミュレーションの進化と活用のメリット
近年、熱流体解析(CFD)や有限要素法(FEM)など、放熱設計での数値シミュレーション技術が急速に進化しています。
従来の「経験+勘」の領域をデジタルで補うことで、複雑な熱伝達プロセスも見える化できる時代になりました。
バーチャル試作で開発期間短縮、部品点数削減、設計初期の値決め精度が大幅に向上しています。
現場が抱える葛藤と落とし穴
一方、シミュレーション頼みで設計を進めると、机上の空論・理想化モデルに陥る場合も多く見受けられます。
例えば…
・サプライヤー側の実測データや生産公差を加味しきれない
・モデルの境界条件が現場の空調や設置環境と乖離する
・旧来の設計担当者や現場オペレーターと意思疎通が取りにくい
こうしたギャップが、不良品の発生や設備稼働率低下の原因となりがちです。
現場力とデジタル技術をハイブリッド化するには
・シミュレーション結果を必ず現場の実測(温度ロガー、サーモグラフィー等)で検証する
・異常値や想定外の現象が発生した際は、現場メンバーと一体で原因追求を行い知見を共有する
・現場の手作業、非定常なイレギュラーも反映したモデル化を心掛ける
これらの工夫でアナログ業界の地力とデジタル工具を高次元で融合できます。
サプライヤーとバイヤーの目線:課題・コミュニケーションの実際
バイヤーが求める「放熱設計」要求水準と期待
産業機器や自動車部品のバイヤーは、コストパフォーマンス・信頼性・短納期の三拍子を強く要求します。
単なる“仕様の合致”だけでなく、
・過酷な環境下での耐久性(熱サイクル、外乱の加味)
・不良リスクの未然防止(「もしも」の故障モード理解)
・量産立ち上げ時の調達安定性、
など多岐にわたります。
サプライヤーの立場から見たバイヤーの本音
サプライヤーとしては「仕様通り」に加えて「設計意図」や「開発の背景」を知り、信頼度を上げたいものです。
・何が要注意ポイントなのか
・事前のリスク洗い出し方法
・“もしもの際”に備えた代替案や過去トラブルの情報
これらを積極的にバイヤーへ聞き、ニーズの深掘り、技術提案への昇華を目指すと信頼関係が加速します。
現代のものづくりは、サプライヤー・バイヤーの立場を超えて“課題を一緒に解決する伴走者”となることが最善策です。
昭和から続くアナログ思考との融合
現場には今なお「過去の経験」「紙図面のメモ」「意匠や手触り」といったアナログ的知見も強く残っています。
これらをデジタル設計結果に上手く肉付けすることで、抜本的な品質向上や差別化が図れます。
例えば、
・職人が見る“焼け色や臭い”による異常検知
・リアル現場でしか感じられない微妙な温度ムラ
こうした“生きた現場情報”をバイヤー・設計者・サプライヤーで共有し合うことが、競争力強化には不可欠です。
まとめ:実践力を磨き続けるために
放熱設計は単なる理論や数値計算にとどまりません。
現場で鍛えられた「伝熱の基礎理解」と「熱回路網の活用力」に、最新のデジタルシミュレーションや現場対応力を融合させることが、問題解決の王道です。
サプライヤー・バイヤー双方の立場を理解し、繰り返し実践し、現場・設計・調達がワンチームになって問題にあたる姿勢が、持続的な事業成長につながります。
昭和的な職人知と最新技術の両輪を活用し、新たな価値を一緒に創造していきましょう。
放熱設計・伝熱シミュレーションの最前線は、あなた自身の現場から始まります。
今こそ、思考を広げ、現場で実践し、製造業の地平を共に切り拓きましょう。
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