投稿日:2025年8月16日

アルマイトの種類と膜厚を再設計し耐久要件を満たしつつ費用を下げる

はじめに:アルマイト処理の本質と現場課題

アルマイト処理は、製造業界においてアルミニウム部品の耐食性や美観を向上させるための定番プロセスです。

とりわけ自動車・精密機器・電子部品など、多様な分野でその重要性は年々高まっています。

しかし、昭和時代から抜け出せていないアナログ的な業界構造や「昔ながらの膜厚指定」の慣習が、コスト低減や高性能化の壁となっている現状も否めません。

本記事では、アルマイトの種類ごとの特徴とコスト構造、膜厚設計の考え直しによる費用低減策について、現場目線で深堀りしていきます。

調達バイヤー、これから製造業を目指す人、サプライヤーの担当者、それぞれの立場で「一歩先」の判断軸を持てるよう、新たな発想で解説します。

アルマイトとは:基本の仕組みと種類

アルマイトの定義と生成原理

アルマイト(陽極酸化処理)は、アルミニウム表面に人工的に酸化皮膜を成長させる表面処理です。

電解液中でアルミ部品を陽極(+)として通電することで、耐食性や耐摩耗性の高い酸化アルミニウム皮膜(Al2O3)を形成します。

この皮膜は、生成条件(電解液の種類、温度、電圧、時間)により性質や厚みを制御できるため、用途に応じた最適設計が可能です。

主なアルマイトの種類と特徴

日本の製造現場で主流となっているアルマイト処理は、大きく3種類に分類できます。

  • 1. 普通アルマイト(汎用陽極酸化、JIS H 8601)
  • 2. 硬質アルマイト(ハードアルマイト、硬質陽極酸化)
  • 3. サテンアルマイト(ショットブラスト+陽極酸化)

それぞれの基礎特徴をまとめます。

1. 普通アルマイト

日用品、家電部品、自動車の室内部品などで多用されます。

膜厚:5~20μm程度が標準、通常は10μm前後が多いです。

特長:耐食性改善、着色可能、美観向上。
コスト:比較的安価で、大量生産に向きます。

2. 硬質アルマイト

摺動部品や屋外での使用、高耐摩耗性が要求される機械部品に使われます。

膜厚:25~100μm以上と厚い。
特長:硬さ・耐摩耗性が大幅に向上。絶縁性も高い。
コスト:処理工程が長く、電気代・薬品代含め高価。

3. サテンアルマイト

バフやサンドブラストなど機械的前処理後に陽極酸化します。

膜厚は普通アルマイトと同程度。
特長:高級感ある梨地調、美観重視。
コスト:前処理が加わるためやや高め。

なぜ“膜厚一律”がコストと無駄を生み出すのか

アルマイト処理のコストの一番大きな変動要因は“膜厚”です。

日本の製造現場の多くでは、長年の「図面一律指定(例:20μm)」のまま、現場検討を省略してしまっているケースが目立ちます。

歴史的な背景(なぜ一律指定になるのか)

昭和~平成初期の時代、部品間のバラつきや海外生産時の品質リスクを回避するため、設計・購買サイドでは「厳しめの指定」が慣例化しました。

この背景には、

  • 経験不足の設計者が“安全側”で膜厚を見積もる
  • サプライヤーとのコミュニケーションが少なく、材料抜き勾配や品種差を細かく詰めていない
  • 膜厚指定に対するユーザー側の知識不足→何となく“多め”で発注

といった事情も関係しています。

一律指定によるデメリット

膜厚一律指定は本来要求されない「過剰品質」を生み、以下のようなコストインパクトを与えます。

  • 電気代・薬品代など処理コストが増大
  • 処理時間も長くなるため、生産性が悪化
  • 場合によっては膜厚が厚すぎて寸法公差を圧迫(切削代増や+追加加工の発生)
  • 色ムラ・ピンホール等の歩留まり低下・外観不良

現場としては「やらなくてもいいことにコストと時間を使わされる」構図になっています。

バイヤー視点では“膜厚=コスト”の意識変革が必要

調達バイヤーにとって、アルマイトのコスト最適化は「膜厚最適化」抜きには成し得ません。

サプライヤーとの交渉で単価を下げさせる前に、まず自社側の“要求仕様”が適正か、余分なハードルを設定していないか、図面や発注仕様を現場と一緒に見直すことが第一歩です。

耐久要件を満たしつつ、膜厚を最適化する設計ポイント

1. 要求仕様の「見える化」から始めよう

膜厚と性能の関係は決して単線的ではありません。

むやみに分厚くすれば良い、というものでもないのです。

まず重要なのは「必要とされる耐食性、耐摩耗性はどこまでか」「どの条件下でどれくらいの寿命があれば十分か」を明確にすること。

例えば以下のように要件出しを整理します。

  • 屋内の装飾部品→5~10μmで十分なことが多い
  • 工具・摺動部→20~40μmレベルの耐摩耗性を求める
  • 海岸近くの屋外使用→25μm以上(JIS規定あり)

この“本当に必要な膜厚”を設計段階から現場と相談し、仕様書や図面に反映させることが大切です。

2. 膜厚バラつき・付着量の現場実態を理解する

アルマイトでは部品形状や材質によって「膜厚分布」に大きな差が生じることがあります。

角部・穴部などは膜厚が薄くなりやすく、全体を厚くすると余分な材料・電力を要します。

現場目線では

  • 重要寸法部だけ膜厚保証、それ以外は最小指示
  • 部位ごとに基準を分ける
  • 指定よりも“最低膜厚”を優先する(平均・最大値ではなく)

といった調整がコスト低減につながります。

3. 各種アルマイトの長所併用で最適化

耐久要件やコストに応じて、普通アルマイトと硬質アルマイトを使い分ける、または部分的な二次加工や補強(クリア塗装併用、撥水処理追加等)も一つの戦略です。

JISや各工業規格の試験データを活用しサプライヤーと相談することで「適材適所」の処理方式を選べます。

費用を下げるための実践的アプローチ

1. サプライヤーマネジメントの見直し

アルマイト業界は小規模~中堅企業が多く「お任せ意識」のバイヤーが多いと、仕様変更や改善提案が出にくい傾向があります。

バイヤー側が現場を直接訪問し

  • 量産前の試作段階で膜厚調整実験を依頼する
  • 現物比較で性能評価・コスト提案を積極的に受け入れる
  • 「JIS規格に準拠していればOK」と杓子定規にせず独自基準化の余地を探る

こうした動きがコスト最適化・サプライヤー信頼関係に大いに役立ちます。

2. 膜厚を再設計するための提案依頼書(RFQ)の作り方

RFQ(見積依頼書)において、膜厚だけでなく用途・耐久要件・予定数量・納入スケジュール等を具体的に記載したうえで、

  • 普通アルマイト基準品、硬質アルマイトの2通りで価格提示を受ける
  • 膜厚5μm刻みで段階的なコスト比較を提案

このような依頼内容とすることで、サプライヤーも単なる“言い値の一発見積もり”から、より合理的かつ現場に即した最適回答をしてくれるようになります。

3. 海外生産やEMS活用の場合の注意点

近年は海外EMSやアジア地域サプライヤーへの外注も増えています。

この場合は「提案依頼書の用語統一」「現地規格・ローカル基準の違い」をしっかり確認することが肝心です。

膜厚の測定方法や試験条件が日本とは異なる場合も多いため、現地サプライヤー担当者と直接対話・現地視察などを通じて要求仕様のすり合わせを怠らないよう注意が必要です。

まとめ:コスト削減は“現場起点の再設計”から始めよう

アルマイト処理のコストは「膜厚」と「処理方式」に大きく左右されます。

バイヤーや設計者は“昭和の常識”に縛られた一律指定を疑い、現場サプライヤーとチームを組み、一品一品ごとに最適品質=最適コストの追求が求められています。

単なる価格交渉ではなく、現場知識とスペック見直しをセットに、“実験・評価・現物比較”を前提とした進め方が、最も強力な費用低減策です。

また、製造業のバイヤーを目指す人、サプライヤー側からバイヤーの視点を知りたい人も、本記事を参考に「どの条件・背景で、どれだけの膜厚が必要なのか」を常に問い直し、新たなコスト競争力の武器を身につけてほしいと思います。

実践的かつラテラルに。

これからのアルマイト処理は、“カスタマイズ品質”こそが最強のコストダウン戦略なのです。

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