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接着から超音波溶着への置換でタクトと材料費を短縮

目次
はじめに:製造現場の「常識」を疑うことから始めよう
製造業の現場では長らく「接着」という手法が主役のひとつとして用いられてきました。
一方で、近年「超音波溶着」という新しい技術がじわじわと普及しつつあります。
私自身、現場で何十年と接着剤の特性や扱いに悩みながら、品質や工程の管理に苦心した経験があります。
しかし、時代が昭和から令和へと移り変わる中でも、保守的な日本のモノづくり現場では、変化への抵抗が少なくありません。
「昔からやっているから」「このやり方が一番安全」といった空気が根強く、その空気がコスト構造や生産性に無意識の制限をかけていることも多いのです。
今回は、そんな日常の延長にある“もったいない現実”を打破し、「接着」から「超音波溶着」への置換で製造現場のタクトタイム短縮と材料費削減を実現するための実践的なヒントや現場目線の工夫をご紹介します。
接着と超音波溶着、それぞれの特徴を比較する
接着のメリット・デメリット
接着は、さまざまな素材同士を簡易に固定できるという点で極めて汎用性が高い工法です。
比較的シンプルな設備導入で済み、複雑な形状や異素材にも柔軟に対応できるという利点があります。
しかし一方で、
・接着剤の塗布量や塗布箇所、乾燥・硬化時間の管理
・作業者の経験値による品質バラつき
・接着剤自体のランニングコスト
・環境・安全対策(臭気、VOC規制、作業環境改善等)
といった、見えにくいコストや品質リスクが潜在しています。
超音波溶着の特長とその進化
超音波溶着は、パーツ同士の接合部分に高周波の振動(超音波)を与え、分子レベルで一瞬にして素材を溶かして圧着する工法です。
昨今では技術の進歩により、昔は対応できなかった樹脂や複雑形状への対応範囲も拡大しています。
最大の魅力は、
・瞬間的な接合で圧倒的なタクトタイム短縮
・接着剤不要、材料費の大幅削減
・自動化・省人化しやすく、安定した品質確保
という点です。
一方、初期設備投資や金型設計の制約(溶着面形状・バラツキ管理)は、慎重な検討ポイントとなります。
なぜ今、超音波溶着への置換が求められているのか?
世界規模での原材料や人件費の高騰、工場での人手不足、脱炭素社会への対応といった背景で、「生産性とコストの両立」のプレッシャーは日増しに大きくなっています。
特に、次のような業界動向が見逃せません。
・自動車/家電/電子部品等における軽量化ニーズ・省資源化要求の高まり
・品質管理の高度化・トレーサビリティ強化
・生産ロットの多様化、小ロット多品種生産対応
・サプライヤー同士の熾烈なコスト競争
これらに応えるためにも、従来の「接着」だけに頼らない発想が求められています。
バイヤー・調達担当者としては、サプライチェーン全体のコスト最適化を意識した上で、超音波溶着等の新規工法導入が新しい差別化要素となる可能性が高いです。
現場が実感する、超音波溶着の導入効果
タクトタイムの劇的短縮と安定生産
超音波溶着では、1点あたりの溶着時間が0.5〜2秒程度で済むケースも多く、接着剤の乾燥・硬化待ちや、治具への仮固定工程が不要になります。
これにより、例えば従来30分以上かかっていた量産ラインが10分以下に短縮できた、という事例も珍しくありません。
また、機械化・自動化が進みやすいため、作業者個人の熟練度や技能バラツキに依存せず安定的な品質が得られます。
従来は「夜勤明けは品質が…」「新人に任せるのは不安…」といった問題が、工程ごと機械に任せられるメリットも大きいです。
材料費・ランニングコストの明確な低減
接着剤は、案外「目に見えにくいコストの塊」です。
・接着剤自体の単価
・塗布用ディスペンサーや治工具の消耗
・不適切に塗布された場合のリワーク、廃棄コスト
・揮発成分の安全対策、マスクや換気設備などの間接コスト
これらを合算すると、1ラインあたり月数万円、年換算で百万円単位のロスに膨れ上がっていることもあります。
超音波溶着では、材料費は実質的に「ゼロ」に近く、主要なコストは電力と設備償却費。
長期的に見ればコスト比較は明白です。
また、多品種少量生産への段取替え性も年々向上しており、ランニングコスト面でのメリットが広がっています。
超音波溶着の導入ハードルと、乗り越えるためのポイント
導入初期の障壁:金型と設計の最適化
超音波溶着では、溶着部位同士の「当たり面設計」や、樹脂材質の適合性が重要です。
溶着用のリブやエネルギーダイレクター確保、素材ごとの熱伝導や振動伝播性の検証が不十分だと、期待される強度やシール性が実現しません。
ここで大切なのは、「設計段階から製造も巻き込んだクロスファンクショナルな検討体制」です。
よくあるのが設計サイドが「接着の前提」で図面を引き、いざ工程変更となり「やっぱり無理だった」と躓くケース。
また、超音波溶着メーカーや金型メーカーと、量産現場担当・品質部門が早期から協働し、ラボテストを短期間・安価に反復できる体制づくりがキモになります。
初期投資とリスク評価のポイント
確かに、超音波溶着設備導入の初期投資は接着工程より高くなりがちです。
しかし、目先の投資コストだけでなく、
・既存設備の老朽化リスク
・接着剤の安全管理体制や年次コスト
・ライン停止/品質不良発生時のダメージコスト
を織り込んだ「全体最適化」を図る発想を持つことが重要です。
また、余った接着剤資材・使えなくなった治具・新規発生する保管スペース…“後片付けコスト”も見落としがちです。
投資採算の計算には、ぜひこれらの要素や、生産性向上による“空いた人員や設備の再投資先”も含めて検討しましょう。
サプライヤー/バイヤー間での現場対話の重要性
サプライヤー側からすると「本当に超音波溶着に切り替えて大丈夫か」「クレームや不良が発生した場合の対応は?」という疑問があります。
バイヤー側としては「コストダウン交渉」で終わらせず、安定供給や品質保証体制を含めた総合“パートナーシップ強化”の視点が求められます。
僕の現場経験からは、
「ライン見学・試作立会い・トラブルの正直な共有」といった現場対話が最も有益で、従来の“価格交渉だけ”では実現できなかった相互利益へ繋がりました。
お互いが「作りやすく」「買いやすい」体制を一緒に作る姿勢が、結果的に競争力の強化やB2B関係の将来的な発展にも直結します。
アナログ業界に根付く旧習の壁をどう突破するか?
製造現場の「昭和的な感覚」は、根深く残るものです。
特に熟練作業者の「経験則」や、工程毎の“属人技術”は時にイノベーションのブレーキになります。
「昔からのやり方が一番」「今更新しいやり方は怖い」といったモノづくりの保守性は、コストや品質でグローバル化に遅れをとる温床になるケースも多いのです。
現場感覚を尊重しつつも、
・データや数値に基づく効果検証
・ライバル企業や他業界での置換事例
・短期間での“スモールスタート”による副作用低減
こうした一歩踏み込んだラテラルシンキングにより、次世代型の生産戦略を描く必要があります。
換言すれば、「これまで」と「これから」を両輪で考える柔軟性こそ、今後の現場管理者・調達バイヤーに強く求められる“思考技術”なのです。
まとめ:タクトと材料費削減、その先の成長戦略へ
接着から超音波溶着へ――これは単なる工程改善に留まらず、
・コスト競争力の根本的向上
・働き方や品質システムのグレードアップ
・現場とマネジメント、サプライチェーン全体の最適化
といった、中長期的な企業発展の鍵を握っています。
現場サイドは「本質的にラクな工程」「トラブルのない工程」へ、
調達・バイヤーは「一歩先を見据えたコスト戦略とパートナーシップ強化」へシフトする時代です。
ぜひ皆さんの職場にも、超音波溶着の置換によるタクト短縮と材料費削減、その先の新しい現場イノベーションの息吹を感じてもらえれば嬉しいです。
地味で保守的と言われがちな製造業だからこそ、「現場から変わる」「現場を変える」勇気と知恵が、これからの日本のものづくりを支えていくのだと確信しています。
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