投稿日:2025年7月15日

設計プロセスのあるべき姿フロンドローディングコンカレントエンジニアリング

はじめに:設計プロセスを現場から見直そう

製造業の発展とともに、設計の現場にも大きな変化が求められています。
バイヤーとして調達購買の最前線に立つ方、生産管理やサプライヤーの立場で現場改善に携わる方にとっても、設計プロセスの在り方は無視できないテーマです。

設計プロセスが昭和から受け継がれるアナログ的発想にとどまるか、業界の未来を切り拓くイノベーションにつながるか。その分岐点となるのが「フロントローディング」「コンカレントエンジニアリング」といった現代的なアプローチです。

ここでは、業界の実情に寄り添いつつもラテラルシンキングで深堀りし、新たな視点から設計プロセスの“あるべき姿”を徹底的に解説します。

フロントローディングとは:なぜ必要か、どこが違うか

フロントローディングの基本と意義

フロントローディングとは「初期段階に負荷をかけて、下流でのトラブルや手戻りを防ぐ」設計思想です。

従来型の設計プロセスでは、エンジニアが設計を進め、図面が完成してから現場や購買担当、品質管理などが関与する流れが主流でした。しかし、そのやり方では下流工程で数多くの手戻りやコスト増、納期遅延が発生します。

フロントローディングでは、企画や設計の初期段階で、現場各部門や必要な知見を巻き込み、リスクを徹底的に洗い出します。
これにより、下流での「こんなはずじゃなかった」を大幅に減らすことができるのです。

どのような違いが生まれるのか

昭和を引きずる日本の製造業では、「現場で都度調整」「バイヤーが後から材料を考える」「生産段階になって現実の壁にぶつかる」という悪循環が根強く残っています。

フロントローディングの導入により
– 設計と現場のすり合わせが早期にできる
– 調達先や部品選定のリスクが減る
– コスト・納期・品質に関する失敗予知ができる

といった効果が生まれます。この段階で現場の知恵を最大活用できれば、購買や品質、製造との「対話型プロセス」が実現し、後工程での修正コストの激減を体感できるでしょう。

コンカレントエンジニアリングの実践:並列作業の真価

単なる「同時進行」では終わらせない

コンカレントエンジニアリングは、「設計→生産準備→調達」といった工程を縦割りでなく、同時並行で実施する考え方として知られています。

しかし、そもそも「同時進行がなぜ重要か」を深く掘り下げると、根本的な業界の強化に繋がることが見えてきます。

従来は、設計部門が一人で図面を書き上げ、その完成品が下流に“流される”形でした。
ところが、製品の複雑化やグローバル調達が進む現代では、そのやり方では到底競争力を維持できません。

部品設計の段階で量産性やコストのリアルを織り込む必要がある。調達や品質管理とも逐次すり合わせながら、多方面からの知見を設計にフィードバックし合える仕組みが不可欠です。

サプライヤー・バイヤーが主役になる場面

例えばサプライヤーの立場であれば、「この設計だとコストが跳ね上がります」「現行部品の切り替えに工場が対応しきれません」と初期段階で声を上げられるかどうかが分岐点。

また、バイヤーとしても、「この部材選定では世界的な調達リスクがある」「海外サプライヤーとの長納期・品質課題が残る」などの知見を、企画設計チームと並行で共有できる場が求められます。

つまり、コンカレントエンジニアリングの本質は、「専門部門が早期かつ対等・並列に介入することで、トータル最適の設計に仕上げる」ことです。

現場目線で考える:設計プロセスの理想と現実

昭和的体質からの脱却をどう進めるか

日本の主力製造業の多くは、いまだに
– 設計主導・上意下達
– 成果主義的な責任分担
– 他部署は「後で巻き込む」体質

から抜け出せていません。
たとえば、設計者が図面を完成させてから悩みを相談する、バイヤーが「コストダウン」だけ求めて後は現場頼みなど、「縦割りの壁」が現場にのしかかっています。

フロントローディングやコンカレントエンジニアリングを本気で根付かせるには
– 初期段階からクロスファンクショナルチームを組成
– 設計・購買・品質・生産管理が日常的にFace to Faceで話す
– 「これは下流の問題」「上流のせい」という責任逃れ文化の排除

こういった意識と仕組み改革が不可欠です。
特に、サプライヤーや購買が「後から声だけかけられる」状況を打破し、主役として早期参画できる仕組みをつくることが鍵になります。

製造業のDX化と設計プロセス改革の関係

IoTやデジタルツイン、3D CAD・PLM の発展により設計プロセスのDX化も注目されていますが、根本は「人と人のコミュニケーション構造」を変革することです。

たとえば
– 3Dデータを初期段階からサプライヤーも閲覧可能にする
– CADデータへバイヤーや生産技術のコメントを直書きできる仕組み
– 設計と購買が画面共有をしながらリアルタイム議論

など、ITツールを使って「現場の知見を初期設計へ組み込む」ことが、昭和体質脱却の近道となります。

フロントローディング・コンカレントエンジニアリングの導入ステップ

実践的な4ステップ

1. クロスファンクショナルでの設計初期ミーティング設定
2. 早期にサプライヤーアサインし、製造・調達リスクを共有
3. 全員参加型レビューでフィードバックループを回す
4. ITツール(3D CAD、コラボレーションツール)を設計・調達領域まで拡張する

これが理想論でない運用の姿です。

担当者・管理職の心得

– 「やり直し」や「後戻り」はむしろ成長のチャンスと捉える
– 現場の多様な声を歓迎し、初期段階での摩擦を前向きに受け止める
– 成果が不透明な段階でもコミュニケーション頻度を増やす

このような心構えが、初期投資(コスト、労力)に見合う大きな効果を必ずもたらします。

勝ち残る現場へ:新たな流儀を体現するヒント

設計者・バイヤーは「橋渡し役」になろう

設計担当は、「一人で抱え込まず、現場やサプライヤー・購買の声を『設計仕様』に翻訳する」役割が求められます。

バイヤーであれば、単なる価格交渉だけでなく
– どんな仕様であれば調達リスクが無いか
– サプライヤー選定段階での設計適合性
– 部材の世界動向や脱炭素、サステナビリティも加味した提案

そういった“打ち手”を「設計段階」から提案できる人材が、今後の主役です。

サプライヤーには積極的なフィードバック文化を

サプライヤーも「完成図面を納品される側」ではなく、「能動的な設計支援ができるパートナー」に変わるべきです。

たとえば、海外有力メーカーではサプライヤーの設計アイデアを最初から募集し、「最善の仕様とコストを両立」させる取り組みが進んでいます。日本の製造現場でも、こうした「双方向フィードバック」が当たり前になる日が迫っています。

まとめ:設計プロセス改革が製造業の未来を創る

設計プロセスの“あるべき姿”――。
それは、フロントローディングやコンカレントエンジニアリングを単なる流行語で終わらせず、現場目線で本質を突き詰め、各担当者が「初期段階から対等に議論できる」文化と仕組みを定着させることです。

業界の現実・葛藤を理解しつつも、最先端の知恵を使って古い体質を打ち破る。
あなた自身の現場で、今こそ設計プロセス改革の第一歩を踏み出しましょう。
バイヤー、サプライヤー、製造現場のすべての関係者が真に「WIN-WIN」になれる未来のために。

You cannot copy content of this page