投稿日:2025年7月9日

衝撃荷重を吸収する強度設計と有限要素解析活用手順

はじめに:製造業における衝撃荷重の重要性

製造業の現場では、構造物や部品が思わぬ衝撃荷重を受けることがあります。

フォークリフトや搬送設備との接触、不意の落下、金属プレスによる打撃など、「想定外」の事態は工場の現場で頻繁に発生しています。

こうした衝撃荷重は、設備や製品に致命的なダメージを与えるだけでなく、生産効率や品質にも深刻な影響を及ぼします。

現場主義で培ってきた経験上、設計段階での“強度設計”と、現代的手法である“有限要素解析”(FEA)の組合わせが、生産現場の変化へ迅速・柔軟に対応するキーポイントです。

本記事では、昭和の時代から変わらず強く根付く現場目線の「勘と経験」と、デジタル時代のFEM(Finite Element Method、有限要素法)の融合を、「衝撃荷重を吸収する強度設計」という切り口で徹底解説します。

調達購買、生産管理、品質管理、サプライヤーにとっても利益となる実践的な手順やヒントを、深掘りしてご紹介します。

衝撃荷重とは何か?現場でありがちなシチュエーション

衝撃荷重の正体とは

衝撃荷重とは、通常荷重とは異なり、物体が瞬間的に加えられる大きな力を指します。

例えば、部品の運搬中に棚から落下した、搬送ラインの停止時にワークがストッパーに激突した、加工機でワークに急激な力が加わった、などが現場でよく発生するシーンです。

こうした衝撃現象は、一過性であるがゆえに計測や予測が難しく、従来の静的設計基準のみでは対応が困難です。

アナログ現場で長年使われてきた対処法

昭和の時代から、現場では大きな安全係数や溶接箇所の追加、材料厚みの増加など「経験的な余裕」で対応してきました。

「ちょっと大げさに頑丈にしておけば大丈夫だろう」
――こうした設計思想は、コストや重量増加、そして生産効率の低下を招きやすい一方で、未知のリスクに対して一定の安心感をもたらしてきました。

しかし現代は、高機能・軽量化・コストダウンなどの要求が年々厳しくなっています。

今こそ勘と経験に加え、数値解析(有限要素解析)を導入した合理的な設計が求められています。

強度設計の基本:衝撃荷重を吸収できる設計とは

1.材料選定の要点

衝撃を受けたときに破断や塑性変形を起こしにくい材料を選ぶことが第一です。

単なる引張強度だけでなく、
– 靭性(破壊時のエネルギー吸収能)
– 疲労強度(繰返し荷重に対する耐性)
– 伸び(変形性能)

などをバランスよく考慮しましょう。

軽量化のために薄い板材を選ぶ場合や、アルミ材・樹脂材を活用する場合、衝撃荷重に対する脆弱性には特に注意が必要です。

現場での失敗事例として、「軽くしたらぶつけてすぐ曲がる」「耐荷重はクリアしているのにちょっとの衝撃で折れる」などが頻出します。

2.形状設計の工夫

強度を高めるためには、単に厚みを増やすだけでなく、
– リブ(補強筋)の追加
– 曲げ加工やアール処理(応力集中を緩和)
– 溶接部の配置最適化

など、部材の変形を分散・吸収する形状上の工夫が有効です。

実際の現場では、「Rを大きめに」「応力集中部は逃がし加工」「端部やコーナーは補強」など、手間を惜しまない小さな配慮が大きな成果につながります。

3.組立・接合の信頼性

衝撃荷重は、ボルト・リベット・溶接などの接合部にも集中しやすい性質があります。

– ボルトの緩みや剪断破断を防ぐ: トルク管理やワッシャー追加
– 溶接部には過度な応力を避ける
– 複数部材の重ね合わせ構造で衝撃吸収を分散

こうした現場での地道な改善が、致命的な事故・破損の抑制に直結します。

有限要素解析(FEM)とは:現場目線で理解するメリット

有限要素解析をどう使うか?

有限要素解析(FEM、FEAとも呼ぶ)は、製品や構造物の応力・変形をコンピュータシミュレーションで「見える化」できる手法です。

静的荷重・疲労荷重はもちろん、瞬間的な衝撃的荷重についても、専門ソフトで数値的に評価できます。

現場ではなかなか感覚がつかめなかった「どこにどれだけ力が集中しているのか」「どのタイミングで破断するリスクがあるか」などを、数値やカラーマップで直感的に把握できるのが最大のメリットです。

近年はクラウド型のCAE(Computer Aided Engineering)ツールも普及し、コスト・スキルのハードルが低減しています。

現場の勘&FEMの両輪で進化するものづくり

昭和の「経験と感」で作られてきた設計は、現代のCAEで定量的に補強されることで、大幅な材料削減や工数削減、信頼性アップを実現します。

例えば、
– 衝撃荷重800kgfを想定し、FEMで溶接部の応力集中をチェック
– 設計変更前と後で応力分布を比較し、効果を定量評価
– 現場の実測データや破損トラブルをFEMにフィードバック

といった工程が、試作と量産の無駄な手戻り・工数削減にもつながります。

衝撃荷重設計の有限要素解析利用ステップ

工程1:衝撃荷重のシナリオを明確にする

まず現実のシーンを細かく想像します。

「どんな場面で、どのくらいのエネルギーが、どの方向から加わるか」

ヒアリングや現場観察、過去トラブルの履歴、物流・生産ラインの動画解析などで、最悪ケースを抽出することが肝心です。

工程2:モデル化・条件設定の最適化

CAEソフトに3Dデータをインポート、または簡易模型を作成し、加わる力や支持条件を設定します。

このとき、
– モデルの簡略化(解析コスト・工数とのバランス)
– メッシュサイズや質点の定義
– マテリアルプロパティ(硬度・弾性率・破壊靭性など)

を実物・現場条件から逸脱しないよう注意します。

材料の特性値は、調達購買担当と連携し正確なデータ入力を。

工程3:動的解析・衝撃解析の実施

動的解析(Transient Analysis)または衝撃解析モードを用い、一連の衝撃過程をシミュレーションします。

コンタクト定義(部品間の当たり判定)や、減衰・衝撃波吸収も設定することで、現場で起こりうる振動・残留応力の把握が可能です。

工程4:応力・変形分布の評価

解析結果として出てくる「応力集中箇所」「最大変形量」「破断リスク」などを、カラーマップや数値で評価。

高応力発生部については、補強形状や材料グレードアップ、設計変更を行い、必要に応じて再解析を繰り返します。

現場用語でいう「山勘」から「ビフォーアフターの見える化」への進化です。

工程5:結果の現場実践検証とフィードバック

CAE解析結果を、試作や現物の強度試験、現場での衝撃テストと突き合わせます。

机上評価では見つけられなかった施工誤差、取り付けズレ、経年変化など、アナログ現場ならではの“勘どころ”を検知し、設計へフィードバック。

設計・解析・現場のコミュニケーションが、サプライヤーやバイヤーとの信頼関係にも直結します。

現場・バイヤー・サプライヤーが知っておくべきポイント

バイヤー目線:調達段階での強度設計チェックリスト

強度設計とFEMの使いこなしが進んでいるサプライヤーは、設計変更や調達コストダウンにも強いのが現代の潮流です。

調達・購買担当は、
– 「衝撃荷重下の破断・変形解析データがあるか」
– 「実験データとFEM解析の摺り合わせ」
– 「バックデータと設計ナレッジの蓄積・展開」

を重視し、現場トラブルを未然に防ぎましょう。

サプライヤー目線:顧客の安心感を支える提案力

サプライヤーは、
– 製作現場からの“ヒヤリハット”情報
– FEM解析の簡易レポートや改善提案
– 不具合発生時の素早い現場検証・フィードバック

といった“プラスα”の対応が、選ばれる理由になり得ます。

関係者全体で「現場向けCAEリテラシー」を底上げすることが、ひいては製品の信頼性・受注安定につながります。

まとめ:昭和的勘と現代的数値解析の融合が新しい地平線を拓く

伝統的な「余裕を持った強度設計」だけでは、現代の厳しい生産条件やコスト要求には対応しきれません。

一方で、数値解析一辺倒で現場の勘を切り捨ててしまっては、イレギュラーなトラブルや微細な改善点を見落としがちです。

両者をつなぐキーワードこそ「衝撃荷重の強度設計×有限要素解析の活用」です。

– 現場観察とフィードバックで“リアルな衝撃シナリオ”を設定
– 材料・形状・接合の合理的な選択
– FEM解析で「見える化」し、設計根拠と改善提案の共有
– バイヤー・サプライヤーの双方で知識・ナレッジを生かした開発・調達

こうした“ラテラルシンキング型”の深い連携と実践知が、製造業の新しい地平を拓く近道です。

製造業に携わるすべての方が、“強度と効率を両立する”設計・開発の一歩先を目指されることを願っています。

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