投稿日:2025年7月2日

Motor静音化を実現する共振回避と固有振動数測定ノウハウ

はじめに:製造業の現場で「静音化」が注目される理由

製造業界では、自動化や効率化が進み、生産ラインにおけるモーターや機械設備の導入が飛躍的に増えました。

その一方で、設備の稼働音や振動が生産現場の騒音問題や不良品発生リスクとしてクローズアップされています。

静音化は、単なる“作業快適性”の問題ではなく、製品品質や作業者の安全、ひいては企業ブランド力向上にも直結する重要なテーマです。

本記事では、現場のプロとして培った実践的なノウハウを交え、モーター静音化の本質である「共振回避」と「固有振動数測定」の考え方・手法について、分かりやすく解説します。

製造業に従事する方、調達・バイヤー、そしてサプライヤーとして次世代の付加価値を模索する皆さんの参考になれば幸いです。

共振とは何か?昭和から根付く「音対策」の常識を脱却しよう

共振(レゾナンス)とは、機械や構造物が持つ特定の周波数(=固有振動数)で外部から振動エネルギーを受けると、その振動が強め合い、通常よりもはるかに大きな揺れや騒音を生じる現象です。

モーターや生産ラインの設備には必ず固有振動数が存在します。

昭和の時代から、現場では「うるさい場所には遮音壁」「防音材を貼る」というアナログ的な対応が主流でした。

しかし、これらの“対処療法”は本質的な共振リスクの解決にはなっておらず、根本的な静音化を目指すには「共振を避ける設計思想」と「固有振動数の正確な把握」が不可欠です。

現場でよくある“音・振動トラブル”の実態と経営への影響

1. 製品不良・歩留まり低下

モーター等の振動が材料や装置に伝わると、加工精度が乱れやすく、寸法不良や誤作動に繋がります。

特に微細な精度管理が求められる半導体、電子部品、医療機器などでは、共振によるごくわずかな振動が大きな歩留まり低下を招くこともあります。

2. 作業環境の悪化と労働安全

現場騒音が増すと、作業者の集中力低下や健康被害も深刻になります。

ひどい場合、耳鳴りや頭痛に悩む従業員が出たり、労働安全衛生法に抵触するリスクも高まります。

3. 顧客クレームや企業イメージ失墜

装置納入先で「指定値以上の騒音が出る」といったクレームが発生すると、追加対策コストや製品返品といった経済的損失に直結します。

また、「静かな高品質」を謳うメーカーとしてのブランド価値が毀損されかねません。

モーター静音化のカギ:固有振動数を制する者は共振を制す

共振回避の要は「設計時点もしくは現場導入時点で、装置部位ごとの固有振動数を把握し、運転周波数と被らないように設計・調整する」ことです。

ここで重要なのが、机上の計算値だけでなく、現場実機の“実測値”をしっかり抑えておく事です。

1. 固有振動数とは?簡単な理解

固有振動数とは、その物体(モーター本体、架台、パネル等)が自分自身だけで振動する“一番揺れやすい周波数”です。

ちょうど、ブランコをこぐときの「自分だけのリズム」がそれにあたります。

例えば、回転系モーターの場合は回転数(rpm)に由来する周波数、および装置や架台そのものの剛性・重量によって固有振動数が決まります。

設計値と現場での据付け状態では大きな差が生じやすく、実運用環境の“見える化”が不可欠です。

2. 固有振動数測定の現場ノウハウ

現場での固有振動数測定には、加速度センサー付き振動計が主に使われます。
測定のポイントは以下です。

・装置(モーター本体、架台、各パネル等)ごとに「インパルスハンマー」などで刺激(衝撃)を与える
・同時に加速度センサーで応答波形を取得し、周波数分析でピーク値=固有振動数を特定
・モーター回転数(運転周波数)と固有振動数が一致、あるいは近接しないかを確認
・必要に応じて、架台の剛性を高めたり、重量バランスを変更したり、防振ゴム等でバンドを動かす

この測定は、設計開発段階だけでなく、ラインへの据付直後や移設対応時にも必ず実施する事が理想です。

チームでの教育も大切なポイントで、ベテラン頼みの「カン・コツ」から脱却し、ノウハウとして社内に仕組み化しましょう。

共振回避の実践例:設備のライフサイクルごとで考える

1. 新規設備導入時の設計段階での工夫

開発段階で、3D CADの構造解析(FEA)を用いておおよその固有振動数をシミュレーションします。

しかし、シミュレーション結果と実機のズレを補う視点が重要です。

私の経験では、据付現場環境(計画地の床剛性、基礎工事、周囲の装置レイアウト)が当初シミュレーション時より大きく異なることが多く、その都度現場での測定・調整がモノを言いました。

設計・製造部門と現場オペレーター、本社の購買部が一体となり、諦めずに情報を持ち寄ることが成功のカギです。

2. 既存ラインのリニューアル・移設時の落とし穴

特にリニューアルや移設案件では、既存設備の劣化や部分修理によって、「共鳴状態」を見逃しやすくなります。

現場では、搬入後や設置後に“何気なく”増設した架台や配管、新設ラックなどが思わぬ共振源となって多発トラブルの原因に…。

これを防ぐには、各工程で「固有振動数測定」をルーチン化し、気になる異音・振動を放置しないカルチャーを作る事が欠かせません。

現代のバイヤーやサプライヤーには、単なるスペックや外観で判断するのではなく、
“現場の声”や“測定値”というデータを大切にする視座が求められます。

静音化を本気で実現するには——昭和体質からの脱却とデジタル化

いまだに「経験則」や「勘と度胸」が幅を利かせる製造現場ですが、時代は確実に「予測とデータ管理による振動対策」に移行しています。

これからの静音化戦略では、以下のようなアプローチが有効です。

1. IoT・センシング技術の活用

低価格化が進んだ振動センサーや、現場の“音”を常時モニタリングできるIoTシステムを積極導入しましょう。

異常値やピーク値をリアルタイムで可視化し、その情報を設計や保全、調達部と素早く共有できる体制が武器になります。

2. ラテラルシンキングで“音”の価値を再評価

静音化は、単に「騒音トラブル対策」にとどまらず、最終製品に新たな付加価値をもたらします。

例えば、精密機器や消費者向け家電なら「静か=高品質」「寝室でも安心して使える」の評価ポイントに。

工場ラインなら「静かに稼働する=オペレーターのストレス低減=離職率低下」という副次効果も見逃せません。

音・振動の“価値”を再発見し、新たなビジネスチャンスと結びつける発想が、これからの製造バイヤーやサプライヤーには必要です。

まとめ:静音化は「現場×知見×データ」が未来を拓く

製造現場に根強く残るアナログ的なノウハウも、デジタル測定やグローバル品質志向の時代には大きくアップデートが求められます。

モーター静音化の本質は、「共振を避ける設計」と「現場で固有振動数を正確に測る」シンプルな原則です。

昭和的な発想と現代デジタルの両方をうまく融合させ、現場の課題解決力を高めていくことこそが、製造業の競争優位となります。

自分たちの“現場力”を信じて、静音化の新常識を業界全体に広めていきましょう。

現場のバイヤーも、サプライヤーも、モノづくりの次なる地平線を切り拓く主役です。

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