投稿日:2025年7月9日

金属の腐食と防食腐食形態分類腐食事例材料の使い方選び方腐食損傷防止応用

はじめに:金属腐食の本質とは何か

金属の腐食は、製造業における永遠のテーマだと言っても過言ではありません。
いくらハイテクが進んでも、鉄やアルミ、銅、ステンレスなど金属材料を使い続ける限り、その表面で起こる酸化・還元反応から完全には逃れられないためです。
工場現場で20年以上携わってきた実感として、腐食による損傷の重大事故は、“起こるべくして起きる”ことが多いのが現実です。
つまり、腐食は知識だけでは防げず、現場目線の運用と物の使い方、材料選択、そしてバイヤーやサプライヤー間の情報共有が重要なカギを握っているのです。

この記事では、金属腐食の形態と分類、具体的な腐食事例、腐食防止のための材料選定のポイント、そして現場で実践すべき腐食損傷対策や応用例を、実務的な視点で解説します。

金属腐食の分類と代表的な腐食形態

腐食の基本:なぜ金属は腐食するのか

金属腐食とは、環境中の酸素や水分、塩分、化学物質によって金属が化学的・電気化学的反応を起こし、性質が変化する現象です。
工場現場では、屋内外の配管、タンク、コンベア部品、構造体、工具など、あらゆる“鉄の部分”が腐食のリスクにさらされています。

金属が腐食する主な原因は、以下の通りです。

– 金属の電子が環境中に奪われる(酸化)
– 金属同士や異種材料の間に電位差が生じ、電流が流れる(電気化学的腐食)
– 塩分やpHの影響で、局所的に反応が進行(局部腐食、孔食)

腐食形態の主な分類

工場やプラントで実際に遭遇する腐食の形態は、大きく分けて以下の種類に分類できます。

1. 均一腐食(全面腐食)

金属表面の全体がまんべんなく酸化される腐食形態で、最も基本的なタイプです。
鋼材の屋外露出部、ペイントの劣化部分などではこの均一腐食が進行します。
進行速度の予測がしやすく、厚み減少を測定することで寿命管理できます。

2. 局部腐食(局所腐食)

特定部分だけが激しく腐食する現象です。
配管の継ぎ目や、ボルトの座面、溶接部などに起こりやすく、設計時の死角や異種金属接触点などが発生源となります。

<代表的な局部腐食>
– 孔食(ピッティング):表面に針穴状の深い腐食穴ができる。ステンレスの塩素系腐食に多い。
– 隙間腐食:ガスケット部、組立隙間、ボルト接合部などの“水の溜まり場”で起きる。
– 応力腐食割れ:機械的な応力と腐食環境が重なったときに割れが発生。SUS、アルミなどに多い。

3. 電位差腐食(ガルバニック腐食)

異種金属同士が電解質(水や湿気、海水など)を通じて直接接触した場合、一方が著しく腐食します。
アルミと銅、ステンレスと普通鋼など“異金属”の組合せ部分のトラブルはこれが理由です。

4. 大気腐食・海洋腐食

工場の立地条件によるものです。
沿岸部、化学工場地帯、工業団地などは塩分、SOx、NOx、HClなど腐食性雰囲気が強く、材料に特別な配慮が必要です。

腐食事例から学ぶ、見逃せない“現象と兆候”

長年の工場現場経験をもとに、実際に発生した腐食トラブル事例を振り返ります。

– アルミ製タンクの内面が、数年で無数の小孔によるピンホールだらけに(冷却水に含まれた塩素が原因)
– 配管ラインの継ぎ目ボルトだけが、他より著しく腐食進行(ガルバニック腐食、締結材の材質ミス)
– SUS304製歩廊カバーが、塩化カルシウム散布エリアですぐに孔食発生(塩害+高温多湿が影響)

取り返しのつかない破損の前に、目視点検や厚み測定(超音波式・電磁式)、色調変化(赤錆・黒錆・白錆)、異種金属接触の有無などを地道に確認することが“現場力”の根底にあると痛感しています。

腐食損傷防止の材料選定~“昭和アナログ”から抜け出すコツ

材料選択の本質は“腐食環境”の特性を見極めること

古き良き製造業では、“従来使っていた材質をそのまま使う”という慣習が強く残っています。
しかし、使用環境や要件(水・化学薬品の有無、温度、あたりの衝撃、周囲雰囲気)は時代と共に変化しており、同じ材料でも思わぬ腐食トラブルを招きます。

“常識”を疑い、腐食環境・用途・寿命コストの三位一体で材料選択を見直すことが、アナログ業界から一歩抜け出すための第一歩です。

金属材料の特徴と選択のポイント

代表的な金属材料ごとに“腐食防食”視点の特徴と選定時の注意点をまとめます。

1. 鉄(普通鋼/S45CやSS材)

腐食しやすい代表格。
塗装やメッキでの防食が必須です。
水系・外気・湿気が多ければ耐食SUSへグレードアップか、重防食(特殊塗装)で対応します。

2. ステンレス鋼(SUS304/316/430等)

酸化被膜による“自己防蝕性”に優れますが、塩分や一部薬品(次亜塩素酸・濃硫酸)に弱い盲点があります。
特に、ピット腐食や応力腐食割れに注意が必要です。
頼りすぎは要注意で、現場の雰囲気や洗浄頻度も加味しましょう。

3. アルミニウム・銅・ニッケル・チタンほか

アルミは軽量かつ防蝕皮膜がありますが、pH変動・異種金属接触で深刻な孔食が起きやすいです。
銅・真鍮は水道・冷却用途向きですが、強酸・強アルカリには不適。
チタンは最高クラスの耐食性を誇る反面、コスト高がネックとなります。

防食技術の最新動向

– 新型重防食塗料(亜鉛リッチ/フッ素樹脂系等)
– 溶融亜鉛メッキ+樹脂コーディング複合仕様
– 電気防食(犠牲陽極/外部電流法)
– 環境負荷低減型のクロムフリー表面処理

これらは従来型のアナログ防食(単純ペイント、一時的なシリカ処理)に加え、長寿命・信頼性・メンテナンス性を重視した新たな防食手法です。
特に“SDGs対応”や“REACH規制”など、時代と共に変わる環境基準もこの分野に大きな影響を与えています。

腐食損傷防止のための5つの現場実践策

製造業の現場で即実践すべき防食アクションを、以下にまとめます。

1. 定期的な目視点検と記録

– 月例・年次ごとの目視点検を義務付ける
– 異常兆候は写真記録、過去データと比較して進行度を見極める
– 腐食兆候の吹上げ、色変化、剥離部など重点的に観察

2. 設計段階での“腐食リスクマップ”作成

– 門型フレーム、配管、継ぎ目、ボルト、底部、外壁など、腐食リスク箇所を図面に明示
– “異種金属接触”部は目立つ色で強調、材料リスト作成で混用防止

3. 適正な材料・防食仕様の選定

– 使用環境・予算・寿命目標をセットで検討
– 一律“従来通り”を避け、条件分析→最適材選定
– 新しい防食薬品・表面処理の実地テスト導入

4. 運用現場での“水分・塩分”管理徹底

– 給水・配管部のリーク即時修繕と洗浄
– 塩害対策:定期水洗、シール部の設計改善
– 清掃・乾燥・点検のトリプルアクション

5. 購買・バイヤーとの情報共有体制構築

– 単なる「発注書」でなく、腐食事情や実工場のトラブル事例を情報共有
– サプライヤーと共同で現場リスク診断、最適防食提案をもらう
– 関係先バイヤー、物流担当者、メンテナンス担当も巻き込む
– 外部セミナー・勉強会で腐食知識の底上げ

応用:防食技術の新展開とこれからの材料選び

腐食防食技術は日進月歩であり、IoT・DX時代の到来により予防保全が加速しています。

– センサーとAI、現場カメラデータと連動した「腐食兆候の自動検出システム」
– 残厚管理のクラウド連携(可視化・AI予測)

また、部品単体にとどまらず、“サプライチェーン全体”で腐食リスクマネジメントを行う動きも活発化しています。
“設計-購買-物流-現場-メンテナンス”の縦串を繋ぐことで、日本製造業の「腐食ミスゼロ」社会が本格化しつつあります。

まとめ~腐食防食の現場力とは「見逃さない・伝えきる・選びぬく」こと

金属腐食は、材料そのものの化学反応という絶対法則ですが、防ぎ方・付き合い方・被害の最小化は現場力にかかっています。
従来型の材料選定やルーティン作業だけでなく、「なぜこの腐食が起こったのか」「どうすれば再発を防げるのか」を多角的に検証し、次の一手を“現場目線”で考えることが、昭和型アナログから令和の先進現場力へと進化する道筋です。

“過去の常識”を温故知新しつつ、サプライヤーやバイヤーと深く連携し、「腐食しない現場づくり」にぜひ取り組んでください。
安全と品質、コストの最適バランスは、腐食防食の最前線から生まれるのです。

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