投稿日:2025年6月28日

アナログ電子回路設計基礎とノイズ抑制手法混在回路設計ガイドライン

はじめに

アナログ電子回路設計は、製造業の根幹を支える重要な技術分野です。
近年のデジタル制御普及の波に押されがちですが、FA(Factory Automation)、自動車、産業機器など、「物作りの現場」では依然としてアナログ回路技術が生きています。
アナログ回路が不得手なエンジニアが増える一方、現場では「昭和の職人技」を継承しつつ、デジタルと混在する高品質な電子機器を設計する力量が求められています。

本記事では、20年以上現場で経験を積んだ筆者が、アナログ電子回路設計の基礎から混在回路で最大の課題となるノイズ対策、実践的な設計ガイドラインまでを、ものづくり現場の目線で徹底解説します。
バイヤーやサプライヤーにとっても必携となる知識ですので、ぜひご活用ください。

アナログ回路設計の基礎知識

アナログ回路とデジタル回路の本質的違い

アナログ回路は、「無限に連続する値」を扱う世界です。
一方、デジタル回路は「0か1か」のビットで処理されます。
アナログの最大の特長は、「信号の微細な変化」や「連続した物理量」を忠実に伝達できる点です。
例えば、圧力センサーの僅かな変化や音声信号のなめらかな波形は、アナログで処理することで本質的な情報を損ねません。

現場では、各種センサー入力やアクチュエータ駆動といった物理量の変換は未だにアナログ回路が担う場面が数多くあります。
また、計測装置やアンプ回路など、ノイズや微弱信号の取り扱いもアナログ回路の腕の見せ所です。

アナログ回路設計の基本プロセス

アナログ電子回路の設計は、以下のプロセスで進みます。

1. 要求仕様・制約条件の整理
(例:入力範囲、出力振幅、電源電圧、消費電力、動作精度、動作温度、ノイズ許容度など)

2. ブロック図レベルで回路方針を決定
(アンプ、フィルタ、電源、保護素子配置など)

3. 回路図作成・部品選定
(部品選びが特に現場経験の差が出ます)

4. シミュレーション・机上検証
(SPICE等の活用、初期段階では現実離れした理想モデルに注意)

5. 試作・評価
(本質的な微調整はこの段階。測定器と現場対応力が物を言います)

6. 量産設計・DR(Design Review)
(部品実装しやすさや歩留まり、コスト設計も重要)

7. 品質保証・量産後管理
(不具合流出防止の仕組み、設計変更管理まで)

このプロセス中、最も苦労するポイントが「ノイズ対策」と「アナログ・デジタル混在」の設計です。

混在回路設計で重要なノイズ抑制の考え方

なぜノイズが問題になるのか

アナログ回路では、数マイクロボルト(μV)や数ナノアンペア(nA)の信号変化まで忠実に検出することがあります。
このため、外部ノイズや、隣接デジタル回路からの高周波ノイズ、電源起因のリップル・サージなど、ありとあらゆる「不要信号」(ノイズ)が設計性能を著しく低下させる原因になります。
特に混在回路(アナログとデジタルが混在した基板やシステム)では、デジタル回路のスイッチング動作が強い電磁ノイズ源となりやすく、アナログ出力の精度や再現性に致命的な影響を及ぼします。

現場で有効なノイズ抑制手法

実際の工場や装置で頻発するノイズ問題には、現場ならではの実践的なノウハウが不可欠です。
以下に代表的なノイズ対策の考え方と具体例を示します。

GND分離(グラウンドセパレーション)

ノイズが混入しやすい部分と、微小信号を扱う部分のグラウンド配線を分離するのは鉄則です。
例えば、モータ駆動系とセンサー入力系のグラウンドが一体だと、電圧降下やグランドループノイズが直撃します。

「一点グランド」の原則を守りつつ、アナログGND、デジタルGND、パワーGNDを分離し、基板上で1箇所にだけまとめる設計(スターボンディング)が有効です。

シールド・筐体アースの工夫

シールド線や金属筐体を適切にアースすることで、外部からの電磁ノイズ侵入を極力防ぐことができます。
同軸ケーブルのシールドや、信号線のより線・ツイストペア構造も現場で多用されます。

また近年は樹脂筐体の装置が増え、十分なEMI対策が取れていないことも多いため、必要に応じてメタルコートや銅箔テープを活用する例もあります。

配線とレイアウトの最適化

PCB(プリント基板)設計段階から、アナログ信号配線とデジタル配線を物理的に離す工夫が肝心です。
デジタル系ICから出る信号線の真下・真上にアナログ信号線を這わせない、クロストーク(隣接信号間の干渉)やループアンテナ状パターンを作らないよう意図的に設計します。
さらに、電源・グラウンド配線の幅をできる限り広く取り、パワーラインのインピーダンスを下げます。

フィルタリングとバイパスコンデンサ

電源端子や入力端子にセラミック・タンタル・電解コンデンサをパラに組み合わせて配置し、広帯域ノイズフィルタリングを実現します。
アナログIC(OPアンプ等)の電源ピン近傍に、0.01μF~0.1μF程度のMLCC(積層セラミックコンデンサ)を直接配置することで、高周波ノイズ遮断効果が狙えます。
また、信号ラインにRCローパスフィルタを設けるのも古典的で確実なノウハウです。

現場の必殺技:ジャンパー線&鉛筆線

装置の立上げ時、「最後は現場でジャンパーを飛ばして済ませる」という昭和なやり方が今も根強く残っています。
市販ボードを使った試作や、小ロット量産では設計通りにいかないノイズ課題が多く「鉛筆線」のような仮配線で評価・修正を繰り返すことがあります。
完全な設計再現が困難な時は、「現場対応力」が発揮されるポイントです。

アナログ・デジタル混在回路の設計ガイドライン

デジタル機器との高密度混載が常識になった今、アナログ信号品質を守るための基本設計指針を紹介します。

1. ブロック分割の徹底

回路・基板を明確に「アナログ領域」と「デジタル領域」に分割し、その境界部で信号インターフェースを明確にします。
A/D、D/Aコンバータ回路を「ノイズバリアゾーン」として設計・レイアウトするのが常道です。

2. 配線・実装設計のポイント

信号線はなるべく短く、かつ「ノイズ源」から遠ざけてレイアウトします。
高周波クロック配線、モータドライバIC周辺は特にアナログ信号から距離を取り、基板多層化の場合はアナログ領域専用のグラウンドプレーンを設け、GNDリターン電流を分離します。

3. 電源分割とデカップリング

アナログ系ICにはアナログ専用電源を供給し、デジタル系とはレギュレータ経由で絶縁するのが理想です。
さらに各ICの直近にデカップリング用コンデンサ(0.1μF/10μFなど)の設置を必須とし、電源ノイズの伝播を防ぎます。

4. EM対策とEMC評価

社内規格だけでなく、国際基準(CISPR、FCC等)への適合も重要です。
現場では、EMC(電磁両立性)測定器の手配や、ケーブル配線指導、環境試験といった品質管理担当者との連携も密接になります。

5. アナログエンジニア視点の“現場品質”

時代の流れで「設計=CAD演算」「シミュレーション重視」が強くなりましたが、実際の装置現場では“測定器できちんと検証”できる力量が不可欠です。
ノイズの経路解析、ヒューマンエラーの洗い出し、最悪条件試験を通じて初めて「本当に使える電子機器」が完成します。

現場で敬遠されがちな古典トランジスタ回路、アナログICの“教科書にない使い方”等も、管理職や調達バイヤーが最低限理解しておくことで、設計者への的確な指示や品質クレーム削減に直結します。

サプライヤー・バイヤー双方に求められる知識とマインドセット

アナログ/混在回路設計の奥深さを理解しているバイヤーは、サプライヤーへの要求水準・評価ポイントの目利き力が高まります。
単に「安く・早く」と言うだけでなく、仕様書で明確にノイズ許容度、信号品質目標、量産冗長性を設定し、「現場検証の工数や設計余裕」を織り込むことができます。
一方、納入側サプライヤーは自社の技術力をPRする際に、ノイズ対策や混在回路の設計経験を「技術資料」「サンプル基板」として示すことで競争優位につながります。

昨今の半導体・電子部品不足や、人材難の時代には「現場対応力を磨き合う」パートナーシップがより重要になるでしょう。

まとめ

アナログ電子回路設計は、依然として製造業の品質・競争力を決める要です。
ノイズ対策や混在回路設計には、手法だけでなく現場経験が生かされる独自のノウハウがあります。
多様化する生産現場やグローバル調達時代においては、バイヤー・サプライヤー双方が“現場に即した設計・検証力”を身につけることが不可欠です。

現場で培った技術が製品価値の“最後の一押し”となり、昭和から現代への進化をリードしていきます。
ぜひ、この記事をきっかけに自社の設計品質・現場力を見直し、業界の新たな価値創出につなげてください。

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