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再生可能エネルギー導入に向けた電力システムの安定運用ノウハウ

目次
はじめに:製造業と再生可能エネルギーの現在地
近年、カーボンニュートラルやSDGsへの対応として、製造業界でも再生可能エネルギー(以下、再エネ)の導入が急速に進んでいます。
自動車産業やエレクトロニクス業界だけでなく、食品、化学、金属加工といったさまざまな業種で再エネ導入の動きが活発化しているのは周知の事実です。
そもそも日本の製造業は「止めるな現場」を合言葉に、24時間365日、安定稼働を命題としてきました。
昭和から続く「目的は生産能力最大化」「電気は当たり前に安定供給がある」という思想が深く根付いており、再エネという“変動する電力”の導入には不安や懐疑がつきものでした。
けれど今や取引先バイヤーからのCO2排出削減要請は避けて通れず、サプライチェーン全体のグリーン化が求められています。
この記事では、筆者が20年以上現場で体感した課題や工夫の実例も交えつつ、アナログ思考から一歩抜け出すための再エネ導入&電力システム安定運用のリアルなノウハウをご紹介します。
再生可能エネルギー導入の現場課題
再エネがもたらす電力の変動性
太陽光発電や風力発電といった主力の再エネは、天候や時間帯に大きく出力が左右されます。
従来型の火力発電や原子力発電が「一定の電力供給を担保」するのに対し、再エネは“発電予測と実態にギャップ”が生じやすいのが特長です。
製造ラインは瞬時の電圧低下や停電に非常に弱い設備です。
特に、溶解炉や高精度ロボット、恒温恒湿制御などの装置は再起動や品質不良、作業者の安全確保などに多大な影響が出る恐れがあります。
このため、「再エネを導入したいけど現場を止めたくない」というジレンマに多くの工場が直面しています。
コストとのバランスとレトロフィットの課題
再エネ導入にかかるイニシャルコスト、系統連系(グリッド接続)、蓄電池の設置など、初期投資はしばしば大きな負担となります。
また、古い設備や分電盤が現役で稼働している昭和型工場では、一つひとつレトロフィット(近代化改修)が必要な場面も多く、システム更新が思うように進みません。
バイヤーからの見えざるプレッシャー
近年、サプライチェーンマネジメントの強化により、完成品メーカー(OEM)のバイヤーから「グリーン電力証書の提出」「CO2排出量の可視化」といったリクエストが増加しています。
これを受けて、サプライヤー側でもバイヤーの視点や要求を理解したうえで、どのようなソリューションを提案・実施するべきかが問われる時代です。
業界横断で求められる“アナログからの脱却”
昭和型思考からのパラダイム転換
多くの現場リーダーがいまだ「安定供給=大手電力会社頼み」と思い込んでいます。
ですが、再エネ導入の成否は“予測できる変動をどう制御し、どう設備と現場に実装するか”にかかっています。
発電・蓄電・制御という各段階を、アナログ発想そのままに分断せず、「工場全体のチューニング」という俯瞰視点で見直すことが求められています。
見える化の重要性とDXの活用
今や多様な見える化ツール(IoTセンサー、BEMS、クラウド型エネルギーマネジメントシステムなど)が開発され、既存設備との連動も現実的になっています。
単なる電力使用量の計測ではなく、負荷予測、消費ピークの適正配分、各機器の再起動性までデータ化し、設備老朽度とのバランスを見直す時代です。
これによりアナログ現場の“ムリ・ムダ・ムラ”をデジタルで補完し、変動電力に対応する体質へとステップアップできます。
実際の再エネ導入手順と安定運用ノウハウ
1. 初期診断と現状把握
再エネ導入の第一歩は、現状の電力消費パターン・設備耐性・供給側(例えば電力会社やPPA事業者)の対応可否など、多面的な棚卸しです。
このとき、単なる帳票上の消費量だけでなく、「どの工程がどの時間に・どれだけクリティカルか」「どの設備は瞬停リスクに弱いか」をエンジニア+オペレーターが現場視点で洗い出すことが要となります。
ありがちなミスは、経営層もしくは電気管理部門だけの独断で話が進み、“現場のリアルな苦労”が見落とされがちな点です。
現場リーダーや熟練オペレーターとのヒアリングで具体的なデータを得ましょう。
2. 再エネ導入の最適解を探る
おすすめは“段階的導入+シミュレーション”です。
いきなり全ラインを再エネ100%に切り替えるのは大きなリスクを伴います。
まずは、非常用照明や空調、オフィス棟など「瞬間的な供給変動にも致命傷とならない」エリアから導入します。
次に、MES(製造実行システム)やIoTプラットフォームを活用し、発電量・消費量・電力品質(周波数・電圧)のリアルタイム監視を行い、「どこにボトルネックが生まれるか、どう制御対応すべきか」というデータを蓄積します。
このプロセスを繰り返すことで、高リスク工程・設備に対する対策(瞬低用無停電装置、系統切り替えの自動化、蓄電池導入など)へフィードバックできるのです。
3. スマートファクトリーへの着実な歩み
再エネ導入そのものが目的化しがちですが、本来の狙いは工場全体のエネルギーマネジメント高度化=スマートファクトリー化にほかなりません。
再エネ由来電力、系統電力、自己託送(社内で発電した電力の工場内使い回し)を柔軟にコントロールし、ピークシフトやBCP(事業継続計画)にも活用できる仕組みが、現場の新しい“常識”となっていきます。
また、製造業では多くの温度管理設備、プロセス加熱、硬化炉、ヒートポンプなど、大消費設備が存在します。
こうした装置の「運転スケジュール最適化」「負荷レベル自動制御」なども再エネ変動の吸収策として有効です。
4. バイヤー・サプライヤー双方が共創する仕組みづくり
単なる下請(受託生産者)としてバイヤー主導の“やらされ感”でグリーン化対応していては、現場の持続的改善も進みません。
バイヤーとしては「この工場からどれだけ持続可能な部材・製品が仕入れられるか」「CO2削減活動の進捗をどう可視化できるか」という視点を持ちつつ、サプライヤーが自発的に再エネ導入や省エネ施策を推進可能な指標・インセンティブ付与を考えましょう。
サプライヤーも、バイヤーの要求事項だけでなく「自社設備の稼働データ」や「エネルギーコスト削減事例」、「再エネ導入による品質安定化の工夫」などを積極的に発信することで、現場の“やる気”とブランド価値向上につなげることが大切です。
アナログ現場こそ発揮される熟練の知恵とニューテクノロジー
再エネ導入=脱アナログ・全自動化、と短絡的に捉える必要はありません。
既存工場でこそ活きるのは、長年の現場カイゼンで培った“人の目による状態監視”や、機器のクセ・傾向を肌感覚で理解したベテラン技術者らの知恵です。
たとえば、「この機械は朝イチの冷え込みで異常振動を起こしやすい」「この配電盤は落雷に弱い」といったノウハウを、IoT監視データと付き合わせることで、AIや自動制御では検知できない“絶妙なチューニング”が可能になります。
また、現場で再エネ由来の不安定な電力変動が検知された場合に、すぐさま“モード切替”を判断するのも人の役割です。
熟練技能と最新制御技術とのハイブリッドこそ、今後の製造業の強みとなります。
まとめ:変化を楽しみ、競争力に変えるための視座
再生可能エネルギーは“コストとリスクの大きな新兵器”でもあり、うまく使いこなせればサプライチェーン全体の競争優位をもたらします。
従来のアナログ設備や昭和型現場でも、段階的な導入・工夫による安定運用は十分に可能です。
何より大切なのは、現場と経営層、そしてバイヤー・サプライヤーが一体となり、“挑戦をチャンスに変える現場力”を磨き続けることです。
製造業で働く皆さん、そしてバイヤーを目指す皆さんには、今こそ業界の壁を越えた共創のエネルギーで、日本のものづくりを次世代へと引き継いでいってほしいと心から願います。
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