ユーザビリティ評価の基本とユーザ行動分析による設計改善ポイント

ユーザビリティ評価の基本とは

ユーザビリティ評価は、製造業の現場でも製品やシステムの使いやすさを客観的に測定し、その改善に役立てるための重要なプロセスです。

最近ではデジタル化やシステム導入が進む一方、昭和時代から続くアナログな作業やルールが根強く残っています。

この両者のバランスを意識しつつ、ユーザビリティ評価をおこなうことで、生産性の向上やミスの削減、トラブル未然防止に大きく寄与します。

ユーザビリティ評価の基本的な流れは、
1. 目的・対象の明確化
2. 評価の準備
3. 評価方法の選定
4. 評価の実施
5. 分析・フィードバック
となります。

製造現場では設備や操作システムはもちろん、業務フローや帳票、作業指示書に至るまで、あらゆる“使い心地”を評価対象とできます。

なぜ製造業の現場でユーザビリティが重要なのか

現場の作業者や管理者は、「使いづらい」設備やシステムに対して、小さなストレスや違和感を感じながらも、長年の慣習や根性論で乗り切ってきた場面が多くあります。

一方で、現代の製造業の競争環境下では、従来の“我慢”ではなく、「いかに無駄な動きや迷いをなくすか」「誤操作やトラブルを未然に防げるか」が事業継続のカギとなります。

たとえば資材発注システムの入力インターフェースが直感的でない場合、現場のバイヤーや購買担当者の手間が増えるだけでなく、納期遅延やコスト増加にもつながります。

またサプライヤー側が“現場目線”のユーザビリティを理解することで、バイヤー側が本当に求めている価値や課題が見え、営業・提案にも厚みが増します。

ユーザビリティ評価の主な手法

1. ユーザテスト（現場実証）

実際に現場のユーザーに使ってもらい、その様子やフィードバックを学生します。

とくに製造現場では、熟練者だけでなく新人や派遣スタッフなど、多様な視点から評価することが重要です。

現場の“カイゼン活動”と親和性が高く、小さな失敗や言い間違いにも着目して分析します。

2. ヒューリスティック評価

経験豊富な管理職や専門家が、自身の知識と経験に基づいて、設備やシステムの改善ポイントを抽出します。

アナログ業界では、長年積み上げられた属人的ノウハウを文書化するきっかけにもなります。

3. サーベイ・アンケート

より広範な現場作業者の声や、匿名意見を集めるために活用します。

アンケートの設問設計が曖昧だと本当の課題が浮き彫りにならないため、調査内容の工夫・深掘りが大切です。

ユーザ行動分析の具体的アプローチ

ユーザ行動分析では、「なぜ」「どの場面で」「どんなミスや迷いが発生するのか」を現場目線で徹底的に掘り下げます。

たとえば生産管理システム導入後、手順を正確に守っているのにエラーが続出する、そんな場合は以下の視点で分析します。

現場の“つまずきポイント”の見える化

・システムのラベル表記やボタン配置が慣習に合っていない
・作業の“次の一手”が画面から読み取れない
・現場独自の省略語や俗語が正式帳票と乖離している

このような“見過ごされがちな違和感”が、現場のミス誘発や定着の壁となっています。

溜め込みによる“潜在的なエラー”の検出

製造業現場には「いちいち申告しないが実は…」という“溜め込み型”の不満が多いです。

ユーザー行動分析では、現場ヒアリングを通じて
・本来の操作手順と現場での実際のやり方のギャップ
・個人ごとに違う“裏技”や“自己流”の実態
を丁寧に拾い上げることが不可欠です。

設計改善の具体的なポイント

ユーザビリティ評価と行動分析の結果を踏まえ、設計改善に落とし込む際は、以下の視点を持つことが実効性を高めます。

1. 現場の“迷わない導線”設計

誰が操作しても同じ手順・判定ができることは、バイヤーや調達担当、サプライヤーの現場でも品質維持に欠かせません。

QCD（品質・コスト・納期）を意識し、手順書や入力画面、展示台まで、迷わず動ける“導線としての設計”を徹底します。

2. ユーザー目線の言葉と表現

専門用語の多用や、現場ローカル言語に頼りすぎると、本当の意味での“誰でも使える設計”にはなりません。

バイヤー経験者としては、「発注」という言葉ひとつとっても、社内用語・業界用語・現場独自用語のクロスチェックが大切だと実感しています。

3. 柔軟なカスタマイズ性の確保

現場からの“ちょっとした要望”をスピーディに反映できる設計が強い現場を作ります。

昭和時代に根差した“現場主導型の改良文化”を、最新のデジタルツール上でも継承し、現場発のPDCAを促進します。

アナログ文化との併存とデジタル化の推進

日本製造業の多くが、紙の帳票や“人の経験値”に頼ったアナログな組織文化を色濃く残しています。

このアナログ部分を否定せず、現場で本当に役立つ部分だけをデジタル化・自動化することが、生産現場のレベルアップには最適です。

たとえば、
・紙帳票の手書きチェック欄をデジタル画面に移植
・現場おじさんの“勘とコツ”をチャットボットFAQ化
など、デジタル技術とアナログ経験を掛け合わせる工夫が有効です。

バイヤー・サプライヤー双方の立場で考えるユーザビリティ

調達・購買業務を例にしても、サプライヤー側のシステム納入担当がユーザビリティ評価を軽視すると、バイヤー現場の手間やコストは減りません。

逆に、バイヤーサイドも、サプライヤー現場の実態に即した発注手順やデータ形式を意識すれば、サプライチェーンの効率が大きく向上します。

双方の現場に寄り添った「現場視点のユーザビリティ評価」が、真のWin-Win関係につながります。

これからの製造業に求められるユーザビリティの展望

今後の製造業では、
・現場作業者の多様化（多国籍・多世代化）
・AIやIoTを活用した現場情報のリアルタイム可視化
・部分的な外注化、サプライチェーンの再編
など、新しい環境変化が待ち受けています。

それぞれの現場やユーザー特性にあわせた“使いやすさ”を追求し続けることが競争優位の源泉です。

また、属人的なノウハウや暗黙知を整理し、だれでも使える形で仕組みやマニュアルに落とすことは、現場の技術伝承・働き方改革の両輪となります。

まとめ：ユーザビリティは“現場を繋ぐ架け橋”

ユーザビリティ評価とユーザ行動分析は、製造業の現場で積み重ねてきた「暗黙の知恵」と「新しいデジタル技術」をつなぐ架け橋です。

昭和から令和に至る現場の変遷を見てきた私の経験からも、現場の声・違和感を起点にした改善活動こそが、真の競争力や働きやすい職場風土を生み出すと確信しています。

これからバイヤーを目指す方、サプライヤーとして現場支援を考える皆さんにも、ユーザビリティという視点を業務の根っこに据えていただくことを心よりおすすめします。

多様な現場を結び、多様な人材が活躍できる製造業発展のために、現場で得た“使いやすさ”の知見をぜひ共有し合いましょう。