投稿日:2025年8月15日

重複部品を統合する共通化ワークショップの進め方

はじめに:なぜ今「共通化ワークショップ」が注目されるのか

現在、製造業の現場では多品種小ロットや納期短縮、コスト削減の要請が強まっています。
特に調達購買や生産管理の領域では、「部品点数削減」や「重複部品の統合」が強く求められています。
ただ、昭和の高度成長期に確立された設計~調達~生産の分業体制が、今も根強く残っており、縦割り組織の壁が重複部品や類似品の温床になっています。

そんな中、設計部門・調達部門・生産技術部門が一体となって重複部品を洗い出し、共通化・標準化を進める「共通化ワークショップ」が、現場の実力強化やコスト競争力向上のための新たな取り組みとして注目されています。

本記事では、実際の工場現場で培った知見に基づき、共通化ワークショップの進め方、そのコツや現場のリアルな課題、成功事例と失敗事例を分かりやすく解説します。
これからバイヤーを目指す方や、サプライヤーとしてバイヤーの思考・ニーズを深く知りたい方にとっても、非常に参考になる内容です。

共通化ワークショップとは何か

共通化ワークショップの目的

共通化ワークショップとは、社内横断的に部門が集い、既存部品の重複や類似を洗い出し、「できるだけ少ない品種で最大の業務・商品価値を生み出す」ことを目指す活動です。
単なる会議や在庫棚卸しとは異なり、設計・調達・生産管理・品質管理・現場工員まで巻き込んだ実践的な対話をベースに議論を深めていく場です。

どんな効果があるのか?

– 在庫点数・部品点数の削減(管理工数や在庫スペースの低減)
– 購買ロット増加による単価交渉力強化
– 業者選定・発注業務の簡素化
– 品質トラブルの発生リスク低減(部品標準が明確化)

近年はDXやスマートファクトリー推進のなかでも、共通化は「自動化しやすいものづくり」=工場の“シンプル構造化”の起点になるとして再評価されています。

なぜ重複部品が発生するのか?昭和からの構造的課題

縦割り組織の弊害と現場のリアル

なぜ、現場には重複や似たような部品が根強く残り続けるのでしょうか。
その背景には、以下のような昭和型の“あるある”の組織風土・慣習があります。

– 各製品プロジェクトごとに設計担当者が独自に部品選定
– 設計部門と調達部門、現場との壁が厚い
– 過去図面・標準化情報が現場で充分に活用されない(情報伝達が紙やExcelで属人的)
– 形状、色、微細寸法の違いだけで「似て非なる部品」が乱立
– 過去“ベテランエンジニアの勘と経験”に依存していた

つまり現場では「ちょっとだけ仕様が違う別部品」が毎年増殖し、調達担当や現場は管理・棚卸しが追いつかなくなる…という悪循環に陥ってきました。

産業界の最新潮流:「持たない経営」と共通化

トヨタ生産方式が示した「ジャストインタイム」や、IoT・AIで在庫を極小化する「スマートファクトリー」も、結局のところ“部品点数を削減し、工場をシンプルにする”というコンセプトが根幹です。
調達バイヤーとしては「調達ロットの最適化」、サプライヤーとしては「同じ型番で複数メーカーに納入しやすい商品開発」の観点からも、共通化ワークショップへの理解は今後ますます重要となります。

共通化ワークショップの進め方【実践ロードマップ】

1. 目的の明確化&キーマンの巻き込み

ワークショップを始動する前に、まず「なぜ今この活動を行うのか?」というゴールを全員で共有します。
コストダウンや部品標準化、現場負荷低減など、部門ごとにKPIを明文化しましょう。
また、設計、調達、生産技術、現場、できれば経営層からも後ろ盾を得て“トップダウン&ボトムアップ”双方の体制を整えます。

2. 重複部品のリストアップ(データ可視化)

部品表(BOM)、購買リスト、在庫リストを照合し、どのような部品が何点、どの製品で使われているのかをリストアップします。
ここで注意すべきは、以下の視点です。

– 物理形状だけでなく、色、長さ、材質、コネクタなども一度“似ているもの”でグルーピング
– 部品番号(型番)がちょっと違うだけでも、現物の仕様が本当に違うのか現物確認

業務負担を考慮し、データ分析の一部はBIツールやExcelピボットテーブルを活用。
しかし、最終的には“紙と現物”を見てベテランの目で判断することも大切です。

3. 分析と意思決定:何を共通化するか?

洗い出した重複部品の中から、「本当に共通化しても問題ないもの」を議論します。
例えば、
– 微妙な寸法違い→本当に必要か?設計・仕様要求を見直せないか?
– 顧客毎/モデル毎でシールや色違いのみ→ラベル運用にできないか?
– 過去のクレームや品質トラブル歴は?
利害関係者が自己都合だけにならないよう、現場の“リアルな声”をできるだけ集め、意思決定します。

4. サプライヤー(外部)との連携・調整

部品の共通化は社内だけでは完結しません。
サプライヤーと協力して、納入仕様・ロット・価格条件の調整を行います。
共通化提案によるコストダウン要求や品質確認、リードタイム交渉、必要な備蓄体制など、密なコミュニケーションが求められます。

5. ルール化&見える化で再発防止

せっかく共通化が進んでも、再び新規設計やプロジェクトが始まれば“また重複”というのはよくある失敗です。
共通品リストをBOMやPDM(製品データマネジメント)などで見える化し、設計・調達時のルールに組み込みましょう。
また、社内標準書や教育資料としてノウハウを仕組み化し、定期レビューを行うことが重要です。

現場を動かすポイント・現実の壁【経験談】

ありがちな障壁と対策

– 「今忙しいから後回し」→端末で即時に重複部品リスト検索できる“仕組みづくり”が肝心
– 「これまでの慣習が壊れる」→数値で効果を示し、現場の“身になる成果”を小さくとも伝える
– 「共通化したら品質が落ちるのでは」→過去トラブルの分析・再発防止で安心できる運用ルール

トップダウンだけではなく“現場ファースト”重視で

昭和型の指示命令だけでは、形式的な共通化に終わることも多いため、“現場の痛み”を拾い上げるヒアリングやフィールドワークが必須です。
現場が「なるほど、これは楽になる」と感じるレベルまで具体化・実感させましょう。

バイヤーやサプライヤーが知っておくべき“本音”と工夫

バイヤー視点:高効率調達へのヒント

バイヤーが共通化ワークショップに積極参加すると、
– ロット増大による値下げ交渉力アップ
– 発注・検収業務の効率化
– 各サプライヤーの切り替え・選定リスク低減
といったメリットを実感しやすくなります。

サプライヤー視点:提案型営業への進化

サプライヤーは、
– 「うちのこの部品は他社製品にも流用可能ですよ」と自発的に提案
– 共通化部品の標準ストック・短納期体制構築
– 顧客と組んだ“共通品開発プロジェクト”で新規市場開拓
というアプローチが、さらに信頼獲得や自社優位性につながります。

共通化ワークショップの成功・失敗の分岐点

成功事例:小さな現場改革から全社展開へ

筆者が工場長時代に経験した成功例として、まず試作ラインで“ネジ類・ワッシャー類”の徹底共通化に取り組みました。
はじめは反発もありましたが、“倉庫の在庫管理負担が月20時間→5時間に削減”という定量効果を見せたところ、「これは現場も納得、むしろ続けてほしい」という流れができました。
結果、部品点数30%削減、調達原価5%改善という成果を生み出し、それが全社標準活動へ拡大しました。

失敗事例:机上だけで推進して現場が混乱

一方、設計部門主導で一気に部品統合を推進したケースでは、現場やサプライヤーの声を充分に聞かず作業したため、
– 意図しない現場作業手順増加(むしろ組立時間が増えた)
– 製品個性やカスタマイズ要望と衝突し顧客クレーム
– 新設計案件で“なぜこれを使わなければならない?”という摩擦
が多発し、労力・コストばかり増えた苦い思い出も残りました。
“机上の空論”にならない「現場ファースト」「現場フィードバックの反映」が本当に重要です。

まとめ:共通化は「人と現場をつなぐ」変革活動

重複部品の統合・共通化は、単なるコストダウン手法ではなく、
– 部門の壁を超えた社内横断コミュニケーションの場
– 現場改善の原動力
– 従来の昭和型分業から“組織の地平線”を切り拓くイノベーションの契機
といえるでしょう。

これからの製造業バイヤーやサプライヤーに求められるのは、部品単位の“最適購買”だけでなく、“全体最適”を見据えた共通化・標準化の視点です。
ぜひ、自社に共通化ワークショップを柔軟に取り入れ、現場主導の業務革新、そしてサプライチェーン全体の発展を共に実現しましょう。

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