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ACMSからクラウドEDIへ移行しオンプレ保守費を半減したシステム更改プロジェクト

目次
はじめに:製造業におけるEDIとは何か
製造業の現場では、取引先との受発注データや納期管理、請求書など、さまざまな業務データを日常的にやり取りしています。
このやり取りを効率化し、ミスの削減や取引の円滑化を目的として導入されてきたのが、EDI(Electronic Data Interchange)すなわち電子データ交換システムです。
従来、多くの大手製造業では、オンプレミス型のEDI―たとえばアプレッソ、日立製作所の「ACMS」などを自社サーバーで運用してきました。
ところが近年、働き方改革やリモートワークの推進、取引先のIT環境多様化、コスト最適化の波により、クラウド型EDIへの移行が業界の主流となりつつあります。
本記事では、現場目線でACMSからクラウドEDIへのシステム更改プロジェクトを振り返り、「なぜ移行したのか」、「何がボトルネックだったのか」、「どれほどのコスト効果と業務変革が達成できたのか」を率直に解説します。
昭和のアナログ商習慣がいまなお根深い製造業界で、“新たな標準”となりつつあるクラウドEDI。
その本質と、現実の苦労・成功のカタチをお伝えします。
なぜACMSからクラウドEDIへ移行を決断したのか
1. 保守コストが経営課題に
まず最大の要因は、オンプレEDI(ACMS)の保守コストです。
多拠点・多部門で数百社ものサプライヤーとつながる大規模なEDIは、膨大な維持費がかかります。
サーバー更新や基盤ソフトのバージョンアップ、ネットワーク・セキュリティ対策、24時間365日の監視体制――。
これまで「必要経費」として許容されてきたこれらの費用も、事業が成熟し競争環境が激化する中で、経営層にとっては大きな圧迫要因となっていました。
現場サイドも、社内の情報システム部門が多忙化し、ちょっとした業務変更にも長い調整工数とコストが発生する事態。
保守ベンダーへの外注費も膨らむ一方で、費用対効果を問う声が強くなっていました。
2. サプライヤー対応/業界慣習の変化
近年は、中小サプライヤーや海外拠点との接続要望も急増しています。
一方、従来のACMSでは「接続用専用ソフトが必要」などの理由から、社外との連携・インターフェース設計が難しいという大きな課題がありました。
さらに、働き方改革の進展で、受発注や在庫照会業務をリモートや在宅環境でも対応したい、スマホやタブレット端末から確認・承認したいという声が現場から上がってきました。
これらの背景から、クラウド型のEDI――Webブラウザ・API接続で、どこからでも、誰とでも安全自在にデータを送受信できる仕組みへの移行は「必然」だったのです。
システム更改プロジェクト:現場目線での3つの勘所
1. 旧EDA(ACMS)の業務マッピングに苦戦
まず着手したのは、旧ACMSで実現していた受発注・納期返信・検収など、数十実務のプロセス全体像(To-Be/As-Is分析)です。
長年の運用で現場独自の運用ルールや帳票様式が乱立しており、「どこが、どなたが、何に使っているのか」の正確な可視化には大変苦労しました。
実態を知らずに移行すれば、現場感とかけ離れたシステムになってしまいかねません。
現場リーダー・バイヤー・システム担当が現状フローの1件1件を見直したことで、「本当に使われている機能」と「形骸化されたルール」の峻別がようやく進みました。
2. サプライヤー全社への事前周知×地道なサポート
クラウドEDI化プロジェクトの最大の山場は、調達先全社への調整作業です。
特に黎明期から付き合いの長い地場メーカーさんや、高齢化の進む孫請け企業の場合、まだ「紙(FAX)が主流」、「EDIなんてよく分からない」という企業もしばしば存在します。
私たちは早い段階から「システム更改のお知らせ」を全サプライヤーに配信し、説明会も十数回開催しました。
個別のQA対応、Web接続・APIサンプルの提示、非IT系担当者へのマンツーマン電話サポートまで、地味で泥臭い努力を惜しみませんでした。
この「コミュニケーション量」が後々のスムーズな移行と信頼醸成の最大のカギになったことを痛感しています。
3. クラウドならではのセキュリティ要請
クラウドEDIへ移る際には、「情報漏えいリスク」や「法対応」への配慮が不可欠です。
特に製造業は、製品図面や生産能力などの機密情報を数多く持つため、システム上・契約上ともに厳格な運用ルール(IPアドレス制御、多要素認証、アクセスログ記録等)が求められます。
また、多部門および複数の外部取引先が関わることで、「どこまでのデータが、誰に見えるのか」の権限設計も緻密さが要求されました。
現場と法務部門の綿密な連携により、社内外関係者の信頼確保に努めた点も、クラウド時代らしい大切なポイントでした。
オンプレとクラウドのハイブリッド運用でリスク分散
「全システムを一気に刷新すればリスクがある」、これが現場長年の経験則です。
最終的に導入したのは、主要な受発注・納品データをクラウドEDIへ移行しつつ、特殊な旧取引(カスタムBtoB、特注帳票など)は段階的にオンプレで維持する“ハイブリッド形式”でした。
これによって、システム障害や予期せぬクラウドサービスの不具合時にも、「最悪これだけは社内処理で滞りなく進める」というバックアップ体制を築けました。
完全移行ありきでなく、段階移行・並行運用の現実的アプローチが現場ニーズとの接点になると再認識しました。
クラウドEDI化の成果:オンプレ保守費を50%以上削減
総務・経営資料の数字をご紹介します。
ACMSをオンプレでフル運用していた時代と比較して、以下のような効果がありました。
- 年額の保守・運用コスト:約50%削減(数千万円/年の効果)
- システム変更・サプライヤー追加の工数が従来の1/4に短縮
- サプライヤー満足度向上(EDI稼働率・誤送信トラブル減)
- 業務部門のテレワーク・場所に縛られない働き方の実現
初期導入コストは一定規模かかりますが、クラウドEDIの「ストレージ/ユーザー課金型モデル」に切り替えたことで、取引量増減に合わせた柔軟な固定費体系となりました。
間接部門のカイゼン効果も大きい
現場には見えにくい効果として、システム部門・情シス部門の残業削減や月次報告業務の自動化など、間接部門の生産性向上もありました。
また、従来はIT専任者しかできなかった設定・分析作業も、現場バイヤー自ら「ドラッグ&ドロップ」の感覚で自身の業務を改善できる点が、地味ながらも魅力です。
これからの業界トレンドと“昭和商習慣”からの脱却
製造業は保守的で、業界毎の慣習・ルールが根強い世界です。
FAX・紙文化から脱却できないという声も現在なお根強く存在しています。
しかし、調達購買・生産管理・品質管理にまたがる「サプライチェーン全体最適」を実現し、本当の意味で現場力・現場改善を推進するには、一部門・一社内だけでなく、サプライヤー・バイヤーが「データでつながる」仕組みが不可欠です。
クラウドEDIはその第一歩にすぎません。
今後は、AI・RPA・IoTと組み合わせた「購買ナレッジの全体可視化」や、「データドリブンな意思決定」が競争力の源泉になります。
私自身、昭和から現代まで様々な現場を見てきましたが、いま現場で“Sense Of Crisis(危機感)”を持ちつづけて未来に備えることは、全てのバイヤー・サプライヤー、日本の製造業に共通の課題だと考えます。
まとめ:現場主導・バイヤー主導で未来を切り拓く
ACMSからクラウドEDIへ。
保守費用の半減だけにとどまらず、業務現場のデジタルシフト、サプライチェーン全体に向けた新たな価値の創出に取り組んできた歩みは、日本の製造業の変革小史に他なりません。
現場主義で、地道に一歩一歩、業界の慣習と向き合い、失敗も含めて試行錯誤することこそが価値を生みます。
今後も、現場・バイヤー・サプライヤーが共に“次の地平線”を切り拓くプロジェクトを通じて、業界全体の底上げに貢献できる道を共に探っていきましょう。
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