投稿日:2025年8月7日

最適経路配船アルゴリズムと発注連動で輸送コストを12%削減したロジスティクスDX

はじめに:昭和アナログ物流から脱却するロジスティクスDXの最前線

日本の製造業が直面する最大の課題の一つに、物流コストの高騰があります。
特に昨今は燃料費上昇やドライバー不足、働き方改革への対応などが複雑に絡み合い、「このままでは持続的に競争力を維持できない」と感じている経営者や現場担当者も多いはずです。

一方、現場ではいまだに昭和時代の仕事の進め方が色濃く残っているのも事実です。
物流や配船は「熟練者の勘と経験」に頼る部分が多く、発注処理はFAXや電話が主流という工場も少なくありません。

本記事では、アナログ業界から抜け出して最適経路配船アルゴリズムおよび発注連動によるロジスティクスDXを実現し、物流コストを12%削減した成功事例を現場目線で解説します。
また、バイヤー・メーカー・サプライヤーそれぞれの立場に立って、導入のコツや現場で直面するハードル、そして今後の展望についても深く掘り下げます。

物流コスト削減のカベ:伝統的製造業物流の現状

いまだ支配的な「属人的配車」

製造工場では、受注から出荷指示、配送業者の手配までをベテラン担当者が一手に握っている場面が多く見受けられます。
その結果、
・スケジュールが「先週と同じだから」
・「あのドライバーがこのルート得意だから」
といった理由で非効率な配車が常態化しています。

このやり方は業務継続性を損なうリスクも抱えています。
ベテランの突然の退職や休職で、誰も配車業務を回せなくなり、納期トラブルが頻発するケースもしばしばです。

発注プロセスのデジタル化遅れ

発注業務では依然として電話やFAXを使用している現場が多いです。
データ集計や記録が手作業となるため、人的ミスが発生しやすく、配送依頼書の誤伝達による再配達や手配漏れが慢性的に生じています。

さらに、発注情報と配車業務がバラバラに管理されていることにより、効率的な積載率管理やコンテナの共配が実現できない構造的な問題も指摘されています。

最適経路配船アルゴリズムと発注連動システムの基本

最適経路配船アルゴリズムとは何か?

最適経路配船アルゴリズムとは、複数の配送先・納入先に対して、積荷量・車両種類・到着時間指定・交通実績データなどさまざまな制約条件を考慮しつつ、最小コストかつ最大効率となる配送ルートやトラック割り付けを計算する技術です。

物流業界では「Vehicle Routing Problem(VRP)」という最適化手法が存在し、AIや高度なソルバーを用いることで従来の属人的な配車業務よりもはるかに効率の良い回答を数分で導き出せます。

ポイントは
・積載率最大化
・待機・空走時間の最小化
・多品目積み合わせ
・クリティカルパス管理
など物流企業のKPIに直結する部分を可視化し、誰がいつやっても同じ高水準の配船スキームを提供できる点にあります。

発注連動とは?なぜコスト削減に不可欠なのか

発注連動とは、「工場の生産計画」「調達部門からの発注情報」「物流の出荷計画」をリアルタイムに統合管理することを指します。
最近ではERPやMESなどの基幹システムと、ロジスティクス最適化ツールがAPI連携することで実現しています。

発注とロジスティクス(配車)が連動することで
・同一納入日に複数サプライヤーの荷物を共同配送(共配)できる
・急な注文変更やカットにもリアルタイムで最適化し直せる
・バイヤー側の納期厳守率が飛躍的に向上
といった経済効果が明確です。

これにより、トラック台数と走行距離が減り、輸送コストの大幅削減が実現します。

現場主導で実現!12%コストダウンの実践事例

物流DX導入前の課題整理

ある大手製造メーカA社では月間5,000件の配送実績がありましたが、ほぼ全てが手作業での配車でした。
主な課題は
・車両積載率50%未満
・急な追加発注によるムダ便発生
・特定担当者依存による属人化
・運送会社からの値上げ要請への対応力不足
など、多岐に渡っていました。

最適経路配船アルゴリズム導入の手順

1. 配送・発注データの標準化
すべての配送・発注記録(出荷日・納入先・荷姿・重量・リードタイムなど)をCSVフォーマットで整理。
担当者ごとの「手帳メモ」「FAX控え」を廃止し、共通システム管理に移行しました。

2. 現状分析とシミュレーション
過去半年分の配送データを最適経路配船アルゴリズムでリシミュレーションしたところ、平均積載率を現状の47%から63%まで改善可能であることを可視化できました。

3. 実運用設計(現場と情報部門の連携)
担当者と現場リーダーが一緒に「運用イメージ」を作り込み、現行オペレーションとどのように切り替えるのかを詳細に設計しました。
必要に応じて部分導入(たとえば関東―東北便のみ、など)でフォローアップを図りました。

4. 発注・出荷システムとの連携
基幹システム(ERP)とロジスティクス最適化システムをAPI連携。
生産管理システムで発注ボタンを押すだけで、最適な配車リストが自動生成され、配車担当・ドライバーまで自動通知となるフローを構築しました。

コスト削減効果と現場の声

この取り組みにより、A社では
・運行トラック台数 13%削減
・積載効率 47%→66%アップ
・同時に配送トラブル(遅配・誤配)も半減
という成果を達成。
結果として、年間12%もの物流コスト削減に直結しました。

現場からのフィードバックとして
「属人化が解消し、誰でも一定レベルの配車ができるようになった」
「急な追加発注が入ってもシステムが瞬時に最適ルートへ組み替えてくれるので、人的ストレスと残業が圧倒的に減った」
といった声が上がっています。

バイヤー・サプライヤー両方に波及するDX効果

バイヤーにとってのメリット

・納入リードタイムの短縮
配送スケジュールの最適化により、ジャストインタイム納入が実現でき、保管コスト削減と生産計画精度が向上します。

・調達多様化への柔軟性
急なサプライチェーン変更(新規サプライヤー追加、緊急調達)にも即時に物流ルートが最適化されるため、マルチソース化のハードルが下がります。

・コスト構造の透明化
物流KPIが見える化され、発注単位(MOQ)やロット編成の最適化でトータルコスト低減を図れます。

サプライヤー側のアドバンテージ

・物流品質で選ばれる時代
「最適配車で必ず納期厳守」「伴走型のトラブルシューティング」など、物流品質が差別化ポイントになるため、単なる「安いだけ」のサプライヤーが淘汰される潮流です。
付加価値提案型営業への転換が重要となります。

・共配化による配送負担軽減
自社便・路線便に頼っていた従来と異なり、他サプライヤーとの混載・共配に加わることで小型便や特車手配の頻度が減り、物流負担の分散ができます。

現場導入を阻む壁と、その乗り越え方

最大のハードルは「現場の納得感」

物流DX・最適配車SaaSの導入では、多くのメンバーが「これまでのやり方」「自分の経験値」に固執します。
どれだけシステムが優れていても、現場が新しい運用に納得しなければ、形だけの“デジタル化ごっこ”に終わりがちです。

私の経験では、現場の納得感を得るために以下のプロセスが有効です。

・現場キーパーソン(ベテラン、調達担当、製造リーダー)をDXプロジェクトの最初期から巻き込む
・現状の仕事が「どれだけムダ・リスク・属人性に頼り過ぎているか」を現物・現場で数値化し、率直にディスカッションする
・「部分導入」→「成功体験獲得」→「横展開」という小さな成功の積み重ねで不安を払拭する

昭和アナログ文化から脱却するには?

失敗するケースの大半は、「システム化」=「人を減らす」「現場仕事を軽んじる」と現場から誤解されることです。
大切なのは、現状の「属人的スキル」を再現し、標準化・共有することで、誰もが品質の高い仕事をできる体制へアップデートする点にあります。
その先には、より付加価値の高い仕事や、現場全体の生産性向上が待っています。

今後の展望と製造業の競争力強化のために

物流DXは単なる「IT導入」「配車ソフトの導入」では終わりません。
調達・生産管理・サプライヤー・物流会社がひとつの共通プラットフォームで連携し、「全体最適」を実現することで、はじめてその真価が発揮できます。

今後は以下の方向がますます重要になります。
・IoTセンサーやビッグデータを活用したリアルタイム配車最適化
・サプライチェーン全体のカーボンニュートラル対策(CO2削減)
・海外工場を含む多拠点一元管理

製造業の発展やグローバル競争力の維持には、昭和アナログ文化から脱却し、現場を起点とした“真の”ロジスティクスDXの推進が不可欠です。
バイヤーを目指す方、サプライヤーとして差別化を狙う方、そして現場で悩むすべての製造業従事者の方々へ、現場目線から強くその一歩を後押しします。

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