投稿日:2025年7月2日

ロバスト設計とタグチメソッドでトラブル未然防止と最適化

ロバスト設計とタグチメソッドが拓く、トラブル未然防止と最適化の新常識

製造業の現場では、「想定外」が許されない時代になりました。

設備の高性能化、顧客要求の高度化が進む一方、コスト・納期・品質の三要素も厳しさが増しています。

さらにはグローバルサプライチェーンの複雑化や、部品調達のリードタイム不確実性など、“トラブルの芽”はいたるところに潜んでいるのが現実です。

その中で「初期流動管理」「不良流出ゼロ」そして「安定量産の実現」は全員参加の守るべきミッションとなっています。

そこで近年、再び脚光を浴びているのが「ロバスト設計」と「タグチメソッド」です。

昭和の時代から製造現場を支えてきた手法ですが、なぜ今、業界がこれらを見直すのでしょうか。

本記事は、製造現場・調達・サプライヤーの“現実感”を踏まえつつ、これら2つの考え方と実践法の本質、活かし方、そしてこれからの展望を解説します。

ロバスト設計とは―“揺らぎに強い”ものづくりの思想

そもそもロバスト設計とは何か

「ロバスト(robust)」とは、英語で「頑健」「しぶとい」「丈夫で壊れにくい」という意味です。

製造業でいうロバスト設計とは、「使用環境や材料特性、個体差、組立ばらつきなど多様な“揺らぎ”があっても、製品性能と品質がある範囲に収まるよう設計する」方法論を指します。

つまり、「定められた条件下でしか機能しない繊細な製品」ではなく、「多少条件が変わっても“ちゃんと動く”“壊れない”製品」を設計段階から目指すアプローチです。

なぜ近年ロバスト設計が重要視されているのか

ひと昔前までの日本の製造業は職人技・現場力に支えられていました。

ギリギリの許容公差や「上が頑張ってるから下も頑張る」文化により、不安定な設計でも現場で調整して出荷できてしまうのが実態でした。

ところが今は、多品種小ロット・グローバル展開・自動化・人材不足で「現場まかせの設計」は通用しません。

“つくりやすさ”と“作りやすさ”—設計と製造が一体で考え、「ばらつき」「ばらつき源」に強い設計が必須です。

だからこそ、ロバスト設計の思想があらゆる現場で再評価されているのです。

ロバスト設計を現場で実践するポイント

ばらつき源のリストアップと洗い出し

真にロバストな設計を行うためには、想定しうる「ばらつき源」を徹底的に洗い出す必要があります。

例えば
・材料の寸法・特性ばらつき
・加工公差
・組立精度
・温湿度/環境変動
・人による作業差
・設備の稼働特性
・調達先部品の品質変動
……など、「どこにばらつきが潜んでいるか」を“現場目線”で掘り起こす力が不可欠です。

設計者はCADデータや仕様書上で考えるだけでなく、実際の現場、工程、設備を観察し、リアルな不確かさをヒアリングしなくてはなりません。

戻り工数・コストの抑制につながる

現場で不具合が多発する原因の多くは、「設計時にばらつきが考慮されていなかったため」発生しています。

ロバスト設計を徹底することで
・初品立ち上げ時の手戻り削減
・流動管理時の不良削減
・再設計やロット返却のコスト削減
・納期遅延・顧客クレーム未然防止
という“後工程での損失”を大きく減らすことができます。

ロバスト設計の思想を全社で共有する

現場が「何となく使いにくい設計だが、毎回リカバリしている」状態は、実はとても危険です。

“設計と現場は分断してはいけない”というメッセージを経営層が発信し、設計レビューや初期段階でばらつき源・現物現場の声を全社的に吸い上げる体制を整えるのが、今後の競争力強化のカギになります。

タグチメソッド(パラメータ設計)とは何か

タグチメソッドの概要

タグチメソッド(田口玄一博士が提唱)は、
・製品や工程の性能を、実際の使用環境・ばらつき源を模倣した「ノイズ条件下」で評価する
・重要な制御因子(パラメータ)の影響度を計画的実験(直交表)で明らかにし、「ばらつきに強い最適値」を探す
方法論です。

これにより
・現実のばらつきを吸収できる“頑健な”設計値・材料・工法を短期間かつ低コストで見つけ出す
・「ばらつき源はゼロにできない」と割り切り、その影響を最小限にとどめる“最適化”
が可能となります。

なぜタグチメソッドが製造業の味方なのか

パラメータを“やみくもに振ってみる”のは時間もコストも膨大です。

一方タグチメソッドでは、直交表を使い、「できるだけ少ない条件」で「ばらつきへの感度」を評価できます。

現場の負担を抑えつつ、「どの因子が効くか」「どの値が最適か」を見極めやすいのです。

これが、昭和の大量生産時代は“勘と経験”で乗り切っていた現場にも、「科学的・再現性の高い方法」として浸透した理由です。

タグチメソッドの現場流活用シーン

・樹脂部品の「寸法バラツキが大きい」トラブルへの根本的対策
・溶接条件の最適化による強度ばらつきの抑制
・射出成形条件ばらつきと物性変動評価
・組立工程でのクリアランス/公差設計
・調達部品(サプライヤー管理)の許容値設定とQCDバランス検討
……など、多くの現場で活用実績があります。

実践的なロバスト設計・タグチメソッドの進め方

小さな“実験型文化”を現場から始める

「うちの部門はアナログだから」「理論なんて現場では通じない」という声は今も根強いです。

しかし、現場ベースの小規模な直交配列表(例:L4・L8)を使った仮説検証から始めたり、「異常値がこの工程で出た」の原因究明のためにばらつきを記録したり、「見る・考える・動かす(仮説検証)」を現場の文化とすることが、身の丈のロバスト設計・タグチメソッド推進のコツです。

現場リーダーが小さな成功体験を得ることで、メンバー全員が実験・改善を“自分ごと”にできます。

設計・調達・生産・品質管理の“横串”連携

昭和型大企業によくある「部門サイロ」では、知見やノウハウが分断されがちです。

ロバスト設計・タグチメソッドを推進するなら、設計・調達・生産・品質管理・サプライヤー品質保証など、関連部門横断の“共通言語”にしましょう。

設計検討会や開発プロジェクトで「このばらつきは何に由来する?」「異常値がここで出る理由は?」と部署横断で意見を出し合い、お互いの視点を理解することが何より重要です。

“顧客品質”の明確化とノイズ管理

タクトや歩留まりなど「社内基準」だけでなく、“顧客が実際に遭遇する環境”をリアルに再現してテストすることが必要です。

例:
・海外出荷製品なら、現地工場の電圧・湿度・パートナー工員の作業着手感覚を模倣
・自動車部品なら、寒暖・乗り心地など顧客使用場面での再現評価実験
こうした「ノイズ因子を再現し、設計値の最適化を図る」発想がタグチメソッドの真髄です。

バイヤー・サプライヤー関係強化にも寄与

調達・購買部門にもロバスト設計の知見が求められる

今や“モノづくりの川下側”である調達・バイヤーも、「自工程完結」や「QCD最適バランス」の視点だけでなく、「サプライヤーが提供する部品の許容ばらつきと自社設計値のフィット」を深く理解する必要があります。

サプライヤー発注時には
・仕様書でカバーできるばらつき源の明確化
・“責任のなすり合い”にならない協働的なばらつき管理
が、生産トラブル未然防止の決定打となります。

サプライヤー側が知っておくべきバイヤー心理

サプライヤーの立場からも、バイヤーが「いま何に困ってるか」「設計側の苦労」を理解することが、長期的な信頼関係づくりに欠かせません。

形式的な部品図面のやりとりだけでなく、「ばらつきを抑えることで、お客様の生産性や最終製品の安定供給がどう変わるか」を伝えられるメーカー・サプライヤーは、選ばれ続けています。

アナログ現場だからこそのロバスト設計進化論

昭和・平成の大量生産型アナログメーカーでは、「ロバスト設計もタグチメソッドも一部の現場の話」と見なされがちでした。

しかし、今やデジタル化・自動化・グローバル化・人材不足が“現場のアナログ熟練”だけでは限界を迎えています。

逆説的ですが
・アナログ現場特有の「現物現場での気づき」「手触り感」
・バラツキへの直観的な敏感さ
・本質を探る“なぜなぜ問答”力
これら昭和型現場力と、ロバスト設計・タグチメソッドの科学的思考との“ハイブリッド”こそが、競争力の源泉です。

まとめ:ロバスト設計とタグチメソッドで未来を切り拓く

ものづくりの現場で問われているのは、「勘と経験の蓄積」と「科学的着眼」の両輪です。

ロバスト設計とタグチメソッドは、“再現性”と“未然防止”、そして“最適化”への道しるべ。

現場の知見を最大限に活かしつつ、設計・調達・サプライヤーが一体となって「揺らぎ」に強いものづくり体質を醸成する。

それが、今この時代の製造業の本当の強さ=新しい価値創造であり、不確実性が高まる時代の勝ち筋となるのです。

本記事を通して、皆様の現場がより“強く”“柔軟で”“価値ある”ものづくりに進化されることを、強く願っています。

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