投稿日:2025年7月20日

設計思想標準化モジュール化技法進め方推進活動体制制御電気ソフトモジュール化導入事例

はじめに:製造業が直面する現実と設計思想の標準化・モジュール化の重要性

製造業、特に多品種・変量生産が求められる現代において、競争力の源泉は「正しく早く、安く、高品質に作る」この一点に集約されます。

しかし、長らく続く昭和のアナログ体質が根強く残る日本の工場では、各担当者の経験則や“暗黙知”に頼った業務が未だ主流となっています。

これが設計から生産、調達、調整に至るまで非効率を生み、人的ミスやコスト上昇、納期遅延といったリスクに直結しています。

そこで注目されているのが「設計思想の標準化」と「モジュール化技法」の導入・推進活動です。

これは製品開発はもちろん、制御・電気・ソフトウェアに至るまで全体を横断的に効率化し、品質とコストを両立させるためのキーポイントとなっています。

本記事では、現場目線での実践的な手法や推進体制のあり方、成功事例に至るまでを余すことなく解説していきます。

なぜ今“設計思想標準化”と“モジュール化”なのか?

背景にあるものづくり現場の深刻な問題

・担当者ごとのバラツキによる品質・コスト・納期の三重苦
・熟練作業者依存の人材リスク
・部品点数・バリエーション増加による調達難易度の上昇と管理手間の増大
・設備、ライン、ITのブラックボックス化

こうした問題は、特定の人間や部門に知識や経験が属人化してしまうことに起因しています。

この属人化は、後進への技術継承の壁、新規事業への適応力低下、さらには現場のモチベーションにも負の影響を与えます。

標準化とは知の集約=再現性を高める唯一の道

設計思想の標準化とは、ノウハウが散在している状態から「誰がやっても同じような品質に到達できる仕組み」に変えることです。

具体的にはプロセスごとの設計指針や設計ルール、選定基準、命名規則などの「型」を作りデータベース化することで、業務品質の底上げと均一化が狙えます。

モジュール化とは製品および業務の“ブロック化”

モジュール化技法は、製品や設備、また制御・電気・ソフトウェアにおける機能や部品を“まとまり=モジュール”として再構成し、組み替えや共通化を促進する手法です。

ここで大切なのは、単なる仕様統一や部品共通化ではなく「プロセスそのものを部品化」し、必要に応じて組み合わせて使えるようにすることです。

設計標準化・モジュール化の進め方:5つの推進ステップ

1. 現状分析:現場の“見える化”からスタート

まずは現状把握が肝心です。

工程ごとの資料・仕様書・図面・手順書・部品・システムコードなどを棚卸しし、現場で何が標準化・モジュール化できていないかを洗い出します。

ここで大切なのは、“いつものやり方だから”を疑い、作って・使って・壊れて・直す―この繰り返しをデータで可視化する点です。

2. 品質・コスト・時間のボトルネック特定

現場ヒアリングや実データから、製品・設備・システムのどの領域にバラツキや非効率が根強いかを明確にします。

特に「再設計が何度も発生する」「部品点数がやたら多い」「類似した機能なのに流用できていない」といった現象に注目します。

3. 標準化・モジュール化できる単位の定義と情報設計

どこからどこまでを“標準”とするか、“モジュール”の切り口をどうするかを決めます。

例えば、
・制御盤なら“入出力ユニットごと”や“安全停止回路ごと”
・ソフトウェアなら“ライブラリ化できる制御単位ごと”
・部品なら“同種寸法・規格品ごと”
に知識や仕様を体系化していきます。

4. “変更に強い”仕組みとしてルール化・手順化

設計思想標準の仕様書やモジュール共通設計書を作成しますが、ここで大切なのは「最小限のルールで最大公約数的な網羅性」を大切にすることです。

やたら厳密すぎても運用されず、緩すぎても効果が出ません。

まずは設計レビューや工程FMEAなどで試験運用しながらフィードバックをもらい、“現場が動く”バランスを見極めましょう。

5. 継続的な改善とナレッジ蓄積体制の確立

標準化、モジュール化は一度やったら終わりではありません。

むしろ運用開始後こそが本番です。

蓄積する「標準」や「部品・モジュール」情報をナレッジベース化し、変更履歴も明確になる仕組みを作りましょう。

例えば、定例の標準化推進会議や設計変更レビュー体制など、組織的な活動として根付かせることが重要です。

推進活動の体制づくり:成功と失敗を分けるカギ

現場力×横断的な推進チームが不可欠

設計・開発・調達・生産技術・品質保証部門など部門横断のチームを作り、各業務の実務者が絶えず改善“当事者”として関わる体制にすることが肝要です。

無理に本社主導で“標準化するぞ!”と掛け声だけで動いても、現場にノウハウや意義が伝わらないと形骸化してしまいます。

現場の生々しい失敗や“なぜこの仕様になっているのか”という経緯も深掘りし、各担当者の納得感と「自分ゴト」化こそ成功への近道です。

トップダウンとボトムアップのバランス

標準化・モジュール化活動は、現場発のボトムアップだけでも、トップダウンの号令だけでもうまくいきません。

経営層からは「なぜ今これが必要か」「どんな価値に繋がるか」を現場・管理層に明確に発信し、同時に現場の声を絶えず吸い上げてPDCAサイクルに組み込むことが大切です。

また、最初から大規模改革を狙うよりは、“すぐに効果が見えやすいテーマ”から着手するのがポイントです。

制御・電気・ソフトウェア領域でのモジュール化手法

制御盤・パネル設計の場合

図面や部品、配線ルートの“共通化・定型化”、
汎用モジュールの繰り返し利用、モジュール単位での構成管理(BOM・設計変更管理)を行います。

例えば、電源・安全停止・入出力ユニット・インターフェースユニットをそれぞれ“基本ブロック”として設計し、
“ここにこのオプションを足せば”とアレンジできる設計とします。

複数案件で“これまで都度調達していた”特殊パーツや制御方式も、
共通部品の採用に切り替えたり、ユニット構成で調達・組立て・試運転まで工数削減に繋げられます。

電気回路設計の場合

PLCやセンサー制御等で“パターン化”も極めて効果的です。

テンプレート回路や、再利用可能な回路モジュールライブラリ、
ドキュメントの一元管理(設計CAD/PLM)といった武器を整えれば、
設計品質向上・トラブル時の対応負担も大幅減少します。

ソフトウェア開発の場合

制御系ソフトウェアでは、設計段階から「ライブラリ化」「機能部品化」「バージョン管理の一元化」を推進します。

たとえば、標準インターフェースや共通I/O機能、
各機能ブロックのコード整備・テスト自動化、設計書テンプレート化などで、
外部発注・派生設計時にも安心して流用できる環境が整います。

また、複数設備・ラインへの機能横展開で大幅なコストダウンにも直結します。

モジュール化導入成功事例:現場感のあるリアルな声

事例1:大手機械メーカーA社の制御盤モジュール化

A社では導入当初、現場から「設計自由度が下がる」「カタログ化なんて現実的でない」と反発もありました。

しかし、トライアルで“安全回路モジュール”から限定実施したところ、
設計の手戻りが半減し、部品在庫も30%以上の削減になりました。

設計担当者が実際に“使える”モジュールを現場レビューしながら改善し続けることで自然発生的に賛同が広がり、今では調達リードタイム短縮・品質トラブル減・人材育成効率化へと繋がっています。

事例2:電気設計部門でのテンプレート設計普及

ある中堅電装メーカーでは、回路図テンプレートを設計支援ツール上で標準化し、新人からベテランまで「迷わず・早く」設計できる仕組みを作りました。

結果、設計者ごとのバラツキが減り、不具合解析時の時間も約70%短縮。
また、増員時の人材教育も標準テンプレートを活用することで、現場への早期戦力化が実現しています。

事例3:組込みソフトの“機能部品化”推進

組込み系ソフト会社S社では、共通化しやすい制御プロトコルやI/Oライブラリをレゴブロックのように“部品化”し、機種ごとの派生開発を大幅に効率化しています。

導入から2年でソフト資産の8割が流用化、設計ミスも激減。
顧客要求ごとのカスタムにも即応できる柔軟性が高まり、案件あたりの人員配置を削減することにも成功しています。

まとめ:標準化・モジュール化で業界の壁を超える

設計思想の標準化、モジュール化技術は、ものづくりの属人化/承認文化/暗黙知偏重からの脱却に一石を投じます。

それは単なる合理化やコストダウン手法ではなく、「現場で真に実行できる再現性」を担保し、未来のものづくり人材への最大のバトンになるのです。

昭和のやり方から一歩踏み出す勇気こそが、変革の第一歩です。

本記事が、バイヤーや工場現場・開発部門、サプライヤー各位にとって新たな競争力・価値創出へのヒントとなれば幸いです。

今こそ、業界の常識を越えて「強い現場力」を築くべく、設計標準化/モジュール化推進を加速させましょう。

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