投稿日:2025年7月7日

EMC試験に強くなる電子機器ノイズ対策と設計テクニック

はじめに:EMC試験が製造現場にもたらすインパクト

EMC(Electromagnetic Compatibility:電磁両立性)という言葉を耳にする機会が、製造業、とりわけ電気・電子機器の設計や量産現場では着実に増えています。エレクトロニクスの発展とともに、省エネ化・高機能化が進み、製品内部もIoT化やワイヤレス化が標準となりました。

この流れの中で、「EMC試験をパスしないと市場に製品を出せない」「量産出荷直前でノイズが発生して全工程が止まった」など、現場レベルの問題が増えています。一方で、昭和のモノづくり直伝のアナログ的な試作・現物調整に頼る文化が根強く残っているのも事実です。

EMC試験は、単なる技術的課題ではなく、調達・購買、生産管理、品質保証、ラインエンジニア、さらにはサプライヤーに至るまで、製造チェーン全体に大きなインパクトをもたらします。

本記事では、そんな現場目線で「EMCに強くなる」ためのノイズ対策と、設計段階から活用できる実践的テクニックを深掘りします。

EMC試験とは?現場が知っておくべき基礎知識

EMC試験の役割と重要性

EMC試験とは、電子機器が「外部に不要なノイズを発生させない」「外部からのノイズの影響でも誤動作しない」ことを客観的に証明するものです。国内外の法規制(例:電波法、CEマーキング、FCC規格など)に適合しなければ、製品出荷や市場投入ができなくなります。

現代の製造業(とくに自動車や産業機械、医療機器、家電)は、EMC適合が「標準仕様」となっています。たった1台の不合格で量産ラインが止まり、納期遅延やサプライチェーン全体に影響することも珍しくありません。

試験内容の全体像

EMC試験は大きく2つに分かれます。
– 放射エミッション:製品から外部に放出されるノイズを測定(規定値を超えるものはNG)
– 放射イミュニティ:外部から受けるノイズ(電磁波)に対する耐性を確認(誤動作しないこと)

ほかにも、伝導性(電源・信号線経由)や近接ノイズ、静電気の耐性試験など、多岐にわたります。どの試験にも共通して不可欠なのは「対策の設計段階からの落とし込み」と「試作時の早期検証」です。

ノイズ発生のメカニズムを現場目線で理解する

電子機器ノイズ対策を語る前に、まず「なぜノイズが出るのか?」という基本メカニズムを現場目線で押さえましょう。

アナログ機器・デジタル機器別 ノイズの“源泉”

– アナログ機器でのノイズ:大電流・高電圧のスイッチング回路、モーターやリレーなどの誘導成分
– デジタル機器でのノイズ:クロック信号のハーモニクス、パワーノイズ、回路基板の浮遊容量・寄生インダクタンス

産業機器や電源回路では「リレーや開閉器がON/OFFするタイミング」「電源ICやFETのスイッチング」「モーターのブラシ接触」などの瞬間に高周波ノイズの山ができます。

このノイズが特定のルート(電源線・信号線・筐体経由・空中伝播)で拡がります。現場では「ケーブル品番や部材を変えたらノイズが急にひどくなった」「小さなジャンパ配線1本でノイズが見違えた」などの現象報告は日常茶飯事です。

“見える化”が成功のカギ

ある現場改善で「ノイズが出ている区間だけをサーモグラフィで調べた」事例や、「オシロスコープで基板全体の波形を地道に拾って原因箇所を特定」した事例もあります。ノイズ現象の“見える化”と定量的測定は、経験と勘に頼りきったアナログ的アプローチから脱却するための第一歩です。

EMCに強くなるための設計段階の実践テクニック

EMC対策で最も重要なのは、「後づけ」よりも「設計に組み込む」ことです。具体的なノウハウを紹介します。

アース設計は“思想”で決まる

アース(グラウンド)は「ノイズの逃げ道」とも呼ばれ、ノイズ低減の基本中の基本です。しかし、現場では「筐体にテープで貼っただけでアースしたつもり」「回路図上で繋いだが、実配線でループができて逆にノイズ増加」など、形骸化している例が多々あります。

ポイントは“単一ポイントグラウンド”(集中接地)と“多点グラウンド”の使い分けです。周波数特性や回路規模で最適解は異なります。設計時点で、専門エンジニアのみならず、実装・筐体チームや生産技術とも連携して全体アース設計の思想を統一しておくことが大切です。

レイアウトと配線設計で7割決まる

ノイズの多くは“レイアウト起因”です。IC配置場所、クロック配線の引き回し、信号線と電源線の距離…。これらが数mm変わるだけでEMC性能が劇的に変わります。

実際の現場では、回路基板の形を装置の空間に無理やり合わせたことで、ノイズ源(例えばクロックやパワーIC)と高感度回路(A/D変換部)が至近距離に…という“平成のひずみ”が多数見られます。

試作の段階から「ノイズ源と被害回路を分離する」「電源・GNDプレーンを面で確保し余裕をもつ」「信号配線を最短・直線で引く」など、基礎技術を徹底してください。

部品選定時の注意点とサプライチェーン連携

EMC性能を大幅に左右するのは、意外と「部品選定」と「サプライヤー管理」だったりします。業界では「安価な互換品に切り替えたらEMC試験で大トラブル」という事例は後を絶ちません。特にノイズフィルタ、セラコン、フェライトビーズ、EMC対応コネクタなどは、単なる規格値ではなく“実機での実績・実測”で評価するのが鉄則です。

購買・調達チームや設計者は、納入仕様書やサンプル実機評価を重視し、サプライヤー側も「EMCは現場で現物検証するもの」という共通認識を持つようにしましょう。

量産・現場導入で活きるEMCノイズ対策のコツ

“現物合わせ”文化の功罪

日本の製造業は、「まず作ってみる」「現物で調整」のアナログ文化が根強いです。EMCに関しても、ラインでノイズ問題が出てから「金属テープを貼る」「グランド線を追加」「ノイズフィルタを慌てて挿入」など、場当たり的な“現物あわせ”が多発します。

応急手当に救われるケースも多いですが、「なぜ問題が起きたか」「どうすれば再発防止か」の仕組み化が不足しがちです。トラブルレビューは必ず「設計見直しや現場フロー標準化」につなげ、属人的な対策のみに頼らないことがプロの現場力です。

テスト工程・設備投資の最適化

EMC試験設備は高額なため、「外部の認証ラボに丸投げ」している企業も多いです。しかし、「社内での簡易プリテスト」「ベンチテスト段階でのポータブル測定器活用」など、現場目線で小回りが効く投資が重要です。ライン導入前の“簡易EMCチェックリスト”や“セルフ測定フロー”を作成し、初期段階でトラブルの芽を潰す文化を根付かせましょう。

現場教育とノウハウ伝承が差を生む

短納期・多品種対応の並行生産が当たり前の現代工場では、EMCノイズ対策の現場知識がベテランから若手に上手く伝わっていない場合も多いです。設計・生産両面のエンジニアが定期的に「実践ノイズ対策教育」「原因分析トレーニング」を受けられる体制を構築してください。

トラブルが発生した際も、「仮説とデータの突き合わせ」「再発防止の設計反映」「現場標準類の随時アップデート」など、ノウハウ循環のエコシステムを創りましょう。

アナログからデジタル、昭和から令和のサプライチェーン進化にどう向き合う?

EMC対策の進化は、単なる技術課題ではありません。サプライチェーンの上流から下流、アナログ作業主体の外注さん、さらには調達・バイヤーの現場力まで、“総合格闘技”です。

バイヤーに求められる現場理解

優秀なバイヤー、購買担当者とは「調達価格」だけでなく、「EMC適合という品質の価値まで見抜ける」人材です。“安かろう悪かろう”の一時しのぎに走ると、最終的に生産工程や納入先で大きな損失を被ります。現場見学やサプライヤー品質評価にも積極的に参加し、ノイズ発生やEMC対策にも意識を向けてください。

サプライヤー視点での付加価値提案

サプライヤーにとっては、「EMCに強い部材・組立技術」「現場ノイズ測定の専門知識」は大きな営業武器です。「EMC対応設計アドバイスができる」「独自のフィルタ提案や実装試験もきめ細かくサポート」など、付加価値創出を意識した情報提案が重要です。

まとめ:EMC試験を“現場競争力”に変えるために

製造業の現場でEMC試験に強くなるには、「設計段階の意識改革」「現場全体を巻き込んだ対策の標準化」「ノウハウや原因究明の見える化と仕組み化」が必須です。コストや納期だけでなく、市場への信頼性やブランド価値を守るためにも、EMC適合は技術者一人ひとり、サプライチェーン全体の大きなテーマとなっています。

昭和から令和へと移り変わる中で、アナログの良さとデジタルの効率を融合させた、真の“現場力”が求められます。EMC試験は単なる「通過点」ではなく、御社現場の競争力・品質力を高めるチャンスです。ぜひ、現場の知恵・知識・情熱をEMC対策に活かし、製造現場全体の価値向上に「一歩先」の取り組みを始めてください。

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