投稿日:2025年6月26日

摩擦摩耗試験基礎トライボロジー潤滑材料トラブル原因調査法

はじめに:摩擦摩耗試験の重要性と製造業の現場課題

製造業では、日々機械や部品の摩耗・損傷が発生しています。
これは「摩擦摩耗現象」と呼ばれ、製品の寿命や安全性、生産効率に直結します。
しかし、現場では従来からの経験則や目視点検、潤滑剤の継ぎ足しなど、いわば“昭和流”のアプローチが今もなお主流です。
最新の理論や試験装置が現場に十分浸透していないという実態も否めません。

この記事では、製造現場の実態を踏まえつつ、摩擦摩耗試験の基礎「トライボロジー」、潤滑材料の選定・管理、トラブル時の原因調査法について、豊富な現場経験に基づき解説します。
バイヤーや将来の購買担当者、またサプライヤーの立場の方にも、発注側の“本音”や最新の動向をお伝えします。

トライボロジーとは何か―現場での摩擦と摩耗の本質

トライボロジーの定義と主要要素

トライボロジーとは「摩擦(friction)」「摩耗(wear)」「潤滑(lubrication)」を総合的に研究する学問領域です。

現場では「ベアリングが焼き付いた」「歯車が削れて交換になった」「摺動部がギシギシ鳴る」といった現象として表れます。
これらを根本的に減らすには、単なるグリスアップや部品交換ではなく、摩擦摩耗現象全体のメカニズム理解が必要です。

なぜ今、“昭和流”から脱却できないのか

多くの工場では“動くうちは潤滑油はそのまま”、“トラブルが起これば全部交換”という対応が続いてきました。
この背景には以下のような事情があります。

  • 過去の経験値を重視しがちなベテラン技術者の存在
  • 新たな試験機器や外部試験へのコスト意識の高さ
  • トラブル原因調査のノウハウ継承の難しさ
  • 忙しくて分析・改善活動に取り組む感覚余裕がない生産現場

しかし、グローバル化や品質要求の高まり、自動化設備の普及により、“昭和流”だけでは通用しなくなりつつあります。

摩擦摩耗試験の概要と現場での活用

主要な摩耗試験方法――JIS・ASTM準拠の標準試験

摩擦摩耗試験とは、摩擦材料やその表面の性質、潤滑剤の性能等を再現条件下で評価する試験です。

代表的な試験は以下のとおりです。

  • ピンオンディスク試験(JIS K 5600-5-9)

    回転ディスク上でピンを押し付け摩擦・摩耗特性を評価
  • ブロックオンリング試験(ASTM D2714等)

    ブロックをリングに接触させて荷重をかける
  • 往復摩擦摩耗試験機(ボールオンプレート等)

    線状往復運動で摩擦摩耗を測定
  • スクラッチ試験

    微小領域の耐傷・耐摩耗性評価に使用

現場での導入が難しい場合、外部の材料試験機関に依頼し、評価データを部品選定や潤滑管理の改善材料として活用します。

現場の“ナマ”摩耗トラブルの見極めポイント

実際には「摩耗粉が部品隙間から堆積」「異音・振動が急増」「温度上昇」「油の変色」など、さまざまな兆候が現れます。
こうしたサインを定期点検で“見逃さない”ことが、重大故障や設備停止の防止に直結します。

また、バイヤーや現場管理者は、「摩耗トラブルがなぜ発生したか?」「本当にその潤滑剤・材料でよいのか?」といった根本的な分析が求められます。

潤滑材料の種類と現場選定の最新動向

代表的な潤滑剤と選定ポイント

潤滑材料として、主に以下の種類があります。

  • 鉱油系潤滑油(一般的な機械油)
  • 合成系潤滑油(耐熱性・長寿命タイプ)
  • グリース(高荷重・耐水用途に強い)
  • 固体潤滑剤(高温・極圧環境で使用)

選定時のポイントとしては、

  • 使用温度範囲
  • 荷重・速度条件
  • 接触材料(鉄、アルミ、プラスチック等)
  • 再潤滑頻度・管理体制
  • 環境規制(揮発性有機化合物=VOC、グリーン調達)

など多角的な視点が必要です。

最近の業界トレンド:環境重視型潤滑剤とIoT活用

2020年以降、環境負荷低減(SDGs)に応えたバイオベース潤滑剤や、IoT対応の“スマート潤滑管理システム”が急速に普及。
これらの導入には初期コストや教育が伴いますが、長期的にはトラブル低減・コスト削減・省人化に大きく寄与します。

バイヤー目線では、「CO2排出抑制」「潤滑油廃棄物の削減」といった定量的な“見える化”も重要な評価基準になっています。

摩擦摩耗トラブル発生時の原因調査法

現場で役立つトラブル原因調査3ステップ

突発的な摩耗や損傷が生じた時、現場では「なぜ起きたのか?」を論理的に解明することが重要です。

  1. 現物確認・ヒアリング

    ・破損部の状態観察(摩耗形態:アブレッシブ、アディーシブ等)

    ・異常発生時の運転状況のヒアリング(負荷、速度、温度変動など)
  2. 原因仮説の立案と分析

    ・潤滑不良、異物混入、設計上のクリアランス不良など

    ・摩耗パターン(条痕、溶着、ピット等)から初期仮説を複数立て、調査
  3. 裏付けデータの取得と検証

    ・使用油のサンプリング分析(摩耗粉量、水分、劣化成分)

    ・外部試験機による摩擦摩耗特性の再現

    ・交換後の経過観察

これらを実直に繰り返すことで、再発防止につなげます。

昭和流から“根拠ある改善”への転換へのヒント

従来は「勘と経験」に頼りがちだったトラブル対応ですが、これからの時代は極力データ取りと定量的評価が求められます。

「紙の点検表」「目視チェック」のみから、“再発防止”というバイヤー側への信頼獲得のため、
・潤滑管理データの電子化
・摩耗量の定期モニタリング
・外観写真による記録と共有
など、ムリなく進められるDX(デジタルトランスフォーメーション)推進が、今後ますます重要となります。

バイヤー・サプライヤー双方に求められる視点とは

バイヤーが重要視する摩耗トラブルゼロの“付加価値”

調達購買部門では、単価だけでなく「長寿命」「トラブル未然防止」「環境性能」「現場への教育体制」など、多様な視点でパートナーを評価しています。

・摩耗トラブルの根本原因追求力
・現場データ(MTBF、潤滑油分析値など)の“見える化”
・トライボロジー新技術への柔軟な提案力
これらが、強いバイヤーからの信頼獲得に必須となります。

サプライヤーに求められる「問題解決型提案」の極意

従来は「指示通り納品すればOK」だったサプライヤーも、今や「現場改善まで深く入り込む提案力」が強く求められています。

例えば、
・摩耗試験データや潤滑改善案の積極的提示
・トラブル事例分析と定期的な情報共有
・現場教育プログラムの共催 など

“単なるコスト勝負”から“問題解決共創パートナー”への進化こそ、今後のものづくり現場で圧倒的な差別化要素となるのです。

まとめ:摩擦摩耗トライボロジー活用で“現場革新”を実現しよう

摩擦摩耗――この身近で厄介な現象こそ、現場目線の地道なデータ収集・的確なトライボロジー評価・最新潤滑材料の選定・論理的トラブル調査によって圧倒的に低減可能です。

「うちは昔からこの油を使っているから大丈夫」「交換頻度も決まっているから問題ない」という“思い込み”を打破し、ぜひ摩擦摩耗試験とその調査・改善活動を組織的な成長エンジンへと変えてください。

特にバイヤー・サプライヤー両者には、コストダウンや規格適合だけでなく、“現場のトラブルゼロ化”に本気で取り組む意思と協働が強く期待されています。

摩擦摩耗問題の本質を理解し、製造業の“新たな地平線”をともに切り開きましょう。

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