投稿日:2025年7月15日

実験計画法の基礎と要因配置実験直交配列表実験による合理的な実験計画の立案

はじめに:なぜ製造業に「実験計画法」が必要なのか

製造業の現場は、試行錯誤と改善の積み重ねで成り立っています。

新製品の開発や工程の最適化、品質トラブルの原因究明など、さまざまな場面で“実験”が求められます。

ただ、実際の工場では、「何度もやり直しが効かない」「材料や工数に限りがある」「誰もが納得しやすい根拠がほしい」といった声が多くあがります。

そんな背景を持つ製造現場でこそ活用されるのが、実験計画法です。

この手法を使うことで、現場任せの属人的なアプローチから脱却し、科学的にデータを整理し、確かな改善につなげることができます。

本記事では、「実験計画法」の基本から要因配置実験、直交配列表実験の実践的な立案方法まで、現場目線で解説します。

これから製造業で活躍したい方や、バイヤー・サプライヤーの立場で品質やコスト競争力を高めたい方にも役立つ内容です。

実験計画法とは何か

実験計画法の概要

実験計画法(Design of Experiments, DOE)とは、複数の工程パラメータや要因が製品の品質や生産性にどのような影響を与えているかを、効率よく“科学的”に解明するための方法です。

従来の「一つずつ条件を変えていく」やり方では、工程が多くなるほど際限なく試行回数が増えます。

実験計画法では「複数の要因」を同時に変える実験を事前に計画することで、最小限の実験回数で最大の情報を得ます。

なぜ現場で浸透しにくいのか?昭和的工場文化の呪縛

日本の製造現場は、長年にわたりいわゆる「勘・経験・度胸(KKD)」に頼った改善活動が根付いてきました。

昭和の成長期に築かれた現場力は今も日本の強みですが、一方で「なぜそうなるのか」「次に何を改善するべきか」といった“見える化”や“再現性”の弱さが課題でもあります。

デジタル化やデータ主導のものづくりが求められる今こそ、実験計画法の活用が必要です。

実験計画法を使うことで得られるメリット

– 効率的&論理的な問題解決
– 後追いで納得しやすい科学的根拠
– 経験値に頼るメンバー間の知識ギャップの是正
– 計画段階から“再現可能な”ノウハウとして蓄積できる

現場だけでなく、取引先とのやり取りでも「この結論にはちゃんとした実験設計とその根拠があります」と説明できます。

要因配置実験の基礎

「要因」と「水準」とは

要因(ファクター)とは、品質や性能に影響を与えていると考えられる操作因子です。

例えば、「焼入れ温度」「プレス圧力」「成形時間」などです。

水準(レベル)は、それぞれの要因で試す具体的な値や条件(たとえば高温/低温、圧力100MPa/200MPa…)のことです。

要因配置実験の基本類型

要因配置実験では、各要因の水準を変化させて実験を行い、その結果を評価します。

単純な「1要因ずつ変化させる一元配置実験」から、複数の要因を同時に変える「多元配置実験」へとステップアップできます。

多元配置実験を使うことで、「どの要因が最も効くのか?」「要因同士が互いに影響し合っているのか?」という“交互作用”も明らかになります。

製造業における要因配置実験の実例

-溶接品質向上のために「電流」「圧力」「保持時間」の組合せを実験
-射出成形品の反り低減のために「金型温度」「射出速度」「冷却時間」の3つを同時に変えて検証

すべてのパターンを調べると実験数は膨大になるため、効率化が不可欠です。

直交配列表実験の活用による合理化

直交配列とは

直交配列(orthogonal array)は、統計的に必要十分な組み合わせだけを抽出して、最小限の実験数で最大効率を得るための“実験テーブル”です。

一般的には「田口メソッド」とも呼ばれ、日本の製造業に強く根付いてきたアプローチです。

L4, L8, L16など、「L」の後ろの数字が実験の組合せパターン数を表します。

たとえば3要因2水準のL4直交配列なら、4パターンだけで済みます(すべての組み合わせだと2×2×2=8通り)。

直交配列を使った実験計画の手順

1. 要因と水準を決める(どのパラメータを何段階で試すか)
2. 直交配列表から最適な配列を選ぶ(例:L8、L16など)
3. 実験パターンを決定し、表に記入する
4. 実験を実施し、結果データを記録する
5. 統計的手法で各要因の寄与度や交互作用を算出する
6. 最適な条件を現場にフィードバックし、QCストーリーとして展開する

これにより、「勘と度胸」から「科学とデータ」へ、現場改善のパラダイムシフトを図ることができます。

直交配列表実験の現場でのよくある課題と解決法

– 管理職:「現場が忙しすぎて全部のパターンを試せない」
– 技術者:「複雑な表計算が苦手だ」
– バイヤー:「納期短縮したい、なぜこの実験回数で十分なのか知りたい」

直交配列表を使えば、余計な手間やムダなサンプル試作をカットし、数値根拠と納得性を持って提案・交渉ができます。

今では無料のExcelテンプレートや、専用ソフトも多く普及しています。

QC検定レベルの知識で十分実用可能であり、新しいデジタル人材にも門戸が広がっています。

実験計画法の現場導入を阻む壁と、ラテラルシンキングによる打開策

「昭和的思考」からの脱却

「このやり方は昔から」「実験なんて現場の手間」といった心理的バリアを超えるには、新しい視点が必要です。

ポイントは
1. 「実験計画法は管理職やエンジニアだけのものではない」ことを示す。
2. 「一度テンプレート化すれば、工数とコストが削減でき、現場も楽になる」と認識を変える。
3. 「取引先への説明責任、トレーサビリティ、QC工程表作成時の根拠確保」にも活きると伝える。

特にサプライヤーサイドでは、バイヤーに対して「御社のご要望条件で、最適なパラメータ抽出や再現性確保ができます」と提案材料に使えます。

見える化とデジタル活用による促進策

今後は、実験計画法の結果をIoTデータ・MES(製造実行システム)・品質ダッシュボードと連携させることで、DX(デジタルトランスフォーメーション)の一部として展開できます。

「やった結果がデータで見える」「どの要因を何度やっても同じ結果になる」といった工程安定化につながります。

現場とオフィスの情報断絶も埋めやすくなり、DX人材と昭和職人気質との橋渡しも可能になります。

実験計画法を学び、今すぐ現場で活かすために

最初の一歩:小さな成功体験からスタート

まずは複雑な工程ではなく、比較的単純な現場ラインや工程で直交配列表実験をチャレンジしてみましょう。

QCサークルや現場改善発表会で、「たった8回の実験で工程最適化できた」「不良半減に成功した事例です」と成功体験を共有しましょう。

現場での納得感が増し、“再現できる改善活動”への転換点となります。

ものづくり日本の再浮上へ:バイヤー・サプライヤーの新しい役割

今後の製造業は「困っている現場に寄り添い」「科学的に説明し」「取引リスクも減らす」人材が求められます。

バイヤーは、「各サプライヤーの工程条件を定量的・論理的に比較」できるので、無駄なQCD交渉を減らせます。

サプライヤー側も、創意工夫の実験アプローチをノウハウとして蓄積し、他顧客へ差別化提案が可能になります。

まとめ

実験計画法、特に要因配置実験と直交配列表実験は、単なる“現場の小細工”ではありません。

最小限の手間で最大限の効果を出すための“科学的武器”です。

今こそ「昭和の勘と経験」から「デジタル時代の見える改善」へ一歩前進しましょう。

現場で働く方も、バイヤーやサプライヤーとしてものづくり全体にかかわる方も、この機会に実践的な実験計画法を学び取り入れることで、新しい改善の地平線を切り開いてください。

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