投稿日:2025年8月5日

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はじめに―「熱応力」の基礎を現場の視点で理解する

製造業の現場では、材料が思わぬ曲がりや割れを起こす「熱応力」がたびたび問題となります。

熱応力は、普段なかなか意識されない現象ですが、実際には全ての製造工程に密接に関わるテーマです。

本記事では20年以上の現場経験をもとに、熱応力の基礎や発生メカニズム、各種形状ごとの留意点、そしてアナログ時代から続く業界ならではの実践的な対応・解析手法までを深掘りして解説します。

また、バイヤーやサプライヤーの立場からも「なぜ今熱応力が問題となるのか」「どう解決・予防するべきか」というラテラルな視点も加味し、熱応力について広く・深く掘り下げていきます。

熱応力とは何か―基本的な発生原理を知る

熱応力の定義と発生メカニズム

熱応力とは、材料が温度変化に伴い膨張または収縮するとき、その変形を遮る要因があると内部的に発生する応力です。

たとえば、鉄の棒を加熱すると膨張しますが、両端を固定しておくと自由に伸びられず、内部に引張応力や圧縮応力が発生し、これを熱応力と言います。

この現象は、圧延鋼板や金型、鋳造、溶接工程、さらには基板実装工程など、多岐にわたる場面で起こり得ます。

代表的な発生要因

熱応力の主な要因は、以下のようなものがあります。

・急激な温度変化(急冷・急加熱)
・材料の熱膨張係数の違い(異材接合)
・寸法拘束(部品の固定・溶接など)
・熱の非均一な伝播

昭和のアナログ現場では「なんか割れたぞ!」と突発的な現象として対症療法的に扱われがちでしたが、現代ではこの熱応力問題が高度化した製品・工程においてコストと品質の両面でボトルネックとなっています。

形状ごとの熱応力発生の特徴

板材・薄板の場合

板材やシート状の製品では、加熱や冷却により全体が均一に膨張・収縮しない場合に、層間や表裏面に異なる応力場が生じます。

例えば、厚板の急冷時に表面が先に冷えて収縮すると、内部との膨張・収縮差によって反りやねじれ、場合によっては中央部が割れることもあります。

このため、冷却速度や冷却方向を現場レベルで把握し、工程管理することが必要です。

円柱・パイプ・ロッドの場合

円柱やパイプ状部材では、半径方向と軸方向で温度勾配が生じやすく、中心部と外周部で膨張・収縮のズレにより放射方向の応力場が形成されます。

特に急加熱や急冷工程、熱処理工程ではこの現象が顕著になり、クラック発生や曲がりが生じやすくなります。

異種素材、複合材(ラミネート、コーティング)

部品同士の熱膨張係数が異なる場合や、コーティング・ラミネート構造の場合は、界面に大きなせん断応力が発生しやすくなります。

この応力がはく離やひび割れの原因となりますので、材料選定や設計段階からの配慮が不可欠です。

熱変形・熱応力の解析手法と現場での着眼点

熱応力の基本的な計算式

線膨張係数α、温度変化ΔT、長さLに対して拘束されている場合、発生する熱ひずみεは、

ε = α × ΔT

またこれによる応力σは、ヤング率Eを用いて、

σ = E × ε = E × α × ΔT

と計算できます。

ですが、実際の現場ではこの理論式に加え、温度分布の非均一性や多軸応力、連続的な加熱・冷却など「理想化できない」条件が複雑に絡み合います。

解析ツールの活用と限界

CAE(コンピュータ支援工学)シミュレーション、FEM(有限要素法)による熱応力解析は、現代の製造業では広く用いられています。

事前に熱分布や応力分布を「見える化」し、設計段階からリスク予測が可能です。

ただし、アナログな製造現場では

・実際の工程温度や温度勾配が把握しきれない
・シミュレーションと現場条件が必ずしも合致しない

という現実的な限界も存在します。

ですので、現場での実測やヒストリー管理とシミュレーションとの「ハイブリッドな運用」が理想的です。

現場重視の熱応力管理手法

昭和から続く現場知恵としては、

・温度測定に熱電対やサーモグラフィを活用し変化を「実感」する
・割れや変形が起きた際の温度履歴、治具拘束状態を詳細に記録する
・「歩留まり×コスト」のバランスで必要な熱応力低減策を選択する

など、机上理論だけでなく実体験にもとづくPDCA管理が重要です。

「熱伝導」と「熱応力」―密接な関係性を知る

熱伝導現象の理解から始める

熱応力問題を語るうえで不可欠なのが「熱伝導現象」です。

材料によって熱が伝わる速さや分布は大きく異なり、これにより応力の発生部位や大きさが根本的に変わってきます。

たとえば、熱伝導率の低い素材では表面と内部で大きな温度差が生じやすく、それが割れや変形の主因となります。

逆に、伝導性の高い材料であれば急激な局所温度差が小さくなり、熱応力が軽減されやすくなります。

熱伝導設計の実務ポイント

工場自動化や熱処理工程のDXが進む時代においても、以下のような「基本的な熱設計思考」は乗り越えられない壁として存在します。

・部品加熱の際は、必ず均一加熱・均一冷却を心掛ける
・冷却治具やエアブロー位置を工夫し、冷却速度・方向をコントロールする
・サーモグラフィ等を用いた熱分布の「見える化」を徹底する

このようにアナログ的な手間を惜しまない姿勢が、熱応力トラブルを未然に防ぐ最大の防御策となります。

熱応力・熱変形の低減手法と現場例

現場での即効性ある対策

製造現場では「割れた!曲がった!」という事象に直面して初めて熱応力を認識することが多いですが、即効性ある対策としては

・工程温度や加熱/冷却の速度の最適化
・拘束条件の見直し(冶具を緩める、自由端を設ける)
・材料選定の段階での熱膨張差を意識した組み合わせ

が挙げられます。

また、表面張力や応力集中部に緩和フィレットを設けるなど、設計面での工夫も有効です。

昭和の現場知恵とデジタルの融合

たとえば、設備側の古い熱処理炉の場合、炉の開閉や昇温ムラが大きな問題となります。

これに対し、サーモグラフィやAIによる温度分布のリアルタイム分析など、デジタルツールを補助的に活用し、「どこに危険があるか?」を現場スタッフ全員で目視・共有する仕組みも現代ならではの対応法です。

例題で理解する:熱応力問題の現場解決アプローチ

例題:溶接部の割れトラブルに対する多角的アプローチ

【事例概要】
ある厚板を溶接してフレームを製作する工程で、溶接直後にクラックや曲がりが頻発。

実際の現場打合せで確認したのは以下の点でした。

・溶接部付近の温度急変(急速冷却)
・拘束治具が強すぎて材料が自由変形できない
・板材の厚みバラツキと溶接ワイヤ径の不一致

【改善アプローチ】
・治具のレイアウト見直し→可動域を設けて拘束力を弱め、自然収縮を許容
・溶接線上の予熱実施と、冷却速度を緩やかにする工程管理
・板厚バラツキとワイヤ径を工程横断で標準化

このように、熱応力問題は「設計」「工程」「治工具」「工程間連携」といった多層的な現場視点で複合的に解決する必要があります。

デジタル時代におけるラテラルシンキングの重要性

たとえば、AI解析から割れやすい工程を事前に特定したうえで、現場作業者の勘・コツを織り交ぜた微調整を加える、「現場力×デジタル」の新地平も今後ますます求められていくでしょう。

まとめ:熱応力対策は「アナログとデジタルの融合」が成功のカギ

熱応力問題は、材料や製品が進化し、工程が複雑化した今だからこそ、アナログ現場の知見とデジタル解析の融合による総合的な対応が欠かせません。

現場のバイヤーや製造担当だけでなく、サプライヤー、設計者も巻き込み、一体となって「なぜ割れるのか」「どう防ぐか」を共通言語で議論することが、競争力強化につながります。

昭和的な現場力・五感の知恵と、クラウド・AIなど最先端技術の二刀流で、熱応力由来トラブルゼロの「強い現場」を共に目指していきましょう。

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