投稿日:2025年7月14日

安全設計実施方法技術安全コンセプト構築事例機能安全文書化トレーサビリティ管理認証取得ポイント

はじめに

ものづくりの現場では、安全はすべてに優先しなければならない基本的な価値観です。
事故やトラブルを未然に防ぐためには、設計段階から安全を織り込む「安全設計」が必要不可欠です。
近年は、国際規格や顧客からの要求も高度化しており、「機能安全」「トレーサビリティ」「認証」など、より広範かつ専門性の高い対応が求められています。

本記事では、大手製造業で培った現場経験をベースに、実践的な安全設計の進め方や技術安全コンセプトの構築方法、機能安全を文書で管理する際のポイント、トレーサビリティの実現手法、実際の認証取得事例まで、現場目線で分かりやすく解説します。

安全設計実施の現場実務

安全設計の重要性と求められる背景

昭和時代は「危ないところには注意書き」「作業者の慣れ」で済まされた場面も多く存在しました。
しかし現在、ISOやIECといった国際基準への適合、顧客監査の強化、労働安全衛生法など法規制の強化により、“手を抜けない時代”に大きくシフトしています。
加えて、IoTやAIによる自動化・スマートファクトリー化が進む現場では、未知のリスクや制御系の新たなハザードも登場しています。

こうした背景の中、設計段階から徹底したリスクアセスメントを行い、「安全に壊れる」「安全に停止する」といった挙動までつくりこむ発想の転換が不可欠です。

現場で実践してきた安全設計の基本ステップ

1. リスクアセスメントの徹底
– 危険源の洗い出し・リスク評価(ISO12100などを基準)
– ①取り除く(設計変更)、②隔離する(ガード/囲い)、③警告・教育の順でリーン化したリスク低減施策

2. 安全機能の組み込み
– 異常時の安全停止(例:非常停止回路の2重化、フェールセーフ設計)
– 制御系の2系統化、マニュアル介入時のインターロック

3. 情報共有
– 図面・P&ID・制御ロジックなどに「安全設計意図」の明記
– 社内外(製造・保守・ユーザー)への設計段階レビューの実施

4. 更新履歴・検証記録の整備
– 設計変更時の影響分析、根拠残し

筆者の経験上、設計部門と現場部門が“安全意識”を共有し、手戻りの最小化に成功したプロジェクトでは、大幅な工事事故・クレーム減少など、業績面でも如実な成果が出ています。

技術安全コンセプトの構築

安全コンセプト=リスク低減の全体構想

単なる対症療法的な安全策では、頻繁なトラブル発生や指摘対応の繰り返しに陥ります。
大切なのは、製品・設備ごとに“狙い”と“守るべきライン”を明確にし、方針をコンセプトとして共有することです。

実際に筆者が手掛けた例では、以下の手順で進めました。

1. 主たる機能・ユースケースの整理
→「何を達成し」「何を絶対に起こしてはならないか」を列挙
2. ハザードイメージ展開(FMEAやFTAの活用)
3. 非常時・逸脱時の“やり直し可能な壊れ方”を選び、設計方針化
4. “安全コンセプトシート”として社内展開

これにより、設計者だけでなく、現場作業者や工程管理者も「どこまでやるか・やらないか」を迷わず判断できるようになります。
また、サプライヤーにも要件伝達が明確化し、購買失敗リスクも激減しました。

機能安全とは何か、その重要性

機能安全=制御系アプローチの安全確保

近年では、機械の構造的な安全だけでなく、プログラムや電気制御による自動化設備の“異常検知・停止”など、「機能安全(ISO13849/IEC61508など)」への対応が重視されています。

機能安全では、
– 正常系で事故ゼロでも、異常・故障時にいかに安全に制御できるか
– 故障鑑別・自己診断によるリスク検知
– 安全関連部品の安全度水準(SIL, PL)

といった観点が求められます。

例えば、複数のセンサを使った2系統の安全回路設計や、不具合時の処理優先順位設定、安全PLCの導入などが特徴です。

これらを実施するには、制御設計者・現場エンジニア・保守担当の三者連携、かつバイヤーが要求仕様や規格適合性をしっかり把握し、調達先やパートナーにも精緻な説明を求めることが重要です。

文書化とトレーサビリティ管理の実践方法

どう情報を“残す”か――昭和文化からの脱却

製造業界では、ベテラン設計者や職人の“口伝”や“現場ノウハウ”が重要視されてきました。
しかし、近年では
– 仕様書の履歴がおざなり
– 根拠の明示が社内保管にとどまる
– 設計変更点(ECR/ECO)の追跡困難

といった問題が肥大化し、国際認証や顧客監査の場で足元をすくわれるリスクが高まっています。

  1. 設計の根拠文書化
    • FMEA結果、リスク低減策一覧、安全機能定義書などを文書として残す
  2. 設計変更の追跡
    • 設計変更管理(ECR/ECOなど)のプロセス整備・履歴管理
  3. 監査時の“見える化”
    • 一元管理されたトレーサビリティ台帳の整備
    • 納入品トレーサビリティ(部材ロット、設計バージョン、検査記録)とのリンク

筆者が属していた現場では、一部で「エクセル台帳管理」→「PLM(Product Lifecycle Management)導入」により、残すこと&探せることが圧倒的にしやすくなりました。
中小企業の場合は、まず「リスクアセスメントシート」「設計意図メモ」「変更履歴ファイル」など、管理項目の絞り込みでも効果が出ています。

安全認証取得のポイントと事例

認証プロセスの押さえどころ

第三者認証(CE, UL, ISO13849認証など)を取得する工程では、以下が要になります。

  1. 要求仕様の明確化と設計文書整備
  2. 現物検証試験(評価用治具・テストシナリオの整備)
  3. 対応履歴・根拠文書のひな形作成

最大のハードルは「安全配慮がシステムとして一貫しているか」の証明です。
欧州向け機械では、CEマーキングにおける技術文書(TCF/DOC)を徹底し、顧客要求の背後にある規格要件(EN, ISO, IEC)を読み下すことが重要です。

実際の現場認証取得事例

筆者が担当したプロジェクトでは、初期設計レビューで顧客・第三者認証機関を巻き込んだ「安全意図のすり合わせ」を攻略ポイントとしました。
特に
– 考え方の可視化(安全設計コンセプト/機能安全マトリクス/リスク残存部位一覧など)
– 英語含む多言語展開
– サプライヤーに対する安全証明書や部品認証書の取得管理

など、多層構造の“証憑”作成・アップデート実践が奏功し、トラブルなく短期間で認証取得に成功しました。

バイヤー・サプライヤーの立場で知るべきこと

バイヤー(購買)は何を重視するか

– 設計検討段階での“安全設計意図”の有無
– サプライヤー側に、機能安全や文書管理体制、トレーサビリティ維持が実装されているか
– 提出書類の“一貫性・早期対応・多言語性”

このあたりが今後、調達競争力を左右する時代となっています。

サプライヤーはここを伝えると信頼獲得できる

– 「当社の安全設計フロー」「認証対応実績」「リスク低減アプローチ手順」を明記した資料提出
– トレーサビリティ台帳や、証明書の定期メンテナンス案内
– 自社の“安全カルチャー”を語るストーリーと合わせた提案

現場重視のバイヤーには、こうしたリアリティある情報発信がファクターとなります。

まとめ・今後の展望

安全設計・機能安全・トレーサビリティ・認証対応は、もはや一部の“上流工程だけの仕事”ではありません。
むしろ、バイヤー・設計・現場・サプライヤーが一丸となって安全を面で作りこみ、動的にアップデートしていく“協創”の時代へと進んでいます。

デジタルツールやAI、PLMなどの新手法も活用しつつ、昭和的な“マニュアル頼み”“属人的管理”から一歩抜け出すことで、製造現場の安全レベルは常に進化します。

「安全を守り、信頼されるモノづくり」は、必ず企業の永続発展につながる本質価値です。
これからの産業界の成長を、皆さんとともに切り拓いていきたいと考えています。

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