投稿日:2025年8月13日

EARとEUデュアルユース規則の要点を押さえて国際ライセンス申請を効率化

はじめに:グローバル製造業を取り巻く輸出管理の重要性

国際競争が激化する現代の製造業界では、グローバルサプライチェーンの構築が不可欠となっています。

しかし、その裏側には各国・各地域の厳格な輸出管理規制が存在し、特に米国のEAR(Export Administration Regulations)およびEUのデュアルユース規則は、製品や技術の海外移転を進めるうえで無視できません。

これら規則に適切に対応することで、貿易摩擦の回避やコンプライアンス強化のみならず、調達・生産・販売戦略を最適化できます。

この記事では、昭和世代から現代まで現場で培った知見を交えつつ、EARとEUデュアルユース規則の要点と、国際ライセンス申請の効率化手法を詳しく解説します。

バイヤー、調達担当者、そしてサプライヤー側の皆さまが即実践できる実用的なヒントをお届けします。

EAR(米国輸出管理規則)とは何か?

EARが重要視される理由

EAR(Export Administration Regulations)は、米国商務省産業安全保障局(BIS)が管轄する輸出管理規則です。

米国原産品や一定の割合で米国由来の部品・技術を含む製品を対象とし、世界中の事業者がその影響を受けます。

たとえ日本国内で製造した部品や製品であっても、米国製原材料や半導体、組み込みソフト等が一定以上含まれていれば、EARの「再輸出規制(De Minimis Rule)」が適用されるケースもあるため注意が必要です。

特にハイテク製品、電子部品、ソフトウェア分野では影響が極めて大きくなっています。

EARの枠組みと基本的な理解

EARは「コントロールリスト(CCL)」を用いて、対象となる品目(デュアルユース品や軍事転用可能な民生品)を細かく分類しています。

品目ごとに「ECCN(Export Control Classification Number)」が割り当てられ、それぞれ輸出や再輸出時のライセンス要否が決まります。

米国以外の国にいる企業や工場も「米国由来技術」が含まれた製品を外国へ輸出・供給する際に規制の対象となるため、バイヤーやサプライヤー管理の現場でも米国法規制の知識と対応力が欠かせません。

製造現場で起こる典型的トラブルと注意点

昭和から続く製造現場では「これは国内品だから大丈夫」「昔から輸出しているから問題ない」というアナログ発想が依然強いのが現実です。

しかし、今やBOM(部品表)や材料のトレーサビリティ、ソフトウェア出所まで詳細な確認が必要です。

国際調達、グローバル調達が当たり前となったいまこそ、「自社製品のどこに米国由来要素があるか」を徹底的に掘り下げるプロセスを組み入れ、現場教育を強化しなくてはなりません。

EUデュアルユース規則の特徴と実務への影響

デュアルユース(軍民両用)品目とは何か

EUが規定するデュアルユース規則(Regulation (EU) 2021/821)は、軍事にも民生にも転用可能な品目・技術の不適切な拡散を防ぐための枠組みです。

最大の特徴は、「域内移動」や「技術移転」も規制対象となることです。

昔ながらの部品や工作機械、IT関連機器であっても、「ハイテク技術」あるいは「戦略物資」と見なされる場合、欧州域内間や第三国向けの販売・持ち出し時にライセンス取得が求められます。

EUのライセンス分類とチェックポイント

EUには「共通輸出リスト(EU Dual-Use List)」があり、各品目・技術ごとにリスト番号が振られています。

また、顧客(用途)や仕向け地によってもライセンス要否が異なるため、業界ごと/企業ごとの綿密なリスク評価と管理体制が求められます。

実務の現場では、欧州サプライヤーからの予告なしの納入遅延や、バイヤーからの詳細な用途説明要請が来た際、規制対応の理解がないと致命的なトラブルに発展します。

「昭和から抜け出せないアナログ体質」との闘い

欧州系メーカーでは従来の人間関係や長年の取引実績に依存した慣習が根強く残っています。

しかし、現代はコンプライアンス違反による巨額の罰金や取引中断のリスクも増大しています。

監査証跡(オーディットトレイル)や契約書記載の徹底、サプライチェーン全体への意識改革など、「ITを活用したデジタル管理」と「現場・現物・現実主義」を高次元で融合させることが喫緊の課題です。

国際ライセンス申請の効率化ポイント

大前提:社内での「規制品特定力」養成が肝心

EARやEUデュアルユース規則を意識したボトルネックは「規制該当性判定」にあります。

現場でありがちな「とりあえず輸出管理室に任せる」「申請は後でいい」といった丸投げ体質では非効率です。

購買・設計・生産管理など全ての現場担当者が、
・製品や部品単位でのECCN(またはEUリスト番号)検索能力
・BOM(部品構成表)から出所を遡って洗い出す技術力
・規制内容の業界動向をキャッチアップするリテラシー
を身につけることが、申請の手戻り防止・スピードアップに直結します。

申請作業をストレスなく進めるための具体的な工夫

申請に関わる全プロセスを一人の「輸出管理担当者」や「法務部」に負荷集中させるのは、今や時代遅れです。

ソフトウェアによる規制該当性自動判定システムの導入や、BOM管理との連携、必要書類テンプレートやFAQの整備によって、現場でも即判断できる仕組みづくりを目指しましょう。

また、英語書面の整備、法定様式(日米欧)違いを解消できるドキュメント管理も今後の生産性アップに不可欠です。

サプライヤー・バイヤー間での「規制対応力の見える化」

調達分野での実務経験上、過去には「協力工場だから規制品でも入荷して大丈夫」「出荷先担当さえ押さえていれば問題なし」といった属人的な運用が一般的でした。

しかし、今後はバイヤーサイドから「規制非該当証明」や「原材料トレーサビリティ」「用途最終ユーザー証明」などの提出を求めるケースが増えてきます。

サプライヤーとしては、自社製品の規制該当性・ライセンス管理状況・販売先制限事項まで「自発的に」整理・提示できる体制を整え、バイヤーからの信頼度を高めることが新たな競争力になっていきます。

昭和型アナログ業界の壁を越えるラテラルシンキング

「人に頼る」から「仕組みに頼る」へ転換せよ

長年の現場経験では、職人技やベテラン社員の経験則が強力な武器でした。

しかし、国際規制遵守の領域では「誰が担当でも同じレベルで迅速・正確に」できることが成否を分けます。

IT化による管理台帳の電子化や、各種法令対応テンプレートの運用、社内AIチャットボットによる質疑応答など、「個人依存→チーム全体の知恵の集合体」へと仕組みを進化させていきましょう。

変化を拒まず、現場に合わせた小さなDX成功体験を重ねる

昭和のアナログ時代の現場は「変化=トラブル」と捉えがちですが、小さなデジタル化・自動化の成功事例から徐々に広げるのがおすすめです。

例えばBOMシステムと該非判定ツールを連携させたり、用途確認チェックリストをエクセル自動化したりと、現場に馴染む方法から始めると抵抗感が小さく効果が出やすいです。

チーム全員が「自分ごと」として規制対応スキルを身につけることが、競争力の源泉となります。

まとめ:「規制を制する者がグローバルを制す」時代へ

EARやEUデュアルユース規則は一見煩わしいものに映るかもしれません。

しかし、市場拡大・調達力強化・品質保証体制の国際標準化には不可避の課題です。

部門や企業の枠を超え、「規制への理解」「最新の業界動向」「現場の魂」を融合させたラテラルな発想で、申請から運用、問題解決までを一気通貫で設計できる組織が、今後のグローバル製造業をリードします。

昭和型の慣習やアナログ管理から一歩踏み出し、全関係者が「自発的に」「当たり前に」規制対応できる仕組み作りを、今日から始めていきましょう。

グローバル化した製造業現場で、規制理解力と現場力を両立させ、未来の成長を共に切り拓いていきましょう。

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