投稿日:2025年7月1日

災害対応強化に向けた電気設備工事・保守業務の連携方法

はじめに:製造業現場の災害リスクと電気設備の重要性

製造業の工場現場における電気設備は、生産活動の生命線といえる存在です。

現代の工場では、自動化や省力化のための設備が年々高度化しています。
しかし、日本は地震や台風、大雨などの自然災害が多い国です。
高度な装置ほど、万が一の災害時に一瞬で停止してしまうことも珍しくありません。

「自動化を進めてきたのに、災害ひとつでラインが止まる…」
「復旧にも時間がかかり、納期遅延、信用失墜のリスクがある…」

現場でそんな痛みを味わった方も多いのではないでしょうか。
実際、昭和から受け継がれた古い配電盤やケーブルが、災害時に思わぬ弱点となるケースが今でも多く見受けられます。

災害時にも止まらない現場を作る、そのためには電気設備工事会社と日常の保守・点検部門が密接に連携し、計画的にリスクを把握・管理する取り組みが欠かせません。

この記事では、現場目線で災害対応力を高めるための電気設備工事会社と保守部門の連携の在り方を、実践的かつ未来志向で解説します。

なぜ「連携」が必要なのか?アナログ業界に根付く課題

1.工事会社と社内保守担当の「壁」

製造業の現場では、電気工事を外部業者に委託し、日常の点検や小さな修繕は社内の保全担当者が実施する体制が一般的です。
しかし、両者の間には「ここまでがうちの業務」「ここから先は工事会社」といった見えない壁ができがちです。

特に古い工場や昭和型の組織では、

・設備図面の管理がアナログで属人化している
・外部業者との定期的な情報交換の機会がない
・ビフォーアフターの比較や、災害時のシナリオ設計が未整備

といった課題も多く、その結果「故障したから呼ぶ」「工事が終わったら後は知らない」といった断片的な対応になりやすいのです。

2.製造現場でのバイヤー・サプライヤーの関係性

設備関連では、バイヤー(発注側の調達・保全担当者)の役割が非常に重要です。
サプライヤー(工事業者や保守業者)に対して、必要な仕様、工期、安全基準、復旧後の維持管理など、要件を具体的に伝える必要があります。

ですが、日本の現場では「相談できる関係性」や「Win-Winのパートナーシップ」が根付いている現場は決して多くありません。
保全・調達担当者にとっても、

・万が一の災害シナリオを業者と話し合ったことがない
・工事後の情報共有や現場教育に不安がある
・コスト、納期、仕様の3つのバランスで悩んでいる

という課題がつきまといます。
この「壁」をどのように乗り越えていくかが、真の災害対応力をつくる第一歩となります。

災害対応力強化のための具体的連携策

1.定期的な合同リスクアセスメントの実施

まず必要なのは、現場を知り尽くした社内保全担当と、外部の電気設備工事業者が一緒になって、「どの設備がどんな災害リスクに晒されているか」「過去にどんなトラブルがあったか」を洗い出すことです。

例えば、
・全国各地の工場で、小さな地震や停電の際にどこが停止したか
・豪雨災害で配電盤やケーブルがどのような損傷を受けやすいか
など、現実に即した情報を持ち寄り、災害時の弱点箇所や想定される二次被害を炙り出します。

工事会社にも現場の癖や制約(スペース、稼働制限、特殊装置の有無など)をしっかり知ってもらうことがポイントです。

2.災害復旧シナリオの共同策定

単なるBCP(事業継続計画)策定だけではなく、
・緊急時にどこにどんな資材や部品が必要か
・誰がどの工程をどの順で作業すべきか
・復旧作業時の安全確保・二次災害防止策
・現場での簡易診断基準(例:目視で断線箇所を特定できるか)

など、現場レベルの具体的な手順、判断方法を、工事会社と保守担当が一緒にシナリオ化することが現実的な連携です。
可能であれば年1回は合同で復旧訓練(机上でも可)を行うことが理想です。

3.設備情報のデジタル化・共有プラットフォームの導入

製造業は今もなお「現場ノート」「紙図面」「担当者の記憶」が大きな力を持つアナログ業界です。
しかし災害時には、点検履歴や最新の設備情報、工事履歴がどこにあるか分からず混乱することが多いです。

そこでおすすめしたいのが
・クラウド型の図面・設備台帳管理
・点検結果のデジタルログ化
・複数拠点・関係業者との情報共有機能

こうしたプラットフォームを導入し、「工事会社」と「日常の保全担当者」がリアルタイムで情報を見られる環境を作っておくことです。
小規模な工事や修繕も全て履歴に残していくことで、災害時に何が弱点かすぐに判断できるためスピード復旧が可能となります。

4.サプライヤー育成と現場力強化への投資

連携の本質は「外部業者だからお任せ」「自社保全部門だけで判断する」のいずれでもありません。
例えばサプライヤー選定時には、

・現場での復旧対応力(小さなトラブル対応、休日・夜間の応援体制)
・技術力だけでなく、現場理解や安全啓発への参加姿勢
・現場担当者との定期的なコミュニケーション

を重視すべきです。
業者との関係には毎回“値切り”でバトルするよりも、「一緒に現場の老朽化・災害リスクを減らすパートナー」として育成投資する方が、長期的には工場の安定稼働につながります。

また工事後の安全教育や操作指導にも業者を巻き込むことで、日常保全チームのレベルアップにもつながります。

昭和から令和へ:業界動向と今後の課題

レガシー設備と最新IoTのギャップ

電気設備の世界は今も昭和時代の設備が現役で使われている工場も多い一方、AIやIoTで「異常予兆を自動通知」する先進現場も増えています。

しかし「最新の仕組みを一気に導入できる」現場は予算や組織体制の面からも限られているのが現実です。
工場の老朽化と省力化・自動化の流れが交錯する中、「いまある人材・設備で、まずどこまで災害対応力を向上できるか」という一歩一歩の地道な連携強化が求められます。

人材継承とコミュニケーションの深化

現代の製造業では「技術伝承」「多能工化」が叫ばれますが、日々の電気設備点検でもその傾向は加速しています。

・一人のベテラン保全担当の頭の中だけでなく、チーム全体でノウハウを共有する
・外部工事会社も巻き込み、『暗黙知→形式知→マニュアル化』のサイクルをつくる

こうした「人系」に頼ってきたアナログ産業ならではの強みを、“データ”と“人のつながり”でハイブリッドに進化させること。
それが令和時代の製造現場に求められています。

まとめ:現場力を高める連携で災害耐性を強化

災害対応力の強化は、単なる設備投資やマニュアル整備では十分ではありません。
「現場」と「専門業者」が協働でリスク洗い出し、コミュニケーションを深め、デジタルツールで情報を一元化する。
そして、現場力を高めるための人材育成とパートナーシップ強化に投資していく。

私が工場現場で実感してきたのは、災害時の復旧力こそが工場競争力そのものだということです。
この記事が、製造業で働く皆さんや、今後バイヤー・サプライヤーを目指す方の現場改革へのヒントとなれば幸いです。

事業継続の最後の砦となるために、今こそ一歩先の連携による災害対応力強化を始めましょう。

You cannot copy content of this page